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バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
2章 王国内戦

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057_祝賀会

そんなこんなで祝賀会は進んでいく。基本的には立食形式のパーティで、出席者たちがそこここで談笑している。もちろんこの場は、主要な各行政官や貴族たちにとってただの飲み会ではなく情報交換の場。きっとあちこちで抜き足差し足での交渉、或いは、笑顔の裏に秘めた打算を実現すべく腹黒い調整が行われているはずだ。


あーあ、こういう世界はゴメンだったのにな…。もうどっぷりだぜ。


俺はというと、相変わらず主賓席に着座し葡萄酒と料理を楽しんでいる。ユーナ曰く、こういう場では主賓は歩き回らず、席に座って声を掛けてくる来場者に対応するのがマナーということだ。もともと陸軍卿のランダレアと王国最大商会当主のパーラはさておき、来訪者たちとのネットワークを持たない俺とユーナに声を掛けてくる者は少数だった。俺とユーナのところに来たのは、ポーラとタラーレさん、そして海軍卿のシールールが声を掛けてきたくらいだ。


まぁ無理もない。自分たちが直接何をしたわけでもないとはいえ、ユーナには引け目があるだうし、俺に関しては全くの新顔だ。

しかし問題ない。俺一人がぼっちならしんどいが、ユーナがいる。ぼっちがもう一人いるというのは心強い。

「ぼっちがもう一人いると心強いな。」

「なに、わたしのこと? 別に私はぼっちだどうだなんて気にしてないわよ。あんた、以外に可愛いとこあんのね。」

「…ぐ。」

「ところで、あんた葡萄酒の進み具合が遅いわね。言っとくけど、来賓者から勧められた酒は全て飲み干すのが当然のしきたりよ。断るなんてもってのほか。あんた隠してるようだけど、お酒弱いんじゃない? 覚悟しておくことね。」

ユーナが面白そうにそうからかってきやがる。


「ユーナ、酒は量を飲めばいいってもんじゃないぞ。もっとこう、味わって嗜むもんだ。」

「なにが『嗜むもんだ』よ、面倒臭い。飲めない言い訳をするなんて、しょーもない男ね。」

「おい、言い過ぎだ。」


別に、酒の強い弱いで他人と競争する気は無い。そんな気は無いが、それでも俺は元世界では酒飲みで、より多く酒を飲めることになけなしの自尊心があったことは否定しない。

この世界にきて、その下らない自尊心が完膚なきまでに粉砕されている。


内心溜息をつき、会場を見渡す。歩き回れないパーラに代わってポーラが各要人たちと談笑をしており、タラーレさんが出席者たちに目を光らせていた。誰がどこにいて誰と話しているのか逐一確認しているのが伺える。さすがポーラとタラーレさんだ。


見るとはなしに会場の隅を見て、思わず目を見開いてしまった。


なんじゃあれ…。


壁に沿うように長方形のテーブルが設置されてあり、そこには来賓者が使った皿やカトラリー、グラスが一時的に置かれている。ある程度溜まったら厨房に下げられるのだろうが、問題はそこに一緒に置いてある葡萄酒の空瓶の山だった。何本あるのか想像もつかない。空瓶がテーブルの7割くらいを締めているように見える。


元世界の宴会で、ビール好きのおっちゃんたちが集まると空のビール瓶が溢れることはあった。しかしビール瓶は大瓶でも633mlでアルコール度数も5%程度。一方の葡萄酒は、瓶製造技術が未熟のため多少の誤差はあるがこの世界でも約720ml、アルコール度数も12~15%だ。それを、この人数とはいえあれだけの空瓶を拵えるとは、どんだけ飲むんだ…。


「おや、あまり杯が進んでおられぬようですな、冒険者ツカサ殿。いや、今はもうツカサ王家特務顧問と言うべきですかな?」

ふいに自分の名前が呼ばれたので、慌てて声の方を向く。そこには深紅の立派なフルプレート甲冑に身を包んだ、美しい金髪ショートの女性が葡萄酒瓶を持って立っていた。どことなく、立ち姿がランダレアに通ずるものがある。恐らく軍人だろう。見た目は30代半ば、この世界だと60歳前後だろうか。どこかで見たことがある気がするが…。


「あ、いえ、そういうわけでは…。失礼ですが、貴殿は?」


「これは申し遅れました。我はインバイト公爵家当主、アマス・インバイトです。齢は59、以後お見知りおきを。」

アマスが王国式の敬礼をする。


インバイト公爵。昨日の大審問と今日の儀典にも出席していたはずだ。どうりで見覚えがあるわけだ。それにしてもアマス・インバイトといえば、あのクリムノーラの母親か…。


…クリムノーラ!?


