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「──だからね、硬貨には種類があって……」


「でも……あれが一番綺麗だったのよ?」


「それはそうなんだけどね、その、物には価値ってものが……」


 帰りの馬車の中ではキースの即席お勉強会が開かれたが、フェリシアは綺麗なのを渡して何がいけないの? と不思議そうに目を瞬いている。


 あの後、立ち直ったキースが目にしたのは跪いて頭を下げる店主と給仕にフェリシアが慌てつつ具合でも悪くしたのかと素っ頓狂な返しをしている場面だった。


 ──目を離したのはたった数秒だったはずなのに……!?


 三人の会話で(正確には店主と給仕の会話で)わずかな時間に起きた騒動の内容を正確に把握したキースが「ここにいる皆さんのお食事を彼女がご馳走します!!」と叫び、お祭り騒ぎになる店からフェリシアを引きずって逃げ出し、今に至る。


「こんなので、どうしたら半年もご飯が食べられるの?」


 フェリシアは小袋の中からまたも金貨を取り出して、空に浮かぶ月の光を反射して輝く硬貨を眺めて首を捻る。


「さっき教えたお釣りが関係してるんだよ。それ一つでこの銀貨百枚と同じ価値なんだ」


 そしてさっきの食事は二人で銀貨一枚あれば足りる物だった。


「ひゃくまい……」


 ポカンと口を開けたまま固まったフェリシアに、さらにこの下には銅貨、錫貨が続くと伝えるが、小袋には銀貨と数枚の金貨しか入っていなくてピンときていないらしい。


「ねぇ、タイシ。もっとこれのことを教えてくれない? サラから教わってないのよ」


 使い方は習ったんだけど……とフェリシアは居た堪れなさそうに目を伏せた。


「もちろんいいよ。フェリシア嬢ならすぐに覚えられるよ」


 行く先々であのような騒動を起こしていては、お小遣いがあっという間になくなってしまいそうだし……。


 などという本音を隠して頷くと、落ち込むフェリシアにすぐ笑顔が戻る。


「ありがとう! 意地悪だけど、やっぱりタイシは優しいわ。一緒にお出かけもとっても楽しかった。ねぇ、タイシ。わたし、タイシが大好きよ」


「だっ……!?」


 顔中に熱が上り、一瞬で全身が焼かれたようだった。


 以前に魔王様の庭でも好きだと言われたことがあったが、その時はまだキースは魔族語を理解していなかった。


 面と向かって言われたのは、初めてだ。


 ──こ、こんな時は……どっどうすればいいの!?


 ライルの言う通り、女性とのお付き合いというものを多少なりとも経験していればこんな時に上手い返しができたのだろうかと妙な後悔に思考が焦る。


 空気に溺れる魚のような有様で固まるキースと金銀の硬貨を持ち遊びながら嬉しそうに微笑むフェリシアを乗せた馬車は、ゆるゆると城への道を進んでいった。






「僕も、好きだよ。………………なんて、顔を見ながら言えるわけないよ……」


 城にたどり着き、フェリシアと別れ、自室で着替えを済ませ。


 現在、キースはベッドに突っ伏して悶えていた。


 ああ、冷たいベッドが火照る顔に心地良い……。


 現実逃避だった。


 ──大好きって……そう言う意味、だよね……?


 いやでも相手はフェリシアだ。


 こんにちは代わりに大好きと言ってもおかしくない人ではある。


 でも、もし。そう言う意味だったら……?


 あのフェリシア嬢が、僕を、好き?


 魔王様からの婚約の申し入れがあったときも、兄や姉から妙な揶揄いをされたときも。


 フェリシアが自分を好きなど有り得ないと思っていたから断れた。そんな気持ちもない彼女を無理矢理後ろ盾もない王子の伴侶にするのは可哀想だ、と。


 でも本当に、フェリシアが僕を好きだったら。好きで、妻になってくれるって言うなら……。


 リディアは婚約が本決定になるまでに解消出来るならして欲しいようだった。


 陛下から勧められた婚約でも、陛下は僕が嫌なら断ってもいいと仰っておられたし。


 陛下にお願いして王子の地位をお返しすればフェリシアに集まる人の目も減るだろうし、今ある領地くらいはそのまま残してもらえるかもしれない。


 しかしもしもそれらが取り上げられたとして、それでどうすればフェリシア嬢を養えるんだろう。彼女はよく食べるし。


 魔王様にお願いして城で雇っていただけば。


 いや、それが無理だったとしても王子として積み重ねた知識があれば町で仕事を探すことも難しくないかもしれない。


 ──ああ、どうしよう……。


 いつのまにか、フェリシア嬢と共に生きることを考えている。


 額に当てた手のひらが熱い。


 なかなか寝付けない中、明日はフェリシアと何を話そうか。何を一緒に食べよう。一緒に散歩をしてもいいかもしれない。


 そんな幸せな時間を想いながら、微睡に落ちていく。






 タイシ、わたしなら大丈夫だから。心配しないで。



 ──大丈夫よ。キース






「…………はっ……!?」


 ひどい汗が体中を伝い、激しい心臓の鼓動が痛く、胸を押さえた。

 荒くなった息を抑えるように口に手を添えて、どんどんと視界が滲んでいく。


 込み上げる嗚咽を堪えるように掛けた布団を握り締めた。

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