第586話 ドワーフ名工の手記を求めて蔵の掃除
疑似太陽も落ち、暗くなってきたところで、営業時間が終わったドワーフ商会に来た。
商会周りを綺麗にしていた従業員さんに声をかける。
「こんにちは、アルトラと言いますが、ヘパイトスさんはご在宅ですか?」
「アルトラ……? おお! あなたがアルトラさん! お初にお目にかかります! 私、ヒノモトの父親のニーホンと申します! いつかのスライムの時には息子がお世話になりました!」
両手で握手され、ぶん回された……
「それでは父を呼んで来ます故、少々お待ちください!」
あっという間にこの場から居なくなってしまった……
どうやら声をかけたのは偶然にもヒノモトくんの父親、つまりヘパイトスさんの息子だったらしい。 (ヒノモトくんについては第81話参照)
身長は人間との混血のせいか、私より大分大きかった。
もうあのスライム騒動から二年か。 (第72話から第74話参照)
ヒノモトくん、あの頃小学校低学年くらいだったな。年齢的にはもう中学年から高学年に差し掛かるくらいか。
そんな思い出に浸っていたところ――
「アルトラ、今日は何だ?」
――ヘパイトスさんがやって来た。続いてニヤケ面でこう言う。
「古代遺跡のことか?」
「いえ、今回は別のことで」
「違うのか? しかし、お前さんのことだ、またトラブルだろ?」
「ははっ……分かりますか?」
「お前さんが来る時は、大抵自分では二進も三進も行かなくなった時だからな」
「少々困ったことがありまして、中立地帯の資料を探してるんです」
これまでの経緯、主に『中立地帯の歴史の教科書を作る必要が出てきた』というところを説明する。
「なるほど、ワシもあの時少し疑問に思ってもあえて聞かなかったんだが、資料が無いのにどうやってワシらのご先祖様を調べたんだ?」 (第161話参照)
「そ、それはその……企業秘密で……」
「やっぱり、例のお前さん特有の権能ってヤツか」
「はい」
「だったら、その権能で調べれば良いんじゃないか? 会ったことないヒトの顔まで調べられる権能なんだろ? そういうのはできないのか?」
「こ、今回は現地に行って資料を確認することが必要なんですよ。何せ私の周りだけで完結せず、相手 (教師たち)に歴史的証拠となる資料を提示することが必要なので……」
「なるほど、歴史の教科書作りとなると、いい加減なこと書くわけにはいかんしな」
「一応、資料が無いなら無いなりに、それでも調べられるだけ調べて作ろうと思いまして」
「前から思ってたが……お前さん割と苦労人だな。まあ自分の吐いた嘘で首絞めてるわけだが。強力な能力持ってると隠すのも大変だ」
「うっ……」
正解なだけに何も言えないな……
「それで、ここにその資料があるわけか? ヒーナ・マウアーなんて八代も前のご先祖様だぞ?」
え~と……フィンツさんの妹さんが七十五歳くらいでお嫁に行ったって言うから、七十五年で子供産むのを平均として考えるとその、八代前……六百年くらい?
「一応倉庫がいくつかあるが五百年も前の資料なんてあるかどうか……」
と思ったら五百年前だったか。平均六十二歳くらいで子供が生まれてるってところかな?
人間換算だと、二十歳から二十一歳くらいになるのか。若っか!
「ご先祖様はこの国の名工として祀られてる場所があるし、顔を確認するだけならそっち行った方が良いんじゃないか? 資料もそっちに行けば沢山あるぞ?」
そう言えば正月にクリューがそんな話してたな。 (第579話参照)
「いえ、今回必要なのは、ヒーナ・マウアーご本人の資料ではなく、『旧トロル村を整備し安全性を上昇させた』という事実の方なので」
「つまり、手記みたいなものを探してるわけか?」
「そうです。そ、それで、一応探してみてもらえませんか? な、何なら私が自分で探しますし」
「別に良いが……存在しないかもしれない上にかなり埃被ってるぞ? 見つけてもボロボロで読めんかもしれんし……それでも良いなら勝手に探してもらって構わんが……」
こう言っているが、カイベルから手記が存在している確証を得ている。
「ホントですか!? ありがとうございます!!」
「ついでに掃除までしてくれりゃ、今後掃除しなきゃならん手間が省けるから楽で良いんだがな」
ニヤリと笑う。
「そ、それくらいなら。でも専門業者じゃないので埃払うくらいですよ?」
「冗談で言っただけなんだが、やってくれるのか? やってくれるならそんな程度でも十分だ。じゃあ案内してやるよ」
ドワーフ商会を出る。
◇
途中、立派な屋敷の脇を歩く。
「ここってもしかして……」
「ワシの家だよ」
さ、流石アクアリヴィアの名工!
