↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
3章 謀略聖教

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/60

058_研究 その1

――基盤歴640年03月18日(朝)――


「ツカサ特務顧問、こちらで全てです。もし足りないようであれば遠慮なく申し出るように、との陛下からの言伝(ことづて)です。それでは、我々はこれにて失礼します。」


ここは俺の家の玄関前。そして目の前には一辺が腰の高さ程の大きな木箱が3つほど。


「あ、あ、ありがとうございますリンダ殿。あと…」

リンダの後ろに控え、先ほどまでこの大きな木箱の荷下ろしをしてくれていた侍女を見遣る。が、バツが悪そうに目を逸らされてしまった。いつかチョコアソートを差し入れした侍女さんだ。


俺の視線に気づいたリンダの目がキラと光る。いや、実際に光ったわけではないが俺には分かる。

「コホン。ツカサ特務顧問殿。侍従局に差し入れをされる場合は、今後は是非わたくしを通してくださいませ。」

そう慇懃に敬礼するリンダに二の句が続かない。


「か、かしこまりました…。ただ、あのときはちょっとそこの侍女さんに個人的にお詫びをと…」

「個人的な詫び? と、申されますと??」

あ、ダメだ。これ以上は火に油だ。あの侍女さんが更に小さくなっている。


「い、い、いえ、何でもございません。こんな朝早くからご足労ありがとうございました。研究成果のご報告は、また追ってさせていただきます…。」


「はい。その際はまた書簡をお送りいただくか、王城正門の衛兵詰所までお越しくださいませ。それでは、我々はこれにて失礼いたします。」

リンダとその他侍女たちが王国式の敬礼をし、王城の馬車で帰っていった。


ミラとポーラが丁寧に馬車を見送る。


「ツカサさん、これはなんですの? あと、先ほどのお詫びとは??」

ポーラのじとっした目が痛い。だが、別に隠すことは無い。


「王城で待たされている間、ちょっとした無礼を働いてしまってな。その謝意として侍女に差し入れしてしまったんだよ。」

「まぁ、それはいけませんわ。王城の侍女たちは、一挙手一投足が命取りですのよ。」

「ユーナにも言われたよ。まぁ今回は、俺の顔に免じて不問にしてくれたらしい。」

「で、あればいいのですが…。」


木箱の前に立つ。

「さて、問題はこっちだな…。」

「ツカサさん、これはなんですか??」とミラ。

「これか? これはな『緑魔石』だ。」

「りょくませき??」

ミラがキョトン顔の一方で、ポーラが「緑魔石!?」と色めき立つ。


緑魔石をくれって言ったのは俺だけど、多過ぎだろ…。


「ちゃんと伝えてなくて済まない。一応、コトがコトだけに秘匿していたのだが、実は数ヶ月前に俺とユーナが緑魔石鉱脈を発見したんだ。これはその見返りだ。緑魔石で何ができるのかを研究したくてな。」


「ツカサさん! 『鉱脈を発見した』だなんてさらっと…。緑魔石鉱脈だなんて大変なことですわよ…!」とポーラが唖然とする隣でミラが「ポーラ、そんなに凄いことなの? というか、緑魔石って何??」と無垢な疑問を口にする。


