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バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
2章 王国内戦

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056_ご褒美

「皆様、静粛に!」

宰相ブルドスの厳かな声が大謁見室に響き渡り、会場がしんと静まる。


「これより、逆賊ヤーライル・サイレル討伐および南部平定における功労に対し、『褒賞授与の儀』を執り行う。我が国に大いなる栄誉と安寧をもたらした者を称え、いま、王の御手より高潔なる褒賞を授けられる。この宰相ブルドス・アンダルチアの名に於いて、開式を宣言する!」


宰相ブルドスの開会の宣言により参列者一同が王国式の敬礼をし、また俺を含めた授与対象者は玉座の前に跪き頭を垂れる。


「面(おもて)をあげよ!」


ブルドスの声に顔を上げると、そこにはいつも通りの謁見室、いつも通りの布陣が広がっている。昨日の大審問とは違い、今日はいつも通り赤い絨毯が大謁見室の中央を貫いていた。


ララスとリーラスは玉座の両脇に立ち控え、大審問で王女の隣で着座していたアマス・インバイトとオリヴィルア・キートは、今は俺から向かって左側、海軍卿シールール・ウェブワイトの隣で起立している。当然ながらリンダやその他主要行政官たちも立ち並び、向かって右側には、いつもの主要貴族たちがずらりだ。


玉座に腰掛けるクララの前には、ランダレア、パーラ(お義母さん)、ユーナ、そして俺が赤絨毯に跪く。授与対象者はこの4人。ポーラと資産統括補佐のタラーレさんも参列しており、左列の奥に二人の姿が見える。

ちなみにララスは『褒賞を与える側』なので何もないという。


クララが立ち上がり、足を進めて三段の階段を下りてくる。俺たち4人の前まで来てブルドスに視線を送ると、ブルドスが慣れた手つきで台本を開いた。


「一人目! 陸軍卿ランダレア・ロッフォレス、国王陛下の御前へ歩み出よ!」


ブルドスの号令によりランダレアが1歩前に出てクララの前に膝をつく。その一連の動きが歴戦の軍人らしく、一分の隙も無い。クララの前に跪くその後ろ姿も、とても凛々しい。


「ランダレア・ロッフォレス! 我が王家軍1万を率い、的確な指揮命令のもと、敵軍総勢2万3千を完膚なきまでに撃破。総大将ララス・ウィンダー第一王女を副官として完璧に支えた功は大きい。よって、ここに三等武功勲章の授与、および、永らく空席であった軍務卿の地位を与えるものとする!」


三等武功勲章、比較対象が無いためどれだけ凄いのか分からないが、とても栄誉ある勲章であることは間違いないだろう。この度の勝利はたしかに投石機と弩砲に依るところが大きいが、全く未知のこれら兵器を実戦で効率よく運用できたのは、やはりランダレアが指揮官として優れていたからだ。

軍議で兵器の運用方針を提案したのは俺だが、それを瞬時に理解し現場に落とし込むのは流石の一言に尽きる。


それにしても軍務卿か。名実ともに王家軍のトップになるわけだけど…。

海軍卿のシールールをちらりと見ると、彼女は我が事のように嬉しそうな表情(かお)をしてしきりに頷いていた。この二人に変な確執は無いらしいと分かってなぜかほっとする。

てか、そうか。王家領は内陸、だから圧倒的に陸軍の方が大きい。だからそもそも軍務卿には陸軍卿からしかなれねぇのかもしれないな。


「ランダレアよ、此度はよく我が愚息を支えてくれたの。この国の王として、またララスの母として礼を言うぞ。今後お主は名実ともに王家軍の頭(かしら)となる。より一層の活躍を期待しておるぞ。」


「勿体なきお言葉。このランダレア、より一層軍務に励みましょう。」


「うむ、此度はおめでとう。下がるがよい。」


ランダレアがクララに一礼し列に戻ってくる。惚れ惚れするくらい気持ちの良いキレだ。

それにしてもやべぇな、俺、なに言われるんだろ…。


「二人目! フォルテ商会当主パーラ・フォルテ、国王陛下の御前へ歩み出よ!」


パーラが1歩前に出てクララの前に跪く。さすがにランダレアと比べると緩慢な動きだが、それでも最大商会の頭目として申し分ない動きだ。


「パーラ・フォルテ! 王国からの要請に応じ、大量の兵站物資を遅延、瑕疵無く納品したその手腕、王国最大商会としての名に恥じぬ働きであった。通常では成し得ない短納期に見事応えたフォルテ商会の働きは、此度の内乱平定に大きく寄与した。よって、ここに小黄金獅子(しょうおうごんしし)勲章の授与、および、王国公認商会の地位を与えるものとする!」


小黄金獅子勲章。さっきの三等武功勲章とは全く別系統か? まぁ、武勲ではないだろうが…。

それにしても王国公認商会の地位、とはなんぞや? 


