第48話 もう一つの名前
# 第48話 白い切符
机の上に置かれた白い紙。
将太はしばらく触れずに見つめていた。
――次の観測まで。
その下に。
**六日。**
意味は分からない。
だが。
偶然ではないことだけは分かっていた。
「三成。」
『何だ。』
「これは何だ。」
三成は紙を見る。
しばらく黙った。
『通知だ。』
「誰から。」
『分からぬ。』
将太はため息をつく。
「またか。」
『だが。』
三成は続ける。
『今までのものとは違う。』
「何が。」
『命令ではない。』
一拍。
『選択を残している。』
*
翌朝。
将太は紙を鞄の奥へしまった。
学校では何も起きなかった。
影も。
鏡も。
何も変わらない。
そのことが逆に不安だった。
*
放課後。
塾。
授業前。
悠真が将太の席へ来た。
「綾小路。」
「どうした。」
「昨日から。」
悠真は将太を見る。
「君の周囲の情報量が増えている。」
「情報量?」
「見えるものが増えている。」
悠真は淡々と言った。
「でも。」
一瞬、迷う。
「それ以上に。」
「見えないものが増えている。」
将太は黙った。
*
授業後。
非常階段。
天堂が待っていた。
「紙を持っているな。」
将太は驚く。
「見えるのか。」
「いや。」
天堂は首を振る。
「分かる。」
「何で。」
「昔、似た空気を感じた。」
将太は紙を取り出す。
天堂は触れずに見る。
「まだ白いな。」
「何が。」
「決まっていない。」
*
夜。
停止世界。
白い駅。
将太はホームに立つ。
三成が隣にいる。
遠くを見る。
今日は列車は来ない。
「来ないのか。」
『まだだ。』
「じゃあ何のために呼ばれた。」
三成は白い線路を見る。
『確認だ。』
「何を。」
『お前が来る意思を持つか。』
将太は眉をひそめる。
「俺が?」
『観測者とは。』
三成は静かに言った。
『見える者ではない。』
『見ることを選んだ者だ。』
*
その時。
ホームの向こう側。
誰もいない場所に声が響いた。
『綾小路将太。』
将太の身体が固まる。
三成の表情が変わった。
『返事をするな。』
声は続く。
『綾小路将太。』
呼ばれている。
自分の名前。
だが。
三成の言葉が頭に残る。
返事をするな。
将太は黙った。
*
しばらくして。
声は消えた。
三成が息を吐く。
『よく耐えた。』
「何だったんだ。」
『確認だ。』
「何の。」
三成は答えなかった。
『名を呼ばれて返事をする者は。』
一拍。
『観測する側ではなく、観測される側になる。』
将太は白い駅を見る。
静かなホーム。
誰もいない。
それなのに。
確実に何かが近づいている。
*
世界が戻る。
午前零時一分。
机の上に紙が置かれていた。
今度は文字が変わっている。
**候補。**
その下に。
小さく数字。
**三。**
将太は息を止めた。
「三人?」
三成は答えなかった。
ただ。
初めて。
少しだけ険しい顔をした。




