059_研究 その2
さて、浴場に籠もって早速実験に取りかかる。
先ずは拳大の魔石を4つ、浴槽底の四隅に配置する。そこに水をイメージした魔力を注ぎ込み、放出する。
すると、魔石4つを頂点とした四角形から、水がじゃぶじゃぶ湧き出てきた。放出を強めるとさらに勢いよく溢れ出てきて、直ぐに浴槽に水が溜まった。
放出を止め水に手を浸ける。思った通りの冷たさで、湯温計で計測すると3℃だった。
次に4つの魔石を2つに減らして同じ実験を行う。すると、2つの魔石を結ぶ線からじゃぶじゃぶ水が湧いてきた。なるほど、面ではなく線でも使えるらしい。
ついでに魔石1つで同じことをやってみる。予想通り、魔石単体から水が湧いてきた。
(点、線、面で使えるってわけか。面を応用すれば立体も可能。可能性は無限大だぜ。)
ここまでは予想通り。問題はここからだ。
祝賀会で葡萄酒を収納したときのように浴槽の水を収納し、ついでに魔石の魔力も回収する。
(我ながら便利なもんだぜ。さてここからだが…)
再び魔石に魔力を注入する。今度は先程とは違い、温かい水、つまりお湯をイメージして注入する。魔力自体はスムーズに注入出来ていることを確認し、注入を止める。
まずは第一段階は成功、といったところか。
次いで解放。先程と同じように水がじゃぶじゃぶと湧き出てくるが、違うのは芳しいほどの湯気が立ち上っていることだ。
こ、これは――
手を浸けてみる。温かい。紛うことなき『お湯』。湯温計で計測すると40℃、良い湯加減だ。
お湯だ! やった、成功だ!! 何もかもが思った通りだ!!!
これでいつでも簡単に風呂に入ることができるぜ。いちいちあの面倒な作業をやる必要も無くなる。なんて素晴らしい! QOL爆上がりだぜぃ!!
お湯を収納し、魔石の魔力を回収する。
さて、取り敢えずの目標は達成したが、せっかくの機会なので色々と試してみることにする。
まず初めに、『扇風機からの風』をイメージして魔石に魔力を注ぎ込む。そして解放すると、魔石で形作られた長方形からまさにイメージした強さの風が出始めた。
次に水…はさっきやったからいいので今度は電灯をイメージして魔石に魔力を注ぎ込む。そして解放すると、魔石が電球のように光を放ち始めた。
(よし、これで扇風機と電球ゲットだ!)
光を止め、ホログラムを表示する。スキル欄の『魔法』の欄には『魔法(無、火、土、光、風、水、お楽しみ)』とある。『お楽しみ』、完全にふざけてやがる。
(お楽しみ、うーん、お楽しみ、ねぇ…。)
『お楽しみ』と表示してあるということは、このお楽しみ属性はなんの属性か分からないが使えるということである。
(このホログラム、テキトーだからな。ステータスの定性評価も『すごぉく強い!!』だ。舐めてやがる。)
そこまで考えてあることに思い至り、再び魔石に手を翳す。
水はH₂O、要はただの物質だ。もしイメージ通りのものを具現化できるのであれば、金すなわちAuだって出力できるはずだ。
『お楽しみ』とはイメージ通りのものを具現化できる属性だったりして…!