以前泊まらせてもらったリナさんの家に勝るとも劣らない。 (第82話参照)
「ここだ」
と、案内されたのは蔵が立ち並ぶ区画。
二階建てが七棟あり、奥に行くほど新しくなっているようだ。
「全てワシの家の蔵だ」
「何入れてあるんですか?」
「七の蔵は仕事道具とか、壊れて後で修理しようと思ってる道具とか、ボツ設計図とか、使わなくなった息子や娘、孫のオモチャとか、土仕事に使う農具とか、まあ雑多に色んなもんが入ってる」
まさに“倉庫”だな……
私にとって一番重要な――
「――古い方の蔵はどうなんですか? 一の蔵とか二の蔵とか」
「知らん。ワシが生まれて片手で数えるくらいしか入ったことがないから、何が入ってるかすら覚えておらん」
えぇ……ヘパイトスさんって百五十歳だろ……? その彼が数回しか入ったことないって……
「五百年前の手記だったな。だとしたら…………恐らくこの辺りか」
共通魔界語で『1』、『2』、『3』と書かれた三つの鍵を渡された。
「四の蔵以上は比較的新しいからお前さんの目当ての物は無いと思う。三の蔵までの鍵を預けておく。目当ての物が見つかったら掃除が途中でも引き上げてくれて良い」
見ると確かに四の蔵以降は蔵の材質が違うように見える。
「ありがとうございます。でも良いんですか赤の他人に鍵なんか預けて」
「そんな寂しいことを言うな、もう付き合いもそれなりにあるし“赤の”他人ではないと思ってる。孫の命の恩人で一緒の窯でメシを食った仲だろ。まあ、古い蔵になるほどボロボロだから、壁を叩きゃ中に入れそうだからな。鍵もあまり意味が無い。ワシの敷地内だから知らんヤツが入って来たら使用人の誰かが気付くだろうしな」
使用人居るのか……すげぇ……
などと内心考えながら、蔵の耐久性について意識を移す。
つまり、脆くなってる蔵の壁は簡単にぶち抜けるから、鍵による防犯の意味もあまり無いって言いたいわけね。
「ま、お前さんのことを信用してるよ。だが、目当ての物が見つかったら一応報告してくれ。持って行って構わんが、一応どういうものか確認しておきたい。そんな手記がもし存在するなら、流石に名工と言われたご先祖様の手記を預けたままにしておくってわけにはいかん。用が済んだら返却を頼む」
「分かりました。ただ、あの……一つ思い浮かんでしまったんですけど……」
「何だ?」
「古いってことは、蔵の床を踏み抜いてしまったりとかは……?」
少なくとも五百年前の物がある蔵だし……
「あるかもしれんな。まあ、その時はその時で仕方が無い。床が壊れた場合はその報告だけしてくれ。修復はこっちでするから」
「わ、分かりました」
「じゃあ、ワシは家に帰るから」
「はい」
「ああ、それと電灯は………………確か五の蔵より前は無かったと思う。その代わりに光を出す石に黒い布を被せてあった記憶があるから、魔力が切れてなければそれを外せばある程度明るいと思う。……まあ……数十年入っておらんし、多分使えんだろうが、魔力を補充してやれば使える。一応懐中電灯持って行くか?」
「あ、いえ、光魔法使うので問題無いです」
「そうか、じゃあ帰る時はワシの家に鍵を届けてくれ。ワシが留守でも使用人の誰かしらが家に居ると思う。もしくは昼間なら商会に居るから明日の昼までかかるならそっちでも良いぞ」
「ありがとうございます。じゃあ少し漁りますね」
冗談めかして言うと――
「ははは、手記見つかると良いな。じゃあそういうことで頼むぞ」
――笑って蔵の区画からを離れて行った。
「よし! じゃあ探すか! カイベルが言うには……二の蔵にあるんだったな。手記がある蔵は分かってるし、それほど時間もかからないだろ」
魔界文字で『2』と書かれた蔵に向かう。
「おぉ、これか……」
蔵の前に立ってみると、その古さが一目で分かる。
木で建てられており、建築直後は堅牢な造りをしていたのだろうが、現在は見る影も無い。
材料になっていた木材もところどころ亀裂が入り、割れ、風で木屑が舞っている。
「確かに……これはもう鍵の意味無いかも……」
辛うじて雨は入らないようになっているように見えるが、内実はどうか分からない。もしかしたら雨漏りとかしてる可能性だってある。
