06_初冒険!
依頼と報酬が書かれた羊皮紙で壁と掲示板が埋め尽くされている。
依頼の多さに面食らいつつも、それらをいくつか確認する。
薬草採集に畑の雑草除去、それからネズミ退治、中には鹿を1頭狩ってきてほしいなどの依頼もある。
ブロンズでももう少し報酬が高いものとなると、商隊の護衛や低ランクの魔物退治という、ザ・冒険者てきな依頼が散見された。
シルバーランクはもう少し脅威度の高い大型の魔物の討伐や長距離の護衛、魔物の巣の殲滅、盗賊討伐などの依頼が出てくる。
ゴールドランクはさらに…といった具合だった。
(冒険者への依頼は、想像してたファンタジー世界そのままってところだな。取り敢えず薬草採集でもやるか。)
薬草採集の依頼を手に取って確認する。
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ラダ湖周辺に自生しているラダアン草を50掴みほど採取してきてください。
※ラダ湖は王都西門から出て半刻(約1時間)ほど北西に進んだところにあります。
※ラダアン草であればラダ湖周辺でなくても問題ありません。
報酬:銀貨1枚
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件のラダアン草のイラストが描かれている。
元世界の猫じゃらし、エノコログサに似ているが―――
「ねぇアナタ、その依頼受けるの?」
声のした方に顔を向けると、そこには革鎧に身を包み、腰に帯剣した活発そうな女性が立っていた。
使い込まれて年季の入った革鎧が身体に違和感なく馴染んでおり、それがコスプレではなく実戦で用いられる装備であることを物語っている。
よく見ると革鎧の下から鎖帷子も垣間見えた。
「それラダ湖だよね? 私たちこれからラダ湖の少し奥にある森に魔化狗の群れを討伐しにいくんだけど、そっちの依頼と同じ方向だし、よければ荷物持ちとして一緒に来てくれない? もちろん戦闘はしなくていいし、荷物持ち分の報酬は渡すから。」
革鎧の女性の後ろには弓を携えた女性と、盾と片手剣で武装した女性、それから魔術師の杖を胸に抱えた女性が立っている。
(わぉ、何このテンプレ展開。)
「あぁ、構わない。ついでだからな。ラダアン草を採取した後でよければ同行しよう。」
「良かった。言うまでもないとお思うけど、魔化狗に限らずたいていの魔物は皮、爪、牙、肉、骨と、捨てるところが無い。いつも解体した素材を運ぶのに難儀してたんだ。助かるわ。」
(いや、知らないけど…。まぁ分かったことは、無限道具箱、なんて素晴らしいスキルなんだろうか。ただ、当然だが使うのは止めておこう。ポーラにも「気を付けろ」って言われてるしな…。)
「つかさ、だ。宜しく頼む。」
「私はエレナ。そこの弓使いがフィオナ、盾持ちがセレナ、魔術師がリシアだ。こちらこそ宜しく。」
ホログラムをチラ見する。
防御力:14.0
攻撃力:14.0
ポーラとの取引で得た金貨100枚のうち、80枚を消費してそれぞれステータスアップしてあるが、まだ一般人レベル。
だから綿麻のポンチョの下に防刃チョッキと、腕や足、首にもプロテクターを付けている。
「皆さんはパーティなのか?」
「そう、『月の雫』っていうパーティよ。私とフィオナは同じ村の出身で、セレナとリシアはこのギルドで出会ったんだ。皆ブロンズの頃からのパーティでさ、先月シルバーにランクアップしたんだよ。」
照れながらも、少し誇らしげだ。
「それは心強い。俺など、今日登録したばかりだ。」
「そうなの? なら丁度よかった。チームでの戦闘を見るのも勉強になると思うよ。」
「あぁ、学ばせてもらうよ。」
「ところでツカサの武器は何だ?」
