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バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
2章 王国内戦

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35_城壁湾港都市ハクシーラン その7(証拠)

昼過ぎくらいに目が覚める。若いって素晴らしい。一晩中起きていても、半日眠れば元気いっぱいだ。


(学生時代はよくオールしたあと朝方寝て、昼からバイトしてたよな。若い身体ってのは何者にも替えられねぇぜ。)


結局あの後ひたすらに歩き続け、ハクシーランに着くころには東の空がはっきり白んで来る頃合いだった。そして最後の気力を振り絞り、眠い目を擦りながらガークズプライズホテルに帰宅した俺たちは倒れるように眠ったのだった。


ユーナは隣のキングサイズベッドでまだ眠っている。寝相が悪いのか、ローブが股のサラシまで捲れてしまっており、肉付きのいい白い太腿が露になっている。どうしても目線が吸い寄せられそうになるが、蹴られるのも嫌なので無理矢理視線を引き剥がす。


(さて、と。取り敢えず、くすねてきた物を出してみるか。)


ゴトン、ガコンと、何もない空間から木箱が現れ、重く鈍い音と共に床に落ちる。


う…うーん…。


見ると、ユーナが寝ぼけ眼でこちらをぼんやり見ている。どうやら、先ほどの音で起こしてしまったようだ。


「あんた、それ…。」


「くすねてきた木箱だ。兵士でさえ開けるなと言われている木箱。中身に興味は無いか?」


「ちょっと待って。顔洗ってくる。」


―◇―◇―◇―


「どの箱もがっちりと釘で封をされているな。」


「まぁ、船で運搬される物資なんてだいたいこんなもんよ。」


顔を洗い、いくぶんすっきりしたユーナが木箱に手を置く。


バールを召喚し、木箱の釘にあてがう。


「では早速開けてみようか。」


「ええ、お願い。」


バールで釘を一本一本抜いていく。まずは両手で抱えられるほどの、一番小さな木箱からだ。


全ての釘を抜き終わり、蓋がフリーになる。


「では、まずはこの一番小さな木箱から開けるぞ。」


ユーナが興味津々で木箱を注視している。


「何が出るかな、何が出るかな♪」


「随分と楽しそうね。それに何? その歌…。」


「コホン…。なんでもない。おっさんの独り言だ。」


(今じゃ元世界の若い子にも、通じねぇよな。)


「じゃ、開けるぞ。」といってひょいと蓋を取る。箱の中身は――


「ポーションね。」


「ポーションだな。」


箱の中にはポーションの瓶が整然と隙間なく収められている。


(ポーションか。確かに必要だな。)


