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バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
2章 王国内戦

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55/60

055_執行

――基盤歴640年03月15日(昼) ヴェレンタ王国王都ヴェレンタン 中央広場――


かくして衆目環視の中、ヤーライルを筆頭に極刑となった罪人たちの処刑が執り行われた。その中にはもちろん、デクマルシアやローランスも含まれる。公開処刑など、この世界ではこんなことは日常茶飯事。この世界で生きる一人の人間として慣れておかないといけない。


というわけでユーナと一緒に見に来たのだが、やはりというかなんというか、予想通りだった。


断頭台に首をセットされ、大衆に向けて名前と罪状を声高に告げられる。集まった野次馬たちから罵声を浴びせられ石を投げつけられる。その後に執行、首か飛ぶ。そして夥しい量の鮮血…。


かなり覚悟をして見に来たのだが、そこまでショックを受けていない自分に逆に衝撃を感じる。大罪人たちであるため、元世界の倫理観もあまり作用しないのだろうか。ただ、年端のいかない子供の処刑はさすがに気分が悪くなるので、直視はしなかった。


そういえば、戦場で死体の山を見ても悪趣味現代アートとしか思わなかったな。この世界に迷い込んで1年近く経つから、『そういったこと』には鈍感になっちまったのかね…。まぁ、必要以上に拒絶反応を起こすと逆にメンタルやられそうだし、悪いことばかりじゃねぇって思うことにしよう。


そう、ここはそういう世界。元世界の社会科の授業や教養系YouTubeチャンネルなどで幾度となく見聞きしたまんまの光景が繰り広げられた。


最終的にヤーライルの親類縁者、内乱の中心人物たちの合計32名が斬首。首は、名前と罪状とともに1ヶ月間はここに晒されるという。ここは京都の三条河原かと心の中で突っ込んでみる。


隣に立つユーナをちらりと見ると、いつもの能面で淡々と処刑を眺めている。かつて自分たちを貶め、故意に一族を壊滅させた者たちが次々に処刑される様(さま)を見て、一体何を思うのだろうか。これで、彼女の恨みが全てすっきり晴れたのだろうか。


全ての処刑が終わり、三々五々野次馬たちが消えていく。広場からは処刑台が撤去され、首を晒すために兵士たちがせわしなく動いている。それでもまだユーナは動かない。この光景を一遍たりとも見逃すまいとした、ある種の執念のようなものが感じられた。だから俺は黙ってユーナに付き合うことにする。


「飲め。王城を出てから一滴も飲んでないだろう。」


そう言って水を勧める。


「ありがとう。」


ユーナは差し出した水筒に少し口を付け、直ぐに突き返してきた。


結局そのまま全ての首が晒さるまで、ユーナはひたすらにずっと見届けていた。


―◇―◇―◇―


「ねぇツカサ、この後時間ある? あるなら今からウチに来て。」


「時間はあるが、何用だ?」


「来たら分かるわよ。」


ユーナが素っ気なくそう言って広場から足早に歩き始める。仕方なく俺も着いていく。様子がおかしい。


「どうした? 様子が変だぞ。どういうつもりだ?」


「るっさいわね。黙ってついてきなさいよ。」


その言葉遣いとは裏腹に、口調に覇気が無い。いったいなんだというのか。


その後、結局数十分無言で歩き、ユーナが住む石造りの集合住宅に辿り着いた。そのまま中央玄関を抜け、2階に上がり、無言の圧力のもと何も分からないままユーナの部屋に入る。


相変わらず様々な古書や魔導書らしき書物が散乱しており、足の踏み場も無い部屋だ。


「おいユーナ、いい加減に…」


ひしと、ユーナが俺に抱き着いてくる。ユーナの豊満な胸、腰、太腿、締まった腹が俺を捕えて離そうとしない。


「おいユーナ…! いったい何を…」


ひっく、ひっく、これは――泣いてる?