イメージは金貨。集中し、魔石に手を翳す。が――
魔力が注げない。どれだけ掌に集中しても全く注ぐことが出来ない。そして、試しにここでイメージを水にすると、すんなり魔力が石に流れ始めた。そして再び金をイメージする。と、魔力流出が止まってしまった。
(やっぱり無理か…。知ってた、うん、知ってたよ。。)
同じように、鉄やパンも具現化できなかった。というわけで『お楽しみ』は思った物を具現化するような属性ではないらしい。
そりゃそうだ。仮にそんな属性があれば、俺の『物品召喚』スキルの超上位互換だ。
(世の中そんな都合よくできてないってこった。まぁそれはいいとして、もうひとつ。前々から疑問だったけど、この『無』ってなんなんだろうか…。)
無属性とはいったいなんぞや。
この世界の人間は魔導師はもちろん、ミラやポーラなどの常人も属性を意識している。基本的には火球を打つための『火属性』と防御結果を張る『土属性』。この2つがメインだ。そう考えると、魔幻霊相手に風刃を放ったり、魔化狼相手に雷を落としりしていたユーナは、少なくとも火、土、風、雷を使えることになる。あと、回復魔法も使えるので『木』もだ。
『火』・『土』が一般的なこの世界において、少なくとも5属性を扱えるユーナはさすが大魔導師様というべき者だろう。しかし『無』とはなんなのか、てんで見当もつかない。
考えても仕方ないので今できる実験を再開させる。
さて、今できることは…。
再び扇風機の風をイメージして魔石に魔力を注ぎ込む。そして解放。心地よいそよ風がそよぎ始める。
そこで魔石が形作る面積を4分の1程度にしてみる。だが、風の強さは変わらない。
なるほど、出力面積を変えても出力自体は不変らしい。つまり、くちを絞っても放出の勢いを強めることはできないということだ。
だったらと思い、リセットしてやり直す。ほんの僅かな魔力を注ぎ、風を起こすとともにストップウォッチで計測すると、1分15秒程度で風が止んだ。魔力切れだ。
次に、先ほどと同じ程度の魔力を注ぎ、風を起こすとともにストップウォッチで計測する。ただし出力面積は4分の1程度。すると、5分程風が吹き続けた。
まぁこれも思った通りだ。
次に手動で勢いを変えた実験を試みる。結果は同じだった。
面積や出力強度をN倍すればN倍早く魔力が消費される。つまりイメージ的には元世界の電池と同じということが分かった。
それからもう1つ。冷たい水をイメージして魔石に魔力を注いでいるときに、扇風機の風をイメージして魔力を注ごうとしたらできなかった。が、お湯のイメージなら引き続き注ぐことができた。
これらの結果から、同じ属性の魔法は注げるが違う属性の魔法は注げない、ということが言える。
緑魔石に『中に魔力が残っていると、同じ属性の魔法しか受け付けない』という特徴を付け加えてこおう。違う属性を注ぎたければ、残魔力を使い切るか、術者が回収するしかない。これはちょっと不便――
(いや、待てよ。そうとも言い切れないかもしれねぇ。)
水のイメージで魔力を注いだ魔石で三角形を作る。そして、空の魔石を逆三角形に配置して、全部で六芒星を作る。
その空の魔石に『強風』をイメージして魔力を注ぐと、魔力が伝播し他の魔石にも魔力が貯められていく。しかし思った通り、元から魔力を保持している魔石には影響はなく、空の魔石にだけ魔力が注がれていった。
つまり、『伝播させたくない魔石』には予め他属性の魔力を保持させておけばいいということになる。
水の魔石が3つ、風の魔石が3つの六芒星。この形のまま、両属性の魔石を同時に解放すると――
噴水が起きた。思った通りだ。
水の三角形と風の逆三角形の重複部分――中心の六角形から水が噴出し、噴水のようになっている。その他の『非重複部分』は、水部分からはただ水が湧き出し、風部分からはただ強風が吹き上がっているだけである。
これはつまり、属性同士の『面』を重ね合わせることによって、異なる属性を組み合わせた出力が可能だということになる。これは、使いようによってはとんでもないものを作れるかもしれない。例えば水属性の氷と風属性の風で冷房が、火属性の火と風属性の風で暖房が作れるかもしれない。それに、火、水、風でロウリュ、なんてことも…。
(可能性は無限大! でも今は取り敢えず簡単に風呂が沸かせる。それが分かっただけで満足だぜ。)
浴槽を見ると、尚も噴水が湧き出ている。止めようとして手を翳したとき、ふとあることを思い付く。
これに強化魔法を付与したらどうなるのだろう、と。
(…ものは試しだな。)
魔石に強化魔法を掛ける。既に属性化している魔石に強化魔法を付与できるはずはない―――
強化魔法を掛けた途端、噴水の勢いが増した。噴水というよりも、もはや上下逆の滝みたいになっている。
(ちょ、マジか…!?)
