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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第三部【魔なる者】
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不死鳥の騎士団①

「おい、エジル、こっち来いよ!」



あれは俺が勇者を志してからしばらくした頃だったかな。

スラムの悪い仲間と手を切った俺は、日がな1日、ひとりで剣とか体術の修行に明け暮れる日々を送っていた。


そんな時に出会ったのが、少し歳上のあの人だった。


孤児院の庭で遊んでるのか真面目なのか分からないことを毎日繰り返していた俺に興味が湧いたのか、いつの頃か俺のひとり修行を眺めるようになっていて、気が付いたら隣で剣を振っていた。


別に俺は仲間が欲しかったわけではないから、特に気にも留めずに修行に励んでいたんだけど、その人は次第に俺のことを気にかけてくれるようになった。


「今朝はなに食ったんだ?」


「今日は別の場所で修行しないか?」


「お前、すごく上達してきたな!」


そうやって話しかけてくるその人に、俺も次第に心を許していった。


その人は伝説の勇者にとても憧れていて、そういう本をいっぱい持ってきては俺に見せてくれた。


「ほら、これが不死鳥の騎士団って言うんだぜ。かっこいいよな、お揃いの白銀の鎧。12人の団員がいて、ミュラー団長を中心に固い絆で結ばれていたんだぜ。それぞれがすごい力を持っていて、この大参謀のロイスって人は稀代の大魔術師だったんだってよ。世界中のどんな精霊術でも使えて、頭もすごくいい!俺の憧れなんだ。でもな、魔王をあと一歩のところまで追い詰めたのに、卑劣な罠にかかって負けてしまったんだって。残念だよな。俺もいつかは不死鳥の騎士団みたいなすごい騎士団を作って、魔王をやっつける旅に出たいんだよ。」


