第584話 教師陣のお出迎え
二月一日、役所ロビーにて――
集合時間を予定より十五分ほど早めてもらった。
ジャイアントアント騒動後のことが気になったためだ。
「おはよう、ウィンダルシア。相変わらず時間厳守ね」
先に登庁していたウィンダルシアに挨拶する。
「おはようございます」
「じゃあ行きましょうか。リーヴァントはお迎えの準備をお願いね」
「分かりました」
【ゲート】にて風の国のボレアース王城のあった場所へ。
◇
「………………」
ジャイアントアント騒動後、病院から退院してアルトラルサンズへ帰る時に王城を確認したが、あの時にはあったはずの王城は跡形も無く片付けられていた。
「王城、本当に無くなっちゃったのね……」
「ええ、まあ……私がアルトレリアに派遣される前に既に王城の撤去作業が始まっていましたから。あの時にはもう瓦礫に近い状態でしたからね。この土台(キノコ岩)もそのまま放置しておくと危険なので後々解体される予定です」
王城の建っていたキノコ岩ももう崩れ落ちそうということで、ここへと至る吊り橋も外されていた。非有翼族が乗っている時に崩落が始まったら危ないからという理由らしい。
土台は王城のあった場所を中心として、王城の後ろ方向へ扇状に三分の一ほどが砕けて無くなっている。
どうやら女帝蟻と戦った時に、私はあそこからぶち抜いて崖下へ落下したらしい。
「あのキノコ岩は女帝蟻を倒した直後からもう三分の一が無くなった状態だったの?」
「いえ、私が以前見た時はこれほど砕けていませんでした。王城撤去の過程で徐々に砕けて落下したんだと思います」
これは確かに、このまま王城を建てておいてもいつ崩れるか分からないから壊してしまった方が良いか……
「修復はできなかったの?」
「岩の修復ですからね、破損範囲が広すぎて無理だったようです。土魔法で修復しようとしても土台が古いため、岩同士が接着せず、定着前に崩れてしまうそうです」
「そうなのか……」
「今回のジャイアントアントは言うなれば災害のようなものです、仕方なかったんですよ。世界的な危機をストムゼブブ国内だけで防げたのですからアルトラ殿が気になさることではありません。さあ、教師たちもお待ちです。市庁舎へ行きましょう」
二人ともキノコ岩を飛び立ち、風の国首都城下町を下に見ながら市庁舎へ向かう。
「城下町、大分復興してるみたいだね」
谷底から上って来たジャイアントアントにより、王城に近いところに建っていた家屋が壊されるような事態もあったものの、もうほとんどその傷跡も無いと言って良い。
「そうですね。アルトラ殿が騎士たちの家族に避難するよう伝えるための時間を作ってくださったため (第451話参照)、その後の避難誘導も比較的迅速に行えたようです。怪我人はあったものの一般人の死者はゼロに抑えることができました」
「それは良かったわ」
話しながら飛んでいると市庁舎に着いた。
◇
市庁舎に入り、別室に連れて行かれるとそこには教師陣が待っていた。
部屋に入ると談笑していた声が止まり、こちらへと振り向く四人。
部屋の中央に進み出て、私から挨拶する。
「お初にお目にかかります。アルトラルサンズ国家元首のアルトラ・チノと申します。この度はわたくしどもの教師募集の呼びかけに応じてくださりありがとうございます。――」
深々と頭を下げ、言葉を続ける。
「――今後ともによろしくお願い致します」
「では、こちらからも挨拶をいたしますね」
派遣してくれる教師たちの自己紹介挨拶が始まった。
「お初にお目にかかりますアルトラ閣下、わたくしこの教師団を束ねる光の精霊族のルミナリス・フェイグロウと申します。こちらこそ今後ともよろしくお願い致します」
おお! 光の精霊!? 初めて見た!
しかし、“教師団”か。たった四人でも複数名いる以上“団”に当たるのね。
束ねると言うからには、彼女に校長先生を担ってもらうことになりそうだ。見た目は二十代中頃。光の精霊と言う割には物凄く光っているわけではないが、周囲にキラキラと光りが瞬くことがある。例えるなら……ラメみたいな感じ。
魔界では見た目で年齢が分からないヒトが多いから、他の先生方を取りまとめてるとなるとそれ相応の年なんだろうけど……
でも、そう言えば光の精霊って寿命が短いって言ってたっけな……確か五十年生きるかどうかとか。 (第432話参照)
いや、ハーバートさんが言ってたのは火の精霊とか雷の精霊だったか? だとしてもルミナリス先生もエネルギー体を受肉体にする精霊の仲間だから多分似たような寿命なんじゃないかと思うが……
「よろしくお願いします! あ、閣下なんて堅苦しいので“さん”付けで結構です」
小国ながら国家元首の所為か、みんな「アルトラ殿、アルトラ殿」言うけど、普通に“さん”付けで構わないのだが……
「そうですか? 分かりました。担当教科は主に共通魔界語です。保険医も兼任しますので、怪我などもお任せください」
「保険医も兼任なんですか!? それは助かります!」
怪我もってことは……回復できるヒトってことか!
