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 今日もいつも通り、タイシとの楽しいお喋りを楽しんでいたフェリシアの腕に何かが掛かった。


 金色のフェリシア自身の髪だ。


 海で暮らす人魚は邪魔になる髪を結ぶか肩の辺りで短く切り揃えてしまうのが一般的で、フェリシアは腰のあたりまで綺麗に伸ばしている。


 細く長い絹糸のような髪はいつもなら三つに分けて適当に編んであるが、どうやらタイシと話す際に暴れ過ぎてしまったらしい。結んだ紐は切れて何処かに行ってしまっていた。


 しかしよく動き回り暴れ回るフェリシアにはいつものことだった。だからいつも手首に紐を巻いて持ち歩いている。


 さっさと纏めてしまおうとその紐を手に取ったところで、タイシの手がフェリシアの髪へと伸びてきた。


「タイシ?」


 尋ねても、返事はない。


 まだ軽く濡れたままの髪を一房取って親指で撫でる間も、タイシの目は真っ直ぐに髪へと向いている。

 さっきまではとても楽しそうに笑っていたのに、その目がなんだか今にも泣き出しそうに見えて、胸が騒いだ。


 どうしてそんなことを思ったのかはフェリシアにも分からない。分からないが、内心ひどく焦って、タイシに背を向けて肩口から後ろを振り返った。


「タイシ! 髪、結んで!」


 途端にタイシは目を大きく見開いて数度瞬きし、「──。『どうかしたの?』」と聞いてきた。早口で聞き取れなかったのかもしれない。時々、タイシはゆっくり話してと頼んでくるから。


「髪をね、結んで欲しいの。タイシに」


 髪を束ねて見せて、ゆっくりお願いする。

 ようやくフェリシアの行動の意味が分かったらしいタイシの顔がみるみる赤くなった。


 ああ、よかった。いつものタイシだ。


 こっそりと安堵する。


 顔を赤くして慌てるタイシが人間語に戻るのは、もはやいつものことだった。


 しかし安堵と同時に少し残念だった。


 突発的な思いつきとはいえ、タイシに髪を結んでもらうのはちょっと楽しみだったから。


 人間語は分からなくてもタイシが必死に断っているのは、動きだけでもわかる。


「ダメ……?」


 声に落胆と懇願が混ざる。


 口をパクパクとさせて動きを止めてしまったタイシはちらりと友人達へと目を向けるも、剣を持った強面の人もそっと目を逸らし、お菓子をくれた優しい人はにっこり笑って何かを言った。


「────!!」


 途端にタイシが怒鳴る。


 そして険しい表情のままフェリシアが手に乗せたままの紐を取り、黄金の髪を睨みつけた。


 自分とは違う、骨張った手が髪に触れて、髪を一つに纏め、悩むように固まる。かと思えば一度纏めた髪をばらして、両端を手で一掴みずつ取ってあちこちに動かして……唸った。


「『はじめて、するから。上手にできないよ』」


 降参のつもりで言ったのだと思って、フェリシアはちょっと残念だなとちらりと後ろに目を向けたが、タイシは諦めてはいなかったらしい。

 真剣な表情のまま、本当に不慣れな手つきで髪を編みはじめた。


 慣れない人は髪を引っ張りがちになるが、そんなことはなかった。タイシの手はとても優しくて、宝物を扱うように丁寧だった、が──それだと纏まるものも纏まらないのが悲しいところだ。


 池に自らの姿を映したフェリシアは内心で『うわぁ』と思った。


 髪の量の違う束がぐりぐりと巻かれ、一つにまとめられているが、束と束の隙間には手が入りそうなほどの穴が開いている。髪もあちこちに跳ねている始末だ。


 これはひどい。本当に、そう思った。


 それなのに、どうしても口角が上がる。にまにまとした笑いが漏れる。


「『やっぱり、下手だ。外すね』」


「ダメ!!」


 苦い表情を浮かべたタイシがため息と共に髪に手を伸ばしてきて、慌てて池に逃げ込んだ。


「絶対ダメ! わたしはこのままでいい! 今日はこれで過ごすの!」


「『でも』…………────?」


 タイシはなんと言ったらいいのか分からなかったのだろう。人間語に戻してしまった。


 しかし恐らくは結んだ髪を解くと言いたいのだろうと判断して髪をぶんぶんと振った。


「このままがいいの!」


 言い捨てて逃げるように池に潜った。が、すぐ様水面に戻り「また明日ね、タイシ!」と手を振ってまた潜る。


 ぐんぐんと水を蹴って潜水していたが、我に返ってフェリシアにしては至ってゆっくりと尾びれを動かした。

 思い切り泳いだら、また紐が外れちゃうかも。慎重に慎重に、潜った。

ありがとうございました。

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