04_商業ギルドと世界地図
フォルテ商会の馬車に乗り、ポーラと護衛とともに商業ギルドに向かう。
馬車に揺られること30分。場所は行政区画の一角を占める、一際大きな石造りの建物の前で止まった。
「さて、着きましたわ。」
馬車を出て、見上げる。
(えらい立派だな。。)
「ここはヴェレンタ王国王都の商業ギルドですので、建物も立派ですのよ。それから、各種情報も整理され公開されていますわ。もし商慣習などで分からないことがあればここで調べるのも手でしてよ。」
―◇―◇―◇―
ポーラに連れられて商業ギルドに入る。
落ち着いた雰囲気の室内に、職員用の広い執務スペースと商談用のテーブルがいくつか。
それから壁一面の本棚に各種公開書類が並べられている。
中には受付職員の他に羊皮紙とにらめっこしている職員や、情報収集や商談のために来館している商人風の女性たちで賑わっている。
そんな中、職員の一人にポーラが声をかけた。
「ごめんくださいまし。商業ギルドに登録をお願いしたい商人がいらっしゃるのですわ。」
「あらポーラ様、お久しぶりでございます。
登録をお願いしたい商人、というと、フォルテ商会の推薦でございますか? お珍しいことですね。」
と、ポーラと顔馴染みらしい眼鏡を掛けた職員が興味深そうにこちらを見る。
「そうですのよ。王都に保証人もいないのでフォルテ商会の推薦としたいのですわ。手続きのほどお願いできるかしら?」
「はい、ではこちらへ。」
そう職員に促され、カウンターで登録手続きを始める。
さすが王国最大の商会というべきか、受付や職員とも顔馴染みで、驚くほど手続きはスムーズに進んだ。
申請書には「名前」「出自」「取り扱う品」などがあり、それぞれ「ツカサ」「遠い島国」「その島国の珍品」と記入した。
普通なら受理してもらえないような内容だろうが、申請書最下部の「推薦者」の欄に記入された『フォルテ商会 当代全権代理ポーラ・フォルテ』の威光が全項目をオールグリーンにしてくれたようだった。
「ではツカサ様、こちらの水晶に手をかざして下さい。」
受付嬢がカウンターの下から拳大の水晶を取り出してカウンターに置く。
「は、はい…。」
取り敢えず言われた通り手をかざすと水晶が淡く光り、水晶の下のプレートに印が施された。
(…どういう仕組みだ?)
「こちらが商業ギルド証となります。くれぐれも紛失にはご注意ください。」
受付嬢からその印が押されたプレートを差し出され、戸惑いつつも受け取ってポケット仕舞う。
「お手続きはこれにて完了です。お疲れ様でした。
3年間取引実績がないと自動的に無効となりますので、ご注意ください。
その他注意点の仔細はそちらの会員規約冊子に記載されておりますので、是非一部お持ちいただき、内容をご確認くださいませ。」
と、カウンター端に積まれている小冊子を案内される。
「一応ちゃんと読んでおくとよろしいわよ。」
ポーラがそう言うので、ありがたく一部もらっておく。
「分かりました。一読しておきましょう。
ところでポーラさん、このギルド証はどういう仕組みなのでしょうか。
水晶が印を押したように思えたのですが…。」
「あら、ツカサ様の故郷では違うのでして?
あの水晶は個々人の魔力紋を印影化して魔石盤に書き込むのですわよ。
商人同士の商取引や納税の時に魔力で相手のギルド証を読み取って、お互いに本人確認をしますのよ。」
(イメージ的には電子署名みたいなもんか…。いや、でも。)
「自分、魔力なんてありませんけど。。」
ポーラが目をパチクリさせて、その後、口に手を当てて笑いを堪え始める。
「いえ、申し訳ないことですわ。悪気はありませんのよ。
ツカサ様、充分に魔力を使われてますわよ。
先ほどの水晶、ツカサ様の魔力に反応してそのプレートに印を押したのですわ。ツカサ様の魔力紋こそが、そのプレートに押された印なのでしてよ。それに、魔力無しでは琥珀酒やお茶菓子を召喚することなどできませんわ。」
ギルド証を取り出してまじまじと見る。
なんとも言えない不規則な柄の印が押されている。
これが俺の魔力紋。指紋や静紋のようなものなのだろうか。
てか、道具箱や物品召喚って魔法だったのか…てっきり俺限定のスキルかと。。
「では、魔力の無い人間はどうするのでしょうか。」
「魔力の無い人間などありえませんわ。身体に血が流れていない人間がいないのと同じで、魔力は誰にでもございます。
もちろん、冒険者の魔導士や、軍の魔道兵などはおりますが、それは魔力を『どれだけ強く出力できるか』という個人差であって、魔力そのものが無い人間はおりませんのよ。」
(なるほどなるほど。まだまだこの世界について知っておくべきことは沢山あるようだ。
なぜ老化しにくいのか、なぜ女だけなのか、魔物って結局なんなのか、とかな。
それからもう一つ、知っておかないと個人的に気持ち悪いことが一つある。)
「いえ失敬。この国にきてから、どうも故郷の常識が通じないことが多くてですね、ご教示感謝します。
感謝ついでにもう一つ、この国や各国が載った地図などはありますでしょうか。」
「地図、ですか?
