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バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
1章 生活基盤

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05_身バレと香辛料

初回納品から2週間が経った。


その間、ポーラは3度ほど白鷺亭に遊びに来た。


ウィスキーとチョコレートは予想を上回る評判で、既に2回目の納品も決まってしまっていた。しかもウィスキーとチョコをそれぞれ50で、だ。


それに、どうも素性のしれない摩訶不思議な商品を売る俺という人間に好奇心が尽きないようだった。


「なんか背が高い」「なんか肩幅広い」「なんか声低い」「珍しい瞳の色している」「胸小さくない?」

など、元世界のコンプライアンスに照らせばアウトな発言もあるが、別にこの世界では普通だという。


(中世にコンプラなんて無いからな。まぁさすがに胸の件は冗談めかしていたから、その辺りのことに触れるのはさすがに非常識ってことかも知れねぇ。)


いずれも仕事の合間を縫って外出の途中で立ち寄るだけだから滞在時間は10~20分くらいなのだが、ポーラの興味は尽きないようで、商品や出自についてあれこれと尋ねてくる。


のらりくらりかわす度、頬を膨らませる姿が可愛らしい。


王都最大の豪商の令嬢として振舞っているのは商談のときだけで、二人で話すときはただの二十歳の娘。


そんなポーラが―――


「ツカサさん、ご在室でしょうか?」


今日もやって来た。


(今日は何を聞かれるものやら…。)


はいよー、と、特に何も注意せずにドアを開ける。


最初は気を張っていたが、4回目となるともう慣れた。


そう、慣れは危険なのだ。車の運転だって慣れた時が一番事故りやすい。


部屋のドアを開けると、目の前に立つポーラが目を見開いて固まっている。


「…どうしました?」


「ツカサさん、あの、その髪型、どうされたんですか…?」


「ん? 髪型??」


ポーラが何を言いたいのか理解した途端、血の気が引くのを感じる。


(カツラ被るの忘れた…!)


「髪型!そう髪型!! 良く気づきましたね!!! 実は、金髪かっこいいなと思っていつもはカツラだったんですよ~。この黒髪が地毛なんです! いや~、見られちゃったなぁ。まぁ髪の話はいいじゃないですか! それで、今日はどんなご用件で?」


ポーラは何かを確信したかのような笑みを浮かべる。


「何か隠してますわね、ツカサさん。いつもはぐらかされているばかりですが、今日という今日は逃がしませんのよ。」


(ですよねー…)


肩を落とし、諸手を上げる。


「さ、お入り下さい。」


ポーラを部屋に入れると、無遠慮にベッドに腰を掛けて勝ち誇った顔を向けてくる。


「それで、何を話してくれるのかしら?」


「そんな風にに年上を問い詰めるもんじゃないですよ。まぁ、いつまでも隠し通せるもんじゃないですね。実は俺、男なんですよ。」


「はい?」


―◇―◇―◇―


そこから俺は、自分が男であること、ある日目覚めたら王都近くの森で目覚めたこと、王都に辿り着いたこと、ポーラに会うまでのあらましを説明した。

さすがに異世界人だとか、異世界から物を召喚しているとかは言わない。

大海を超えた遠くの島国からやってきた行商人という設定は変えない。まぁ、完全に嘘というわけではないからいいのだ。時空の海を越えてきたってな。


最初はあしらうかのように聞いていたポーラだったが、話が進むにつれ怪訝とも真剣ともつかない表情になっていった。


「というわけです。まぁにわかには信じては貰えないでしょうがね。最初は焦りましたよ。女しかいないし、老けにくいなんて。」


「ツカサさんの故郷では男性が普通にいて、しかも老けるということですか?」


「えぇそうです。気付いたら若返ってたんで、驚愕しすぎで逆に落ち着きました。」


「信じられませんわ。でもツカサさんから卸して貰ったあの品々、どれも私の常識外のものでした。ですがそうであれば説明が付くのかもしれません。…では、男性だというのも本当なのですか? 声が低いのも、胸が無いのも、男性だからということでしょうか?」


