第45話 分類
# 第45話 王の警告
翌日。
将太は朝から何度も窓を見た。
教室の窓。
廊下のガラス。
校舎の鏡。
どこにも異常はない。
それなのに。
見られている感覚だけが残っていた。
*
放課後。
塾。
授業前の教室。
天堂はいつものように窓際に立っていた。
将太が席へ座ると。
「昨日。」
天堂が口を開く。
「何かあったな。」
将太は顔を上げる。
「何で分かる。」
「顔。」
「顔?」
「普通じゃない。」
将太は苦笑した。
「それだけで分かるのかよ。」
「分かる。」
天堂は即答する。
「人を見るのは得意だ。」
*
「鏡か。」
天堂の一言に、将太の手が止まる。
「……何で。」
「やっぱりか。」
天堂は窓の外を見る。
「昔、一度だけ見た。」
「何を。」
「同じようなものを。」
将太は黙った。
「その人は。」
天堂は少し間を置く。
「最初は影だった。」
「次に鏡。」
「最後に。」
言葉が止まる。
「最後に?」
「自分が自分なのか、分からなくなった。」
将太の背中に寒気が走る。
*
「その人はどうなった。」
天堂は答えなかった。
代わりに。
「お前はまだ違う。」
と言った。
「何が。」
「まだ、自分を疑ってない。」
将太は眉をひそめる。
「疑う?」
「鏡に映ったものを見て。」
一拍。
「本物はどちらだと思うようになる。」
*
三成が静かに口を開く。
『経験者か。』
天堂は三成を見る。
「やはりいたか。」
『知っていたのか。』
「存在だけ。」
天堂は将太を見る。
「だから警告している。」
「何を。」
「追うな。」
「近づくな。」
「確かめようとするな。」
将太は反論する。
「でも、向こうが見てくる。」
「分かってる。」
天堂の声が低くなる。
「だから怖い。」
*
その時。
悠真が問題集を閉じた。
「話は終わった?」
二人が振り返る。
「聞いてたのか。」
「全部ではない。」
悠真は淡々と言う。
「でも。」
将太を見る。
「綾小路の周囲で、条件が変化している。」
「条件?」
「今まで。」
悠真は指を一本立てる。
「見る側だった。」
「今は。」
もう一本、指を立てる。
「見られる側になっている。」
教室が静まる。
*
夜。
停止世界。
白い駅。
将太は三成へ聞いた。
「俺は、もう戻れないのか。」
三成はすぐには答えなかった。
『戻れる。』
「本当に?」
『ああ。』
『だが。』
三成は白い線路を見る。
『知ってしまった者は、知らなかった頃には戻れぬ。』
将太は黙った。
*
遠くで。
駅の時計が一度だけ鳴った。
白いホームの奥。
一瞬だけ。
誰かの影が見えた。
将太は目を細める。
「誰だ。」
三成が止める。
『見るな。』
しかし。
もう遅かった。
影はゆっくり手を上げていた。
一本の指。
一。
黒いコートの人物と同じ仕草。
将太は息を止める。
その瞬間。
影は消えた。
*
三成が低く呟く。
『数えている。』
「何を。」
三成は答えなかった。
『まだ早い。』
だが。
将太には分かった。
何かが。
近づいている。