慌てて強化魔力を回収する。噴水は止んだが、天井から水が滴り落ち、浴場全体が水浸しになってしまっている。
(しまった、防水処置なんてしてねぇ。このままだとカビが生えちまう…。だけどそんなことより…)
なぜ強化魔法を掛けることができたのか。それは強化魔法が無属性だから―――
「ツカサさん、なんだか凄い音がしましたが大丈夫ですか!?」というミラの声に思考を遮られる。
ちょうどいい、早速ミラとポーラに成果発表だ。
―――
嬉々として浴場にミラとポーラに入ってもらい、成果を披露する。
「ではいくぞ。」
はやる気持ちを抑え、浴槽の四隅に置いた魔石に手を翳す。
「ツカサさん、ちょっと待ってくださいませんか。」
「ん? どうしたポーラ?」
「いえ、お洋服が濡れてしまうかもしれないので、着替えて来てもいいでしょうか?」
確かに、ここは浴場だ。場合によっては濡れてしまうかもしれない。
「あ、確かにそうだったな。気が利かなくて済まない。ミラも着替えてくるといい。」
「ありがとうございますわ。」
「分かりました! ミラもせっかくツカサさんに買っていただたお洋服を濡らすのは嫌ですから。」
「ミラ、いいですわね。ツカサさんからのお洋服…。」
ポーラがミラのシュミーズに視線を這わす。ミラ、相変わらずの藪蛇発言をしてくれるな…。
「ポ、ポーラ。ポーラはその、立場上いつも上等な服を着ていて、着数も多いから、別に俺が買わずともよいと思っていたのだが…」
「そういう問題ではございませんわ。」とポーラがむくれる。
こりゃ、何か買ってやらねぇといけないな。
「わ、分かった…。確かにお前には何もプレゼントしてあげれてなかったな、済まない。今度、時間があるときに一緒に買い物にでも行こうか。」
「いいですね! ミラも一緒に行きたいです!」
「ミラはダメです! 買い物はツカサさんとわたくしの二人っきりで行くことに意味があるのですわ!」
「ちぇー、つまんない。」
ポーラの間髪入れないツッコミに、ミラが口を尖らせる。仲良くて何より。
「わ、分かったから、早く着替えてきてくれ。」
―――
ミラとポーラが固唾を呑んで見守る中、浴槽の底に配置した魔石を手を翳す。
さてと、あまり2人を意識しないように…。
『着替えてきた』彼女たちは、素っ裸に浴巾1枚を巻いただけの姿だった。確かに浴場にはこれ以上なく相応しい出で立ちであるが、直視していいものなのかどうか…。胸から股に掛けて隠してはいるが、如何せん丈が短いから逆に色気が立っている。おまけに二人とも双丘が立派なので深い谷間が垣間見えるのもエクセレント!…ではなく目のやり場に困る。
努めて平静を装い、魔石を開放する。と、長方形からお湯が湧き出ると同時に湯気が昇ってきた。
「「これは…!」」
二人から驚愕の声が上がる。
出力を強めると、ものの3分ほどで十分な深さになった。湯加減もちょうどよく、もしかしたら元世界の風呂場より便利になったかもしれない。
「思ったより簡単に実現できた。ミラ、ポーラ、せっかくその恰好なんだ、浸かってみるといい。」
そう二人に勧めた途端、大きな誤りに気付く。
「じゃぁミラが最初に入ります!」
ミラが嬉々として浴槽に身体を沈める。
「あ、ちょ、ミラ…!」
時すでに遅し。綿の粗末な浴巾がお湯を吸い、じわと透ける。ミラのグラマーな肢体が透けて見えている。
やっちまった…。
「わぁ! これ、本当にお湯です!!」と無垢な喜びを向けてくるミラに一抹の罪悪感を感じてしまう。
「本当ですの? ではわたくしも…。」とポーラがお湯に身体を浸け、ミラの隣に肩を並べる。もちろん、ポーラのスレンダーな身体がスケスケだ。