目をキラキラとさせてそう俺に語ったこの人だったけど、アカデミーには入らずに、結婚して城の兵士になった。

家庭の事情ってやつだよな。

誰もが家族を置いて旅に出られるわけじゃないもんな。


「エジル。俺の分も、世界中の人達を助ける偉大な勇者になってくれよ!」


アカデミーに入る前にそう言ってくれた。

思えば、俺にとっての初めての親友と言える友人だったのかもしれない。

その人は城の仕事が忙しくなり、俺もアカデミーに通っていたからそれ以来会っていない。

だけど、その人が教えてくれたからこそ、不死鳥の騎士団は俺の憧れにもなったんだ。







「か、かっこいい・・・。」


俺は呆然と、目の前に佇むふたりを見つめていた。

まさか憧れの騎士団が現れるなんて思ってもみなかったからさ。


「そぉ?」


ルイーダが眉をひそめて俺の顔を見上げた。


「かっこいいだろ?見ろよ、あの鎧。ピカピカに光って、伝説通りじゃねぇか。」


「でもさ、あの子達さっきまで巫女だったんだよぉ?いきなり騎士ですって言われても、ねぇ。」


その言葉に、俺は現実に引き戻された気分だった。


「あの子達って、お前なぁ。ん、だけどそうだな。そう言われてみたら、なんか無性に怒りがこみ上げてきたぞ。」


俺はふたりを指差した。


「おい、あんた達!これは一体どういうことだ!説明しろ!」


確かにそうなんだ。

ふたりともさっきまで神殿の巫女で、それが今は騎士団で、大体において神殿が不死鳥で、全くもって意味が分からねぇ。

更に言えばエンジンだとか飛空挺だとか、訳の分からねぇ単語も飛び放題だし、ここは冷静にひとつひとつ整理していかねぇと話しが進められねぇんだよ。


「その前に、ちょっとやることがあるのよ。待ってなさいね。」


ミュラーは俺に小さく手を振ると、どこかに向かって歩き始めた。

ロイスはその逆側に歩いていく。


ここで初めて冷静になり始め、周囲を見渡す余裕もできてきた。


俺達が今いるここ。

目の前には青い空が広がっているが、屋外ではなさそうだ。

目の前の壁一面がギヤマンになっているらしく、それは大きな窓だったってことだ。

部屋の中央には赤い絨毯が敷かれており、窓まで真っ直ぐに伸びている。

絨毯の両脇にいくつものひとり掛けの座席が並べられ、座席の前にはよく分からねぇけどたくさんの突起がついた机みたいなのが置かれていた。

そして窓の前、絨毯の先端には船の舵みたいなハンドルが設置されている。

そうやって部屋の様子を観察していると、ミュラー達は両端の壁まで歩を進め、なにやら壁の突起を押しては横に移動していた。


壁から水蒸気が噴き出すと、それに合わせて一部がスライドするように動き始めた。

どうやら扉らしい。

両端にそれぞれ5ヶ所ずつの扉が開くと、中に見えたのは人間だった。


ミュラー達と同じ白銀の鎧を着込んだまま、その人達は眠っているように見えた。



「目覚めるまで時間が掛かりそうね。それじゃあそれまでの間、質問にお答えするわ。」


ミュラーとロイスは部屋の中央、絨毯の上に戻ってくると、俺達に座席に座るように仕草で促した。

俺達は互いに視線を交わすと、手近な椅子に腰を落ち着けた。


「えぇと、何から話すべきかな?」


絨毯を挟んで俺達の向かい側の席に腰掛けたロイスが両の掌を組み合わせた。


「まずは僕達のことかな?僕達は不死鳥の騎士団。今から100年くらい前に魔族の王に戦いを挑んだんだけど罠に嵌められてしまったんだ。なんとか離脱はしたけれど、僕達の体は力尽きようとしていた。

志を諦めきれなかった僕達は、この地に自らを封印することにしたんだ。

この不死鳥と僕達自身を。」


「なるほどな。事情は分かってきたんだが、すまんが先に教えてくれ。

不死鳥ってのは何なんだ?俺達は今どこにいる?」


「あぁ、そうだったね。不死鳥というのは、この方舟のことさ。

いつ、どこから来たのかは僕達も知らない。

旅の途中でたまたま見付けた空飛ぶ船で、僕達を乗せて共に旅をするようになったんだ。」


「空飛ぶ船。と言うことは俺達は今、船に乗って空を飛んでるってことなのか?」


「その通り。今、僕達は雲の上を飛んでるんだよ。すごい船でしょ?果てることのない、本物の不死鳥だよ。

僕達自身を封印することができたのもこの不死鳥のお陰なんだ。

ほら、見てご覧?」


壁に眠る騎士に視線を移した。


「まるで死んでるように見えるけど、生きているんだよ。なんて説明していいか分からない。でも、長い間を眠ることができるんだ。」


騎士達の肌が、先程よりも赤みを増しているのに気が付いた。


「あんた達は眠っていなかったのかい?」


「僕達は封印の守人。いつか不死鳥を再び甦えらせる人が現れることを願い、動力炉の部品に伝説をこじつけて旅人に託したんだ。相応しい人がそれを集めて、僕達の前に現れるのを待ちながら、不死鳥を守ってきたんだよ。」


「そうだったのか。不死鳥伝説自体があんた達が作り出したものだったってことか。」


「その通り。そして初めて辿り着いたのがあなた達だったのよ。」


ミュラーが立ち上がった。


「あなた達と私達の目的は同じ。魔族の王を倒して世界に平和を取り戻す。一緒に来てくれるわよね?」


そして、俺に手を差し伸べたんだ。





俺は俯いた。


「どした?」


俺の顔をルイーダが覗き込んだ。


「ルイーダ。」


「なぁに?」


「俺、俺、初めて心から思った。ずっと本気だった。でも、今の話しを聞いて、つもりだったと思った。」


「・・・・・エジル。」


「こんなに、こんなに本気で命懸けてんだよな。自分達を封印してまでも。」


「・・・・・エジルは違う?」


「ここまで本気じゃなかったって、今になって思う。」


「ねぇ、エジル?」


「・・・・・なんだよ。」


「もっといっぱい、私を儲けさせてよねぇ。」


俺は思わず吹き出した。

そしてルイーダの顔を見返した。


「お前、するべき会話をいくつか飛ばさなかったか?」


「え?そぉ?」


「そうだよ。ここはさ、俺がもう少しグズグズ言って、それをお前が元気づけて、俺がやる気出して、お前についてくるなって言って、お前がついてくるって言って、そんで俺が折れて、最後の締めにお前が言うような台詞だろ?それ。」


