第二十三話 眠りに落ちる
無事に城に入れたホームズ。彼女はなによりも最初に調べたいことがあった。
「食糧庫ってどこにあるかわかる?」
「それならこっちよ。でもなんで食糧庫? 犯人を捜すんじゃないの?」
「これだけ警備が厳重で正面から殺しに行くバカなんていないだろう。やるなら毒殺だ。怪しいものがないか探す。二人ともあまりものを食べないようにね」
未来を知っているからなどと馬鹿正直に言えるわけがない。それらしい理由をつけて、カルマあるいはベラミーの毒殺を防ぐ。
ホームズの言うことならと納得した二人と一緒に食糧庫へ向かう。
食糧庫は大キッチンの横にあり、人も大勢行き交い不審な行動はとれそうにない雰囲気だ。
扉には魔術による鍵がかけられ、術式が刻まれたカードがないと開かないよう設計されている。
「そこのきみ、この中を見たいんだけどここを開けてくれないか?」
ホームズは金時計を見せながら、たまたま近くを通ったコックに声をかける。金時計に一瞬驚いた彼は言われた通りに扉を開ける。
中は様々な食糧が用意され、食べ物が痛まないように冷却の魔術が各所に施されている。
「ここに入れるのってきみたちコックだけ?」
「我々コックと搬入業者、それとフロア長と領主様だけです」
「ふーん、ていうか俺が選んだ酒はどこにあるんだ? ここにはないようだが」
「カルマ様⁉ し、失礼しました。お酒でしたら隣の部屋にあります。ベラミー様のものも一緒に保管されています。確認しますか?」
「うん。お願いするよ」
まさかカルマがいるとは思わず給仕は驚く。だがすぐに落ち着きを取り戻し、門番がいる隣の部屋にホームズたちを案内する。こちらは常温でものを保存しているようだ。
ホームズは机におかれている木箱に気づく。それには名札がありカルマとベラミーの名があった。おそらくこれが儀式に向けて二人が選んだ酒だろう。
「これって最後にいつ開封したの? あとどこでいつ買ったとかも教えてくれ」
「一週間前に買ってから一度も開封してないぞ。城下一番の酒屋大善で買ったんだ。製造はたしか無限って店だ」
「私も開封はしてないわ。購入は二週間前にグラウスってお店よ。製造もしているお店よ」
「あー、あそこか。全部高価すぎて行ったことないけど……」
ハロイドに住んでいるホームズは、ベラミーが話した店を知っているようだ。アカメに所属するホームズでもなかなか手が出せないものがそろっている店だ。
二人の話を聞きながらホームズは木箱を調べる。誰にも開けられないように鍵がかかっているようだが肝心のカギ穴がない変わった作りだ。
「これは指紋式か。一応中の確認をしたいんだけどいい?」
指紋式とはムサシが開発した魔術の一種だ。魔術で指紋を登録認識して、それで鍵の開け閉めをするものだ。普通のカギとは異なりセキュリティ性能も高く、重要なものをしまうのによく使われるものだ。
カルマたちはホームズに言われた通りカギに親指をあてて鍵を開けた。
木箱の中には破損防止の衝撃吸収材とボトルが入っている。
「見た感じ開けられた感じはなさそうだ。そっちは?」
「こっちも大丈夫そう。ラベルにある買った日付も一致してるし」
光に照らして中を透けさせてみても不審なものはない。誰が何をいつ買うなど予想することなどできないので、事前に毒を入れておくことも不可能だろう。
残る選択肢は儀式の直前に毒を入れることだが。
「これっていつ注ぐの? 毒見とかは?」
「儀式の直前よ。毒見は今までしたって話は聞いたことないわね」
「この儀式は両国の信頼で成り立っているからな」
儀式の直前なら大勢の目がある。その視線をかいくぐり毒を入れるなど不可能だろう。
グラスに毒を塗るという方法も考えられるが、ホームズは前の時間軸でカルマが飲んだものと同じものを飲んで死んだ。そのため液体に毒が含まれているのは確実だ。
もしグラスだけに毒が塗ってあるなら、そのワインを飲んで死ぬことはないはずだ。
前の時間軸では犯人はこの警戒網を抜けて毒を入れたようだ。