「…泣いてるのか?」


「抱いてよ…。」


「なに?」


「抱いてよ。あんた男でしょ。古文書には男は女を抱いて慰めるって書いてあったわ…。私を抱いて、慰めてよ…」

しゃくりあげ、ユーナがそう懇願する。


その古文書、きっと他にもろくでもないことが書かれているに違いない。


「ヤーライルやデクマルシアが無様な姿で首を刎ねられるの、この目にしっかりと焼き付けたわ。でも…でも、なにも変わらなかった! あいつらの悪事が白日の下に晒されて断罪されて首が飛んでも、なにも、なんにも変わらなかった!! 私、どうしたらいいの!? 私はあいつらが地獄に落ちるのをこの目で見ることを夢見てこれまで生きてきたわ! でも、そうなっても何も変わらなかった! 私はどうしたらいいの…!?」


ユーナが抱き着いたまま顔を上げ、俺を見上げる。


「ねぇツカサ、私を抱いてよ。慰めてよ…。わたし、こんなんだったら、何のために…!」


ユーナの目から涙がはらはらと流れ落ちる。涙でぐしゃぐしゃだ。


「ユーナ…ちょっと落ち着けって…」

「落ち着いてるわよ。分かってるわよあんたに二人の妻がいるってことくらい。わたしが今どれだけ不埒なお願いをしてるかってことくらい…! ミラとポーラには私も一緒に頭を下げるわ…だから、お願い。二人が私のことを許さないっていうのならそれでもいいから…だから私を慰めてよ!!」


ユーナがそう叫び、がばっと書籍で散らかったベッドに押し倒された。


キャッキャウフフで男が女を慰めることができるなんて、昭和の、しかもドラマの中だけの話だぜ。きっとその古文書を書いたやつは妄想逞しい腐女子に違いねぇ…!


――――


ユーナとのひと勝負を終えて、俺はベッドに仰向けになって天井を見ている。

隣には、裸のユーナが俺の肩に頭を委ねて目を閉じている。


あーあ、やっちまった。こりゃ完全にアウトだ。でもこの状況でこんな感じで迫られて、断り切れるメンズがどこにいるってんだ。いやない。反語だぜちきしょう。


人生初の浮気だぜこりゃ…。元世界でどれだけ現実に嫌気が差しても浮気には走らなかったのにな…。まぁ、起きてしまったことは仕方がない。善後策を練らなければ。


とはいえ、ミラとポーラに謝り倒すくらいしか方法は思い浮かばねぇけどな…。いや、いっそのことこのまま黙っとくか? うーん、でもなんかそれも気持ち悪い気がするけど…。とはいえミラとポーラの立場からすれば、墓まで持って行ってくれた方がいいんだよな、こういうのって。

浮気をするなら絶対にバレたり勘付かせないようにしろって、元世界の奥さん連中たちは言ってたりするけど…主にSNSで。


「女と男の営みって、こういう感じなのね。自分で言うのもなんだけど、全く後悔してないわ。ミラとポーラは本当に運が良かったわね。あんたっていう男を射止めることができて。」


いつの間にかユーナが起きている。


「…ツカサ、ありがとう。少しは気が紛れたわ…。」


「なら良かった…のかな。なぁユーナ、このことは俺たち二人の秘密に…」


「さぁ、ミラとポーラに詫びを入れに行くわよ。このまま黙っとくなんて、不義理すぎるもの。」

俺の話も聞かずにユーナがベッドから起き上がる。


こいつ、俺の話聞く気ねぇだろ…。


―◇―◇―◇―


ここは俺の家。そしてここはいつもの玄関だ。が、こんな低い角度からこの玄関を見たことはない。改めて見るとやはり広いな。うん、広い玄関だ。


俺は今、玄関の床、つまり三和土に正座をしている。床に座る文化のないこの世界で、俺はこの世界に来て初めての正座を試みている。すぐ隣のユーナも同じく正座だ。

反省の色を示す姿勢とは、全宇宙で共通なのかもしれない。


俺とユーナの前にはポーラとミラ。2人が三和土よりも一段高い上がり框(かまち)に立って俺たちを見下ろしている。さっきから嫌な汗が止まらない。


先ほど『詫びを入れに行く』と部屋を出たユーナを止めること無く大人しく着いてきたのは、どうしても隠し続けることが気持ち悪かったからだ。とはいえ、ミラやポーラにとっては知らずにいた方がいいはずなので、これも結局は男の身勝手である。