「待って、下に何かある。」とユーナがポーションを取り出し、その下に敷き詰められた何かを取り出す。


「これは…ベーコンや干し肉の詰め合わせね。」


「ポーションの次は食糧…か。大方の予想通りだな。」


「どういう意味?」とユーナが怪訝な表情を向けてくる。


「他の木箱を開ければ分かるはずだ。」


そういって今度は縦にやたら長い木箱の釘を抜く。そして、次に一番大きな木箱の釘も抜いておく。


「ほら、開けてみろ。」


少々困惑気味の表情を浮かべながら、ユーナは縦に長い木箱に近付き、恐る恐る蓋を取った。


ユーナの目が見開かれる。そこには――


「槍よ…。」


「そうだな、槍だ。だとしたら、一番大きな箱の中身も予想がつくだろ?」


俺の言葉を聞いたユーナが大きな木箱に駆け寄り、勢いそのままに蓋をどかして中を覗き込む。


「これは…!」


剣、盾、弓矢、甲冑――。


「武器だよ。」


「武器だよって…。ヤーライルは共和国から武器を密輸してるってこと!?」


「ご覧の通りだ。まぁ、俺だって確信があったわけじゃないがな。でもこれで、ヤーライルがこんなものを大量に密輸入していることが分かってしまった。」


一拍置き、続ける。


「なぁユーナ、お前ならこの武器の使い道、予想できるんじゃないか?」


俺の問いにユーナが逡巡し、はっと、口を押える。


「王家に…攻め込む気?」


「少なくとも、俺はそう考えている。その上でユーナ、話しておきたいことがある。」


「な、何よ…?」


「重要な話だ。もうあの時みたいに、お前に嫌われるのはごめんだからな。話しておくことにするよ。」


―◇―◇―◇―


「それで、話って何? こういうことを予想してたから、昨日、あの洞窟で共和国について聞いてきたんでしょう?」


木箱を収納し、ベッドに腰かけて向かい合う。


「それもあるが、本題は、国王から口止めされていることの方だ。」


「どんなこと?」


「まぁその前にユーナ、俺たちはここにヤーライルの不正の証拠を探しに来たんだよな?」


「そうよ。今更それがなんだっていうの?」

足を組み、ユーナが少々イラついたように先を促す。


「仮に、無事に何らかの証拠を見つけることが出来たとする。そして、無事にその証拠を国王に提出できたとする。で、その後どうなると思う?」


「なによもったいぶって。…まぁそうね、ヤーライルを王都に呼び出して、その証拠をもって断罪するんじゃないの?」


何か間違ってる? とでも言いたげな顔を向けてくる。


「ユーナ、そんなことが本当に可能だと思うか? 今は表面上、まだ辛うじて王家とサイレル家は関係を保てているが、水面下ではもう殆ど関係が切れそうなところまできている。例えばガーク商会に関していうと、王家が怪しげなガーク商会なる商会を調査せよと命じても、ヤーライルはいち商会の調査など出来ないと平然と突っぱねている状態だ。こんな状態で、ヤーライルを王都に出頭させることが本当に可能だと思うか?」


「そんな…。いえ、そこまでとは知らなかったわ。」


ユーナは少々面食らい、顎に手を遣って考え込む。


「んー、だとしたら無理ね。どんな理由をでっちあげても、例えば何かしらの報奨と称して呼びつけたとしても、ヤーライルは罠だと疑うわ。私がヤーライルなら、これだけ準備をしてきてるんですもの、王家から出頭命令が来た時点で挙兵の準備を始める…ってまさか…!!」


「そう、そのまさかだよ。俺たちが証拠を持ち帰り次第、国王はサイレル家へ進軍するつもりだ。もっというと、例え証拠獲得が失敗しても、進軍するつもりだよ。」


「ま、待って。そんなことをしたら、他の地方貴族に示しがつかないじゃない…!」


「万が一の時は、インバイト家とキート家に王家への疑心を上回る利を与えるつもりだ。」


「そんなもの…あるわけないじゃない…。」


「あるだろう? ついこの間、俺とお前で見つけたじゃないか。」


ユーナの目がかっと見開かれ、思わず腰を浮かせる。

「まさか…緑魔石?」


「その通りだ。もし証拠獲得が不発に終われば、地方貴族に緑魔石の掘削利権を与えて支持を得ようとしている。」


「そんなことをしたら、将来どんな火種になるか分からないわ!」


「だとしても、だ。将来の火種を考えて躊躇すれば、今ある炎で死ぬことになる。その理屈が分からないお前ではないだろう?」


ユーナが力なく、ストンとベッドに沈む。


先ほど収納した武器をいくつか召喚する。


「さっきこの武器を見たとき、ヤーライルは本気だと確信したよ。これを見てみろ。王国の武器だと偽装することさえしていない。」


ユーナが差し出した剣に目を落とす。


「見る人間が見れば、共和国の武器だってことは分かる。たとえ見つかっても、言い逃れするつもりは無いってことね…。」


「そういうことだ。とすれば、だ。あの洞窟と繋げようとしているトンネルは、ただの搬入路の保険ではない可能性も出てくる。」


「…どういう意味?」


「どれだけ武器を輸入しても、使う人間がいなければただの鉄の塊に過ぎん。」


「ちょ、ちょっと待って! まさか共和国から兵員を…!」


「いや、ちょっと違うな。どちらかというと賊、ゴロツキ、借金で首が回らない者などが、サイレル領に密かに上陸するための道、と考えた方が自然だ。」


「そんな…」

ユーナが信じられないといった風に呟く。


「ねぇ、さっきの武器一式が証拠じゃだめかしら…いえ、弱いわね。補強する材料にはなっても、それ自体が決定的な証拠じゃないわ。」


「ああ。だから決定的な証拠を押さえる必要がある。デクマルシアの行動からして、あの地下倉庫に何かあると思うのだが、どう思う?」


俺の問いに、ユーナが唇を噛んで考え込む。


「心当たりが…ひとつだけある。」


「ほう?」


「お母様が使っておられたあの執務机なんだけど、引き出しに特殊な絡繰りが仕込まれていて、重要な書類なんかを隠しておけるようになっているのよ。証拠になるような重要な文書を隠すには、誰も注目しない場所に保管するはず。あの一見打ち捨てられた執務机は、そういう意味ではうってつけだと思うわ。」


