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やすむのときめきVチューバー  作者: 江保場狂壱
第2章 やすむの恋心
22/23

第8話 夢の中へ

題名の夢の中へは井上陽水の曲です。

「かんぱーい!」


 乾杯の音が鳴り響いた。ここは都内にある居酒屋チェーン店、居酒屋玉兎いざかや ぎょくとだ。カウンター席に座敷のある店で、お笑い芸能事務所の蒼井企画の親会社、蒼井食品系列だ。

 座敷は広く10人ほど軽く入れる広さで、玄姫くろひめやすむが座っていた。

 座敷にはやすむを始め、五人の女性が座っていた。バニーレンジャーのメンバー、リーダーの小林早紀こばやし さき多田優おおた まさる雨奥日海夏あまおく ひみか立井友希たちい ゆき奥迫未夢おくさこ みゆだ。普段はバニーガールだが、今回は普段着である。

 早紀は黒いTシャツに白いデニムパンツを着ていた。優は赤いロゴTシャツにワイドパンツを着ている。

 日海夏は水色のワンピースで、友希は黄色いブラウスに黒いテーパードパンツ、未夢は白いカーディガンとロングスカートを履いていた。やすむはツインテールをピンクのヘアゴムで結ばれており、首元にはピンクのスパイク付きチョーカーと小さな鈴が輝き、胸元はハート形のピンクのブラトップで小さな花柄とレース、レオパード柄のフリルミニスカートに腰はピンクのベルトとチェーンが絡んでいた。足はピンクと白の太いボーダー柄のニーソックスを履いていた。典型的な黒ギャルファッションだが、やすむは男である。

 今回はやすむを祝うためだ。スタンドアップスピーチヒーローに出場するので、高校時代の先輩である未夢が企画したのである。

 テーブルにはブラックバスのから揚げでガーリック醤油マヨかけや、アメリカザリガニのガーリックバター焼き、ウシガエルのフロッグレッグの南蛮漬け、さらにアライグマとヌートリアの外来ジビエ鍋がぐつぐつ煮だっていた。他には枝豆やフライドポテト、サラダなどが並んでおり、全員生ビールを飲んでいた。

 居酒屋玉兎では焼き鳥や鶏のから揚げなど一般的なメニューの他に、外来種を使ったジビエ料理も提供していた。外来種は駆除業者と連携し、アレルギーや寄生虫表示をしている。エコ貢献で食べて駆除をコンセプトにしていた。外来種は淡白でくさみが出やすく、香辛料やタレ、揚げでカバーしていた。

 蒼井企画のタレントなら20パーセント引きされるので、こちらを利用していた。


「ふぅ、まさか出場できるとは思いませんでした」


 やすむは普通にしゃべっている。普段はギャルっぽくしゃべるが、知人の前だと普通にしゃべっていた。


「あなたの実力よ。もっと胸を張りなさいな」と早紀が労った。


「というかリーダーも出場したんだよね。13位だったけど」

「13位でもすごいですよ。だって1000人中ですからね」

「でも6位じゃないと決勝戦に残れないから意味ないけどね」

「そんなことないですよ。先週の特番ではリーダーを始め、スピーチヒーローの予選会が放送されましたからね」


 優、日海夏、友希、未夢が答えた。早紀はバニーレンジャーのリーダーとして予選に参加して13位に終わった、もっとも審査員長のシュガーとしおの推薦で彼の番組にレギュラー入りできたのだから、幸いと言えた。


「7位は香月透也こうづき とうや、8位はシンスクールカーストの花子、9位は歌ウ蟲ケラのゆいまーること平澤唯、10位は花菱奏はなびし かなでだからね。上には上があるよ」


