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第二十四話 探偵が残した傷

 宝剣祭もいよいよ終盤に近付いてきた。晩餐会場では締めに向けて料理が運び込まれている。

 カルマとベラミーはホームズに言われた通り食事にはあまり手をつけていない。バイキング形式なので誰かが食べたものを口に運ぶようにしている。

 第一、バイキング形式の食事に毒を盛れば、無差別殺人になってしまう。犯人もそんなことはしないだろう。


「怪しい人はいた? こっちは城でここ三年で働くようになった新人の情報を集めたけど、不審な背景を持つ人はいなかったわ」

「こっちも晩餐に参加した人について調べたが、去年とほぼ同じ顔ぶればっかりだ。怪しい人はいない」

「うまく隠しているのかそれともここにいないのか。早くしないと儀式が始まるわよ」


 儀式までもう三十分もない。ムサシの辻斬り事件や将軍家暗殺未遂事件、そして口封じに容疑者を殺す手腕。

 もしホームズのいう毒殺が失敗すれば、スカーズはまた別の策を使うだろう。


「そういえばホームズ遅いわね。あの子のことだから、一番犯人がいる可能性があるここに来ると思うんだけど」

「確かに……」


 ムサシでもトモエが狙われたとき、ホームズは自ら危険を冒して彼女を守ろうとした。そんな彼女がここにいないのがカルマには不自然に感じた。

 まだ犯人を決定づける証拠が集まっていないのか、それとも犯人を見つけてもう事件が終わったのか。これらはあくまで希望的観測だが、逆にスカーズに襲われた可能性だって考えられる。