ぶわと肌に粟が立ち、思わずガタと立ち上がる。

「せ、先日はご子息であるクリムノーラ殿に大変な不敬を働きまして、ま、誠に申し訳ございませんでした…!」


「あっはは! どんな厳めしい方かと思っていましたが、これは予想外に愉快な方だ。いえ、あれに関しては全く恐縮されることはありません。寧ろ、我が愚息と兵たちをお救い下さった礼をしなければならないのはこちらの方ですぞ。それにあれ以来、クリムノーラも心を入れ替えて任に励んでおります。重ね重ね、ツカサ殿には感謝の念に堪えませんぞ。」


真っ直ぐで裏表が無さそうな人だな、というのが第一印象。クリムノーラがこの人の娘だというのも頷ける。


「そう仰っていただけると、幸いですね…。」


「まぁまぁ、本日はめでたい日です。」

そう言ってグラスに葡萄酒が継がれる。もちろん断れない。


「いただきます。」と杯を掲げ、無理をして半分くらい飲み下す。

元世界でアルハラに苦しむ人の気持ちが少し分かった気がするぜ…。


その後アマスとは、ユーナも含めて暫く談笑していたが、ランダレアに呼ばれてそっちに行ってしまった。


「なぁユーナ、ちょっと回ってきたかも…。」

「はぁ? ちょっと早すぎない? こんなところで粗相なんて有り得ないわよ。」

「分かってる分かってる。大丈夫…。」

白状すると、気持ちが悪い。


「貴殿たちか、緑魔石鉱脈を発見した冒険者というのは。それにしてもこの度はおめでとう、さぁ、こちらをどうぞ。」

ユーナと俺のグラスに葡萄酒が注がれていく。もう勘弁してほしい…。


見ると、桃色の立派なフルプレート甲冑に身を包んだ女性が立っていた。あぁ、たしかこの人は…。

「オリヴィルア・キート公爵、これはご丁寧にありがとうございます。」

「私を知っていたか。貴殿たちとは前々から話をしたいと思っていたのだ。」

「と、申されますと?」とユーナ。

「それはもちろん、緑魔石鉱脈の発見についてだ。眠っている緑魔石の概算も、先日陛下から共有があった。あんな膨大な量を採掘できるのであれば、王国全体に益があることはもちろん、我がキート領にとっては死活問題を解決する糸口になる。そんな鉱脈を発見した貴殿たちに、是非とも会って話したかったのだよ。」


注いでもらったことへの謝意を表するために軽く杯を掲げ、半分ほど飲み干す。

やべぇ、そろそろ限界かもしれねぇ…。


「死活問題…ですか?」とユーナが首を傾げる。

「…それは恐らくコニック聖教の宣教師たちのことだろう。そうですよね? オリヴィルア公爵。」

「うむ、まさにその通りだ。」

蒼みがかった髪をかき上げながら、真面目腐った表情(かお)でオリヴィルアが続ける。年齢的にはアマスと同年代だろうか。


「コニック聖教の宣教師どもが我が領に蔓延り、ところかまわず布教し、信者を募っている。緑魔石を盾にされると、なかなかこちらも強く出れなくてな…。それに、まかり間違っても外交問題に発展させることなどあってはならんことだ。だが、緑魔石を法国から融通してもらう必要が無くなれば、もはや相手の顔色を窺う必要も無い。」

「なるほど。そういうことですね。」

「ユーナ殿、いや、オーマチ子爵。貴殿もハクシーランを治めることになれば、緑魔石を扱う機会も増えよう。」

「確かにそうですわね。」

『オーマチ子爵』と言われて少しはにかんでいる。俺には分かる。


「あとは鉱脈周辺に出没する魔幻霊をどうにかできれば、問題はないのだがな…。」

「やはりまだでますか。」

「ああ、陛下からは、堀削に支障をきたしているとお聞きしている。貴殿たちのような力あるものに護衛を依頼すればいいのだろうが、そんな人間は冒険者にも軍にもなかなかいないからな…。」

「まぁ、そうなのかもしれませんね。」


あ、ヤバい、気持ち悪い…。


「その法国周りの案件ですが、リーラス第二王女が指揮を執られるようですね。」

「ああ、そう聞いている。だが陛下が後ろにいるとはいえ、判断に迷うこともあろう。そんなとき、ツカサ王家特務顧問、貴殿の力を借りねばならぬかもな。我がキート領を視察されるときは、是非領都クザーヤトリンに来るといい。」

何か、オリヴィルアが俺を期待を込めた目で見てくる。


力を借りる? 視察?? いったい何の話だ???