「侵入経路は換気用のダクトのみ。でも人が通れる大きさじゃない。残る経路は扉だけだけど、門番がいるし鍵を開けるカードも必要。すり替えるなんて無理じゃないか?」
カルマが周囲を見渡しながら話す。ホームズも彼と同意見なのかうなずく。
「ここにいましたか姫様。そろそろ儀式の準備の時間です」
すると後ろから声がしてホームズたちは振り返った。
そこにいたのは探しても見つからなかったゼロだ。一見ベラミーを探しに来たような雰囲気だ。
「僕のほうで捜査を進めておくから二人は行ってくれ。でも出された食べ物には口をつけないようにね」
「一人で大丈夫か?」
「うん、大丈夫だから心配しないで。だって僕は名探偵だからね」
カルマたちに余計な心配をかけぬよう、ホームズは胸を張ってこたえる。
しかしベラミーは心配なようで、おろおろと迷っている。そんな彼女の肩にカルマが手を置く。
「俺たちは俺たちにできることをしよう。ホームズ、無茶をするなよ」
ホームズのことをカルマは信じきっているようだ。助手として自分なりに捜査しようとするカルマに、ホームズは嬉しそうにうなずく。
二人の信頼を見せつけられたベラミーは嫉妬でもしたのかかわいらしく頬を膨らませる。
「私だってやってやる。期待しててねホームズ!」
カルマにライバル心を燃やしながらベラミーは部屋を出ていく。
そのあとをカルマが慌ててついていき部屋の中はホームズとゼロだけになる。
「ベラミー様に脅迫状が来たらしいな。陛下から聞いた」
「知ってたんですね。おそらく敵はもう城に入り込んでいます。カルマたちには忠告しましたが、毒殺ができないとなると別の手段を使ってくる可能性があります」
「ふむ、実力行使もありえるというわけか。ホームズ、お前は城周辺で不審なものがないかを探せ、何人か部下も派遣する」
「敵はもう内部に入り込んでいます。外よりも内部の警備を強化すべきだと僕は思います」
ベラミーの部屋に脅迫状があったり、カルマに毒を盛れる時点で敵はもう奥深くに侵入している。
ホームズの言う通り、外よりも中の警備を上げるべきだが。
「お前の話では城下にもスカーズがいるらしいな。暴動が起きれば奴らが城に入り込んでくる可能性がある。その侵入経路を念のため探りつぶしておけ」
前の時間軸で白面はカルマが振るっていた宝刀ムサシを振るっていた。
城内にはゼロや他の兵士もいたはずだ。それらをかいくぐり刀を強奪する手段は、内部に味方を大量に配置するか、混乱に乗じて味方を引き入れたのだろう。
そして城内に混乱を起こして刀を奪ったと考えれる。
「お前のいう未来の一つが起きれば俺も生きているかわからん。もしもが起きたときに備えて不安はつぶしておきたい。頼めるか?」
「わかりました。カルマたちのことよろしくお願いします」
そう言ってホームズは部屋を出る。
城の構造は幼少のころから宝剣祭に来ているため知っている。外壁付近もアカメに入ってから何度か仕事で警備をしたことがあるため問題ない。
ホームズは城の北側に向かう。そこにも城内を警戒する兵士がいたが、ホームズは壁に沿いながら周囲を見渡す。
「やっぱりここかな」
この城は東西に門があり、北と南は壁が立っている。北側の壁の外は崖があり、南は自然にできた湖がある。侵入するなら南北のどちらかだろう。
魔人なら崖を駆け上がり壁を越えて城に入ることができる。湖も船などど使えば越えれる。
そして暗殺が成功したと部下たちに知らせる手段が何かあるはずだ。または侵入を手助けするものが。
それがなければいつ侵入していいかわからない。
ホームズは草木をかきわけ壁の方に近付き、怪しいものがないかを調べる。
「んむっ!」
それらを探していると、突然ホームズは後ろからハンカチを当てられる。麻酔成分を含んでいるのか甘い匂いがしてホームズの意識は遠のいていく。
意識が飲まれる瞬間に思い浮かべたのはカルマとベラミーの姿だ。せめて何か手がかりを残そうとしてホームズは襲撃者の服の右腕を掴む。
だが抵抗する力はなくホームズは意識を失った。




