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泣きはらした目をしたルディの手を引いて、ブルーノは自警団の詰め所にやってきた。恥ずかしそうに俯くルディをみて団員たちは優しい笑みを浮かべていた。数人はがっかりしたように落ち込んでいたが、ブルーノは気にせず先ほどの男のところに行きたいと告げた。
「・・・女連れで行くところじゃないぞ」
「事情があるんです。三人で話したいのですがよろしいでしょうか?」
ダメと言わせない圧思った笑顔でブルーノがそう言うと、団長がやってきて「いいぞー」と大きく返事をした。
「外で待ってるからなんかあったら大声出しな」
「助かります」
そうして二人で地下に降り、牢屋に向かうための扉を開けて進むと一番奥の鉄格子の向こう側にロターリオが寝転がっていた。
「ロターリオ」
ルディの声にはじかれる様に飛び起きたロターリオは二人の様子を見て怪訝な表情を浮かべた。
「何しに来た?」
「話をしに来た。私はここから出ていく気もないし、戦いに赴く気もない」
ぼりぼりと頭をかきながら胡坐をかき、ロターリオはルディを睨みつけた。
「話に来たんじゃなくて一方的に言いに来ただけだろ」
「そうともいうな」
「そのヒョロガキのどこが良いんだ?下半身か?」
「・・・下衆が」
ルディは一瞥し帰ろうと振り向こうとしたが、それを見て慌ててロターリオが鉄格子を掴んだ。
「おい、冗談だ。いや、冗談じゃねぇんだが、本当にわからねぇ。なんでこんなところでぼんやり暮らしているのか理解が出来ねぇ」
だからそういう理由しかないと思った、と小声で付け加えた。
そのやり取りを見てブルーノは少しだけ安心した。夜の浜辺で男と会っていたなんて聞いた時は実は結婚していたのかとか色々と勘繰ったものだ。だが、どうやら二人の間にはそういうものは存在していない。
ロターリオは英雄としてのルディに執着している。だが、ルディはもうエスメラルダに戻る気はない。
「それを理解してくれる人たちがここにいるということだ」
「意味が分からねぇ!戦わないで生きていける人間じゃねぇだろ!どこに行ったって先陣切って一人でやれるお前がガキと戯れて満足するはずがねぇ!」
「私は、戦って満足したと思ったことは無い」
しっかりと一言ずつ口にしたルディの言葉にロターリオは黙った。黙るしかなかった。ロターリオにとって戦うということは楽しみのようなものだった。死の可能性はいつも傍らにあったが、それでよかった。ひりつく感覚と強者を打ち破る快感があればよかった。金が入ってくるのも女が寄ってくるのもよかったし、偉そうなやつが恐れおののいているのを見るのも心地よかった。
エスメラルダもそういう人間だと思っていた。
「エスメラルダ、お前おかしくなったのか・・・?」
「私はルディだ。エスメラルダではない。二度とその名前を呼ぶな。次はない。この町に来ることも許さない」
細められたその目に狂気を感じて、なんだやっぱり、とロターリオは笑う。
「やっぱりお前は俺と同じだろ?」
その瞬間、ガシャン!!と大きな音を立てて鉄格子が揺れた。同時にぐっ、とくぐもったロターリオの声が漏れた。
一瞬でルディの足裏が鉄格子を掴んでいたロターリオの手を蹴りつけていた。ブルーノは見ていたはずなのに全く動きが見えなかったと目を見開いてその状況を見ていた。ルディはそのままぐりぐりと足を動かし、ロターリオはただ呻く。
「私は守るためなら喜んで邪魔者を排除する・・・怒りに任せ背後を素人に取られるような弱者であっても手加減する気はない」
ロターリオは自分三人がかりでもエスメラルダを倒せないと思っていた。ただ、それは手合わせしていた傭兵時代の話で、その頃のルディは全く本気ではなかった。クビにされないようにそれなりに実力を発揮しつつも、ある程度手加減をした。本気で動けばどれほどなのかを知られないほうがいい、安心できない場所では常に周りを油断させておく方がいいと養父や養父の部下たちに口酸っぱく言われていた。
