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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第三部【魔なる者】
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不死鳥の騎士団②

ルイーダの隣に席をとっていたロイスが何か小さな道具を手に取ると、そこに付いていた突起物を押した。

途端に壁に穴が開き、見たことのない城が現れたんだ。


「これは!?」


俺は思わず立ち上がった。


「安心なさい。映像よ。」


「え、映像?なんだ?それ?」


こういう時はいつものあれしかねぇ。

訳が分からない時のな。

俺は勢いよくルイーダに振り返った。


「残念でしたぁー。私にも分かりませぇーん。」


ルイーダが首を振った。

すげぇな。

こいつにも分からないものがまだまだ存在してるんだな。

その割には随分と落ち着いてるけどな!

ルイーダは言いながら鼻をほじっていた。


「口で説明は難しいわね。とにかく、これは魔王の城を映したもの。」


「幻影。って解釈でいいんだな?」


俺はルイーダの手首をそっと掴むと、鼻から離させつつ再び椅子に腰を下ろした。


「ええ。それでいいわ。

さて、それでは100年前の経験を参考に、もう一度組み立て直すわよ。」


「いいかい?前回、僕達はこの城に真正面から挑んで、待ち伏せされた挙げ句に魔術の集中砲火を浴びて壊滅した。

今回は同じ轍は踏まない。」


ロイスの言葉に合わせて幻影が切り替わった。


「まず、城全体が結界で固く閉ざされていたね?これには仕掛けがあったのを覚えてるね?魔王の城には両脇に二棟の塔があり、それぞれを護る魔族を倒すことにより、結界が解かれる仕組みだ。前回は結界を解いた後、正門を開けたことにより待ち伏せの餌食になった。」