「その通りです。個人差もありますが、一般的に男は女性より背が高く、筋肉質で、肩幅も広い。それに女性のような乳房はありません。」


「あの…失礼ですがお胸を触らせてもらっても…?」


「えぇ、構いませんよ。」


ポーラの指が大胸筋に触れる。ちょっと恥ずかしい。


「硬いですわ…。これが男性の身体。。」


(顔が赤いぞ、ポーラ嬢。)


「分かりました、信じますわ。ただ、だったらより一層正体を隠さなくてはなりません。この世界で男性は神話上の存在。国によっては神です。ツカサさんの存在が公になれば、ギルドや商会などの騒ぎではなく、各国が軍を動かしてツカサさん獲得に向けて躍起になることでしょう。最悪、戦争になります。」


「そんな大げさな…。」


「いいえ、決して大げさではございません!」

思わずといったようにポーラが声を上げる。


「この王国では男性は遥か太古の昔、世界の礎を作り、地上に暮らす人々に幸福をもたらす存在として語られています。他の国も似たような神話が語られているのです。しかも隣のコニック法国では、彼らが崇めるコニック聖教の絶対神が男性神なのです。ありとあらゆる権力者がそれぞれの思惑でツカサさんを手中におさめようと行動を起こすのは火を見るより明らかですわ!」


(マジかよ…)


「ツカサ様、フォルテ商会は全力であなたをお守りします。ですのでどうか、街を歩く時や誰かと話すときは細心の注意をお願いいたします。あとそうですね…宿も、フォルテ商会の別邸がございますのでそちらで寝泊まりしてもらえますか? 普通の宿では心配ですの…。」


(そんな潤んだ目で見つめられちゃうと、おじさん困っちゃうよ…。)


「そうですか、そこまで仰るのであれば、そうしましょうか。ただ、ツカサ様は止めて下さい。いつもどおりツカサでいいですよ。」


ポーラの表情がパっと明るくなる。


「ありがとうございます、ツカサ様!…いえ、ツカサさん…。」


(やめろ、そんなグッとくるような上目遣いをするな。こちとら43だが性欲は20代に逆戻りしてるんだぞ。)


「いえ、こちらこそありがとう。そいうえば、隣の法国? でしたか。ここにはそれ以外にも帝国やら連邦やらがあるそうですね。」


(そういえば、ヴェルデ村のミラはいくつか国があると言っていたな。あのときはそれどころではなかったからすっかり忘れてた。戦争なんて物騒な単語を聞いちまったら、この世界にどんな国があるのか、どんな政治体制なのか、火種はあるのかみたいなことが気になっちまう。)


先日ポーラからもらった世界地図を広げる。


挿絵(By みてみん)


「はい、ビーアル帝国、スピタス連邦、コニック法国という3つの国々に囲まれていますわ。ただ商人として目下の懸念点は…。国外、というより国内なのですが、1年前くらいからウィネ共和国から輸入される香辛料が値段が高くなっているのです。前はインバイト領からもある程度は流通してきていたのですが、今は殆どがサイレル公爵領経由ですわ。しかも価格は以前の50%増しくらいでしか買えないものですから、王都の商人は皆頭を悩ませているんです。かくいうフォルテ商会も独自にその原因を調査していますが、さすがに商会の力だけでは分からないことも多くて…。」


ポーラがサイレル領とインバイト領を指で示す。

クワガタの顎の内部の沿岸線は、その全てがサイレル公爵領に含まれる。


挿絵(By みてみん)


(なるほど、だから商業ギルドでは言い淀んだのか。)