 早紀はジビエ鍋をつつきながら生ビールを流し込む。ジビエ料理は通常のメニューより値段が高いが物珍しさから注文が多い。


「花菱奏か……。可愛くてはきはきした子だったよね」


 やすむがつぶやいた。


 今人気絶頂の動画配信者で、小学4年生で秋本美咲あきもと みさきさんのカバー曲をよく歌っている。135センチだが背筋をピンと伸ばしており、黒髪のボブカットでくりっとした大きな瞳が愛らしかった。それなのに演歌を歌うのがミスマッチだが、不思議と魅力的なのだ。

 こぶしはまだ弱いが歌唱力が高く、やすむも動画を見て思わずブックマークしたくらいだ。

 ちなみにエントリー料は動画配信で稼いだ金を使ったらしい。なんでも元政治家の孫だそうだ。奏は自分の家庭の事情を明かしつつ、美咲と演歌のすばらしさを力説していた。


「それはそうとやすむちゃんはこの間災難だったね。悪名高い名庭木なにわきプロデューサーに絡まれたんでしょ?」


 早紀が生ビールを飲み干してから言った。店員にお代わりを注文する。やすむはまだ一杯目で、ブラックバスのから揚げを食べていた。

 早紀の言葉にやすむは顔をしかめる。あれから3日過ぎていたが、嫌な気分はまだ晴れない。


「正確にはあいつのとばっちりを受けたんだけどね。あのプロデューサー、痴態をSNSで暴露されてクビになったのはいい気味だけどさ」


 あいつとは佐倉優希さくら ゆうきのことである。実際は名庭木は優希の父親であるシュガーとしおのに嫌われており、代わりに息子の優希を自分の番組に出演させ、汚名返上を目論んでいたが、強引な手段を動画撮影された挙句、拡散されたため、名庭木は失脚したのだった。


「でも康さんにとっては亡くなったお兄さんの仇を討ってくれたも同然ですね」


 未夢が生ビールを飲みながら言った。やすむは目を丸くする。康はやすむの兄で、未夢も面識があった。彼女は何を言っているんだ?


「ネットで書かれているよ。名庭木勇堂なにわき ゆうどうは康さんのお兄さんを自殺に追い込んだ同級生の父親だと。ついでに言えば大馬鹿太おおうま しかふとが息子なんですよ」


 未夢の説明にやすむは唖然となった。いったいどういうことだろうか。やすむはスマホで検索して調べてみた。


 岩佐康いわさ やすしの兄、西山法男にしやま のりおは6歳年上だった。彼は当時の総理大臣、西山清志にしやま きよしの息子として悪目立ちしていた。総理の息子をいじめるなど学校が許すわけがないが、大馬は陰で法男をいじめていたのである。なぜ法男は相談しなかったのか。当時は元総理で国会議員の祖父の葛男くずおの影響が大きかった。孫を時期総理にすべく両親を差し置いて厳しく躾けていたそうだ。お前は選ばれた人間なんだから他人に相談するな、他人に弱みを見せるなと押し付けていたのだ。そのため法男はいじめを両親に相談できず、首を吊ってしまったのである。

 それを名庭木がスキャンダルとして大々的に特集したのだ。西山家の家庭事情を暴露され、葛男は議員を辞職されてしまい、怒りのあまりくも膜下出血を起こしてこの世を去ったのだ。

 葛男は典型的な男尊女卑を愛する男で、孫娘が生まれた時に勝手に養女に出したそうだ。西山家に女など要らぬという理屈らしい。

 その後、清志は与野党から辞職するべきだと糾弾されたが、責任を取ると言って辞職しなかった。残された息子の康の教育に力を入れていたが、それを虐待扱いされてしまった。総理と教育を両立させた無茶がたたり、脳溢血を起こして寝たきりになったのである。

 清志は当時秘書であった岩佐花子いわさ はなこに康を託したという。


「大馬は母方の姓で、名庭木とは縁を切ったらしいね。それでもいじめをやめられず芸能界に入っても調子に乗りまくっていたみたい。でもシュガーとしおさんに叱られた挙句、父親もその息子に嵌められて自滅した。因果応報とはこのことね」


