第5話 学生時代
題名の学生時代はペギー葉山さんの曲です。
「最近のあんたは輝いているわね」
ここは都内になるスイーツで有名な店だ。落ち着いたシンプルな店内に、若い女性が色とりどりのスイーツを前にスマホでぱちゃぱちゃ写真を撮っていた。
店の一番奥に、白髪頭の50代の女性と、金髪の黒ギャルに見える男の娘、玄姫やすむが対峙していた。テーブルにはやすむは虹色のパフェを、向かいの女性はコーヒーを飲んでいた。
白髪頭の女性は白いスーツを着ており、髪はギブソンタックにしていた。彼女の名前は北村りあ。見た目は50代だが、中身はやすむと同じ22歳だ。かつては烏丸りあという名前だが、結婚して今の姓になったのである。かつてはキツネ御殿の社長、木常崑崑の愛人で彼の死後、会社を畳むために苦労したらしく、すっかり顔にしわが刻まれ、黒髪はすっかり白くなったのである。
「どこがよ!! あーしは今不機嫌だっての!!」
「テレビでは引っ張りだこじゃない。CMの仕事も増えたでしょうが」
「それはあいつとおんぶでだっこでしょうが!! あーしひとりじゃねーし!!」
りあの言葉にやすむは不機嫌になっていた。最近のやすむはバラエティ番組に数多く出演していた。ただし佐倉優希と共演が条件となっていた。優希は大物芸能人、シュガーとしおの息子だ。舞台俳優として有名だがテレビに出演してなかったので、SNS以外では知られていなかった。
それがアビゲイルのごくらく天国に初出演して以来、出演依頼が殺到したが、やすむとの共演が条件となっていた。
優希は茶髪のロングで清楚な美女に見えるがれっきとした男である。その美しさに視聴者は魅了されたが、やすむに対する毒舌と、それに反応するやすむが非常に受けていた。CMでも二人はセットで、やすむが優希に絡む内容がほとんどだった。
ワイドショーでも優希とやすむの不仲を笑い飛ばしながら特集しており、週刊誌でも二人の過去を暴露した記事が人気だという。
もっとも表では不仲だが、裏となるとやすむに対して塩対応だが露骨な嫌悪感を出さなかった。他の出演者やスタッフには礼儀正しいし、やすむに対して裏で嫌がらせをしたことは一度もなかった。控室でも無言で椅子を差し出したり、お茶を出したりしたが口を利くことはない。聞かれたら答える程度であった。
「でも不思議よね。優希さんがあんなことを言うなんて」
「なに? あいつのこと知ってるわけ?」
「そりゃそうよ。私の夫の祖父はシュガーとしおさんの相棒、シュガーてるおさんなんだから」
りあの言葉を聞いてやすむは驚いた。りあは元歌手の北村克子の息子と結婚している。克子の義父はシュガーてるおこと、北村輝男といい、現在ではホテル北村グループの会長を務めていた。
かつてダブルシュガーという漫才コンビがいて、一世を風靡したことがあった。だが目立つのはとしおだけでてるおはパッとしなかった。事務所はてるおを邪魔者扱いし、コンビは無理やり解散されたのだ。
だが二人は仲良しで嫉妬などしてなかった。てるおは実家のホテルを継ぎ、演歌歌手、横川尚美の弟子である克子がてるおの息子と結婚した。尚美もそうだがとしおがよくホテルの泊まるので有名になり、ホテル北村は大きくなったのだ。
としおはてるおのホテルで誕生日パーティを開き、てるおはとしおの家で祝うなど交流は続いていた。
「私と優希さんは12歳からの付き合いだけどね。昔は地味だったのよ」
そう言ってりあはスマホを取り出すと、写真を見せた。きらぎやかな衣装を着る幼いりあの隣に無表情に立っている少年がいた。目が曇っており、女の子に見えなくもないが、影が薄いとやすむは思った。
「これはとしおさんの誕生日パーティに撮ったものね。もっともあの女は有名人以外一緒に撮るなとヒステリーを起こしやがったけどね……」
りあの顔が曇る。あの女とは母親のことだ。有名人と一緒に撮影するりあをアクセサリーと思っており、ママ友に自慢するのが趣味だったそうだ。
やすむは写真を指でクリックして、いろいろ見ていたが、どれも優希は地味でパッとしない存在だった。だが一気に華やかになったのだ。髪を奇麗に整え、化粧をして服装も女性らしくなった。柔らかい笑顔を浮かべて華が開いたように思えた。
「これは17歳の頃ね。まるでさなぎから蝶へ変貌したようになったからびっくりだわ。なんでも一人の男性に励まされて変わろうと思ったらしいわよ」
「それっておにぃのおかげ……?」
やすむの問いにりあはこくんと頷いた。りあはコーヒーを口にする。