今の蹴りでさえルディは本気でない。本気でやれば鉄格子を損傷させてしまうだろうときちんと手加減をした。そしてブルーノと同じくロターリオも、その動きを全く目で追えず気付いた時には指に激痛が走っていた。
お前はその程度なんだ、と言われている気がして、ロターリオはそれ以上もうルディを見ることが出来なかった。
この女はいつでも俺を殺せるだろうし、必要となれば迷わず手を下すだろう、という恐怖だけがロターリオに染みついた。
「・・・驚きましたか?」
「確かに驚きはしましたけど、嬉しくもありました」
詰め所からの帰り道、二人は来た時と同じように指を絡めてをつないで歩いていた。ずいぶん長いこと外にいたらしくそろそろ夕方になりそうだ。帰って子どもたちのご飯を用意しなくてはいけないと思いほんの少しだけ急ぎ足で歩いていく。
「嬉しい?」
「ええ、今までルディさんがああやって危険人物に対処する姿を見たことがありませんでした。意図して見せないようにしていましたよね?」
「う・・・はい。その通りです」
ルディは気まずそうに頷いた。マルコが来てからはそうでもなかったが、以前の教会には不届き者がちょこちょこ訪れていた。優しそうな神父と日中だけいる女しか大人がいない教会に、可愛い顔立ちの子どもが何人もいる。教会に寄付金が集まったという話が流れていたせいもあるだろう。狙われる要素が多かった上に夜はブルーノだけになることは周知の事実で人さらいも泥棒も夜に侵入しようとやってきていた。
ブルーノ自身は攻撃的な魔法は持たないが、知らない人物の魔力を感じたら教会内外全ての燭台に炎がともる仕掛けをしていた。深夜に教会が明るくなったら自警団がすぐに向かうという約束をしていたこともあり、大きな問題は起っていなかった。だがルディが来てからは燭台に炎がともることが一度もなかった。
仕掛けのことを知らないルディは自分が夜こっそりと不届き者を気絶させるなどして処理していることを知られているとは思っていなかった。
「信頼してくれたんだと思って私は嬉しいんです」
心なしか足取りが軽いブルーノに引かれながら二人で教会へ帰る。
「これからもずっと教会が・・・いえ、私の横がルディさんの帰る場所になるように頑張りますよ」
「・・・私も、頑張ります」
そう言ってほんの少しだけ繋いだ手に力をこめる。どちらともなくそうして固く繋いだ手は教会について子どもたちにからかわれても繋いだままだった。
それからのブルーノの仕事は早かった。
プロポーズをしたつもりだがどこまで伝わっているのかルディの反応を見るとわからない。だがもう引くつもりもなかったので早々にルディが住むアパートを解約させ当分の間客室に住むようにあれやこれやと言い含めて納得させた。孤児院の余っている部屋を二人の寝室に改築し、子どもたちと家族のように暮らせるように整えた。
ブルーノに対してはなぜか流されてしまうルディはそれも居心地がいいなと感じていた。子どもの頃を除きルディにかいがいしく世話をする人は一人もいなかった。ブルーノの横にいると自然と力が抜けるのだ。時々過去に引き戻されるような悪夢を見ることがあったけれど、そのたびにブルーノに寄り添われていれば絆されない訳がない、というのは孤児院の最年長リヤの口癖のようになっていた。悪夢のことは知らなかったが、時折沈んだ顔をしたルディの横にぴたりと寄り添うブルーノの姿は何度も目撃されていた。ある意味名物のように思われるくらいには。
半年ほど経った頃、二人は町の人々に見守られる中教会で式を挙げた。その日もバオの海は穏やかで太陽の光をキラキラと反射させていた。
ここで一区切りとなります。その後の話を二話投稿しておしまいになります。