(コンパウンドボウを見せるわけにはいかないからな。こんなときのために…)
「弓…クロスボウだ。」
と言ってボウガンを取り出して見せる。この世界に相応しい木製で、取り回し優先の弓力が低いタイプだ。
昔、結婚して結依が生まれる前までは、たまにこういうボウガンやクロスボウ、エアガンなどで遊んだものだ。
結依か産まれてからは、さすがに子供の目に触れさせたく無いと思い、長らくタンスの肥やしとなっていた。
そして何年か前に銃刀法の規制対象となったときに警察に納めたので、ボウガンを手にするのは約13年ぶりくらいになる。
「よくそんな危ないもの持てるわね。狩猟するわけでもないのに、まったく。」と、俺の趣味に呆れつつも反対しなかった礼奈の顔が脳裏を過ぎる。
「これが、弓…?」
その声に我に返る。
フィオナがボウガンに顔を近づけて、興味深そうに観察していた。
「ここに矢を番えて、狙いを定めて、この引金を引くことで矢が射出される仕組みだ。これは、威力は通常の弓より低いが、だれでもすぐに扱える。 …どうした?」
フィオナが他のメンバと顔を見合わせ、首を横に振っている。
他のメンバも不思議な物を見るような、なんとも言えない顔をしてる。
(マジか…やっちまったな…。この世界、ボウガンが無いのか…。)
「ま、まぁ、フィオナ殿がお持ちのような弓を、ゆくゆくは持ちたいと考えている。それまでの繋ぎの武器だ。エレナ殿、現場まで少し遠い。さっそく出発することにしようか。」
「あ、あぁ、分かった。早速出発しようか。」
フィオナが口を開く。
「ツカサ殿、森に入ったら、その、くろすぼう? を使う所を見せて貰える?」
「あ、あぁ、構わないさ。森に入ったらな。」
(この世界に無い武器を見せたくはなかったけど、まさかクロスボウが無いとはなぁ…。)
―◇―◇―◇―
エレナたちと王都西門を出て北西に進むこと約1時間、ラダ湖と思われる湖に着いた。
水は澄んでおり、水面は陽の光を乱反射している。
(いい場所だ。こんなところでBBQやキャンプなんて最高だろうな。)
ほとりには猫じゃらし、もといラダアン草らしき草が群生している。
「これがラダアン草か?」
「そうだ。手分けしてやってしまおう。」
エレナが言い、皆で採取にとり掛る。
群生したラダアン草を採取し、せっせと麻袋に入れていく。
エレナたちの協力もって、ものの5分で完了した。
「済まないな。」
「どういたしまして。」
エレナが爽やかな笑顔で答える。
「ところで、この草はなにに使われるんだろうか。」
「なんだ、知らないで採ってたの? ラダアン草は擦り傷や切り傷に塗る軟膏の素材だよ。薬師ギルドだけじゃなく、一般家庭でも簡単に調合できるんだ。」
「そうなのか、教えてくれてありがとう。この辺りの人間ではないのでな、知らなかったよ。」
「遠い島国、ね。まぁ色々あるあるんだろうけどさ、冒険者は結果が全てだから実力があれば成功できるさ!」
(完全にワケアリ冒険者だと思われてるな…。まぁいいけど。)
―◇―◇―◇―
ラダ湖を横目に10分ほど進み、森に入る。
この森に、件の魔化狗が跋扈しているらしい。
取り敢えず一匹でも盗伐すれば報酬が出るらしいが―――。
「その弓、使ってみて貰えない?」
フィオナがねだってくる。出発時の約束を忘れてないようだ。
仕方がないので実演してみることにする。
「こうやって矢を番えて、構える。」
フィオナだけでなく、エレナたち他のメンバも興味深そうみ凝視している。
「そして狙いを定めて、引金を引く。」
矢が射出され、的にした木に刺さる。
(ぉお、まともに飛ぶじゃん! 久しぶりに使うから心配だったけど、一応は大丈夫そうだな。)