左の奥に立つポーラをちらりと見ると、上品そうな顔で佇んでいる。ああ、たしかポーラ(あいつ)は公式の場ではわりとポーカーフェイスだったな…。隣のタラーレさんは…まったくもって相変わらずの無表情だ。


それにしても『兵站物資』か、モノは言いようだぜ。まぁ、『大型兵器』なんてこの場で言うわけにはいかねぇからな。この場に王国の敵がいないとも限らねぇ。具体的な情報を出さねぇのは正解だ。軍事機密はどの世界でもどの時代でも密閉ってことだな。


「パーラよ、この度は大儀であった。お主とお主の商会に目を付けた余の判断は間違っていなかったようじゃ。今後も色々と無理を掛けることもあろうが、今後ともよろしく頼むぞえ。」


「勿体なきお言葉。このパーラ、そしてフォルテ商会はより一層王国の発展に寄与しましょうぞ。」


「うむ、此度はおめでとう。下がるがよい。」


『勿体なきお言葉』って常套句なん? その次に抱負を述べるのも慣例なんですかい??


パーラがクララに一礼し列に戻ってくる。ランダレアのような軍人とは違うが、いつも上流階級と接するだけあってやはり優雅だ。


さて次は…。


「三人目! 冒険者ユーナ・オーマチ、国王陛下の御前へ歩み出よ!」


ユーナが1歩前に出てクララの前に跪く。その仕草に一瞬目を奪われる。ララスやリーラスに引けをとらないくらい、流れるような所作だ。さすがは元貴族――いや、違うな。

恐らくだが、たかが所作、されど所作。あの面倒臭いサイレル家の連中に揚げ足を取られぬよう、母親であるリーラ子爵が必死に叩き込んだのだろうと邪推する。


「ユーナ・オーマチ! 此度の内乱平定の大義名分たるサイレル家とウィネ共和国との繋がりを示す証拠を押さえたことは万の敵軍を殲滅したに等しい!」

ここで、宰相ブルドスが一拍置く。ん? どうした??


「よって、ここにオーマチ家の家名再興(かめいさいこう)を認め、現ハクシーラン一帯を統治する子爵位を叙爵(じょしゃく)する!」


大謁見室がどよめく。家名再興(かめいさいこう)。しかもハクシーラン一帯を統治。オーマチ家の復権、凱旋である。


これには、さすがに左側に立つ鉄人連中の一部も驚きを隠せないらしい。先ほどまで無表情だったタラーレさんがほんの少し嬉しそうな顔をしている。彼女の『ほんの少し嬉しそうな表情』は、きっと常人だとガッツポーズするくらい嬉しいことだろう。あと面白いのは、リンダがまんざらでもないことだ。同じ魔導師として、何か通ずるものがあるのだろうか。


やったなユーナ! こりゃ完全なる名誉回復じゃねぇか!! 冷てぇ海に潜った甲斐があったってもんだぜ!!!


「静粛に!」

ブルドスが表情柔らかく告げる。ブルドスもまんざらでもないようだ。恐らく、事前に綿密な合意形成がなされていたのだろう。


ユーナを見る。先ほどまでの澄ました顔はどこへやら、目を見開いて絨毯の1点を見つめ、身体を震わせている。


「ユーナよ。」

クララの呼びかけに、ユーナがはっと上を、クララを見上げる。


「お主の功績を認め、また余の過去の過ちを認め、お主に家名再興を認める。此度の褒賞を受け入れるつもりはあるか?」


「…はい、是非に。」

ユーナから、独り言のような呟きが漏れる。


「そうか、では決まりじゃ。ララスの統治が一段落すれば、お主に統治を引き継ごうぞ。」


「はい、ありがとうございます。」と頭を垂れるユーナに「立つが良い、ユーナ・オーマチ子爵よ。」とクララが声を掛ける。ユーナの生い立ちを知っている身として、ユーナとともに様々な死線を乗り越えてきた身として、今クララからユーナに掛けられた言葉には感慨深いものがある。


