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やすむのときめきVチューバー  作者: 江保場狂壱
第2章 やすむの恋心
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第4話 恋人もいないのに

 題名はシモンズの恋人もいないのにがモデルです。1971年の第13回日本レコード大賞で新人賞を受賞しました。

「「アビゲイルのごくらく天国、始まるよー!!」」


 七三分けでしょうゆ顔の男と、坊主頭でロイド眼鏡をかけた巨漢の男が叫ぶ。二人は漫才コンビ、アビゲイルの安倍登志夫あべ としお後藤繁ごとう しげるだ。アビゲイルのごくらく天国はテレビ帝都系列の豆類テレビで制作されている番組だ。深夜番組だが高視聴率でゴールデンタイムに移るのは時間の問題だと言われている。

 二人は青いタキシードに赤い蝶ネクタイという服装だ。セットも背後に番組のタイトル名が派手な彩色で大きく記されていた。さらに大きめのテレビジョンが飾られている。他にはゲスト用のパイプ椅子が設置してあった。


「今回のゲストは玄姫くろひめやすむさんでーす!! 今ネットで話題のバ美肉Vチューバーでーす!!」

 

 安部が叫ぶと、テレビジョンが点いた。やすむのアバターが公開されるが、実際のやすむの格好と同じだ。金髪のツインテールに日焼けした肌。肩をむき出しにした縦縞セーターに派手なネイルアートなど、ギャルファッションはまさにアバターから飛び出したような感じだ。


「いやいやバ美肉の意味わかってんのか!? バーチャルを美しい肉付けするって意味だよ? やすむさんは本人そのものじゃないの!!」


 それを後藤が突っ込みを入れた。観客席では笑い声が上がる。


「ちぇーす! 玄姫やすむだよーん!! 見た目はギャルだけど実は股間に象さんがいるよ!! 初めての人は驚いた後にお得だねと言われるね!!」

 やすむが立ち上がり、笑顔を振りまいてしゃべった。また観客席から笑い声が上がる。つかみはオッケーというところだ。


「そんでもって今回は特別ゲストがもうひとりお越しいただきました!! 佐倉優希さくら ゆうきさんです!!」


 安部の紹介にやすむはきょとんとなった。特別ゲストのことなど聞いていないからだ。カメラは唖然としたやすむの顔を映していた。


 そこに一人の女性が現れた。茶髪で腰まで伸びており、肩に乗っていた。優しそうな笑みを浮かべ、黒いパンツスーツに身にまとっていた。すらりとした長身で足もすらりと長かった。美女と言っても差し支えないだろう。


「初めまして、佐倉優希と申します。今日はよろしくお願いいたします」


 ハスキーな声で頭を下げて丁寧に挨拶した。パチパチと観客席から拍手の音がした。

 優希はやすむの隣に座る。一瞬顔を見合わせたが、冷たい視線を向けられたことに気づいた。

 なぜだろう? 私はこの人に嫌われることをした? やすむの頭にそんな疑問が上がった。


「佐倉さんは今回初のテレビ出演なんですよ!! なんでも彼のお父さんが無理やりねじこんだとか!!」


 後藤の言葉にやすむは立ち上がった。今彼と言ったのか?


「ちょ!! 今彼って言ったん!? こいつ男なわけ!!」

「そうですよ。あなたと同じです」


 興奮するやすむを尻目に優希は冷静に座ったまま、つぶやいた。どこか底冷えするような声であった。


「後藤さんの言葉に過ちがあります。お父さんは番組ディレクターに頭を下げて私の出演をお願いしました。でも父の影響力を考えればねじこんだと思われても仕方がありませんね」


 優希が冷静に説明した。後藤は頭を搔きすみませんと謝る。


「そりゃああなたのお父さんはシュガーとしおさんですからね。あの人に頭下げられたら心臓止まっちゃいますよ」


 安部が爆弾発言をした。シュガーとしおの息子? 父親に似ていないし津軽弁もしゃべっていないのに?

 そこで後藤がテレビジョンを指さした。そこにシュガーとしおと優希が一緒にいる写真が公開される。

 こちらの優希は髪を後ろに縛っており、Tシャツと短パンを履いていた。としおのほうは普段着である。


「こちらは劇団さくらの舞台裏で稽古中の写真です。佐倉さんは普段舞台で活躍なされているんですよね」


 後藤が説明した。


「はい。私はお父さんの影響で14歳から舞台に立っています。父曰く映画やドラマは真剣みが足りない。若い奴はすぐにNGを出して笑ってごまかす。舞台は誤魔化しが効かず全身全霊で演技しなくてはならないと。私は子供の頃から自信がなくいつも座敷犬のようにびくびくしていました。ちなみに父は家庭だけ標準語で話してますね、あと私は母親似なんですよ」


 優希は笑いながら説明した。その笑みは下手な女性よりも清純で聖母のような印象を受ける。


「隣にいる人みたいに失敗しても、へらへら笑う人と一緒にされるのは迷惑ですね」


 突然の毒舌発言にスタジオの空気が凍った。やすむは烈火の如く怒り出した。


「なっ、あーしがいつそんなことしたわけ!!」

「この間のゲーム実況で、クラシックのアクションゲームをプレイしていたでしょう? その際にアイテムの名前を間違えて、笑って誤魔化していたではないですか」


 優希に指摘されてやすむは固まった。確かにアイテムの名前を間違えていたが、それを指摘される筋合いはない。


「なっ、アイテムの名前を間違えたくらいで、鬼の首を取ったように勝ち誇るのは辞めてよね!!」

「あなたは配信でアイテムの名前を把握せず、でたらめばかり言ってリスナーを激怒させたことがありましたよね? プレイするゲームを調べもせず、ゲーマーを激怒させるのが芸なのですか? でしたら下の下としか言えませんね」


