07_独占契約
ホログラムを起動する。
今日は5/1日、この世界に来て丁度一ヶ月。
そして、フォルテ商会への二度目の納品日。
上等なテーブルを挟んだ向こうの、これまた上等なソファには、フォルテ商会頭首と、全権代理のポーラが優雅に座っている。
「お母様。こちら、先月から取引させてもらっているツカサ様です。」
「行商人のツカサと申します。この度はご当主自らがご同席いただけるとは、恐縮でございます。齢は43です。」
(ポーラめ、当主本人が来るなんて聞いてないぞ…。)
「はじめまして、フォルテ商会当主のパーラ・フォルテと申します。齢は52ですわ。よしなに。」
パーラはポーラよりも少し背が低く、少しふくよかだ。
そしてこの世界の理に従い、30代前半くらいの見た目である。
ただ、そのひどく落ち着いた雰囲気が、見た目以上に彼女を成熟した女性然とさせている。
「娘から話はうかがっておりますわ。先月王都近郊で目覚め、非常に高品質な蒸留酒と見たこともない茶菓子をマジックボックスにお持ちであり、しかも、男性であられるとか。」
パーラが含みのある笑みを浮かべ、続ける。
「娘を疑っているわけではないのですわ。ですが私は叩き上げの商人ですの。どうしても自分の目で確かめないと気が済まない質でしてね。」
(さすがというかなんというか、オーラがあるな。商会を王国トップに育て上げただけのことはある、か。)
「なので早速、お約束の品を納品いただけるかしら?」
ポーラをちらりと見ると、目を輝かせて首を縦に振っている。
(…状況分かってんのか、アイツ。ト◯タの社長と直に商談してるのと同じようなもんなんだぞ、まったく…。あー、胃が痛ぇ…。)
「はい、信じられないのも無理からぬことと存じます。それでは、こちらのテーブルに全数納品させていただきます。」
ホログラムを開き、日本円を消費して12年ウィスキー×50本とチョコレートアソート×50箱を召喚する。
パーラとポーラには、何もない空間から突然商品が現れたようにしか見えないだろう。
テーブルがウィスキーの瓶とチョコの木箱で埋め尽くされた。
「…!!」
パーラが目を見開き、しばし言葉を失う。
「ポーラ、これは本物よ。これまで商会を大きくするために世界各地を渡り歩いて来たけど、無詠唱で、一度に、こんな大量に出せる魔術師なんて見たことないわ。」
声を震わせるパーラを「だから申し上げたじゃないですか! お母様ったら全然信じてないじゃない。」とポーラが睨む。
「当然よ、そんな与太話誰が信じるっていうのよ。だけど間違いなくこれは本物だわ。ツカサ殿、この蒸留酒とチョコという茶菓子、少し頂いても?」
「ど、どうぞ。」
(パーラかあちゃん、口調が変わってやがるぜ…。)
パーラがウィスキーとチョコを試す。
先月、ポーラが初めて口にしたときの景色と全く同じだ。
(さすが親子、同じ反応だ…。)
ひとしきり感嘆した後で、パーラがこちらに向き直る。
「ツカサ様、正直申し上げて少々見くびっておりましたわ。お恥ずかしい限りです。」
「お母様、本日は納品も目的ではございますが、以前申し上げた通り、ツカサ様は香辛料も取り扱っておられるとのことです。そちらを見せていただきましょう。」
「そうですわね。ツカサ様、娘からお聞きされていると思いますが、近年、サイレル領からの香辛料の価格が高騰しております。もともとはインバイト領ルートでも流通していたのですが、2年ほど前からほとんどがサイレル領ルートでの取引となってしまっています。商会としては、サイレル領ルート以外からの仕入れ先を是が非でも確保したいのです。もしよろしければ、試供品などあれば、お見せ願えませんでしょうか。」
パーラに、もはや先ほどまでの余裕は感じられない。
「はい、どちらかというと本日はそちらが主たる議題かと思ってましたので、ご用意しております。」
準備しておいたホール胡椒一袋(500g)を道具箱から召喚する。本来はビニール袋で包装されていたが、麻布の袋に移し替えてある。
「粒の胡椒500gです。お気に召せばよいのですが。」