さすがの俺でも、涙腺が崩壊しそうだぜ…。


ユーナがふらと立ち上がる。


「ここに、オーマチ子爵の復権を宣言する!」

クララの声が響く。誰からともなく拍手が起こり、やがて大謁見室全体を包み込んでいく。

ここに参列している人間は、リーラ子爵になんの非も無いことを知っている。この方々(ほうぼう)から起こる拍手は、それ故の称賛なのだろう。


暫く拍手喝采が続き、やがて止む。


「ユーナよ、ラガン港は我が国有数の大港じゃ。ララスが最低限均(なら)した上で引き渡すが、それでもヤーライル亡き後では混乱が予想されよう。また、再び共和国から脅威が迫ることもあろう。じゃがこれを見事統治して見せよ。なに、心配は要らん。旧サイレル領は今後は王家直轄地じゃ。力が必要なときは遠慮なく余を頼るがよい。」


拍手の時間でいつもの自分を取り戻したユーナがふっと微笑む。

「オーマチ家は、上の発言を額面通りに受け取ることはございません。しかし、本当に困ったときは国王陛下、陛下の力をお借りしたく存じます。」


いつもの皮肉を交えたユーナのコメントだ。それにクララも目を細め「よかろう。」と返す。


「じゃが最後に一つだけ。」と、瞬時にクララがいつもの表情(かお)に戻る。

「此度の褒賞は褒賞でお主に授与するが、余は謝罪はせぬし頭も下げぬ。この道理は、貴族であったお主なら分かろう。」

「無論です。」

「結構。下がるがよい。」


ユーナが一礼して列に戻ってくる。最後のやりとりはここの4人にしか聞こえなかっただろうが、個人的にはかなりパンチの利いたやりとりだった。国王は、何があっても頭を下げるわけにはいかないのだ。

そして、クララがユーナに参戦を認めなかった理由も分かった。自らが統治する土地や人間を傷つけさせたく無かったのだ。これも、クララからユーナへの詫びのつもりなのだろう。


「四人目! 冒険者ツカサ、国王陛下の御前へ歩み出よ!」

あ、やべ、俺の番か…!


ユーナの授与が感動的過ぎて次が自分であることを忘れていた。4人の中で最もぎこちない動きでクララの前に跪く。


まるでデキの悪いAIロボットだぜ、ったく…。それにしても俺に与えられる褒美とは何だろうか。


休暇! 休暇をくれ!! それか『王城への呼出しを月に3回はぶっちできる権利』とかでもいいぜ!!!


「ツカサ! 此度の内乱平定の大義名分たるサイレル家とウィネ共和国との繋がりを示す証拠を押さえたこと、および、内乱平定において兵站を構築し我が王家軍の勝利へ大いに寄与したことを評する。よって、ここに小黄金獅子勲章の授与、および、王家特務顧問の地位を与えるものとする!」


?


小黄金獅子勲章の授与はいいけど、王家特務顧問の地位って、なに??


これにも、会場がざわつく。


「お主は底が知れぬ。王家特務顧問とは王家が恒常的に雇う行政官ではないが、折に応じて助言や具体的行動を伴う任に就く者じゃ。本当は爵位の授与をすべきなのじゃが、お主の特性上、あまり目立たれては困るし、王都から離れてもらっても困るのでな。王家特務顧問の地位を与えることとした。今後とも、宜しく頼むぞえ。」


え、休みは? 長期休暇は?? プロジェクト休暇は???

王家特務顧問なんていう字面(じづら)には騙されねぇぞ。恒常的に雇う行政官じゃない王家特務顧問なんて、単なる便利屋じゃねぇか! チクショウッ!! 俺にまったりとした休みをーーー!!!

断固拒否だ! ユーナの時みたいに『此度の褒賞を受け入れるつもりはあるか?』って聞けよ! 拒否してやるーーー!!!


…なんてことは、口が裂けても言えない。

「…勿体なきお言葉…でございます。」の言葉を絞り出す。この会場にいる人間には、歓喜に震えた呻きに聞こえただろう。くそったれ!


ララスが優しく微笑み、リーラスが熱い視線を送ってくる。止めろ、俺をそんな目で見るなー!