てか、やべぇ。本格的に酒が回ってきやがった。…吐きそう…!


「オリヴィルア公爵、お話の途中で申し訳ないのですが、少しお手洗いに行ってまいります。このお話は、かなり重いのでまた然るべきにちゃんとお話しできれば、と。」

「うむ、確かにその通りだ。貴殿の知恵と力、頼りにしているぞ。」


…なんかひっかかるようなことを言われた気がするけど、まぁいいや。今はそれどころじゃねぇ…。早くトイレに…!


厠に行くために席を立つ。ユーナが呆れたような、面白いものでも見るような目で俺を見遣っている。

ちくしょう、ユーナのやつ楽しんでやがるな…うぷっ!!


―――


「で? 吐いてすっきり??」と、ユーナが愉しそうに聞いてきやがる。

「ああ、その通りだよ。当然だが女性用の厠しかないから、個室は空き放題だ。」

「男のクセに情けないわね、まったく。」

セクハラ! 今のはセクハラだ! 訴えてやるからな!! …誰に訴えんだよ、ったく。

はぁ、酒飲み過ぎて吐くなんて10年以上振りだぜ。ユーナの言う通り、情けねぇったらありゃしねぇ…。

てか、この世界の女が強すぎるぜ。なんでこんなに強(つえ)えんだ…。


「あんたさ、いつものやつで葡萄酒だけ収納することはできないの?」


そのユーナの一言に、ガンッと、頭を叩かれた気がする。確かに、その手があったか!? しかし、グラスに注がれた液体だけを収納することなんて出来るのだろうか…? まぁモノは試しだ。


グラスを持ち、飲む仕草で杯を傾ける。中の葡萄酒だけに意識を集中させ『収納』。

と、中の葡萄酒が消えた。


ぉぉおおーー!! いけた!いけたぞ!!

これはあれだ、超高性能な『結婚披露宴で新郎席の下に準備されるバケツ』だ。飲み切れないビールを捨てるためのバケツ。あれと同じだ。


「ユーナ、感謝する。」

隣のユーナにサムアップ。


「なにその親指、気持ち悪い。はぁ、本当に呆れた男ね。知っててやってないんだと思ってたわ。」


気持ち悪いは余計だぜチキショウ…。


―◇―◇―◇―


――基盤歴640年03月20日(朝) ウィネ共和国 首都グレプ グレプ城中央会議室――


欠伸をしながら、20分遅れでレナが入室してくる。将軍である母様含めて、既にこの国を動かすお歴々が集まっているというのにこの女は…!