 優希に小馬鹿にされたとやすむの怒りは頂点に達した。優希の胸ぐらをつかみ、激怒するがアビゲイルの二人が慌てて止める。観客席も騒然としており、進行は一旦止められた。


 ☆


「なによあいつ!! 人のことを馬鹿にして!!」


 控室でやすむはパイプ椅子に座りながら激怒していた。あれほど自分を馬鹿にされたのは初めてだった。しかも初対面の人間に言われたことが余計に腹立たせていた。番組は一応普通に収録されたが、やすむがスタンドアップスピーチヒーローに出場することに終始しており、優希の場合は17歳までぱっとしなかったとか、次回の舞台の話をしたが、二人が絡みそうになるとアビゲイルが話を逸らす形になったのだ。

 後日、この番組は高視聴率を記録した。幻の舞台俳優、佐倉優希がバラエティー番組に出演した初めての快挙だからだ。


「そうだね。彼女があんなことをいうなんて驚きだよ」


 マネージャーの岩佐康いわさ やすしが腕を組みながら疑問を口にした。ちなみに優希とは控室は別にしてあるのでここにはいない。


「はぁ!? なんであいつを彼女っていうわけ!! それにおにぃはあいつのこと何で知ってるの!!」

「いや、事前に打ち合わせをしていたから……」

「なんでそれをあーしに言わないわけ!!」


 康がしどろもどろになると、やすむはいきり立った。コンコンとノックの音がした。康はどうぞと入室を促した。入ってきたのは優希だった。


「失礼します」

「なっ、なんであんたが来たわけ!? あーしに謝罪しに来たの!!」

「いいえ、岩佐マネージャーに謝罪に来ました」


 そう言って優希は康の前に立ち、頭を下げた。


「申し訳ありません。やすむさんのことが気に食わないので口論になってしまいました」

「いや、僕じゃなくやすむに謝ってほしいんだけど……。昔と比べてずいぶん変わったね」

「あら、私のことを覚えていてくれたんですか? 嬉しいです!!」


 康が言うと、優希は子供のように喜んだ。やすむと対応が180度違う。


「5年前は控えめだったけど、あの後の舞台で生まれ変わったね。演出とか配役とか君が考えて配置したと聞いた時は驚いたよ」

「あの時は勢いで行動してましたね。でもあれ一回きりですよ。舞台に関してはね。今回はお父さんにお願いして出演させてもらったんです!!」


 そう言って優希は康の両手を取り、ぐいっと顔を近付けた。まるで恋人のように距離を詰めている。やすむはそれを見ると嫉妬にかられ、二人を引きはがした。


「はいはい!! 離れて離れて!! うちのマネージャーはお触り厳禁です!!」

「あら、そんな決まり、今作ったんでしょう? そんなわがままを言って岩佐さんを困らせるのは本末転倒ではありませんか?」

「なんですって~~~!!」


 やすむが興奮すると優希は火に油を注ぐような発言を繰り出した。康は慌てて二人を引き離す。


「二人とも落ち着いて!! 優希さん、今日はおかしいよ!! 君はそんなことをいう人間じゃないはずだ!!」

「もちろんです。やすむさん以外言いませんよ」


 それはやすむだけなら言うという意味だ。康はそれを聞いてやれやれと頭を抱えた。


「私は自分の行為が一番と思っていません。ですがやすむさんのように真剣みのない人は嫌いです。恋人もいないのにね。そんな人のマネージャーをやめて、私の専属マネージャーになってくれませんか?」

「何おにぃを引き抜こうとしてんのよ!! うちはおにぃしかいないんだから無理でーす!!」


 やすむがべろべろと舌を出して挑発するが、優希はせせら笑っていた。


「もうじきあなたの事務所ではマネージャーを3人雇用する予定じゃありませんか。岩佐さんが抜けても問題ないようにとね」


 それを聞いてやすむだけでなく、康も顔を曇らせた。優希はなんでそれを知っているのか。


「あっ、もう時間ですね。岩佐さんまた会いましょう」


 そう言って優希は部屋を出ていった。やすむはその後姿を見送った後、感情を爆発させた。


「ふざけんじゃねーっての!! おにぃは誰にも渡さねーし、もうあんたなんかと会いたくないっての!!」


 やすむは地団太を踏んだ。ここまで感情を爆発させたのは初めてだと思った。

 しかしやすむは優希と再会することとなる。この番組をきっかけに優希のバラエティ番組の出演依頼が殺到したのだが、やすむと共演させることが条件と出された。やすむの所属事務所、セイレーンは悪名高い秋本美咲あきもと みさきが社長を務めており、業界では敬遠されていた。

 だがシュガーとしおの息子である優希の出演条件としては安いと判断され、やすむは美咲を差し置いてバラエティ番組の露出が増えることに、本人は知らずにいた。

 佐倉優希のモデルは藤岡弘、さんの息子、藤岡真威人さんです。

 名前は声優の榊原優希さんですね。

 すでにスタンドアップスピーチヒーローは終了していますが、審査結果がひと月以上なので結果に関しては触れません。

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― 新着の感想 ―
やすむさんの人間味っていうのかな。そういうのが良く感じられる回でしたね。 優希の存在感は毒めいたものに感じらなくもないけど、その毒があるからこそ輝ける皮肉っていうものもある。読者としてはやすむさんの…
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