「うむ、下がるがよい。」


力無く一礼し、とぼとぼと列に戻る俺。ちゅかれたじょ…。


「これにて、『褒賞授与の儀』を閉幕する!」

ブルドスの閉幕宣言がどこか遠くに聞こたような気がした。トホホ…


―◇―◇―◇―


『褒賞授与の儀』が閉幕し、夕食も兼ねて王城のホールで祝賀会が開催された。出席者は儀典に参列していた者たちの他、彼らの家族たちだという。こういうパーティは家族同伴、その点は元世界で行われるある種の外交イベントと同じらしい。


会場の雰囲気は、イメージで言うとデカい箱で行われる結婚披露宴という感じ。ただしもちろん新郎新婦などおらず、最奥の一段高いテーブルには王家の面々が陣取っている。そして会場に整然と並べられた丸テーブルには椅子は無く立食形式だ。俺たち4人は王家テーブル脇の来賓席に着座させられている。


天井、高(た)っけぇ…。会場広(ひれ)ぇ…。


十数年前の俺と礼奈の結婚式を思い出す。当時、結婚披露宴には親族、友人、会社の同僚上司含めて招待したが、そのとき使った箱より4倍、いや6倍くらいは広いのではないだろうか。


そんな広い会場を侍女姿の女性たちがせわしなく動き回り、各来場者たちが持つグラスに目を光らせている。


天井を見上げると、高い天井にこれまた重厚かつ煌びやかなシャンデリアが等間隔に設えられており、会場を光で包んでいる。


あれもでけぇシャンデリアだな。光の色合いは、例えるなら暖色LEDってところか。あんなの、頭の上に落ちてきたらぺしゃんこになっちまうだろうな…。


そんなくだらないことを考えていると、はたとおかしなことに気付く。シャンデリアの各電球のようなものが光を放っており、かつその電球自体が綺麗にカットされているため、お互いに光を反射してひとつの巨大な光の塊のようになっている。なんだか、天井に浮かぶ芸術品のようだ。


「なぁユーナ、天井のシャンデリアなんだが、あれの光源って蝋燭ではないよな?」

「え? ああ、あれね。もちろん蝋燭じゃないわ。あれは緑魔石よ。ちゃんと綺麗にカットした緑魔石を光源として利用してるのよ。それが何?」

隣の席に座るユーナが『何を当然なことを』という顔をする。


「いや、緑魔石にはああいう使い方もあるんだな、と思っただけだ。」

そういえば鉱脈は調査隊を案内したとき、拠点天幕の明かりに緑魔石が使われていたことを思い出す。


「まぁ、そうね。こういう王城には、威厳を示すために緑魔石が使われるわ。あと、各領都の領主館とかでも使われてると思うわよ。まぁ旧オーマチ子爵みたいな弱小貴族の領主館だと、シャンデリアも蝋燭だったけどね。」


「あの緑魔石に魔力を充填したり解放したりするのは、我々侍従局の仕事なのですよ。」

来賓テーブルの後ろに控えるリンダが割って入ってくる。


「これは、リンダ殿。なるほど、だから侍従局の職員は、リンダ殿のような元魔道兵の方が起用されるのですね。」

「左様です。王城では、何かと魔力が必要になりますので。」

そういえば、チョコアソートを差し入れたあの若い侍女も魔力を使えるのだろうか。今度機会があったら聞いてみよう。


「ご来賓の皆さま、静粛に願います。これより、『褒賞授与の儀』後の祝賀会を開催いたします。」

宰相ブルドスの声が響き、会場が静かになる。この国の宰相の仕事は、広い部屋のざわめきやどよめきを静めることに違いない。


クララがグラスを持って椅子から立ち上がり、一歩前に出る。

「諸侯、そして4人の功労者たちよ。今日、王国のために尽くした者たちの忠勤に対し、相応しい褒賞を与えることができた。ここに名を挙げられた者たちは、幾多の困難を乗り越え、王国の栄光を示してくれた。彼らの勇気と忠誠は、まさに王家の誇りである。余は彼らに与えたる名誉が、これからの忠誠の証となることを信じる。諸君、杯を掲げよ!」


会場の皆がグラスを掲げる。俺も慌ててグラスを掲げる。結婚式と違ってリハーサルも説明もない。いつ何をすればいいのかは空気を読むしかない。


「栄光ある者たちのこれまでの忠勤をねぎらい、更なる我が王国の繁栄を祈りて、乾杯!!」


乾杯!!!―――


クララがひときわ杯を高く掲げると、会場の参列者たちも乾杯の発声と共に杯を更に高く掲げる。俺も横に座るユーナを真似て杯を少し高く掲げ、一口飲む。うん、さすがこういうところで供される葡萄酒とあって、割と美味い。

杯を置き、横に座るユーナ、パーラ、ランダレアを見てみる。


は?


ユーナ、パーラの杯は既に半分減っている。そしてランダレアに関しては空だ。やだ男らしい。まさに乾杯。杯を乾かすと書いて乾杯なのだ。


この世界の人間の肝臓、おかしくね…?


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