「本当にお湯ですわ! こんな簡単に…!」
大層な美人が二人、1つの浴槽でキャッキャとはしゃいでいる。なんとも眼福…ではなく、果たしてどこを見ればいいのか…。
「ツカサさんも一緒にお入りになってはどうですか?」
「待てポーラ、さすがにそれは…」
「ツカサさん、もしかして恥ずかしがってるんですか? 私たちの裸なんて見慣れてるじゃないですか。」
「ミ、ミラ、そういう問題では…さすがに3人入るには狭いだろう…。」
今ここで入れば、元気になったムスコが露見しそうだ。それはちょっとな…。
「そ、そうだ二人とも。これを応用してこんなこともできるぞ。」
予め麻紐で天井から吊るしておいた魔石に手を翳す。すると、魔石からお湯が滴り始めた。出力強度を上げると、まさに蛇口から出てくるお湯の様相になった。
「これもお湯だ。このように、魔石1つでもお湯を放出することができる。これを基に、より便利なものが作れるはずだ。」
目指せシャワー。きっともう少し改良すれば緑魔石を用いたシャワーが完成するはずだ。
「凄いですね! それ、厨房にも欲しいです! お皿や食器洗うのが楽になりそうなので。」
「もちろんだ、ミラ。これは厨房にも設置するつもりだ。お前たちも魔石の稼働と停止はできるのだから、他にも何か作って欲しいものがあれば言ってくれ。」
「はい! 考えておきます!」
「本当に生活が一変しそうですわね、わたくしも楽しみですわ。」
ゴンッ!ゴンッ!――
ん?
ゴンッ!ゴンッ!――
「あ、いけませんわ。呼鐘が鳴ってます。どなたか来られたのかもしれません。」
「あ! ミラが行きます!」
ミラが慌てて浴槽で立ち上がる。たっぷりお湯を吸った浴巾がミラのグラマーな肢体にピッタリと吸い付き、豊満な身体のラインが露になる。
「ま、待てミラ。ここは俺が対応しよう。二人はゆっくり入っててくれ。」
「で、でも…」
そう言うミラを置いて、玄関に向かう。取り敢えず浴場からの脱出には成功だ。誰だか知らないが来訪者に感謝を。
ガチャリ。
玄関を開けると、一人の女性が立っていた。王城使用人の服装の彼女、たしか――
「えーと、侍従局の方ですか?」
たしか、チョコアソートを差し入れた侍女さんだ。今朝も緑魔石を届けに来てくれたが、さっきの今で何用だろうか。
「はい、宮内省侍従局の侍女、ソフィアと申します。ツカサ特務顧問様、こちらをお届けに上がりました。」
ソフィアが一礼し、一通の書簡を差し出してくる。
この侍女さん、ソフィアと言う名前だったのか。覚えておこう。それにしてもこの書簡は…
「国王陛下からの書簡となります。必ずお目を通していただきますよう、宜しくお願いいたします。」
やっぱりクララか…。
「分かった。わざわざありがとう。」
ソフィアが一礼して帰っていったのを確認し、書簡を開封して目を通す。
はてさて、何が書かれているのか。
『宛 ツカサ王家特務顧問
緑魔石は届いたか? あれを用いて存分に研究するが良い。足りぬなら遠慮なく申し出るように。
さて、それとは別に貴殿に相談したいことがある。3日後の21日の朝、王城に来るように。
貴殿の特務顧問としての初の仕事となる。成功したなら、相応の褒美を与えよう。
ヴェレンタ王国 国王クララ・ウィンダー』
一縷の望みをかけて、クララの署名の横に押してある魔力紋に魔力を通す。この書簡が偽物なら、魔力紋は反応しないはずだ。が、もちろん魔力紋は反応し、この書簡が偽物ではないことが確認できた。
さすがに本物だわな。チキショウ、王家特務顧問なんて体のいい便利屋じゃねぇか。
はぁと、内心溜息をつく。
さてと、今度はどんな面倒事を押し付けられるのやら…。