「当時の優希さんはとしおさんの息子であることに悩んでいたわ。学生時代は誰も自分を見てくれない、自分のことなど相手にしないと思い込んでいたのよ。しかも性同一性障害を隠していたわね。でもとしおの息子がそれだとばれると父親の名に瑕がつくことを恐れていたのよ」
「うぅ、あーしとおんなじじゃん」
りあの話を聞いてやすむの顔が曇る。自分も性同一性障害を抱えているが、愛する兄、岩佐康のおかげで克服している。自分を兄に認めさせるのが目標になっていた。
康が優希に何を話をしたのか想像がつく。それで優希は康に恋をしたのだ。彼に苛立ちを覚えるのはこのためだ。同族嫌悪だからである。
「ところで向こうにお兄さんがいるわね」
りあがコーヒーを飲みながら、視線を向けた。そこにはパフェを食べる冴えない男、康がひとりでいたのだ。やすむはそれを見てため息をつく。
「おにぃは今日オフなんだよね。あーしもだけどさ。最近うちじゃ新しいビルを建てて、マネージャーやスタッフが三倍に増えたんだよね。それでおにぃも休みが増えたけど、全然休んでないし……」
康は昔から仕事の虫であった。キツネ御殿に勤めていた時も美咲のために活躍していた。ただ美咲を売り込むだけでなく、その利点を丁寧に説明し、根回しも欠かさなかった。
現在は休みなく美咲の事務所セイレーンのために働いている。だがあまりに仕事をしすぎなのでマネージャーを増やしたが、全く効果がなかった。さらに美咲たちのために防刃チョッキを購入したと自慢していたが、やすむも含めて呆れていた。
「最近はあーしに逆恨みする大馬鹿太ってやつのために、護衛しているし、ホント困るのよね」
「スタンドアップスピーチヒーローはシュガーとしおさんに顔を覚えてもらうチャンスだからね。エントリー料の二百万円は安いと言われているわ。それを問題を起こしたからつまみ出されるなんてね。二度と芸能界にいられないわね」
りあは呆れるように言った。シュガーとしおは滅多に怒らない人間で有名だ。怒るときは芸に関することで若いスタッフが粗相をしたくらいでは怒らないのである。
大馬はやすむの難癖をつけたため、としおの怒りを買ったのだ。芸能界では彼を採用することはない。としおの怒りを買わないためではなく、としおを尊敬しているためだ。
スピーチヒーローは帝都ドームで行われる。前売り券はすでにソールドアウトしたそうだ。巨大なハコに優勝賞金一億円という大企画は発案者の伊達賢治では無理だろうと言われていた。だがりあは自分が生んだ企画をシュガーとしおに任せることでより巨大に成長させたと思っている。りあは伊達賢治をよく見ていたが、あの男の得体の知れなさに恐怖し、近づきたくないと感じた。
「ところでりあは今どうなわけ? 仕事が忙しいって聞いてたけど」
「今は落ち着いているわ。今度政治家の西山清志復活記念パーティをやるのよ。長年の支援者たちが企画したものなの」
「そうなんだ。21年も寝ていた人に対してえらく義理堅いよね」
「ふぉぉぉぉぉぉぉ!!」
二人が話をしていると、店内に男が奇声を上げながら入ってきた。ボロボロのアフロにだらしなく太った体型の男だ。大馬鹿太である。右手にはぎらりとナイフが握られていた。
「みつけたぞぉぉぉぉ!! お前のせいで俺は事務所をくびになったんだぁぁぁ!! 死ねぇぇぇぇぇ!!」
そう言って手に持ったナイフを持ってやすむ目がけて突進してきた。あまりの気迫にやすむは身動きを取れずにいた。野生のクマが襲ってきたら身体が固まるような感じだ。りあが声をかけるがやすむは石像のように動けなくなる。
そこに康が駆けつけて身を挺して庇う。ナイフがずぶりと突き刺さった。
大馬はそれを見て驚き、ナイフを手放して一目散に逃げていった。店内は動物園の猿のように騒がしくなる。やすむは慌てて康に駆け寄った。
「おにぃ、大丈夫!!」
「大丈夫、だよ。防刃チョッキを着ていたからね……」
康はそう言って上着を脱ぐ。そこには防刃チョッキがあったが、突き刺さった部分から血が垂れていた。
「もしもし警察ですか? 場所は……、防刃チョッキを着用していますがナイフで刺されて血が出ているので救急車をお願いします」
りあは冷静に警察に連絡を入れていた。数分後、救急車が来て康を搬送されたが、命に別状はなかった。大馬は逃走中だがいまだに発見できていないという。
康は念には念をと入院することになった。
大馬鹿太は一回こっきりにしないで複数出すことにします。
私の悪い癖は新キャラをじゃんじゃん出すためで、中身が薄くなることです。