「この弓の最大の利点は、矢を番えたまま移動ができることだ。逆に欠点は、次弾の装填に時間が掛かること。これは弓力が弱めだからそれほど苦ではないが、より強力な弓力のものは、全身を使って矢を番える必要がある。」
興味深そうにフィオナが頷き、盾持ちのセレナが関心したように呟く。
「なるほど。装填などの発射準備を遮蔽物などに身を潜めて行い、相手に身体を晒すのは発射の瞬間だけでいいということだな。」
「セレナ殿。鋭いな、その通りだ。だからどちらかというと白兵戦、ひいては魔物との戦闘には向かない。だが不意の攻撃に対しては、一発目だけなら素早く反撃できる。まぁ正直、低ランク依頼をこなすときのお守りみたいなものだ。俺とて、魔物退治にこんなものを使うつもりはない。」
「確かに。魔物、特に動きの素早い魔物相手だと相性が悪いな。だがこのような弓は初めてだ。面白いものを見せて貰ったよ。」
エレナがそう言ったとき、リシアが叫ぶ。
「来るわ!」
その一言に緊張が走る。
「まさか、こんな森の浅くまで…!」
エレナが思わず唸った瞬間、前方の草木の合間から赤く目を光らせた大型犬ほどの魔物―――魔化狗が3体姿を現した。
暗紫色の体毛を逆立て、汚らしい乱杭歯をむき出し威嚇する口からは涎が垂れている。
「リシア! 全員に強化魔法を!!」
エレナが指示するより前に、魔導師のリシアが詠唱を始め杖を頭上に突き出す。
刹那、淡い光が自分を含めた全員の身体と装備を包み込み消えた。
(なんだか力が漲ってくる気がするが、これがバフってやつか…! それにしても、ありゃ完全に狂暴化した大型の野犬だぜ。大丈夫なのか??)
エレナが魔化狗の1匹に雄叫びを上げながら突撃するのと同時に、フィオナが矢を番えて別の1匹に向ける。そしてセレナが最後の1匹の注意を引き付けた。
フィオナが矢を放つ。
矢は魔化狗の肩口を掠めて後方に過ぎ去り、逆にフィオナ目掛けて獰猛な気配を滾らせながら駆けてくる。
「しまっ…!」
フィオナに向かって一直線に駆ける魔化狗に狙いを定め、ダメ元でボウガンを射る。
先ほど試射したときよりも矢が高速で発射された気がした。
幸い後ろ足に命中し、魔化狗が態勢を崩す。
(当たった! てか、さっきより威力上がってない!?)
「ありがとう!」
フィオナが叫び、次の矢を番えて体制を崩した魔化狗に放つ。
今度はしっかり首筋に命中し、魔化狗が横倒しに倒れる。必死に起き上がろうとするも、苦しそうな唸り声を上げながら口から血を滴らせるだけだった。
その間にエレナは相対する魔化狗の胴体に深々と剣を突き刺しており、セレナも盾に食らいついた魔化狗の脇腹を片手剣で切り裂いていた。
(終わりだな。)
エレナが矢に射られて瀕死の魔化狗に止めを刺す。
「ふぅ、これで完了だな。」
エレナから安堵の溜息が漏れ、ふうっと肩を落とす。他のメンバからもひとまずほっとした様子が伝わってきた。
「ツカサ殿、さっきはありがとう。あなたがいなかったら、ちょっとやばかったかも…。」
フィオナが別の意味で肩を落としている。
「ふいを突かれた形だったからな。私からも礼を言う。フィオナを助けてくれてありがとう、ツカサ。」
エレナが頭を下げてきた。
「フィオナ、一定以上接近されたら短剣を使えといつも言っているだろう。焦りで周りが見えなくなってしまうのは悪い癖だぞ。」
セレナがフィオナを叱責するを見て、「まぁまぁ、結果的に皆無事だったんだから。それよりも、早く素材を回収しましょうよ。」とリシアが促す。
(良いパーティじゃないか。おじさん、良い物を見せて貰ったよ、うん。)
「まぁ、俺のはたまたま当たっただけだが、お役に立てたなら良かった。ただ、クロスボウの威力が上がったように思えたのだが、気のせいだろうか…。」
「それはリシアが掛けた能力強化魔法のおかげね。」
と、エレナが答える。
