第二章第一節、自由
明日香は、黒柿魁さんと一緒にバラバラになってしまった。
僕はもう、明日香との日常を懐かしむ余裕はない。
奴らに復讐をしなければいけない。
あのとき、明日香と魁さんの方へ走ったのは、僕だけじゃなかった。
桜庭惺葉。彼女はそう名乗った。
魁さんの恋人だったそうで、魁さんの名前も彼女が教えてくれた。
僕の名前が中嶋春樹だと告げると、惺葉さんは当然のように下の名前で呼んだ。
「ねぇ、春樹くん」
特に理由もなく二人で歩いていると、惺葉さんは口を開いた。
「はい」
「魁はね?とにかく“自由と優しさ”を大事にしてたの」
「自由、ですか?」
「うん」
「魁がずっと言ってたんだけど、『人は法律も倫理も無視して生きていいんだ。人間の本質は“自分勝手”だからね。ほら、小学生、中学生が書いた作文とか、道徳の授業の感想で、決められたルールの中で自由に、って書かれることあるだろ?こんなの二秒で矛盾してるじゃないか。ルールがあっちゃ自由じゃないだろって、僕は毎回吹き出してしまう』って」
すごいな。やばい人じゃないのか?
「えっと…」
僕が返答に困っていると、それに気付いたのか惺葉さんは、付け足した。
「あぁ、これだけ聞いたらやばい人だよね。ごめんごめん。まだ続きがあるの」
「『でもね?それでも人は法律や倫理を守るだろ?それが、人間が持っている優しさなんだ。自由の中でも優しさを忘れない。あぁ、美しいだろ?人間って』」
「完璧じゃないけど、多分こんなこと言ってたと思う。」
「私が一番辛かった時期に魁がそう言ってね。それで私、思ったの、この人と一緒にいたら変われる気がするって。」