「どぅえっへっへぇー。つーことだねぇ。どうよ?やる気出た?」


「あぁ、出た出た!出たよ!まったくお前はどんだけ面倒くさがりなんだよ、本当に。なぁルイーダ。」


「なぁに?」


「せめてこれだけは言葉に出して言わせろよな。」


「いいよぉ。」


「危険な目に合わせるかもしんねぇ。それでもついてくるか?」


「うん。」


「分かった。全力で守ってやる。」


「もっといっぱい、私を儲けさせてよねぇ。」


「任せろ。」




ミュラーとロイスが声を上げて笑った。


「あんた達、面白いわね。」


「なんか君達が乗り越えてきた冒険が目に浮かぶようだよ。」


「宜しくね。頼りにしてるわよ。」


ふたりが俺達に手を差し出した。

俺はミュラーの手を握り、ルイーダはロイスの手を。

それから互いに入れ替わって固く握手を交わした。


「私も女の子の仲間は初めてだから嬉しいなぁー。」


ルイーダがミュラーの手を振りながら声を弾ませていた。


「私もよ。あなたとは仲良くなれそうだわ。」


「あー、その件なんだが。」


そうだ。

ずっと気になってはいたんだ。

まぁ、母親の男とずっと表現はしてきたし、巫女だと言ったことも認めた。

しかしだ、

まさか、本当の姿が不死鳥の騎士団長だと判明した後もこの感じでいくつもりなのか?


