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憑いてる。  作者: 受験孔明
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44/82

第44話 一人目



# 第44話 映るもの


 翌朝。


 将太は起きてすぐ、鏡を見た。


 理由は分からない。


 ただ、確認したかった。


 鏡の中の自分。


 眠そうな顔。


 寝癖。


 いつもの自分。


 昨日の違和感は消えていた。


「……普通じゃん」


 安心したような。


 少し残念なような。


 自分でもよく分からない感情だった。


     *


 学校。


 朝のホームルーム。


 教師の声。


 黒板の文字。


 教室のざわめき。


 いつも通りの日常。


 将太は問題なく授業を受けていた。


 だが。


 窓ガラスへ映る自分を見る癖だけは、消えなかった。


     *


 休み時間。


 心陽が机の横へ来る。


「将太。」


「何?」


「最近、本当に変。」


「また?」


「うん。」


 心陽は少し首を傾げる。


「前は考え事してても、もっと普通だった。」


「普通って何だよ。」


「ちゃんと今ここにいる感じ。」


 将太は言葉に詰まる。


 心陽は笑った。


「今は、半分だけ別のところ見てる感じする。」


 その言葉に。


 将太の背筋が少し冷えた。


     *


 放課後。


 塾。


 授業前の教室。


 天堂が窓際に立っていた。


 将太が入ると、すぐに顔を上げる。


「綾小路。」


「何。」


「昨日から。」


 一瞬、言葉を選ぶ。


「何か変わったか。」


 将太は黙った。


「何で聞く。」


「見れば分かる。」


 天堂は将太の足元を見る。


「影じゃない。」


 将太の表情が変わる。


「じゃあ何だよ。」


「分からない。」


 天堂が珍しくそう答えた。


「でも。」


 視線を上げる。


「お前を見るものが増えた。」


     *


 その夜。


 停止世界。


 将太は白い教室に立っていた。


 三成もいる。


「天堂が言っていた。」


『何を。』


「俺を見るものが増えたって。」


 三成は黙った。


「否定しないんだな。」


『否定できぬ。』


「何なんだよ。」


 三成は床を見る。


『観測されるということは。』


 一拍。


『相手からも見えるということだ。』


 将太は眉をひそめる。


「俺が見てるだけじゃない?」


『ああ。』


『見る者は、同時に見られる。』


     *


 その時。


 教室の窓ガラスに影が映った。


 将太。


 三成。


 そして。


 もう一つ。


「……三成。」


『見るな。』


 将太は動きを止めた。


「でも。」


『今はまだ早い。』


 窓を見る。


 映っているのは三人。


 しかし。


 現実には二人しかいない。


 ガラスの中の三人目は。


 人の形をしているだけだった。


 顔はない。


 名前もない。


 ただ。


 こちら側を見ていた。


     *


 数秒後。


 窓ガラスの表面が揺れる。


 水面のように。


 将太は一歩下がった。


 三成が前へ出る。


『まだ越えるな。』


 誰に言ったのか。


 分からなかった。


 ガラスの向こうの何かへ。


 それとも。


 将太自身へ。


     *


 世界が戻る。


 自室。


 午前零時一分。


 将太は机の前で息を吐いた。


 窓を見る。


 普通の夜。


 普通の部屋。


 普通の自分。


 そう思った時。


 窓ガラスに映った自分が。


 一瞬だけ遅れて瞬きをした。


 将太は目を逸らさなかった。


 今度は。


 見間違いではない。


 確かに。


 見られていた。



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