無理もない。詳細は知らないとはいえ、大商会の跡取として緑魔石の希少性を認識しているポーラと、寒村のいち村娘でしかなかったミラ。認識に相違があって然るべきだ。


「ポーラ、ミラ。ここいらで1つ、この緑魔石について共通認識を持つとしようか。ポーラも、希少性は理解しているが具体的なことはあまり分かってないだろう?」


「ええ、はい。あとは、城壁防御に使われること以外は、何も…。その城壁防御にしても基本的に機密ですので、詳しいことは何も知りませんわ。」


「よし、じゃあこいつを運び込んだら少し話そう。もしかしたら、生活がずっと便利になるかもしれないからな。」


「わかりました! そういうことならミラにお任せください。」

ミラが木箱に浮遊魔法を掛けて持ち上…がらない。


「ツカサさん…! これ、めっちゃ重いです…」


「私も手伝いますわ。」

ポーラが重ねて浮遊魔法を掛け、2人掛かりで持ち上げる。少し持ち上がるが、かなりキツそうだ。


なるほど、やはりあの侍女さんも魔道士らしい。

さっき荷馬車からここに運ぶとき、彼女は軽々とやっていたことを思い出す。


「どれ、俺も追加で掛けてやろう。」

木箱に手を翳し、掌に意識を集中させる。と、ミラとポーラが必死に持ち上げている最中に掛けてしまったので、勢い余って上に投げ上がってしまった。


「「きゃあ!!」」

突然軽くなった木箱に思わず声を上げるミラとポーラ。木箱は空中に放られた後、俺の頭に落下してきた。


危ねっ…!

とっさに腕でガードする。が、木箱の衝撃は大したことはなく、そのまま地面に落下した。


「「大丈夫ですかっ!?」」


「あ、ああ、まったくもって問題ない。ちゃんと置いてからやるべきだったな。こちらこそ済まない。」


すげぇ効力だな…。ステータスを上げると魔力も上がるのかもしれねぇ。


「良かったですわ…。それにしても、急に軽くなって…」

「何事もなくて良かったです! それにしてもツカサさんの魔力、とんでもないですね!」

ポーラがほっと胸を撫で下ろす横で、ミラが嬉々としている。いつも通り対照的な2人だ。


「いや済まない。今度から気をつけよう。」


なんか、緑魔石の研究よりも、先に俺自身の研究をやるべきな気がしてきたぜ…。


―◇―◇―◇―


「これは…かなりの量だな…。」


木箱を食堂に運び込み蓋を開けると、それぞれ直径1m程の塊が1つ入り、一抱え分の塊が4つ入り、最後は拳大くらいの塊がパンパンだった。


「…一体どれほどの価値があるのでしょうか?」

ポーラが緑魔石の前で固まっている。さすがのポーラでもこの価値を推し量りかねている。


「陛下曰く、この大きさのものを法国から輸入出来るのは10年に一度くらいらしい。」

と言ってまだ浮遊魔法が掛かる一抱えの塊を1つ、持ち上げる。


「そんなもの、値段のつけようがございませんわ…。」

「その通りだ。もちろん、フォルテ商会でコレを売ろうとは思ってないし、そもそも許可されないだろう。俺がやりたいことは1つ、この摩訶不思議な石を使って俺たちの生活を便利にすることだ。」


「…生活を便利に、ですか?」

「そうだミラ。だがその前に、さっきも言った通りこの世界でこの石がどう使われているか共有しておこう。」


―――


ミラとポーラといつも通り食堂を囲み、緑魔石について俺が知ってることを説明してやった。


法国で採掘されるものを交易で入手していること、国の取扱い物資でいかなる商会でも取り扱えないこと、いざ有事の際は王城上部にある緑魔石に魔力を流し込んで城壁都市全体に魔力結界を張ること、石から石に魔力が伝わり『面』での防御が可能であること、たまに灯(ともしび)にも使われていること、希少すぎてそれ以外の使い方について研究が進んでないこと、などなど。


「かくかくしかじか、というわけだ。あと、さっきも言ったがこの大きさでも法国から10年に一度取引できるかどうからしい。そんな石の鉱脈を、ユーナと冒険に行ったときにたまたま発見したんだ。見返りとして少し分けてほしいと陛下に頼んだんだが、まさかこんなに都合してくれるとは思わなくてな…。」


木箱と緑魔石の山を見遣る。これだけあれば色んな実験が出来そうだが、果たしてどんな『成果』を求められてるのやら。


想像しただけで胃が痛くなりそうだぜ。ったく…。


たがやるべきこと、取組むべきことは変わらない。俺は、この家でのQOLを改善する!