「あのさ、えーと、ミュラー団長はさ、その、今までのは仮の姿なんだろ?」


「団長なんてつけなくていいわよ。ミュラーって呼んでね。」


「僕もロイスでいいよ。」


「いやさ、そこじゃなくてさ・・・・。」


「エジル、きっとだんちょーはトランスジェンダーなんだよ。だから気にしないの。」


「は?虎?え?」


「デリケートなとこだからそれ以上はツッコまない。だんちょーの心は女の子。それだけなの。」


「あぁ、そうか。なんて言うか、分かった。」


んー、まぁいいか。

別に普通の人なら良くて、騎士団だとダメだって理屈はないもんな。


「さぁ、皆が起きてきたみたいだよ。」


ロイスの言葉通り、壁の中に眠っていた騎士達が続々と目を覚まし始めた。


「団長!遂に騎士団が復活したのですね!」

「不死鳥も空を飛んでいる!」

「これでまた魔王と戦えるんですね!」


口々に歓喜の声を上げ、互いに肩を組み合って喜んでいた。

なんか、これだけでも今まで頑張ってきて良かったと思えるよな。

だけど、そうじゃねぇんだ。


「さぁ、全員配置につきなさい。これから魔物の城に乗り込むわよ!」


ミュラーは舵を握ると、鼓舞するように高々と声を張りあげた。


「おぉー!!」


それに呼応するように、騎士団全員が声をあげたのだった。



今から始まるんだ。








飛空挺と言うものがなんなのか、俺は正直なところいまいち理解していない。

空飛ぶ船だってのは分かった。

だがそこまでだ。

俺達が外周を回った時に見付けた、ふたつ並んだ窪みから火を噴き出しながら飛ぶらしい。

どうして飛ぶのかとか、そんなんは全くもって知らん。

見た目は銀色のでかい大根かサツマ芋だ。人参でもいいぞ。

細くて長い。

俺達が普段いる場所はコックピットと言うらしく、船体の中頃の、一番背の高い部分にある。

コックピットの先には甲板が設けられており、一応は外にも出られる。

コックピットの下部には乗組員が生活するための施設だったり、機関室や倉庫なんかの航行に必要な施設が設置されている。

海賊船と違って、俺とルイーダは飛空挺を運用することにかけては全くの戦力外だった。

完全にお客様扱いで、とりあえずは防寒着から普段の格好に着替えた後、コックピットの隅の方に椅子を貰ってそこに座って、忙しなく働く騎士団達を眺めるだけたった。



「なぁ、ミュラー。この船は魔族の城までどのくらいで着くんだ?」


出発から数時間が経過し、俺は少し飽きてきた。

これからの予定とか心構えとかも知っとく必要もあったし、俺は椅子から離れると舵を握るミュラーに声をかけた。


「もうそろそろよ。下を見なさい。」


不死鳥の翔ぶ速度は想像を遥かに凌駕するものだった。

海賊船であれば、極北の島から暗黒大陸まではどんなに早くても数ヵ月は掛かる。

しかし、不死鳥はものの数時間で辿り着いてみせたのだ。


「さあ、暗黒大陸に上陸するわよ。」


前方に見えたのは、大陸全土がドス黒い霧に覆われた、魔物達が巣食う忌まわしき土地だった。


舵に取り付けられている黒い板に映し出された数字を確認したあと、振り返って騎士団に伝えた。


「自動航行に切り替えなさい。これより作戦会議を始めるわ。」


ミュラーの掛け声に合わせて騎士団達だそれぞれの席に取り付けられた机をカチャカチャと指で叩いている。

まぁ、なんだ。

何をしたいのかは分からないけど、とりあえずは俺は何も気にしない方がいいな。



それから俺達はコックピットを出て、下層部にある大きな部屋に移動した。

普段は食堂として使われているらしいこの部屋の特徴は、大きな円卓と隅の方のキッチンだった。

騎士達は円卓を囲み席についた。

どうも座る場所が決まってるらしい動きで、全員が迷うことなく席を選んでいく。

取り残された俺達を、ミュラーが手招きして自分とロイスの間に座らせた。



「さて。まずは新しい仲間を紹介しましょう。まだ正式に紹介してなかったものね。

エジルとルイーダよ。私達を甦らせてくれた現代の勇者。皆、敬意を払いなさい。」


「はっ!」


全員声を揃えて返事をした。

すごいな。騎士団って。

今までずっと、スラムのゴロツキとか海賊とかとばかり付き合ってきたから、こういう統制のとれた組織ってのは初めてだ。

かっこいいとは思うけど、ここに入れって言われるとちょっと引くよな。


「では全員自己紹介なさい。」


「ラームであります!」

「クロースであります!」

「フンメルスであります!」


ひとりずつ順に声を張って名を名乗っていく。

うん。そんないっぺんに言われても覚えられないな。

まぁそのうち覚えるかと思案していると、その中のひとりに目が留まった。


「メルテザッカーであります!」


「おい!」


俺は思わず立ち上がった。


「どうしたでありますか!?自分がなにか!?」


「え?俺のこと分からねぇか?」


「はっ!貴殿とは初見であります!」


「そ、そうか。そうだよな。100年寝てた騎士だもんな。すまねぇ、勘違いだ。」


頬がひきつっているのが自分でも分かったが、この場の空気もあるしこれ以上の詮索は無用と判断して腰を下ろした。

だけど、本当はめっちゃ問い詰めたかった。

なにしろ、真剣に瓜二つなんだよな。

背格好だけじゃなく、顔形も、声も、何もかも。

まぁこれも後でいいか。


「大丈夫?知り合いにでも似てたかしら?」


「いや、似てるとかそういうレベルじゃねぇんだけど、まぁいいや。」


「あらそう。ならいいわ。そしたら、もう一度私達も自己紹介しておくわね。」


突然の申し出に俺は困惑を隠せなかった。


「は?いや。あんた達はもう聞いたんだが。」


「ぅーわたしはぁー!」


そんな俺の戸惑いを無視して、ミュラーは突然大声を張り上げた。


「ある時は、物乞いの未亡人!

ある時は不死鳥の神殿を司る巫女!

果たしてその実態は!?」


椅子を蹴って立ち上がった。


「正義の味方!スーパーヒロイン!皆のアイドル!親愛なる隣人!

不死鳥の騎士団長!!

ミュラー!!!でぇーっす!!!!」


「僕はロイスだよ。」


「じゃあ会議を始めるわ。ロイス、お願いね。」


「どういうこと!?今の、どういうこと!?」


「私の正体を明かしてもなんかあんたあんまり驚かなかったから。」


「今さら!?今さらここで言うことなの!?

いやいやいやいや!おかしいから!流れ的におかしいから!」


俺の全力のツッコミに満足げな表情を浮かべると、すぐにキリッとした顔に戻してロイスに頷いてみせた。


「終わりかよ!?もう終わりかよ!?俺、置いてきぼり!?」


「うるさいエジルね。」


「あ、そこは同じなのか。」









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