以前派遣してくれたお医者さんのアスク先生の時 (第423話参照)と言い、今回のルミナリス先生と言い、アスタロト、凄く気が利いてると言うか、私贔屓が過ぎるというか……気が利き過ぎていて恐縮してしまうよ……
「続けてわたくし以外の先生方を紹介します。右から順に風の精霊族のラフィミィナ先生、主に世界史、家庭科を担当。必要があれば音楽も担当してくださいます」
「ラフィミィナ・ウィンドベルです。よろしくお願いします」
おお、風の精霊だ! こちらも初めて見た! 私のシルフイメージとは少し違う。小人に近い大きさをイメージしていたが、小柄ではあるものの私より少しばかり背が高い。
身体が軽いのか、常に床より少し上を浮いている。ただ、先ほど座っている場面も見ているし、着地できないというわけではなさそうだ。
「その右が風鳥族のヴォルガルド先生、主に体育と音楽を担当してもらいます」
「ヴォルガルド・アリアゲイルと言います! アルトラさん、よろしく頼みます!」
風鳥族は、以前敵対したことがあったな。悪巨人強盗団の時だ。
風の大精霊の加護を受けた鳥人族とのことで、確か怪鳥形態の時は常に風を纏っていたはず。 (第528話から第529話参照)
あの時の男は細身だったが、ヴォルガルド先生は体育教師らしく大分筋骨隆々。鳥人のイメージって細身が多いイメージだったんだけど、見た目だけなら強盗団に所属していた彼より強そうだ。
動きが早い種族だったし、体育教師としては適任なのかも。
…………ん? 今、音楽も担当するって言った?
「ヴォルガルド先生は体育と音楽を担当するんですか?」
「そうですが。何か疑問でも?」
「あ、いえ……私の知り得る限りでは体育と音楽を両立できてる先生って初めて見たので、ちょっと珍しいと思いまして」
私のこの態度を見て、ルミナリス先生が説明してくれる。
「風鳥は、綺麗な歌声を持つことで有名なんですよ。我が国では歌声の風鳥族、楽器のイーリス族 (※)と言われています」
「スポーツができて、音楽まで奏でられるって凄いですね!」
確か風の国から派遣されてる大使がイーリスだったな。
(※イーリス族:第419話に少しだけ出てきます)
筋骨隆々なヒトが歌まで上手いってのは想像つかないが……
「最後にダークエルフ族のイグナート先生、主に算数・数学と理科・化学、木材・金属加工技術などを担当してもらいます」
「イグナート・オブシディアンです。よろしくお願いします」
ダークエルフ、この種族も悪巨人強盗団の時居たっけな……まあ重要な役割とか与えられてなかったから、その他大勢の一人という認識だったが。 (第527話参照)
眼鏡で細身で、頭の良さそうな顔をしている。そして色黒イケメンだ!
エルフというだけあり、理系が得意らしい。
「さて、挨拶も済ませましたし、アルトレリアへ出発致しましょうか」
その後、アルトレリアでリーヴァントと対面・挨拶を済ませ、各々の暮らす宿舎へと案内した。
◇
数日後――
開校に当たって、教育方針を詰めるべく学校前に集まってもらう。
私とリーヴァントが予定した時間通りに学校に着くと、先生方は既に全員揃っていた。
「みなさん、おはようございます」
「「「 おはようございます 」」」
「みなさん、お早いですね……」
「教師ですから」
確かに時間通りに来れないようでは教師は務まらないか。
校舎を見て光の精霊ルミナリス先生が一言。
「平屋建てですが、造りは随分しっかりしてますね。学校が存在しなかったと聞いていたので、掘っ立て小屋のようなものを想像しておりましたが」
外観を見て少々驚いている。
「そこはまあ、私の記憶にある学校を参考に、建築部に造ってもらいましたので」
「学校教育が無いというのに、随分と建築技術が高いですね。校舎入口に水道まで完備しているというのは、中々無いことですよ」
ダークエルフのイグナート先生もそれに同調。
「え? そうなんですか?」
「そもそも水道技術が発達している国が少ないですから。水の国、雷の国、樹の国ってところですね。我が国では風の国首都と、少し発展した都市くらいのものです。田舎の地方都市には無いですよ」
「そうなんですね……」
技術的には結構遅れてるんだろうか?
雨が多い少ないも関係してる? と言うことは土の国とか火の国は水道がまだきちんと整備されてないかもしれないな。
ああ、でも火の国で泊まったホテルはきちんとしてたな。まああそこは重要拠点の一つって言ってたからかも。
土の国のホテルも問題無く水道が使えてた。
首都はその国の顔であるため、水道もある程度整えられている可能性が高そうだ。
「うちの建築部は水の国のドワーフさん直伝で育った職人たちですから」
「なるほど。水の国直伝ですか」
「それにしてもアルラルサンズは寒いですね……」
「まだ二月ですからね」
「「「「 ??? 」」」」
私の発した一言に教師全員がハテナ顔。それぞれ顔を見合わせて自分以外にこれについての知識が有るかどうか確認しているようだ。
「二月だったら寒いとはどういうことですか?」
「まさか月で気候が変わるんですか!?」
あ、そうか。気候が変わるのはまだアルラルサンズだけだから、このヒトたちはまだ知らないんだった。もっとも……最近は水の国や雷の国でも少し気象がおかしくなっているそうだが……
と言うことで、いつも通り全員に季節と昼夜について説明する。
「なるほど……それは興味深いですね」
「あ! そう言えば噂好きな児童の保護者に聞いたことがあるのですが、行商人によって『アルトレリアは暑かった』って言うヒトと『寒かった』って言うヒトが居て、きっとどちらかが嘘を吐いてると言っていたヒトがいましたよ!」
訪れる時期によって気温が全く違うからな……
魔界は太陽が無かったために、どこも気候が変わることが無いって言うから、どっちかが嘘吐いてると思ったんだろう。
「そういうわけなんで、この地では明るくなったら仕事が始まり、暗くなったら仕事が終わります」
「なるほど! 理に適ってますね!」
「も、もう良いですかね? では校内へ入りましょう」
遂に学校教育にまで発展してきましたね。
次回は2026年2月6日の投稿を予定しています。
第585話【教育方針を詰める】
次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は二十一時付近までのいずれかの時間になります。