「まさか、そんなことが…! ツカサさん、これでは国の救世主ですわ!!」

「国王陛下にお願いを聞いてもらえるなんて、ツカサさんはやっぱり凄いです!」


なんか、こんなに褒められるとこそばゆいんだよな…。


「ま、まぁ、そういうわけだ。お前たちも外では他言無用で頼むぞ。どこで誰が聞いてるか分からないんだからな。」


「もちろんですわ!」

「もちろんです!」


「うん、ありがとう。それで、俺はコレが何に使えるのか研究を始めようと思う。魔力を蓄積すること、それから、緑魔石同士で伝播し合う特徴を踏まえれば、色々と応用が利くだろう。」


「話は分かりましたが、あまりご無理なさらないようにお願いしますわ。」

「そうです! ツカサさん、何かに夢中になると私たち過ごしてくれなくなるんですもん! 特に夜です!」

そう言ってミラが膨れる。その横でポーラが顔を朱くしている。


最近忙しくて、ローテーションさぼりがちになってるからな…。


「…あー、なんだ、今回は大丈夫だ。期限に追われているわけではないからな。」


「それなら、いいんですけど。」

「約束ですわよ。こちらからお誘いするのは、ちょっと恥ずかしいのですわ…。」

「ポーラは積極性が足りないのよ。もっとこう、むしゃぶりつかないと!」

「ミラ、あなたは節操が無さすぎるんですわ!」


むしゃぶりつくって…。

確かに、最近のミラは開けっぴろげで積極的だ。出会ったときとは大違いだな。最近では、何も恥ずかしがることなくあのメイド服を着て挑んで来やがる。

元来、そういう性格なのかもしれねぇな。


「そんなこと言ってて、もしツカサさんと突然会えなくなったらどうするの? ミラは後悔したくないの。」

「ミラ、あなたそれはどういう…」

「だって、ツカサさんは戦争にも行かれますし、これからは特務顧問としてどんな危険な任に取り組まれるのか分かったもんじゃないじゃん。出来るときに出来ることをしておかないと、いざとなったら後悔しちゃうもん。」

「それは…! でも、確かにミラの言う通りですわね…。」


なるほど、ミラの変わり具合はそういうことか。ポーラに隠れてしまいがちだが、こういうことはミラのほうがよく考えてるのかもしれねぇな。


「二人とも、ありがとう。だが俺はどんな任に就こうと必ず帰ってくる。だからあまり悲観しないでほしい。あと、いつも留守にしがちで心苦しく思っている。」


「「そんなこと…!」」

思わずといったふうに2人がハモり、お互いを見て恥ずかしそうに微笑み合っている。なんと平和な日常だろうか。


「まぁまぁ、もうこの話題はいいじゃないか。」


「そうですわね。それで、この石で何を研究なさるおつもりなのでしょうか? また国王陛下から何か頼まれてるのですか?」


拳大の緑魔石を3つ手に取り、テーブルに、正三角形を形作るように置く。


「今回は陛下からは特に何も言われてはいない。とはいえ、何かしらの報告は求められるだろうがな。まぁそれよりもこっちだ。まずは緑魔石の特徴を理解しないことには始まらない。ポーラ、今ここに3つの緑魔石を配置した。この緑魔石でできた三角形の中心に指を置いてくれ。」


「こう…ですか?」とポーラが恐る恐る三角形の中心に指を近付ける。と、そのまま何事も無くポーラの指先がテーブルに触れた。


「何も…起きませんが。」


「ああ、それでいい。では次に、この緑魔石の一つに魔力を注ぎ込む。ポーラ、指をどけてくれ。」


ポーラが手を引っ込める。それを確認し、俺は緑魔石の一つに魔力――防御魔法を流し込むと、淡く光り出した。そのまま注入を続けていく。と、魔力が伝播したのか、その他2つの緑魔石も淡く光り始めた。


ミラが「あっ」と反応する。


ある程度魔力を注入し終えたことを確認し、注入を止める。魔石は淡い光を放ったままだ。


「この通り、この石には魔力を伝播させる特徴がある。よって、石への魔力注入は全魔石に対して行うのではなく、一つの魔石に集中して注ぎ込めば、伝播可能な距離にある魔石全てに魔力を注入することができる。」