「今回は裏をかくわ。」


「結界を解いた後、今度は正門以外の場所から忍び込む。場所はここだ。」


またもや幻影の形が変わった。

今度映し出されたのは、城の裏口みたいなところだった。


「ここが城の勝手口だ。この付近の塀を破って侵入し、一気に城内に入り込むことにする。」


「ちょっと待てよ。なんでこんな事細かに城の内部を把握できてる?」


「前回、私とロイスだけが集中砲火を抜け出せたのよ。それで城内を回れるだけ回って、可能な限りの情報を集めた後に撤退したの。」


「よく生きて帰れたな。」


俺の言葉に、ミュラーは微笑みだけで返してきた。


「結界が解かれた瞬間に侵入すれば、魔物もすぐには対応できないと思われる。だから、予め、3組に分けて行動しようと思う。塔の攻略に、2組。そして侵入に1組。」


「それぞれに重大な責任が課されるわ。心して取り掛かるのよ。」


「それでは組分けを伝えるよ。」


ロイスの説明では、塔の攻略に4名ずつ計8名。

船に2名残ることになった。

そして最も重要な侵入には、


「私、ロイス。そしてエジルとルイーダが就くわ。」


幻影に釘付けになっていた俺は驚いてミュラーに振り返った。


「いいのか?そんな重大な役目、俺達で。」


「当然よ。私達はあなた達を信用してるのよ。そしてその信用を勝ち取ったのは、他でもないあなた達自身。」


ミュラーの眼差しは真剣そのものだった。

悪い気はしないよな。

そこまで言ってくれるんじゃ、やらないわけにはいかねぇよ。


「分かった。全力を尽くすよ。」


「頼りにしてるわ。」


ロイスも満足そうな笑みを浮かべていた。


「よし、決まったところで、最後に城への潜入方法を説明するよ。

前回は、城の付近に不死鳥を停泊させた。これじゃあ、今から行きます。って言っていたようなものだったね。

今回はそこから変更しよう。」


「飛び降りるわ。」


「は?」


俺は思わず聞き返した。


「雲の上から飛び降りるのよ。そうすれば、魔族も私達が接近していることに気が付かないはず。」


「いや、飛び降りるって、死ぬぞ?戦う前から。」


「大丈夫よ。考えてあるから。」


ミュラーの表情は自信に満ち溢れてるものだった。

この顔をされたら反論はできねぇよな。

仕方ねぇ。

信じてみるか。


「飛び降りるんだってぇー。楽しそうだねぇ。」


ルイーダが笑いながら言った。

俺の袖に何をしてるのか分かったから、あえて見ないようにした。


「鼻くそつけんなよ。」


「あら、私も拭いていいのかしら?」


「おめーはもっとダメに決まってんだろうが!!」






「厄介ね。」


ミュラーが呟いた。

上空から見えていた霧のようなもの。

それが瘴気だと分かったからだった。


「瘴気に触れると魔族に感付かれちゃうねぇ。」


「そうね。前はここまで濃い瘴気はなかったと思ったんだけど。」


「それだけ魔物の力が増してるってことかな。」


「まずは瘴気の上を進みましょう。」


不死鳥は高度を上げると、黒い雲の上を飛行していった。


「これじゃあどこが城か見えねぇな。」


俺達は甲板に出て、遥か眼下に広がる暗黒の雲海を見渡していた。


「大丈夫。レーダーで城の場所は関知してるよ。」


ロイスも手すりから体を乗り出しながら説明した。

この小さい体の少年が身を乗り出してると、今にも落ちちまいそうでなんか怖いな。


「これだけの瘴気の中を通るのは自殺行為じゃねぇか?」


「さっそく予定が狂ったわね。」


「見付かるのを覚悟で取り払うか?」


「その方が利口だね。」


「結局は正面突破と変わらねぇか。」


「仕方ないわ。戦う前に体力を削られるよりはマシよ。接近に気付かれたとして、その後を迅速に進めればリカバーはできるわ。侵入経路を悟られなければ十分に勝機はあるもの。」


「分かった。この状態じゃ不死鳥で近付くわけにもいかねぇし、やるしかねぇな。」


俺とロイスは並んで雲の薄そうな場所を探っていた。


「どう?そろそろ城の上空に差し掛かるわよ?」


「ちょっと待てよ。そうだな、あそこか。」


俺は雲海の一部を指差した。


「そうだね。あそこしかない。」


ロイスもそれに同意した。

俺は両手を胸の前に合わせると、いつもよりも少し時間をかけて精神を集中させた。


「ヴェルウィント!」


俺の放った特大の突風は、雲海に突き刺さる。

しかし、表面を少し振り払っただけで、その暗闇に吸い込まれていった。


「とんでもねぇ濃度だな。まるで動く様子がねぇぞ。」


「エジル、ありがとう。これで大体の様子が分かったよ。」


言いながら、ロイスが空中に向けて右手を伸ばした。


俺は目を疑った。

周囲の大気がその小さな右手に収束し、掌に圧縮されていく。

あまりの密度に、その手を包む空間が歪んで見えるほどだ。

その圧縮された空気を宙に解き放った。

まるでリンゴが木から落ちるみたいに、無造作に落下していく。

その歪みが雲海に飲み込まれた瞬間だった。

まるで稲妻が光るごとくの一瞬で、瘴気の霧の真ん中に小さな穴が開いたかと思うと、その穴は渦を巻き、周囲の瘴気を弾き飛ばしていく。

ロイスの右手から放たれたのは、突風なんて代物じゃない。

それはまるで巨大な竜巻だった。


「嘘だろ?なんだよ、今の術は。見たことねぇ術だ。」


「ヴェルウィントだよ。」


「は!?なんつった!?」


「だから、ヴェルウィントだよ。」


「冗談じゃねぇ!同じ術の威力じゃねぇぞ!」


まさか同じ術を使ってここまで差が出るものなのか。

確かにロイスは稀代の大魔術師だってのは伝説で知っている。

知ってはいたけど、想像を絶していた。

こんなの、天変地異のレベルじゃねぇか。

しかも術式も発現の言葉も無しときたもんだ。

俺だってそこそこの術師だと思ってたのによぉ。

自信なくすわ。



眼下の瘴気がぽっかりと口を開けた。

その穴の下に見えたのは、魔王の城だった。



「見えたわね。さぁ、皆。覚悟はできたかしら?」


「おぉー!!」


騎士団が一斉に声をあげた。


「ここからはフルーゲンで全員を包み込みながら降下するよ。離れないように気を付けてね。」


「おい!フルーゲンって!?」


その術の名前に、俺は心底驚いた。

そりゃあそうだよ。

フルーゲンってのは、基本的にはひとり用の術だぞ。

術者の力量にもよるが、術者以外にもうひとり運ぶくらいが精一杯のはずだ。

少なくとも、ふたりで飛べればかなりの上級者って言われてる術なんだ。


「エジル。フルーゲンは僕の得意技のひとつだよ。」


ロイスが言い切った。

さっきのヴェルウィントを見せられたら、俺の知ってる術の常識なんて、もはや無意味だと思わざるを得ないな。


「分かった。お前に任せる。」


「うん。任せてよ。」


俺はルイーダの方へと向き直った。

いよいよ魔王の城に突入だ。

覚悟を決めねぇとならねぇ。


「ルイーダ。俺のそばから離れんなよ。」




その瞬間だった。

不死鳥の船体が大きく傾いた。


「団長!!敵襲です!!」


団員の誰かが叫び声をあげた。

見ると、瘴気の穴から巨大な触手が伸び、不死鳥の腹を貫いていたのだ。


「早い!?」


「自動反撃だ!!」


船体は大きく突き上げられた。

俺達は体勢を崩され、急な坂道みたいに変わり果てた甲板の上を転がり落ちる。

全員、振り落とされる寸でのところでなんとか手すりにしがみついた。

はずだった。


俺の目の前で、ルイーダが空中に投げ出された。


「っ!」


声が出なかった。

手を伸ばした。

ルイーダも手を伸ばしていた。

だけど、俺の手は、

ルイーダの手を掴むことなく、

空だけを握り締めたんだ。





つづく。

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