王都内部の細かい地図は防衛機密にあたるので手に入りませんが、世界と王国のおおざっぱな地図ならそこの棚にありますわよ。」
「そうですか、ありがとうございます」
棚から、四つ折りになった大判の地図を取り出す。
(おー、これがこの世界の形か。当然だけど元世界と全然違うなぁ。ちょっと感動。)
(とはいえ、縮尺が分からんな。。
この北の陸地の南部、クワガタの顎のような地形をしていて愛知県の渥海半島と知多半島みたいだ。
広さもだいたいそうなのかな。。
だとすると、大陸と書いてあるがかなり狭いな。せいぜい中部地方+α 程度の面積ってところか。)
「それは世界地図ですわ。この王国を含め、世界各国が記載されています。」
「なるほど。ところでポーラさん、この北部の陸地の南部、クワガタの顎のような形をしているが、
この顎の先から反対側の顎の先まで陸路で旅客用の馬車を使うと、移動に何日くらいかかるのですか?」
「王国南端からセプテン大陸側の公国南端までですわね。
そうですわね、順調に進んだとしても、8ヶ月くらいは掛かりますわ。
人間や馬の休日を考えると、9ヶ月~10ヶ月といったところですわね。」
「…」
(何が愛知だ、考えてたスケールと全然違ぇ! 地球で例えると…あー全然どこと同じかは全く分からないけど、相当なデカさだぞこりゃ。。
恐らくこの星の裏側にはまだ発見されてない大陸やら島などがあるんだろうけど、少なくともこの王国や周辺国はこの南北2つの大陸で成り立ってるっていうことか。。)
「どうかされました?」
「いえ、何でも…。
あ、あと一つ聞いていいですか? この北端と南端の地域が白く塗られているのはなぜなんでしょうか?」
「スピタス連邦とウィネ共和国南部ですね。こちらは年中氷に覆われているらしいですので白く表現されています。それがどうかなさいましたの?」
(氷漬け…。寒そうだ。。)
「いえ、なんでも。。
ところで、ここはヴェレンタ王国の王都ということですが、国内の情勢は安定しているのでしょうか。
商人として、自分が住む国の情勢くらいは把握しておきたいものですので。」
「本当に何もご存知ないですのね。。
分かりましたわ。この国の情勢について少しお話いたします。あちらの広いテーブルに移動いたしましょうか。」
―◇―◇―◇―
商談用のテーブルに移動し、地図を広げる。
「まずヴェレンタ王国内部について。
ヴェレンタ王国は王政ではありますが、地方貴族が力を持つ地方分権国家ですの。
中央一帯を王家、東側をキート公爵家、西側をインバイト公爵家、南方をサイレル公爵家がそれぞれ統治していますのよ。ただし、外交権、戦争権、課税権など国家運営の軸となる権力は王家のみが保持していますわ。」
「各貴族は王家に忠誠を誓うことで、ある意味地方貴族への信頼で成り立っている、と?」
「仰る通りです。地方貴族と王家の軍事的な緊張などはございませんわ。ただ…」
「ただ?」
「…いえ、こちらの話です。」
ポーラが咳払いをして続ける。
「それから、20年ほど前から造船技術や航海技術が発達して、今ではこの王国を含めた全ての国が海路を用いて各国と貿易しておりますの。かくいうフォルテ商会も、その海路貿易にいち早く着目して今の地位を築き上げたのです。」
「ご慧眼、恐れ入ります。 海路は帆船で?」
「左様ですわ。
陸路で1年弱掛かっていた旅路も、今では海路が開拓されておりますのよ。
海路ですと王国南端からテキラ公国まで、リンネ海を横断して1ヶ月~1ヶ月半というところですわね。」
「各国の造船技術や航海技術、文明レベルはだいたい同じなのですか?」
「えぇ、そうですわね。ただテキラ公国の造船技術は他国より頭ひとつ秀でていると言われてますわ。