ミラとポーラが関心したように頷く。


「さてポーラ、先ほどのように三角形の中心に指をおいてくれないか?」


「わ、分かりましたわ。」


ポーラが先ほどよりも慎重に指を近付ける。と、先ほどと同じように何も起こらずテーブルに指が触れた。


「先ほどと同じです。何も起きませんが…?」


やはり、思った通り。魔力を流し込んだだけでは何も起きない。言うなれば今の状態は爆弾に爆薬を詰め込んだのと同じだ。起爆しないと何も始まらない。


「ああ、それでいい。よしポーラ、手をどけてくれ。これからが本番だ。」


ポーラがさっと手を引く。

俺が魔石の1つに手を翳し魔力を開放する。と、魔石が形作る三角形が輝き始めた。いや、これは自ら光を放っているというよりかは、周りの光を反射しているといった方が正しいか。例えるなら、元世界のガラスのように見える。

置かれた3つの緑魔石を頂点としたガラス面だ。


「ポーラ、もう一度指を近付けてくれ。」


「は、はい…」と、これまでよりも慎重に、ゆっくりとポーラが指を近付ける。するとこれまでとは違い、ガラス面らしき『壁』に阻まれ、その下のテーブルに指が触れることはなかった。


「これは…!」と驚嘆するポーラを見て「わたしも!」とミラが指でガラスに触れる。

「なんですかこれ!? 透明な板があります!!」


魔石に手を翳し魔力放出を止める。するとたちまちガラス面が消え、二人の指がテーブルに届いた。


「これがこの石のもう一つの大きな特徴だ。貯めた魔力を放出すると、他の魔石と連動して『面』を形作ることができる。今しがた注入したのは防御魔法だから、放出すると防御障壁ができあがった。先ほどの見えない板、あれこそが防御障壁だ。この特徴を応用し、広域で運用しているのがさっき言った城壁都市の防御結界だ。」


俺の説明に、ミラとポーラが先ほどよりも深く頷く。


「さて、今から最初の試みを始めるとしよう。ポーラ、この魔石の魔力、解放できるか?」


この魔石に注入した魔力を回収するのは、貯めた魔力と魔力紋が同じ者、つまり俺しか回収できない。その原理は強化魔法の付与と回収と同じはずだ。だが、貯めた魔力を開放する、つまり『トリガーを引く』ことは他者でも可能かどうか。ユーナも興味を持っていた課題だが、もしそれが出来れば相当に応用が利くはずだ。


ポーラがおっかなびっくり魔石に手を翳し、集中する。すると、先ほどと同じように透明な板が現れ、ガラスのように光を反射し始めた。


「出来た…!!」

思わず叫んでしまう。


「魔物から取った普通の魔石を稼働させるのと変わりありませんでしたわ。」

そう言い、再度ポーラが手を翳し集中する。と、ガラスが消えた。魔力解放を止めたのだろう。


こりゃイケる、イケるぞ!! 緑魔石は誰でもスイッチのON/OFFが可能ってことに…ん? いや待て。


「コホン。通常の魔石と同じか。ポーラ、ありがとう。ところで魔物から取った魔石は見つけ次第破壊が原則だと聞いているが…。」


「それは、その…。小さい頃、たまたま商会に流れてきた物を好奇心から少し触っただけですのよ。お母様に見つかって酷く叱責されましたが…。」

ポーラの目が泳いでいる。子どもの悪戯、なんて微笑ましい。まぁ、アレは人間には影響ないらしいからな。


「ポーラにもやんちゃな頃があったのね! でも、誰でも使えるのであれば、何に使えるか分かりませんが、何かには使える気がします!」とミラが鼻息荒く興奮している。


「それにしても、これは凄いことですわ…。ツカサさん、こんな希少で凄いもので、一体何をなさるおつもりですか…?」とポーラが遠慮がちに聞いてくるので「ん? 決まっているだろう。風呂だ。」と即答する。


「「お風呂?」」

あまりにも予想外の俺の答えに2人が呆気に取られる。


「ああそうだ。前も言った通り湯船を準備するのが面倒過ぎる。俺はもっと手軽に、もっと素早く風呂に入りたいんだ。」


「こんな凄い鉱石で何をするのかと思えばお風呂とは、ツカサさんらしいですわね。」

「確かにお風呂は手間なので、便利になるならとても助かります!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。