「そうか。何回か偵察を繰り返す必要があるかと思っていたが、であればこれ以上は必要ないな。一応、地上から領主館を偵察して、早いうちに決行しよう。」


「そうね、それがいいと思うわ。今晩領主館を見て、明日の夜決行しましょう。」


「分かった。」


「話してくれて、ありがとうね。」とユーナが屈託無く微笑む。


「…」


「何よ。」


「いや、いつもそのくらい素直になればいいのにと思っただけ…って!!」


相変わらず足グセが悪い。


「あんたはひと言多いのよ。まったく…。」


「いてて…。ん? どうした?」


ユーナが俯いて、一点を見つめている。


「いえ、クララがヤーライルに攻め込むなら、場合によってはこの街も戦場になるのよね?」


「…ああ。籠城戦になったらな。」


「ファルミとフェイリア、大丈夫かなって思って…。」


「そこまで言うのなら、あの母娘(おやこ)も王都に連れて帰るといい。どうせ、この街ではまともな仕事に就くのも難しいだろうからな。」


ユーナが潤んだ目を向ける。

「他の人たちはどうなるの? 他の、元からここにいる人たちは!?」


「全員を助けることなんてどだい無理な話だ。そういう意味では、元オーマチ領の人間だったとしても、サイレル軍の兵士として王家軍と戦うことになる者もいるはずだ。あのリーファとかいう兵士がその典型だろう?」


何か反論したいが、それでも何も言えず、ユーナが口籠る。


「だが、あの母娘(おやこ)は俺達と縁を持った。手を尽くすかそうでないかを頒(わ)かつ線など、縁しかないんだよ。」


「…縁?」


「そうだ、縁だ。俺だって割り切れるわけじゃない。だけど、結局はそうなる。フィオナのときと同じだ。フィオナと縁があったから、俺はあの依頼を受けた。そして俺がお前と縁があったから、フィオナを助けることができたんじゃないか。選ぶ選ばざるに関わらず、そうなるんだよ。」


ユーナが唇を噛み、俯く。


「そう悲観するな。今回に限っては、籠城戦になったとしても早くカタが付くだろうからな。」


(魔法での結界が出来ない城壁に、魔法で打撃力をアップさせた投石機。一瞬で終わっちまうな。)


「何か、知ってるのね?」


「ああ、ユーナも機会があれば知ることになるだろう。とにかく今は証拠が最優先だ。」


―◇―◇―◇―


――基盤歴639年11月02日(夜)――


「さて、行くわよ。」


巨岩をどかした穴から、領主館の地下倉庫に潜入する。ユーナがエレベーター大の空間に飛び降り、続いて俺も飛び降りる。


ナイトヴィジョンはまだ白んじることはない。二日前にここに来たときと同じだ。


昨日、一応地上から領主館を偵察しに行ったのだが、案の定警備が厳しく、地上から潜入するのは不可との結論に至った。なので当初の予定通り、この抜け道から潜入することにした。


腰を屈めて、地下倉庫に続く道を行く。少し進むとナイトヴィジョンの映像が白んじて来たのでゴーグル部分を跳ね上げる。ここまでは前回と全く同じだ。


息を潜めて耳を澄ます。地下倉庫に人の気配は――無いようだ。


ユーナと頷き合い、先に進む。石壁に灯る蝋燭の火で浮かび上がる倉庫の様子は、二日前と全く変わらない。


「巡回の兵士が来る前に終わらせちまおう。」


「分かったわ。ツカサは扉の近くで誰か来るか聞き耳を立ててて。」


「了解。」


それを合図に、俺は扉の近くに、ユーナは執務机にそれぞれ移動する。


カチャカチャと、ユーナが執務机を弄り始める。どんな仕掛けかは知らないが、そんなに時間は掛からないという。


俺は扉に耳をくっつけ、外を警戒する。ドクン、ドクンと、自分の心臓の音がやけに煩く聞こえ始めた。


体感で3分ほど経ち、徐々に胸の高鳴りも収まってきたとき「ツカサ!」とユーナから、小さく鋭い声が掛かる。


「どうした? 何か見つけたか?」


「何かどころの騒ぎじゃないわ。とんでもないものを見つけたわよ。」


扉から耳を離し、ユーナのもとへ小走りに駆け寄る。


「これ、見て。」とユーナから1枚の紙を手渡された。


素早くその紙に目を走らせる。これは――


「…共和国との、武器・人員密輸に関する調印文書…?」


「そうよ。下の署名欄、見てみて。」


興奮気味のユーナに促され、視線を文書の下に落とす。

「『ウィネ共和国総統 モーリン・フェアウ』、『ヴェレンタ王国公爵 ヤーライル・サイレル』…。両者の直筆のサイン…?」


「そうよ。言い逃れできない、決定的な証拠。これ以上の証拠は、まぁ無いでしょうね。」


「やはり共和国の正規兵ではなく、罪人などを寄越す約束のようだな。」


「ヤーライルのやつ、どこまで外道なの…!」

ユーナの声が怒りで震えている。


文書を持つ親指と人差指で、この紙を擦って確かめる。間違いない。これは――


(アマルフィ紙だな。ラッキー、羊皮紙じゃなくて良かったぜ。)