パーラが麻袋を開き、目を見張る。ポーラも真剣な目つきで母親の様子をうかがっている。
中の胡椒をひとつかみ手に取って眺め、鼻を近づける。
何粒か割り、更に何かを確かめるように香りを嗅ぐ。
そして口にし、目を閉じて吟味するように咀嚼した。
嚥下したパーラが静かに口を開く。
「ツカサ様、この胡椒一袋、一体いくらで卸すおつもりでしょうか。」
(おや、さっきみたいな驚きがないな。大航海時代の胡椒は金と同等といっても過言ではなかったと言われているが、まぁ、世界が違えば価値観も違う、か。今回は外したかもな。)
「それは、売価次第かと思いますが…。あまり売れるような品ではなかったでしょうか?」
「逆です! ここまでしっかりと乾燥してあり、しかも大きさも均等。さらに香りも風味も通常の胡椒とは段違いです! ポーラ、あなたも確かめてみなさい。」
「は、はい、お母様。」
ポーラも同様の手順で胡椒を注意深く観察し、吟味する。
終わった後、声を震わせる。
「ツカサ様、これはもはや黒い宝石です。一体いくらで卸されるおつもりですか?」
(お? この世界初の『黒い宝石』いただきました! えーと、ウィスキーやチョコが仕入の約10倍の卸値だっただろ? これは一袋1,500円だったから、10倍で金貨1枚と銀貨5枚。めんどくさいから金貨2枚にしておくか。)
「そうですね、卸値は金貨2枚程度でしょうか。」
「「安すぎます!!」」
二人が同時に叫ぶ。
(ぇえ!?)
ポーラが続ける。
「通常の胡椒でさえこの量で金貨20枚の売価となりますわ! 売価の5掛けだったとして卸値だけで金貨10枚は下らないのです。それを金貨2枚なんて…!」
(胡椒ひと袋で金貨20枚とか、どんなんなんだよ!)
「で、ではですね、こうしましょう。昔の釣り上げられる前の卸値で取引しましょう。それでフォルテ商会はサイレル領ルートの胡椒を必要としなくなります。売価もそれに見合ったものになり、消費者にも利することができます。そうですね、金貨7枚、でいかがでしょうか。」
「確かに、売価も考えるとその程度が妥当そうですわね…。月にどのくらいの量を卸せそうでしょうか。」
「取り敢えず、100㎏程度なら…。」
「そんなに…!?」
やりとりを見ていたパーラが居住まいを糺す。
「ツカサ様、単刀直入に申し上げます。我が商会と独占契約を結んではいただけませんか? 納品は毎月月初、売値の5掛けで購入いたします。この条件はフォルテ商会としては破格です。いかがでしょうか。」
「構いませんよ。」
「本当ですか!?」
「はい、こちらとしてもひとつの商会と付き合う方が目立ちませんから。」
「…と、いうことはやはり本当に男性、なのですね。いえ、ここまでマジックボックスやそこから出される品々を見せていただ後では、もはや嘘だとは思いません。」
「ご理解いたたけたようで良かったです。ポーラさんによると、公になると面倒事が増えるようなので。」
「お母様、ツカサ様の安全のために、フォルテ商会の使ってない別邸に住んでもらいたいと思っていますわ。」
「確かに、一般の宿では心許ないわね。でも、あそこはお一人で住まわれるには広すぎて、さすがに使用人をつけないわけにもいかないわ。ツカサ様が男性であることを知る人間を増やすのは…」
「その件なのですが、何から何までフォルテ商会の世話になるのはこちらとしても心苦しいのです。ですので、毎月の賃借料をお支払いするかたちとさせてください。もちろん、買取の方が良いのであれば買い取ります。ただしその場合も、月々少しずつ返済するかたちとなりますが。」
「そうですわね…。使ってないといっても手入れや管理に人手が取られているのも事実です。お母様、ここはひとつ、ツカサ様に買い取っていただければと考えますが、どうでしょうか。」
「確かに、あそこは住居なので倉庫にもできず、だからと言って今のフォルテ商会の規模では住むには狭すぎます。ツカサ様、よければ買い取っていただけると助かります。代金は…そうですね、金貨500枚程度になりますが、いかがでしょうか。」