元世界とは貞操観念も全然違うんだろうが、浮気は浮気だしな。それに、俺のことだから酒に酔ってうっかり口を滑らせちまいそうだし…。


ことこういう場合に於いて、俺は俺を信用していない。これは昔からそうだ。


さて、ついさっき、突然ユーナを連れて帰って来た俺に怪訝な顔をした2人だったが、何かしら不穏な空気を感じ取ったのだろう、話があると言って出し抜けに正座した俺とユーナに何を聞くことも無く、俺たちの独白と謝罪を黙って聞いてくれた。

というか、話をしていたのはほぼユーナだったが…。


「突然訪ねてきてこんな話を聞かされて冗談じゃないと思うでしょうけど、それも含めてごめんなさい。仔細は今話した通りです。ツカサは悪くない、悪いのは私です。ポーラ、ミラ、申し訳ございませんでした。」

ユーナがそう詫びるなり、正座のまま頭を下げた。俺もそれに倣う。


「ポーラ、ミラ、済まない。なんとも情けない過ちだ。」

こういう事案で女に頭を下げさせちまうなんて、輪を掛けて情けねぇ…。


――沈黙。額に触れる三和土が冷たい。


一拍、二拍、三拍…


「お二人とも、頭を上げて下さいまし。」

ポーラの声が上から降りてきた。だが俺は知っている。こういう場合は直ぐに頭を上げてはいけないことを知っている。だから耐えよう、足の痺れにもデコが冷たいのにも耐えてみせよう。


「別に、わたくしもミラも怒っておりませんわよ。突然こんな話をされて、面食らってしまったことは確かですが…。」

「ポーラの言う通り、ミラも怒ってないです。寧ろお二人とも、よくこれまで何もなかったなと思ってましたし…。」

「ミラ、そんなことを言うとツカサさんが調子に乗るのでダメですわよ。」

「あ、確かに。」

ふふっと、頭上でポーラとミラが微笑み合う気配がする。


恐る恐る頭を上げる。油断させたところに強烈な前蹴り×2が飛んできはしないかと警戒したが、もちろんそんなことは無いようだ。


「…怒ってないのか?」


「ええ、怒ってませんわよ。婚姻のときにも申し上げた通り、この世界唯一の男性であるツカサさんを独り占め出来るとは思ってませんわ。」

「そうです! 他に女の一人や二人作るのもダメだっていう狭量な女なら、ツカサさんの妻なんてやってられません!」


「ミラ、ユーナは別に俺の恋人というわけではないんだが…。」

「それはまぁ…そうなんでしょうけど。でもツカサさん、今までユーナ様と何日も一緒にいて、よく今までなにもなかったですね。てっきり威力偵察のときにもうやっちゃってると思ってました。」

「お前の中の俺はどんな人間なんだ…。」

「ミラ、甘やかすのはダメですわよ。とはいえ今回は、話を聞く限り尚更仕方がないと思いますわ。わたくしがユーナ様と同じ立場なら、間違いなくツカサさんに拠り所を求めてしまいますもの。それにユーナ様には、ツカサさんを魔化狼から救ってくださった恩もありますしね。」


「ミラ、ポーラ…。」とユーナが頭を上げて独りごちる。


「さぁ、お二人ともそんなところにお座りになってないで、お上がりください。明日はまた王城にて国王陛下から恩賞を賜るのです。そんな表情(かお)ではいけませんわ。」


そうだった。明日は今回の件で褒美を貰うんだった。


「そうだな、その通りだな。」


―◇―◇―◇―


仲直り、ではないが、成り行きで4人で茶をする流れになった。


気にしない、とはミラとポーラが言うセリフであって、決して俺が言っていいセリフではない。こんなもので詫びができるとは思ってないが、いつものチョコアソートなんかよりも遥かに高級なチョコ菓子を召喚する。3人で1箱ではない、3人それぞれに1箱召喚して差し出す。1箱10,800円の超高級チョコアソートだ。


「ツカサさん、これは…?」と、案の定ポーラが色めき立つ。


「いつも卸しておるチョコよりも遥かに高級なチョコ菓子だ。いくらお前たちが『気にしてない』といっても俺が気にしてしまう。こんなもので詫びれるとは思ってないが、せめてもの気持ちだ。受け取って欲しい。」