 最後に彼女と別れたときのことを思い出していると。


「そういえば俺たちと別行動をとる前にレグルスが来てたな。部屋からすぐ出てこなかったし、何か話してたのかもしれない」

「じゃあホームズの行き先を知ってるかもしれないわね。聞いてみましょう」


 二人は周囲を見渡す。レグルスはハロイドの大図書館の館長であるため、ベラミーはもちろんカルマにとっても顔なじみだった。

 やはり彼も会場にいて、先ほどと違い紺色のスーツを着てカルマの家臣と話をしている。カルマたちに気づいた彼は話を終えてて二人の方に体を向ける。


「レグルス、ホームズがどこにいったか知らない?」

「いえ、何も知りませんが……」

「じゃあ聞き方を変えるわ。ゼロ、ホームズがどこに行ったか教えなさい。偽ることも隠すことも許しません」

「はぁー……。ここであまりその名で呼ばないでください。一階の警備につかせています」


 レグルスの裏を顔を知る人は少ない。さっきまでの穏やかな雰囲気は霧散し、恐れを抱かせる目つきでゼロは二人をにらむ。

 今すぐ合流しようとしたベラミーの手をカルマがつかんで止める。しかしその顔はゼロの方を向いていて警戒しているようだった。


「ホームズと別れてからおよそ三十分。あんたその間何してた?」

「何を言うかと思えば。ムサシの次期将軍が探偵の真似事か。そのとき俺は城内の警備をしていた」

「警備? 大図書館館長のあんたがなんで警備なんてするんだよ。ずっと気になってたんだが、あんたホームズとどんな関係だ?」


 警戒心をむき出しにして問いかけるカルマ。どう答えるべきかとゼロが迷っていると。


「その者はアカメの指揮官、つまりホームズの上司だ。納得いただけたかな?」


 背後から声がしてカルマは振り返る。

 そこにいたのは青いマントをはおった白髪の男性だ。ベラミーと同じ金色の瞳をもち、頭には王冠をかぶっている。


「ロンド王。ってあいつの上司⁉」


 彼こそハロイドの国王であり、ベラミーの父親である男だ。

 大声を出して驚いたせいで、カルマは周囲から注目をあびてしまう。ロンドは口元に人差し指をあてて静かにするようにサインを出すがもう手遅れだろう。

 幸い名前を出していないので勘づく人はいないはずだ。

 だがここにいるかもしれないスカーズに不審に思われる可能性があるため、カルマは慌てて口を閉じる。


「一階にいるなら大丈夫かしら。ていうか私にぐらい配置を教えなさいよ。それで犯人の目星はついてるの?」


 ベラミーの問いにゼロは首を横に振る。

 彼ですら見つけられないなら、敵はもう策が失敗すると判断し撤退した可能性がある。

 もしくはレグルスのように裏の顔を持ち、それを隠してこの会場に紛れ込んでいるのか。

 すると会場の扉が開き、台車を押した給仕が現れる。そこにはカルマたちが選んだ酒が入った木箱が積まれていた。

 時計を見れば儀式が始まる十分前だ。犯人の目星がついていないのに、あれには毒が入っているかもわからない。

 飲まなければいいだけかもしれないがそれでは犯人に次の策を打たれるだけだ。


「陛下、ホームズの話ではあれに毒が入っている可能性が高いようです。先に毒物検査をして儀式を行うべきです」

「そうだな。カルマ殿もそれでよろしいですな」


 今この会場内にムサシの将軍ヨシツネはいない。重傷を負いまだ意識がないからだ。

 そのためムサシで今一番力を持ち、決定権を持つのはカルマだ。

 断る理由もないのでカルマはうなずく。

 それからすぐ毒物検査が別室で始まった。

 確認するのはカルマとベラミー、彼女の父ロンド、三人の護衛であるミツヒデとゼロだ。

 城内に忍ばせていたアカメに検査キッドを借りて、手袋をしたゼロがワインを採取する。

 カルマたちはもしもに備えて服が汚れないよう袖をめくっている。

 しかし一番汚れる危険があるゼロは上着を脱ぐどころか袖すらめくらず、ピペットで試薬を取ろうとする。

 するとベラミーが「あっ!」と声をあげたので、ゼロは検査を止めて彼女の方を見る。


「袖めくるの忘れてるわよ。シミになったら大変、それ高いんでしょ?」

「お気遣いありがとうございます。でももう慣れた操作なので大丈夫です」


 事実、ゼロの実験操作に迷いはない。

 試薬を加えて酒の色が変わったり、紙の色が変わる光景をカルマたちは興味深そうに見る。


「レグルス殿はそんな検査もできるのですな。さすが大図書館の館長です!」

「知識があれば誰でもできます。ふむ、毒はないようです。一応舌で確認を……」


 ピペットでワインを少量吸い上げそれをコップに入れる。

 色は赤色で果実の匂いがわずかに周囲にただよう。


「果実酒か。何を選んだんだ?」

「イチゴよ。あんた甘党だし甘めな奴を選んであげたから心配せず飲みなさい」

「では遠慮なく」


 皆がコップにわずかにある酒を注視している状況で、ゼロは迷わずそれを飲む。

 もし検査が間違っていれば大変なことになるのにその度胸にカルマたちは驚く。


「イチゴの甘酸っぱさが舌に残り跡をひく。匂いもさわやかでどんな場所で育ったのか想像しやすいです」

「毒はないの?」

「入っていれば口に含んだ時点で異常が起きているはずです」

「毒がないなら安心ね。えーと蓋は……」

「こちらです。風味が逃げぬ間に早く蓋を」


 ミツヒデからコルクを受け取りゼロはワインに蓋をする。

 一応カルマが選んだ方も調べたがそちらも異常はなかった。


 そして中断された晩餐は再開され、クロイアの領主レオンにより酒が注がれる。そこでカルマは何かに気づいたようにレオンの手を突然掴む。

 レオンは戸惑ったようにカルマの方を見る。


「どうかされましたか?」

「そういうことか。なぁレグルス、もう一度毒物検査をできるか?」

「毒物が入ってないことは先ほど確認しました。開封の時にもレオン殿は不審な行動をしていません。いつ毒を仕込むことができるのですか?」

「毒物検査のときだよ。あそこならボトルに毒を塗ることができる。一番触っていたのはあんただ」

「私が犯人だと疑っているんですね。ばかばかしい」


 周囲の来賓たちはカルマたちが言ったことに驚く。この神聖な儀式で毒物検査などと言われて驚かない方が無理な話だ。

 カルマににらまれたレグルスはあきれたように首を横に振る。


「ずっと気になってたんだ。あんたはなんで毒物検査のとき袖をめくらなかったのかなって」

「それは慣れているからでしょ。実際素人目に見ても迷いなく操作をしていたし」


 ベラミーはカルマの行動に戸惑いを浮かべながら問いかける。

 カルマは彼女の疑問に答えずグラスにワインを注ぐ。グラスを揺らし見た目はおいしそうだ。


「でも妙だと思わないか? レグルスの着ている上着は紺色で汚れが万一つけばかなり目立つものだ。それなのに上着すら脱ごうとすらしなかった」


 ベラミーが選んだ酒は深い赤色のワインだ。もし服につけばシミになるのは確実だ。それなのにレグルスはしっかり服を着た状態で検査をしていた。

 操作に自信があっても上着ぐらいは脱ぐのが普通だろう。


「何かを隠したかったからじゃないのか? レグルス、袖をめくってみせてくれよ。そこにあんたが隠したかった何かがあるはずだ」


 カルマに言われてレグルスは両腕の袖をめくる。

 左腕は普通だったが右腕には包帯が巻かれていた。食糧庫ではしてなかった包帯であるため、ついさっきケガをしたと考えられる。

 カルマはレグルスの右腕を掴んで包帯を解く。そこにはひっかき傷があり、これを隠したかったのだろう。


「この引っかき傷から察するにかなり小さい手だ。しかも両手で抵抗しようと傷つけたようだが右手の傷は浅い。手袋でもしてたんだろうな」


 片手だけ手袋をするのは不自然だ。しかしカルマは右手だけ手袋をしている少女を知っている。

 鋭い目つきでカルマはレグルスをにらみ、彼の腕をつかむ力を強める。


「ホームズはどうした!」

「……答えられない」

「貴様ぁ!」


 犯行を否定せず、ホームズについて答えられないということは彼女に何が起きたのか知っているということだ。

 激情のままカルマは刀を抜きそうになる。


「そこまでだ!」


 だがその前にいないはずの少女の声が響いた。


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