常にウィネ共和国からの軍事的脅威に晒されているせいか、頭数ではなく質で対抗せざるを得ないのですの。最初に海路で貿易を始めたのも、テキラ公国ですわ。」
(さしずめ異世界の大航海時代ってところか。
だが、元世界とは違い各国の文明レベルに差が無いから植民地支配とはならず、自由貿易経済にシフトしようとしている最中って感じかな。)
「商人としてはこのまま交易が発達すればいいと思うのですが、各国が躍起になって海軍力の増強をしていることも事実です。戦争は物価上昇圧力の根源なので勘弁願いたいものですわ。」
(やっぱり。当然、この世界は力こそパワーだよな。隙を見せれば攻め入られるのが道理だ。嫌になるねぇ。)
「王国に戦争を仕掛けてきそうな国は…。失礼、愚問ですね。全ての国家がそうなり得る。
そして、諸外国からみると王国もその一つである、と。」
「その通りでございますわ。」
「ちなみに、この山脈や森に記されてるコウモリみたいな印がついているところはなんなのでしょうか。」
「それは魔物が多数出没することを現しています。数だけでなく、人里近郊では遭遇しないような凶暴な種族や、そもそも個体そのものが強い魔物が数多出現する地域とされていますわ。軍隊ですら近づけないと聞きますわね。」
(魔物、か。
そういやミラも「低級の魔物はたまに出没する」とか言ってたな。ステータスを上げたら、異世界っぽく魔物退治に繰り出すのも良いな。)
「そんな嬉しそうな顔をなさって、どうかされましたの?まさか魔物の討伐でもなさるおつもりですか?」
ポーラの鋭い指摘に咳払いする。
「いえ、そういうわけでは。。ただ、冒険者というものに興味はあります。」
「冒険者ですか。。
冒険者は騎士とは違い、何の保証もない代わりに腕次第では高報酬が見込めます。
ですがツカサ様が商いで稼ぐ金額に比べれは遥かに少ないですわよ。
私としては、ツカサ様にはこのまま商人として…」
「分かっていますよ。
本業は商人で、たまの気分転換に簡単な依頼をするだけにします。」
(魔物との戦闘。なんと少年心をくすぐる響きなんだろうか。)
「で、あればいいのですが…。 約束ですわよ。」
心配そうに見つめるポーラに、年甲斐もなくドキリとしてしまう。
(若返りの弊害だぜ全く。。身体がわかくなれば、心まで若くなるとか? いや、そんなわけはねぇだろ。無い無い。)
「えーと、こういう地図を1枚いただけますか?」
「構いませんわ。商会に戻れば在庫がありますので、帰りにお渡しします。」
「助かります。」
さて、帰るか。
―◇―◇―◇―
再び30分掛けてフォルテ商会に帰る。
商業ギルド証を得たことで、フォルテ商会と無事に取引することができた。
代金の金貨を受け取り、フォルテ商会を出る。
ポーラ自らが玄関先まで送ってくれる。
これからも優先的に卸すという覚書を交わしたことで、売価の5掛けで卸すことができた。
ウィスキー10本×金貨5枚=金貨50枚。
チョコアソート10箱×金貨5枚=金貨50枚。
合計金貨100枚也。
白鷺亭に帰る道中にふと思い立ち、ホログラムを起動する。
金貨1枚をステータス欄に近づけると、手から金貨が消え、代わりに
「どのステータスを上昇させますか?
[攻撃力][防御力]」
というダイアログが表示される。
なるほど、金貨しか受け付けないのか。
防御力を選択する。
すると、防御力が10.0から10.1に変化した。
(金貨1枚で0.1上昇、ね。世知辛ぇな。。)
作中に掲載した地図ですが、恥ずかしながら地形も国名も作者がイチから考えたマップになります…ww
今後の展開次第で都合悪いところは微修正するかもですが、大きな変更を加える予定はありませんので、温かい目で見守ってやってください(^^;)