「それは、サイレル公爵領で何かしらの不正が行われているのでは?」


「それは私も考えましたが、どのような不正なのでしょうか。」


「それは分かりませんが、例えばですね、サイレル公爵領の商会が結託して、仕入れた胡椒の売値を高値に設定するんです。結託してるから競争が起きずに価格は下がらない。」


「そんなこと、領主のサイレル家が許すはずがありませんわ。」


「いえですから、そういった不正を見逃すかわりに、商会はサイレル家に利益の一部を納めるんですよ。」


さも当然、と言い切ったつかさにポーラが青ざめる。


「…それは、サイレル公爵家による王家への背信では?」


「そういう可能性もあるということです。20年前から海上貿易が盛んになってきたんでしょう? サイレル公爵家が管轄する地域は海上貿易の恩恵を最も享受できる。だとしたら、王家をちょろまかそうって気が起きるのが人情ってもんです。」


「そんな…でも、先日申し上げたとおり、このヴェレンタ王国は、王国と言いつつ地方貴族が強いのです。その延長線上で、不正を考えたとしても不思議ではない…。」


「まぁ、可能性の一つです。実際は、暴利を貪りたい商人連中がこそこそ不正を働いてるだけかもしれませんがね。」


「いずれにせよ、打つ手はございませんわ…。」


「他の国から調達しては? それか、共和国の商人と直接取引してみてはどうですか?」


「香辛料を輸出しているのはウィネ共和国だけなのです。他の国は栽培に適した気候ではないようで…。それに、サイレル領でサイレル領以外の商会が香辛料の取引をしようとする場合、ガーク商会なる共和国との窓口を担当している商会に売上の5割を手数料名目で取られてしまうのです。とてもじゃありませんが商いになりませんわ。」


「手数料で5割? 事実上の締め出し、事実上の税ではないですか。課税権は王家だけのものなんでしょう? どうしてそんな無法が放置されているんです? さすがに度が過ぎているような気がしますが。」


「それが、何度も王宮に陳情しているのですが、いつもなしのつぶてでして…。」


(何か臭うな…。)


「うーん、なにか理由があるんでしょう。ただ、フォルテ商会に香辛料を卸すことはできますよ。次の納品の時にサンプルをお見せしましょうか?」


「本当ですか!? ツカサさんは香辛料も取り扱っておられるのですか!?」


食い気味に乗り出すポーラの顔が近い。その下の双丘も近い。


(やめろ、惑わすな…。)


「え、えぇ。次回の納品のとき試供品を持っていきますね。」


「ありがとうございます! ツカサさんは商会の救世主ですわ!」


ポーラが心底嬉しそうに手を握ってくる。潤った掌の感触にドキリとしてしまう。


(止めろ! 止めてくれー!!)


「はい、ではまた納品のときに…。ところでポーラさん、仕事中ではないのですか? そろそろ商会に戻らないと心配されますよ。」


「いけない、そうでしたわ! 次の納品、楽しみにしてますね!」


そう言って、ポーラは帰り支度をはじめる。


「また、こうしてお邪魔してもいいですか?」


部屋から出るとき、名残惜しそうに聞いてきた。


「あ、うん、どうぞまたいらしてください。」


嬉しそうに微笑みスキップしながら宿の廊下を進むポーラを見送る。


(まぁ、この世界には男がいないから、人間同士の距離感はあんなもんなのかもしれないな。いや、そうに違いない。そんなことより、冒険者ギルドにでも行って、まずは冒険者登録をしてこよう。ポーラに話すとまた余計なことを言われそうだからな…。)


―◇―◇―◇―


身支度をして宿を出て、歩いて20分ほどのところにある冒険者ギルドに向かう。


木造にしてはひどく立派な3階建ての建物にはいかにも冒険者風の女性たちが出入りしており、頑丈そうな両開きの入口の上には、盾と剣をあしらったレリーフが飾られている。


中は商業ギルドとは違い、荒々しさというか、現場感というか、そんなふうな空気が漂っている。


商業ギルドを普通のオフィスだとすれば、ここは建築作業員の詰所のような雰囲気だった。


(受付は…あそこだな。)