「あのバフ、いや能力強化魔法は、人間だけでなく武器などの装備にも適用されるのか?」
「そうだよ。しかも物に対する効果の方が長持ちだ。身体に掛けられた魔法効果が切れると、強化中の弓が硬すぎて引けなくなる、なんてこともある。リシアの魔法だと効果時間は人間で約5分、武器で約10分ってところかしらね。」
「実際、人よりも物に強化魔法を掛ける方が簡単なのよ。」
と、リシアが引き継いだ。
(なるほど! 少しづつでもこの世界のことを理解しないとな…。どこで足元を掬われるか分からん。)
「というわけで回収するわね。」
リシアが言い、杖を掲げて詠唱すると、また淡く身体が光り消える。少し、力が抜けたように感じる。
「これは?」
「戦闘が終わったから強化魔法を解いて力を回収したのよ。」
「そんなこともできるのか!? であれば、魔物を弱体化したりも出来るんじゃないか?」
「そんな都合の良いもんじゃないわ。自分と魔力紋が違う魔力は操れないもの。」
「…なるほど。ん? じゃあどうして強化魔法は魔力紋の違う俺たちに掛けられるんだ?」
俺の問いに、リシアが顎に手をやり難しい顔をする。
「確かに…。あんまり意識しなかったけど、何ででしょうね…。」
(分かってねぇのかよ!)
「よく分からないが、出来ること、出来ないことは理解した。変なことを聞いて済まない。」
―◇―◇―◇―
手分けして魔化狗を解体し、素材ごとに分けて麻袋に収納する。毛皮は勿論、骨や牙など、内臓以外は捨てるところが無いらしい。
逆に、体内から出てきた魔石はエレナたちが破壊した。聞けば、魔石はキレイだが瘴気の塊のようなもので、人体に影響はないものの、持っていても気味悪がられるため原則破壊するのだという。てっきり宝飾品や魔道具に使われるのかと思ってた。
よっこいしょっと――
三頭とはいえかなりの重量だが、無限道具箱を使うわけにはいかない。地道に「荷物持ち」をこなすことにする。
「さて、終わったな。奥にはもっといるんだろうけど、今日はそこまでの危険を冒す必要は無いと判断して撤収する。」
エレナがリーダーらしく場をまとめると、一行は王都への帰路についた。
―◇―◇―◇―
「フィオナは遠方からの狙撃を得意とするアーチャーで、接近戦はかなり久しぶりだったのよ。焦るのも無理はないけど、課題であることには間違いない。改めて礼を言うわ。」
王都に戻る途中の道すがら、エレナが小声で耳打ちする。
当のフィオナは終始俯き気味だ。
「構わない。運も実力のうちだ。」
「運も実力のうち、か。面白いことを言うのね。」
エレナがふふっと微笑む。
「ところで、リシアは魔術師というが、人間には全員魔力があるという。魔術師とそうでない人間は、何が違うんだろうか?」
「そんな常識も知らないなんて、あなたが遠い島国からきたって話、あながち嘘ではないように思えてきたわ。」
顎に人差し指を当て、エレナが続ける。
「一言で言うと魔力量よ。水晶に感知される程度、蝋燭に火を灯す程度の生活魔法は誰でも使える。だけど、リシアのように強化魔法を施したり火球を打ち出すには、常人より遥かに大きい魔力が必要なのよ。」
「鍛錬でどうにかならないのか?」
「ならないわ。激しく魔法を使い続ければ多少はマシになるのだけど、しばらく使わないとまたもとに戻ってしまう。」
「ということは、飲酒に近い感じか? 酒を飲み続けても強さはほぼ変わらない。」
「上手い例えね! ちょっと感動したわ。そう、その通り。飲酒に近いのよ。先天的なものだから、軍は常に魔術師を必要としているわ。私やセレナみたいな剣士は、剣を持たせて訓練を施せば最低限の戦力になるけど、魔導兵はそうはいかないもの。」
「リシアはなぜ冒険者に? 軍のほうが生活は安定するんだろう?」