(金貨500枚か。毎月、金貨100枚を納品代金から相殺してもらっても5ヶ月間のローン。余裕だな。)
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。毎月の納品代金から金貨100枚を相殺していただければ5カ月間で完済できますが、いかがでしょうか。」
「問題ございませんわ。借用書は、3日後にポーラから発行いたします。」
「宜しくお願いいたします。」
「家の件はいいとして、使用人のほうはどういたしましょうか…」
「それなら一人、心当たりがあります。王都から北部に半刻のところにヴェルデ村という村があります。そこのとある村人は、私が男であることを知っています。確か名前はミラ。彼女を使用人として雇うというはどうでしょうか。目が覚めて少しの間は、無警戒に過ごしてましたから。ただ、他の村人には知られてないはずです。とはいえ、使用人として来てくれるかはミラ次第ですが。」
「そうですか。では早速そのミラという村人に会いに行こうと思いますわ。お母様、それでよろしいですか?」
「そうね、そんな人間がいるなら早いに越したことはないわ。行ってきなさい。」
―◇―◇―◇―
しばらく談話したのち、パーラが腰を上げる。
「ツカサ様、どうか末永くお付き合いいただければと存じますわ。」
そう言い、柔らかい笑顔で握手交わす。
「ツカサ様、ポーラは親の私から見ても商才に恵まれておりますわ。ですがまだまだ20歳の娘。どうか傍で見守っていただけますと幸いにございます。」
含みのある笑顔を湛えてポーラを見やる。
「ちょ! お母様!!」
「あら、母さん人を見る目には自信があるのよ? あんたも足繁く通ってるんじゃない。まさか私が知らないとでも思って?」
「お母様、知って…」
(こりゃパーラの完全勝利だな。それにしても、親公認とかやめてくれ。)
あたふたする娘を置いてパーラは部屋から出ていった。
「あ、あの! い、今のお母様の発言は、そ、その…」
「あはは、ただのご冗談でしょう。気にしてませんよ。」
「え!? 少しは気にしてください! あ!いえ!そういうわけではなく…」
(図星だったか…)
「まぁまぁ、ひとまず落ち着きましょう。ところで、これからヴェルデ村まで行くのでしょう?」
「あ、はい!そうですわね。早速馬車の手配をしてきます! 少々こちらでお待ちください!」
顔を真っ赤にしたポーラが慌ただしく部屋を出ていった。
(この歳になって20歳の女とか、どうしたもんか…。まぁ、ひとまずは棚上げだな。)
―◇―◇―◇―
フォルテ商会の紋章を掲げた馬車に揺られ、王都の北門を出る。
フルプレートの守衛1名と、フォルテ商会の制服を着た従業員1名が馬に乗り付いてきている。
(さすが豪商、私設の護衛なんてすげぇな。それにしてもあの従業員は…)
「ポーラさん、護衛はさておき、あの従業員の方は?」
「資産統括補佐のタラーレですわ。普段はフォルテ商会の資産管理を主な業務としておりますが、今回はれっきとした護衛として同行してもらっています。彼女、元は王家陸軍の魔導兵でしたの。」
先ほどのこともあって、目を合わせてくれない。
「それはそれは、人は見かけによりませんね。なぜ軍を辞めて商会に?」
「上官に腹が立って、その上官を治療院送りにしてしまったらしいのですわ。本来であれば厳罰に処されてもおかしくはないのですが、件の上官があまりにも嫌われていたらしく、懲戒免職だけで済んだようです。」
「おぅ、それはそれは…。」
(外のタラーレに目をやる。パッツンおかっぱの黒髪に眼鏡。能面のように表情がない。ユーナといいタラーレといい、この世界の魔術師は短気が多いんだろうか…。)
「もともとはフォルテ商会と取引のある小さな商会の娘で、その縁で私とも顔馴染みでしたので、話を聞いてフォルテ商会にお誘いしたのですよ。」
(持つべきものは人間関係。それはどこの世界でも変わらない、か。)
ポーラ曰く、もう一人の護衛も王家陸軍の元騎兵らしかった。
「それにしても、歩いて半刻の場所にこんな大所帯でいくんですか?」