壁面も大分ボロボロになってきていて、本当に一発殴っただけで穴が開きそうだ。
「雨漏り、してなければ良いけど……もし雨漏りしてたら手記も危ないな。と、とりあえず中を見てみるか」
扉は観音開き。取っ手に時代劇で見るような木による閂がかけられており、その木の閂を留める左右に二ヶ所鍵穴がある。
閂のかけられた金属部分も大分錆びついており、ハンマーで軽く小突いただけでボロッと折れそうである。
左側は錆びついて鍵穴が壊れており、お借りした鍵を使わなくても既に開いている。
もう片方の鍵穴に『2』と書かれた鍵を入れて回す。
が……
「あれ? 回らない……これじゃないのかしら?」
一応お借りした三つ全部の鍵を試してみたが、他のは入ることすらしない。
「風雨で錆びて回らないのかも? どうしよう……一度ヘパイトスさんのところへ戻るか?」
と思った直後、右側の鍵穴も腐食のせいかボロっと取れ、石畳の上に落ちて『キーン』という小さい金属音を上げた。
「………………本当に鍵の意味無いな……まあ、良いや結果的に鍵開いたし、入ろう。鍵壊れたことも一応後で言っておいた方が良いな」
木の閂を外し、扉の横に置いた。この閂も風雨による腐食と錆による劣化が酷い。五百年という年月は伊達じゃないらしい。
扉を開けて中に入ると、埃まみれの様相を呈していた。
「ブハッ! 埃が舞う!」
とりあえず、窓を開けよう!
ただ……
「暗いな……日も落ちてきてる時間だし。電気は……無いって言ってたっけ……光を出す石は……?」
と探してみようとしたものの、埃被っててどれがそうなのかも分からん……
手っ取り早く光魔法で光源を浮かべる。
「よし!」
閉まっている木枠の窓を全開にする。すると、風が流れ込んで埃が晴れた。
「よし! じゃあとりあえず掃除しましょうか!」
【亜空間収納ポケット】から『何かに使える七つ道具』の一つ叩き棒とホウキとチリトリとゴミ袋を取り出す。なお、七つと言っても七つあるとは言ってない。
まあ、要するに日常で使える物を亜空間内にを色々ストックしていて、その中から掃除に使う物を取り出したわけだ。
上の方にある埃を叩き棒で叩き落とす。
「埃凄い!」
流石は推定五百年分 (?)蓄積された埃!
それでもしばらく続けて、蔵の一階二階共に粗方埃を落し終えた。
一部ミシミシ言う床があったものの、幸いにも体重が軽いからか床をぶち抜くこともなかった。
次にホウキで掃除し、チリトリで取り、ゴミ袋に捨てる。
そんなことを数十回繰り返し――
「よし! じゃあ仕上げだ!」
【亜空間収納ポケット】から『沢山集めるくん』とそのリモコンを取り出す。 (『沢山集めるくん』については第367話参照)
「これ、以前我が家で使ったら、外の土まで引き寄せちゃったんだよね……ちょっと改良するか」 (第199話参照)
その場で創成魔法を使い『沢山集めるくん』を改造。
前回の反省点を生かして、効果範囲を魔力で操作できるようにメーターを創った。
同時に魔道具に接触している部分だけを吸い付ける機能を付ける。要は効果範囲を魔道具周りだけに限定する機能。
名前はえ~と……『吸着モード』とでも名付けよう。
それと1ミリ以下のレベルの素材は無視する。目で見えないような微細な素材まで効果範囲に含めると、私が全く予想しないようなものまで吸い付けてしまうかもしれないから。
「蔵の範囲は……十メートルくらいかな?」
魔力を充填させるとメーターは十メートルを指す。
「よし、こんなもんでしょう」
埃の束を一つまみし『沢山集めるくん』に入れ……ようとしたが……
「おぉ……危ない危ない、木屑が混ざってる。これ入れたら蔵に使われている木材を吸い付けて、蔵ごと壊してしまうところだったわ」
これ使うには細心の注意を払わないといけない。
それを一旦捨て、別の埃を中に入れる。
蔵の入り口に置き、スイッチオン。
すると、凄い勢いで埃だけ吸い取り始めた。
「おぉ!? 今度は成功――」
と思ったら、後ろに置いておいたゴミ袋の様子がおかしい。
口の開いたゴミ袋から、捨てたはずの埃までもを吸い上げていた!