「なんなのよこんな朝っぱらから。眠いのに叩き起こされていい迷惑ね、まったく…。」

レナが悪態を付きながらどかっと着席する。


「レナ、遅刻しておいてその言い草はなんだ!! 前々から思っていたがいい加減に…」

「よせポルリン。」

「ですが母様…!」

「よせと言っているのが分からんか!!」


静まり返る会議室には、焦燥とも諦念ともつかない空気が流れている。


「なによモーリンそんな大声出して。」

「レナ、こういう場では総統、或いは将軍と呼べと言っておろう。お前の実力は認めているが無制限に無礼を働くことを許可した覚えはないといつも言っているが?」


「分かったわよ将(・)軍(・)様(・)。で、なんだっていうの? こんな盟(・)友(・)さ(・)ん(・)た(・)ち(・)まで勢揃いで大層なことね。」


「そう憎まれ口を叩きますなレナ殿。少し、予想外のことが起きましたのでね。」と胡椒他香辛料の取引を牛耳る公爵ドルゴジア・バッカーノがレナを宥める。


「ドルゴジア、あんたいつにも増して辛気臭い表情(かお)してるわね。あんた自身が黒胡椒みたいになってるじゃない。何があったの?」


「レナ、いつまで軽口を叩くつもりだ? お前の策が頓挫したんだぞ。」

フェアウ家の近衛隊隊長スース・ウィモレが厳しく詰問する。


「頓挫? どういうこと??」

ここにきて初めて、レナが真面目なトーンで会議室のテーブルに身を乗り出した。


「レナ、ヤーライルがしくじった。ハクシーランはララス第一王女率いる王家軍に無血開城にて陥落、ヤーライル他、謀反を画策した行政官および貴族たちは斬首に処された。」

母様が事の次第を腹立たしさを滲ませ端的に説明する。


「はぁ? 私が言うのはなんだけど、どんだけ戦音痴なの!? あれだけ武器も供与して、罪人とは言え人員だって融通したんじゃない!」

さすがのレナも色めき立っている。ざまぁみろ、お前の、ヤーライルを後方支援をして王家を打倒させ、その後は操り人形とする策は完全に頓挫だ。


「落ち着かれよレナ殿。この度の結果は我らとて想定外です。そうでしょう? モーリン将軍。」と大法官のバリアブ・ポレーン。この独裁体制の共和国にあって、とどまることをしらない罪人どもを王国に送り出すというレナの案を強硬に支持した古参の盟友だ。大法官といいつつ、実質的に間者集団の長も兼ねている。


「そうだ。ヤーライルは斬首され、その後は軍部含めて完全に王家の下にあるといっていい。まだ王国からは共和国に対してなんの抗議も無いが、王国攻略はかなり難しくなった、というか、想定する筋書きの中で最悪な顛末となった。が、問題は、なぜそのようなことになってしまったかということだ。」

母様が総統の声で会議室を支配する。少々向こう見ずで、力に頼り過ぎるきらいがあるが、それでもポルリンは母親、モーリンを尊敬していた。だからこそ、母様には無い視点で支えて行こうと思うのだ。四年前、ヤーライルに攻め入るのではなく、仲間に引き込んで共闘するという方針を打ち立てたのも自分だ。それを、レナ(この女)はきれいさっぱり崩してくれた。…ふざけるな!!


「あ、そう。で? ヤーライルを性急に唆(そそのか)した戦犯、つまり私を吊るし上げたいってわけね。で? この首刎ねる??」

そうふざけた口調で口を尖らせ、レナが手刀を自分の首にトントンと当てる。さっきからこの女は…!


「レナ、そんなに首と胴を切り離されたいなら私がこの場で…」

「やめよポルリン!」

「ですが母様…!」

「やめよと言っている! ポルリン、お前の気持ちは良く分かる。だが今はそのようなことを論じている場合ではない。私がレナに命じたいことは一つ、原因を探れ、だ。レナ、当然引き受けてくれるな?」


「はいはい、分かったわよ。王国に行ってヤーライルが負けた原因を探してきてあげる。どうせ監視の人間も着いてくるんでしょ?」

はぁっと、大層面倒そうにレナが溜息を吐いたかと思えば、足を組み、テーブルに肘を付いて掌に頬を乗せて頬を膨らませる。本当にふざけた女だ…!


「無論だ。」

母様は、レナの傍若無人な態度を咎めもしない。


「話はそれだけ? じゃぁ準備が整ったら早いうちに王国に発つから、今日はもう帰っていい?」


「三日後の朝だ、三日後の早朝の船で王国に渡ってもらう。よいな、レナ。」


「はいはーい。」

レナが後ろ手で軽く手を振りながら会議室から出て行った。


「母様! なぜレナにあのような態度を許すのですか!? さっさと処刑して…」

「ポルリン、お前、レナに勝てるのか? あの者を力づくで断頭台まで連れて来れるとでも??」

母様に、この国を統べる総統の鋭い目に射竦められる。祖母カダリンから政権を世襲し、それからずっとひたすらに力でこの国を押さえ込み統治し続けてきた母様。その母様には、あのレナという女(ばけもの)にひとしおの思いがある。悔しいが、隠していても娘の自分には分かってしまう…。


「…いえ。」


「そういうことだ。敵に回さず、利用するしかないのだ。お前たちも心得ているな?」


「「「はい…。」」」

と、このウィネ共和国を動かす3人が暗く頷いた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

これにて第2章『王国内戦』編は完了となります。


ユーナと力を合わせて内戦の危機から王国を救ったツカサ。国内の不安を取り除くことに成功したクララは万々歳。そんな中、とある国が動き出す。


さて、次こそツカサの日常に平穏は訪れるのでしょうか!?


次回から第3章『謀略聖教』編スタートです!!

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