「勿論ですわ。近場とはいえ外は何があるか分かりませんもの。」
先ほどのこともあって、やはり目を合わせてくれない。
「魔物ですか?」
「そうですわ。稀にこのあたりにも魔化猫程度は出没しますのよ?」
計らずも目が合うと、また恥ずかしそうに目を反らす。重傷だ。
「なるほど。であれば元騎兵の護衛とは非常に頼もしいですね。あはは。」
(ダメだこりゃ)
「えーと、あと、城壁がキラキラしているのはなぜなんでしょうか。初めて城壁を見た時から気になっていたのですが…。」
「あぁ、あれは緑魔石が埋め込まれているのですのよ。」
「りょくませき?」
「はい、緑魔石です。いざ王都が攻撃を受けたときに、魔法で魔力を注入することで壊れにくくできるらしいのですわ。ですが、そういうことは軍事機密でわたくしもよく分からないのです。ですが、緑魔石自体が非常に希少なもので、どこの国でも城壁防御にしか使われてないと言われていますわ。」
「…なるほど。」
相変わらずこっちを向いてくれない。
「コホン。それで、さっきの胡椒の件で少し気になることがあるのですが、安く上質な胡椒を販売したら、その出自を探ろうとする者も出てくるのではないですか?」
その話題に先ほどまでの羞恥が消え、ポーラの表情に陰りが差す。
「実は、琥珀酒とチョコレートだけでも、既にいくつも問い合わせを受けているのですわ。ただ、フォルテ商会は遠い海の向こうの島国の商人から仕入れている、で通しています。…我ながら苦しい言い訳ですけどね…。」
ポーラの声がトーンダウンする。
「いずれ俺という存在が露見する日も近い、と?」
「正直に申し上げて、その通りですわ。ただ、ツカサさんが仕入れ先であることが露見することと、ツカサさんが男性であることが露見するのとでは、全く話が違います。前者は致し方なしですが、後者は隠し通すことが可能ですわ。」
(確かに、この世界には蒸留酒や茶菓子はあっても、ウィスキーやチョコレートはない。そして、おいそれとは作れない。仮に作れたとしても、それは結局贅沢品。上流貴族や王家にしか行き渡らない。)
ミラが「昨年は収穫が少なくて」と溜息をついていたことを思い出す。
「難しい顔をされて、どうかされましたか?」
「いえ、どうせやるのであれば、もっと庶民の生活を豊かにするようなことをしたいと思いましてね。酒も菓子も香辛料も、贅沢品でしかない。そうではなくて、普通の国民がもっと腹を満たせるようなことを考えたいな、と。」
「庶民? …ツカサさんは、お優しいのですね。普通の商人は、上質なモノをいかに安く仕入れるか、それをいかに裕福なお客様に売るか、それだけを考えるものですのに。」
「普通ならそうでしょう。ですがある程度自分に余裕があると、他人に分け与えたくなるものです。それに…」
(それに物を召喚して売るだけだと暇過ぎるんだよなー。毎月1回の納品だけで数百万円の稼ぎ。もはや完全なる不労所得だ。なにかにちゃんと取り組まないと暇過ぎて死んじまうぜ。)
「コホン。まぁとにかく、手始めに麦やその他作物の収穫量を増やす実験でもしようと考えてます。方針が決まれば、また相談させてください。」
「そのようなことをお考えだったとは、本当にツカサさんには驚かされてばかりですわ。」
ポーラがふわりと微笑む。
(取り敢えず、さっきの羞恥は忘れてもらえたようで何より。)
「あぁそういえば、これっていくらで売れるんでしょうか。」
道具箱から魔化狗の爪を取り出してポーラに渡す。
「これは…魔化狗の爪ですわね。だいたい1個銀貨1枚程度ですが、これをどちらで?」
「実は先日、『月の雫』という冒険者パーティの荷物持ちとして魔化狗討伐に参画しまして、縁あって討伐した魔化狗の爪10本をいただけたのです。」
「魔化狗討伐なんて、シルバーランクの魔物ですわよ! そんな危険な依頼に同行するなんて…!」
(ほーら、いわんこっちゃない。)
「コホン、まぁ落ち着いて下さい。『月の雫』のメンバーは誰しもが歴戦の冒険者です。特に危険は無かったですよ。それでその爪、フォルテ商会でも買い取って貰えるのでしょうか。それとも他に使い道があるのでしょうか。」
