第二章第六節、十字架
私は魁を、春樹くんは明日香ちゃんを失った哀しみを紛らわせるために、ずっと話していた。
だけど、口から出るのは彼らの思い出話だけだった。
肌の匂いが、感触が、声のトーンが、髪の質感が、指の長さが、眉の形が、高い鼻が、キスの味が、全てが愛おしい。
もう一度、魁に会いたい。
涙が溢れた。
「惺葉さん。もう泣かないでください」
春樹くんは慰めてくれるけど、この子だって泣きたいはずだ。
歳上の私がしっかりしないでどうする。
魁にもらったハンカチで涙を拭う。
「ありがとう。大丈夫」
私が言わなくちゃ。
「春樹くん」
「はい?」
「二人を、埋めよう」
「……はい」
私たちは、歩いてきた道を引き返し、無言のまま二人の死体を埋めた。
魁は、神様や天国なんてものを信じていなかったけど、簡素ながらも落ちていた太い枝で十字架を拵えてやった。
それから、魁がくれたハンカチと、私がいつも使っていたヘアゴムも打ち付けた。
隣にある明日香ちゃんの墓は、石が積み上げられている。
その前に、明日香ちゃんが履いていたであろう可愛らしい靴。
春樹くんと一緒に手を合わせた。
「魁、十三日後に天国で、また会おう」
二人の墓に背を向けながら、そう言い残して私は去る。
後ろで、春樹くんも何かを語りかけ、私の後を追う。
「どこに行くんですか?」
「実は、行く当てがないわけじゃないんだよね。魁が言ってたんだけど、人が集まってる場所があるんだって。だから、そこに行く」
「お友達がいるといいですね」
「春樹くんもね」
家族構成や友達についての話をして知ったのだけど、春樹くんは友達がほぼいないそうで、三人の兄がいるらしい。
私も友達いないんだよね、と言おうとしたその時、ギターの音が聞こえた。
それは春樹くんも一緒だったらしく、二人で、どこから音が鳴っているのか探した。
その音は、壁にヒビの入った平屋の一室から鳴っていた。