すぐさまポータブルのインクジェットプリンターを召喚する。もちろん顔料インクだ。


「何それ…?」


「説明してる時間は無い。だがこの文書が羊皮紙ではなくて幸運だったよ。」


まだ何かを聞きたそうなユーナだったが、自重してくれる。


ポータブルプリンターにこの文書を読み取らせ、次にアマルフィ紙を召喚する。多少手触りが違うが、これしかないのだから仕方がない。


逸る気持ちを抑えて白紙のアマルフィ紙をプリンターにセットし、印刷を開始する。焦りのため、掌が手汗でびしょびしょだ。


ギーガッ! シッシッシッシッシッ…


リズミカルな印刷音が、地下倉庫に微かに響く。

勝手に吸い込まれる紙にユーナが目を白黒させている。


シッシッシッシッシッ…ギーガッ!ギーギー!ギガ!


(無事終わったか。やべぇ、ハンパ無い緊迫感だぜ…。)


「見てみろ。文書を複製してやった。」そう言ってユーナに2枚のアマルフィ紙を掲げて見せる。


「…信じられない…。」とユーナが目を点にする。


「本物は俺達が持って帰る。で、この偽物とすり替える。頼めるか?」


ユーナは一瞬呆けたが、首を縦に何度も振った。


「じゃあ頼む。俺は扉に戻って警戒しておく。」


再び、最初の配置に戻る。ユーナは早速カチャカチャと机を弄り始めた。


扉に耳をくっつけると、またドクン、ドクンと心臓が高鳴っている。


そんな心臓の高鳴りの中に、耳が何か違う音の振動を捉える。


コツ…コツ…


一定の間を空けて、しかし規則的に、そして段々大きくなる。


コツ…コツ…


(マズい、誰か来る…!)


即座にユーナの元へ駆け寄る。


「急げ! 来るぞ!!」の声にユーナの身体がビクリと震える。


「…分かった! もうちょっと、もうちょっとよ…!」


鍵を開けようとしているのか、扉の向こうから金属がかち合うような音が響き始める。


「ユーナ、急げ! 終わったら俺のところまで来るんだ!」


「わかってるわよ!!」


中腰の姿勢で件の通路まで退いた。


ガチャリ、ジャララララララ――


錠前が外され、鎖が解かれる音が響く。


「終わったわ!」と言い終わらないうちに、ユーナはこちらに駆けてきた。二日前、兵士たちの会話を盗み聞きした場所に陣取る。


ギイィィィ…。


地下倉庫の重い扉がゆっくりと開かれ、何者かが入室した気配を感じる。が、今回は話し声はおろか、甲冑の音もしない。少し前に出て覗き見てみる。


人影は一人。あれは――


(デクマルシア!)


下がり、ユーナに口パクで伝える。読み取ったのか、ユーナの目が大きく見開かれた。


気配を消し、黙して状況を見守る。


コツ…コツ…


デクマルシアが歩みを進める足音が聞こえる。こちらに来るというわけではなさそうだが…。


コツ…コツ…。


あるところまで移動し、止まる。そしてなにかに取り掛かり始めた気配がする。それは、まさにさっきまでこの地下室に響いていたのと同じ音――執務机を弄る音が響き始める。


(間違いない。デクマルシアはあの文書を定期的に確認しにきてやがったんだ。)


ユーナの顔に不安気な表情がのぞく。


しばらく後、音が止む。しばしの静寂。


そしてまたカチャカチャと机を弄る音が鳴り始める。


全ての作業を終わらせたのか、デクマルシアが再び歩き始めた。


コツ…コツ…


どうやら扉に向かっているらしい。


コツ…コツ…


少し前に進み、デクマルシアの姿を目視できるところまで移動する。


ちょうど扉の前に立っているデクマルシアは――入室時と同じく手ぶらであり、急いでいる様子もない。


ふぅ、と胸を撫で下ろす。


(複製には気付かなかったか。)


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