ポーラの目が¥になっている。


「あー、ただ、先に言っておくとこれは非売品だ。卸すことはできないからな…。」


目に見えて肩を落とすポーラの横で「私は貰う資格はないわ。」とユーナ。


「構わない。俺の故郷ではこういうことが起こった場合はたいがい男が詰め腹を切らされるもんだ。だから四の五の言わず貰っとけ。」


「…まぁ、そういうことなら。」


「美味しい! コレ、めちゃくちゃ美味しいです!!」

ミラがはしゃいでいる。こういうときのミラは実に心強い。


釣られるようにポーラとユーナが恐る恐る口にする。と、二人の動きがぴたりと止まってしまった。


「「これは…!」」


二人が目を見開いて感嘆している。喜びの表現の仕方は、ポーラとユーナは似ているらしい。


俺もひとつ口に放り込み、コーヒーに口を付ける。やはり甘いものとブラックコーヒーの組み合わせは間違いない。


「ところで明日の恩賞は、ロッフォレス陸軍卿、ユーナ、俺。それとフォルテ商会を代表してパーラお義母様(かあさま)が褒美を賜ると聞いているが。」


「はい、ツカサさん。我がフォルテ商会も兵器製造を完遂したということで恩賞を賜る予定です。わたくしも王城にて拝謁させていただきますわ。」


「ツカサ、その兵器のことなんだけど、どんなものなの?」


「国王と話したときに言った通り、巨岩とデカい矢を放つものだ。『ユーナも否が応でも見ることになる』との国王の言葉の意味は、俺もよく分からないけどな。」


「そ。まぁ、何もしなくても向こうから来てくれるのね。とはいえ、サイレル軍2万を撃滅した兵器なんでしょ? 興味が湧かない理由は無いわ。」


俺の亜空間道具箱に収納してあった投石機も弩砲も既に王家軍に返却してしまっている。ここでユーナに披露するのは叶わない。


「まぁ、いずれ知ることになるだろう。それよりも、だ。緑魔石での研究の件だが、何か調べたいことでもあるのか?」


たしかユーナも緑魔石を研究したいとクララに言っていたはずだ。


「ああ、緑魔石ね。緑魔石は魔力に反応する石よ。その魔力だけは、多寡の違いはあれど誰もが持ってる。だとしたら、緑魔石に溜めた魔力を魔道兵や魔導師冒険者でなくても開閉できるのかが知りたいのよ。もし可能なら、この世界の戦場ががらりと変わるわよ。」


戦場。その単語で一気にきな臭くなる。


「と、いうと?」


「分からない? これまでは火球などの攻撃魔法は魔法兵の専売特許だった。でも、例えば緑魔石に魔法を充填し、それを一般兵が生活魔法程度の魔法で解放できるなら、一般兵でも火球を撃てることになるってことよ。」


そのユーナの言葉に俺は宙を仰ぎ考える。戦争にも軍事戦略にも無縁のミラとポーラは、そんな俺とユーナに交互に視線を送っている。


まぁ、確かにユーナの言う通り。この世界に魔法はあれど、それを効率的に戦争に活用できているとは言い難い。その要因の一つは、そもそも魔力溢れる人間が少ないという点。もう一つは、緑魔石が希少過ぎる故に、魔導師が希少過ぎる故に、魔法に関する研究が進んでいないという点だ。


今後、掃いて捨てるほどの緑魔石が採掘できるのであれば、クララの言う通り各種方面で研究を進めることができるかもしれない。


「で? ツカサ、あんたは何を研究したいの?」

ユーナが胡乱気な視線を向けてくる。


「俺は、風呂をどうにかしたい。」


「「「お風呂??」」」

俺のその予想外の単語に、ユーナのみならずミラとポーラもハモる。


「浴槽で湯に浸かるのに釜で沸かした水を何回も浴槽に運ぶ、なんて馬鹿げてると思わないか? もっとスマート、いや、賢いやり方があるはずだ。俺は緑魔石で日常生活に革命を起こしてみせる。」


ユーナが目を細めて呆れたように呟く。

「新兵器の発案者が日常生活での革命だなんて。あんた、国王(あの女)への報告はどうするつもり?」


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