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 人魚の娘に与えられた部屋の扉をノックもなく開けて、フェリシアは抑えきれない興奮もそのままに部屋へと飛び込んだ。


『タイシに好きって伝えたわよ!』


『へー』


 腰に手を当てて胸を張るフェリシアにも友人達は興味が薄い。


 年上でおっとりなローニアだけが、にこやかに拍手でフェリシアを出迎えた。


『おめでとう、フェル。それで、タイシはどんな愛の言葉をあなたに囁いてくれたのかしら?』


『あ。それは気になる。あのボケッとした王子様でも流石に恋人には気の利いたことくらい言えるでしょ』


『もう。ディアったら言い過ぎ。ボケッとはしてなかったわよ。ちょっと……唐変木って感じ?』


『そっちのが悪くない?』


 いつもならこの辺りでフェリシアが頬を膨らませて抗議してくるが、何故だかフェリシアの声が聞こえてこない。


 おや? と思った三人の視線は一斉にフェリシアへと向かったが、フェリシアはポカンと口を開けて固まっていたのだった。


『……お返事、聞いてこなかったわ』


『…………馬鹿なの?』


 ディアの酷いツッコミを否定できる者はいない。


 フェリシアは狼狽え、窓の外のタイシが戻った先を見て、拳を握った。


『……今から会いに行って、聞いてくる』


『明日で良くない? 夜に殿方のお部屋には出向かないようにって魔王様も仰ってたわよ?』


『だって、き、気になるもの』


『タイシの愛の言葉が?』


『………………』


 真っ赤になって唇を尖らせるフェリシアに三人は呆れて首を振った。


『……早く帰ってくるのよ』


『うん! 行ってきます!』


 まるで戦いに赴くかのようにフェリシアは両拳を握って廊下へと身を翻す。


 お馬鹿のいなくなった部屋で三人は互いに目を見合わせて。


 ──あの王子様なら間違いなく泊りはないわね。


 などと失礼なことを考えていた。







 目的地へと向けて、フェリシアは早足に廊下を進んでいた。

 フレーディアの言葉が頭の中で何度も反響しているかのように繰り返されている。


 ──タイシの愛の言葉が?


「〜〜〜っ!!」


 口から漏れそうな歓声を堪えて、代わりに首をブンブン振った。

 

 窓に映る自分の頰は鱗のように真っ赤だ。


 手のひらで触れると、焼けるように熱い。今、人魚の姿になって海で泳げばどれほど心地良いだろう。


 でも今は海よりもタイシの元に行きたい。


 先ほどのタイシと同じ赤い頰がなんだか可笑しくなって、くふふと笑いが漏れる。


 早く会いに行こう。きっと、タイシはびっくりして、真っ赤になって、お部屋に入れてくれるはずだ。……いや、あれこれと言いつつ部屋には入れてくれないかもしれない。魔王様曰く、『夜に女性を部屋に誘う男に碌な者はいない』らしいから、碌な者じゃないタイシはフェリシアを部屋に入れないかもしれない。

 

 ──それでも良いわ。やっといつでも会いに行けるようになったんだもの。


 ほとんど跳ねるように廊下を進んでいたフェリシアは、ふと足を止めた。


 大きな桜色の瞳がパチクリと瞬く。


 そのまま顔ごと窓の外へと向けて、首を捻った。


「何してるんだろう?」


 意識せず独り言を呟きつつ、好奇心旺盛な人魚は窓を開けてひょいと身軽に枠を乗り越え、庭へと躍り出ていた。

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