「済まないが、冒険者登録を頼みたい。」


足を組み、椅子に斜に構えて羊皮紙に何やら書き込んでる受付嬢が胡乱げな目を向けてくる。


美人だが、金と黒のメッシュのロングという髪型と切れ長の目がなんともおっかない。


「なんだ新入りかい。これに必要事項を記入してくれ。文字が書けなきゃこっちで書いてやるから質問に答えてくれ。」


申請用の羊皮紙を人差指と薬指で挟んでヒラヒラさせる。


「記入する。」


「助かるよ。そこにペンがあっから書いたらまた声掛けてくれ。」


と言って羊皮紙をずいとこちらに突き出し、受け取るとすぐに自分の作業に戻っていった。


(冒険者ギルドって感じだねぇ。可愛らしい気弱な受付嬢なんて、ファンタジーでしかねぇな。)


記入欄には名前、出身、得意な武器、魔法が使えるか否か、他ギルドや他国ギルドでの登録の有無、その場合のランク、従軍経験有無などの項目がある。


商業ギルドのように保証人欄や推薦欄は無い。


取り敢えず、それら項目に沿って記入する。


出身は相変わらず「遠方の島国」、得意な武器は「弓」とした。


記入を終え、先ほどの受付嬢に申請書を渡す。慣れた様子で確認する目が俺を捉える。


「遠方の島国だって? あんたワケアリかい?」


「そういうわけではないのだが、問題が?」


パツキンブラックメッシュの受付嬢がニヤリと笑う。


「ぜんっぜん。冒険者の中には素性の知れねぇヤツなんて山ほどいるさ。いちいち身元確認なんてしてたら冒険者がいなくなっちまう、てぇのは言い過ぎだけどな。」


(商業ギルドのように身元保証や推薦が不要なのは、間口を広げておくためということか。)


「素性が怪しくても依頼をこなしてくれる人間を確保したいってことか?」


「そーだよ。依頼は増える一方、帰ってこねぇ冒険者は多い。死んだか飛んだか、まぁどっちかだよ。っつーわけで、脛にキズのある奴だって大歓迎さ。」


はいよ、と言ってカウンター下から水晶を取り出す。


「この水晶に手ぇかざしてくれ。」


(お? 出たな不思議な水晶。)


手をかざすと、下のプレートに印影が刻まれる。


受付嬢がプレートを人差指と薬指で挟み、こちらへ寄越す。


「実績のない新人ってことでブロンズランク、まぁ最低ランクからのスタートだよ。」


「ありがとう。」


「依頼は壁に掛けてあっからテキトーに見繕って持ってきてくれ。ただ、自分のランクの一つ上のランクまでしか受けれないからな。ブロンズランクだとシルバーランクまで。それから、月に最低3つは依頼を受けること。でなきゃ自動的に失効だよ。まぁ今は月中だし取り敢えず5月末までに3つでいいさ。緩い審査の代わりにちゃんと働けってこった。」


(緩い審査で最低限の身分保証をしてやるから依頼をこなせってことか。軍隊だけでは手が回らない、あるいは軍隊が動くほどもない案件も多いんだろうな。)


「それにしてもアンタ、身体ゴツくて背も高くて、それに眉毛もぶっとくてなかなか精悍な顔つきしてるねぇ。嫌いじゃないよ、あたい好みだ。」


(唐突にナチュラルにナンパするのは止めてくれ…。今の俺は簡単に靡いちまうぞ。)


「…あぁ、ありがとう。せいぜい死なない程度に頑張るよ。」


「なんだ釣れないねぇ。さて、これで手続きは終いだよ。せいぜい頑張んな。」


言って気だるそうにヒラヒラと手を振る。


(見た目はアレだがなかなか好感が持てる受付嬢だったな。わりと好みだ。取り敢えず、依頼を見てみよう。)


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