 早紀は二杯目の生ビールを飲んだ。やすむはなんとも言えない顔になる。兄の家庭をめちゃくちゃにした連中が不幸になるのはいい気分だ。


「おうおう! いい女たちだなぁ!! 酌をせい!!」


 酔っ払いが絡んできた。ゴリラのような容姿で日雇い労働者のようだ。酒を飲み周りの迷惑など考えず、げらげら笑っている。周りの客もそうだがスタッフも迷惑そうな表情を浮かべていた。


「えっへっへ!! 女ばかりでは寂しいだろ? だから俺様が可哀そうなお前らに潤いを与えようというわけだ、感謝しろよ!!」


 ゴリラは口から唾を飛ばしながら叫んでいる。店員は迷惑だからと注意するが、余計激怒するばかりだ。


「うるさいですよ。ここはあなたの家じゃないんですから、静かにしてください」


 日海夏が立ち上がった。一番清楚で修羅場に弱そうな彼女がゴリラの前に立ち向かったのだ。


「なんだ眼鏡!! お前みたいなブスに用はないんだよ!! そこの金髪女!! お前が一番エロそうだな、男を何人も食っているんだろ? 俺を相手にしろよ!!」


 ゴリラはやすむを指さして下品な言葉を投げかける。やすむの顔が蒼くなった。あからさまな悪意に慣れていないのだ。それを見た日海夏はやれやれと首を振る。


「まったく典型的なおバカさんですね。あなたみたいな人は病院に行った方がいいですよ」


 ゴリラにしてみれば日海夏は弱そうな存在だ。そんな彼女に罵られると安っぽいプライドを傷つけられ、頭に血が上る。ビール瓶を割り、割れたビール瓶を向けた。周りの客は騒然となるが、早紀たちは無視していた。やすむは怯えているが、なぜ早紀たちは慌てないのか理解できない。


「てめぇぇぇ!! ころひてやりゅうぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 ゴリラは正気を失っていた。視線はずれており、脳はドーパミンが分泌されて快楽に支配されていた。

 だが日海夏はゴリラの左膝を右足で蹴りを入れた。ゴリラはバランスを崩すと日海夏はゴリラの顎に掌打しょうだを食らわせる。その衝撃で脳が揺さぶられると、ゴリラの体は崩れた。日海夏はゴリラの顔の急所に拳を入れる。


「ぶえぇぇぇぇぇ!!」


 男女では体格に差があるが、急所は関係ない。ゴリラは急所に拳を叩き込まれ、悶絶した。

 ゴリラはあおむけで倒れる。泡を吹いて失神していた。

 日海夏はふぅと息を吹いて拳をおしぼりで拭く。


「警察を呼んでくださいな。あと救急車も」


 やすむは唖然となった。喧嘩と縁が遠そうな日海夏がゴリラを倒したのだから。


「日海夏って高校時代は不良だったんだよね。倒すのに苦労したよ」


 早紀は三杯目の生ビールを飲んでいた。まるで掃除をしたような感覚だ。日海夏はおほほと笑う。

 救急車と警察が来たが、ゴリラは目覚めていた。彼の目はキラキラと星が輝いており、すっかり乙女になっていた。


「わたくしお姉さまにお仕置きされちゃいました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 ゴリラはくねくね腰をくねらせており気持ち悪い。日海夏はニコニコしており、早紀たちは「いつものことだね」と気にも留めなかった。日海夏はこうした舎弟が多いらしい。

 ゴリラの本名は五里良ごり あきらだそうだ。彼は警察に訴えず、そのまま終えた。やすむはあまりの出来事に唖然となっていたが、まさかこの出来事が自分を救うことになるとは夢にも思わなかった。

 名庭木勇堂と大馬鹿太の関係は思い付きです。新キャラを作ってはあんまり絡ませることが多いので、今回はこんな形になりました。

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― 新着の感想 ―
ゴリラ(笑)でも、彼ってただのモブではなさそう感(笑) 面白い世界観が展開されております(#^.^#)
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