「あの子は自由が好きなのよ。保証はあっても規律に厳しい軍隊より、自己責任ではあっても自由な冒険者でいたいのよ。それに、リシアの場合は大魔道士に対する憧れもあるわ。」
エレナがリシアの方に目をやる。それに気付いたリシアが「なになに、2人で何話してんの?」と割って入ってきた。
「別に何も。ただリシアがあの大魔道士様に憧れてるって話をしただけよ。」と悪戯っぽく嘯くエレナに「ちょっとやめてよね恥ずかしい。」とリシアが膨れる。
思わず「大魔道士様?」と尋ねる。
「大魔道士ユーナ様を知らないの!? 王都の冒険者ギルドに所属するダイヤモンドランク冒険者『ユーナ・オーマチ』様よ。覚えておきなさい!」
と、リシアにピッと指を差されてしまった。
「ユーナ・オーマチ…。」
「あ、だけど本人の前でオーマチ姓を口にするのは禁忌よ。他の荒っぽい冒険者や、あのギルドの受付嬢でさえ『ユーナ様』って呼ぶくらいなんだからね。」
(あのパツキンブラックメッシュ嬢でさえ気を遣うのか。)
「パーティも組まず、常に一人で行動してて、気難しそうなお方よ。笑ったところも見たことがないわ。私は苦手だな…」とエレナがこぼすとリシアが「そこがかっこいいんじゃん!」と返す。
「あんなに強ければ軍幹部や豪商の護衛として引手数多なのに、組織には属さず自由に生きてるの! 憧れるぅ!!」
「目標とする人がいるのはいいことだな。ところでそのユーナ様は、なぜオーマチ姓を嫌う?」
エレナが逡巡し、「まぁ、周知の事実だからいいか。」と独りごちる。
「ユーナ様は、元はサイレル領の貴族様だったよ。サイレル領南部の、リンネ海に面した地域ね。そこを統治していたオーマチ子爵の長女だったの。今ではサイレル公爵家の直轄になっていて、王国でも有数の大港・ラガン港がある。」
「ほう、それで?」
「10年前くらいにそのサイレル公爵家からお取り潰しされて、当時の当主、リーラ・オーマチ子爵は打首になって、残りは追放されたっていう話よ。どうしてお取り潰しになったのかは知らないけど、当主を失った一家は結局は行く当てもなくバタバタと亡くなってしまって、残ったのはユーナ様だけになったって。」
リシアが引き継ぐ。
「だからオーマチ姓はそのまま『没落した貴族』を意味するの。理由が何であれ、爵位を無くした貴族は嘲笑の的になるのが世の常だからね。それにユーナ様は権力が嫌いなんだと思うわ。家を取り潰して母親を処刑したサイレル公爵はもちろん、それを承認した王家のことも気に食わないはずよ。だから組織にも属さない!…と私は勝手に思ってる。」
(サイレル公爵家に取り潰されたオーマチ子爵、そして今は大港がある、か。どうもキナ臭ぇな…。)
「なるほど、せいぜい気をつけるよ。」
「そうなさい。この間も世間知らずの新人冒険者がユーナ様をおちょくったら、即治療院送りになったって話よ。」
(おっかねぇ…。)
「あ、あぁ、そんな無礼はしないさ。」
気付くと、遠くに王都の城壁が見えてきた。
―◇―◇―◇―
日が暮れるころ、王都の白鷺亭に戻る。
道具箱に収納した魔化狗の爪を取り出して眺めてみる。
なかなかに鋭く、黒曜石で造られたナイフのようで美しい。
あの後、王都の冒険者ギルドに戻り、依頼達成の報告した。
薬草採集の報酬として銀貨1枚。それから、『月の雫』から荷物持ちの報酬として銀貨2枚と、フィオナを助けてくれた礼ということで魔化狗の爪10本を渡された。
その一つがこれだ。
(次にポーラに会ったとき、いくらで売れるのか聞いてみよう。それから―――)
人差し指を立て、意識を集中する。ライターの火が点くイメージで―――
フワっと、マッチ程の火が人差し指の先に灯る。
(なるほど、最低限の魔法は使えるのか。それにしても自分の指先から火なんて、シュールだな。)