「それなら…まぁいいのですけども…。」
不満そうな表情でこちらを見て続ける。
「えぇ、当商会でも買い取ってますわ。10本なら金貨1枚ですわね。矢じりに使用すれば、矢の威力が格段に上がると言われています。ツカサさんは魔物の素材を売って稼ぐ必要は無いはずなので、矢じりの素材に使われたらどうですの?」
(怒ってる…。)
「ま、まぁ、確かにその通りですね。有難く矢じりに使用しようと思いますが…。…そんなに怒らなくても…。」
「心配なのですわ!ツカサさんがある日突然帰ってこなくなったりしたら私は…! わたくしは…その…。」
(まーたぶり返しちゃったよ…)
「コホン、ところで、ユーナ・オーマチという冒険者をご存じですか?ダイヤモンドランクの魔術師らしいのですが。」
「え? え、えぇ、大魔道士ユーナ様ですわね。もちろん存じ上げておりますわよ。当商会にもたまに珍しい魔物の素材を持ち込んで来てくださいますわ。」
「わざわざ商会に?」
「はい。素材は冒険者ギルドで買い取ってもらうのが普通ですが、面倒な手続きが不要な代わりにギルド側の手数料分、安値での売却となります。」
「商会に直接持ち込むと、中間手数料が省けるので高値で売却できる、と?」
「その通りでございますわ。まぁもちろん、各商会が直接持ち込みに対応するのは、希少な素材だけですが。」
「なるほど。あれ?では魔化狗の爪はそんなに希少なのですか?」
「いえ、特には。魔化狗や魔化猫などの一般的な素材は冒険者ギルドから一括で卸してもらうが普通です。ただ、付き合いのある商人や冒険者からは、小口売買として取引することもありますわ。」
「そういうことですね。」
「それで、ユーナ様がどうかなさいまして?」
「いや、どうということはないんですが、ユーナ様は元はサイレル領の子爵だったとか。10年ほど前にお取り潰しになったあとはサイレル公爵の直轄地となり、大港・ラガン港が建設されている、と。」
「正確には8年前ですわね。商会にも公爵から通知がきましたわ。お取り潰しの理由はサイレル公爵が指示したラガン港開発に反対した、という理由だと記憶しております。」
「反対? なんでまた。」
「そこまでは存じ上げませんわ。それにしても、どうしてそんなことをお聞きになるのです?」
「いや、大港というくらいだから、まさに今問題となっている香辛料の貿易量も相当なものなんでしょう?何かつながりがある気がしましてね。まぁ、憶測ですらない、勘と呼ぶにも烏滸がましいものですが…。」
「相当な量、というよりも、ほぼ全てといっても過言ではございませんわ。ラガン港のある湾港都市ハクシーランは共和国から最も近い王国の街で、まさに共和国にとっては王国の玄関口ですもの。共和国の商船がインバイト領への港へ寄港しなくなったのも、ハクシーランの方が圧倒的に近いからですわ。」
「まぁ、その理屈は分かりますが、全部が全部というのはちょっと…。それに、湾港開発に反対したからといって首を刎ねられるほどのことなのでしょうか?」
「どうでしょうか…。先日も申し上げた通り王国は地方分権国家です。その辺りのことは公爵家の気質、もっと言うと当主のヤーライル・サイレル公爵のお人柄が強く影響しますわ。とはいえオーマチ子爵の件以外では、そんな物騒なことをされているという話は聞きませんけども。ただ、商会が把握してる情報ですと、一部地域を除いて活気がなくなってきているという情報も入ってきています。」
「…そうですか。」
(まぁ、考えても仕方ない、か。俺は要望通りフォルテ商会に胡椒を卸しておけばいい。進んで政治に関わることもないだろう。)
そう考えている最中、馬車の速度が弱まり、そして止まる。
「お嬢様、ヴェルデ村に到着いたしました。」
御者の声だ。どうやら着いたらしい。
まだ何か言いたそうなポーラに続いて馬車を降りると、たしかに転移初日に訪れたヴェルデ村の入口だった。
(さて、ミラを口説き落としに行こうか。)