「――じゃない! ストップストップ!」
慌ててリモコンで『吸着モード』にする。
全部のゴミ袋の口を縛ってからやるべきだったか……
他のきちんと縛ってあったゴミ袋も、私の方へ移動して来ていた。多分、中の埃が集めるくんに反応して引き寄せられてきたんだろう。
「ちょっとトラブルがあったけど、それでも蔵の埃はほぼ取れた。これならヘパイトスさんも喜んでくれるでしょう」
あっという間に、手のひらの三、四倍に膨れ上がった埃の塊をゴミ袋に入れ、『吸着モード』を解除。埃がバサッと落ちる。
「使いどころを間違えるとヤバいってだけで、使い方次第では便利っちゃあ便利なのよね……よし、これで探しやすくなったわ」
改めて蔵の中に入る。もう埃も無く清々しさすらある。
蔵の中には色んな物が置いてあった。
私にも分かる鍬とか、鋤とか、農業用のでっかいフォークみたいなやつとか、熊手とか、スコップとか、高枝切りバサミとかの農具がある。つるはしのような鉱山具まであった。いずれも錆びついていてこのままでは使えそうもない。
物騒なものもある。剣とか槍が大量にまとめて置いてある。しかも剥き身で……
数百年前はどの国でも戦乱の時代があったって聞いてるし、その時代に使われていた武器と考えられる。こちらも全部錆びついてるが……
一つ手に持ってみた。
「この剣、魔石付いてるわ。魔力流してみたら何の剣か分かるかも」
興味本意で手近にあった剣二本を持って、安全に考慮して蔵の外に出る。
そのうちの一本に試しに魔力を流してみたところ、刀身が凍り付いていく!
「おお! これ氷の剣だ」
そのまま横に振ってみたところ、地面が半月状に弧を描いて凍り付いた。
「おお! 凄い! カッコイイ!」
が、古びていたからなのか、そこで魔石の光が消え、魔力の伝達が途切れる。
「ああ……魔力回路がダメになってるのね……一回使えただけみたいだ……」
もう一本も試してみたところ、剣全体が――
ビシュシュシュシュッ!
――みたいな音を立てながら激しくスパークするように火花を散らす!
「うわわっ! これ炎の剣か! こっちも錆びついてるから魔力回路も壊れてるみたいだ……」
蔵の中でやらなくて良かった……でも、木の蔵に炎の剣置いておくなよ……しかも埃まみれだったから、間違って起動なんかしてたら蔵はあっという間に大炎上だったのでは?
これも危ないって言っておいた方が良いかな?
まあ、数百年ここにあったんなら、置いておくだけなら危険ではないのかな?
いずれも戦乱の時代があったことを象徴するような武器だ。炎の剣は完全な殺傷目的、氷の剣は拘束目的って感じかな?
他は見たことも無いし、何に使うものかも分からない。
『持ち手が一メートルほどあって刃先が丸いハサミ』とか、『三メートルくらいある何かの歯車』とか、『投網のようなものとか』。
それと『羊皮紙に書かれた何かの設計図』が大量。
「この羊皮紙の近くにあると見た!」
ぎっくり腰に遭ってしまいました……碌に動けず、つらたん……
まあ、今回のエピソードも、何とか投稿できました。
次回は2026年2月20日の投稿を予定しています。
第587話【手記発見】
次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は二十一時付近までのいずれかの時間になります。




