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バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
2章 王国内戦

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31_城壁湾港都市ハクシーラン その3(少女)

騒動のあった宿――ガークズプライズホテルの一室にチェックインし、ユーナ、ユーナが半殺しにした少女と共に部屋に入る。今後のことも考え、少し高価だが大きめのベッドが2つ設えてある広めの部屋を取り敢えず1週間分押さえた。


少女には頭からローブを被せ、一時的に預かった親戚の子が眠ってしまったということにして部屋に通してもらった。起きたら直ぐに家に帰すということにしてフロントを誤魔化したが、我ながら即興の方便としてはなかなかだったと思う。


チェックイン手続きの際にフロントの従業員にそれとなく聞いたところ、あのボス女はこのホテルのオーナーであり、ガーク商会の当主らしい。ホテルの視察のために訪れていたとのこと。


少女をキングサイズのベッドに寝かせ、ローブのフードを捲る。顔は真新しいたんこぶだらけで、鼻血はだらだら。杖で殴られた箇所は出血を伴って腫れ上がっている。とてもじゃないが見ていられない。服は粗末な、パッチまみれのボロボロの着衣。身体つきも瘦せ細っているように見える。


「この子、満足に食えてないな。」


「でしょうね。労働者として搾取される家庭の子供の典型、スラム行きをギリギリ回避できている貧困層だと思うわ。」


「王都でも、さすがにこんなに酷くはなかったぞ。」


「この国は地方分権だってことは知ってるでしょ。ヤーライルのやり方に疑問を抱く貴族も少なくないはずだけど、これが現実。ヤーライルが支配するとこうなることが分かっていたから、お母様は異を唱えたのよ。」


そう言いながら、ユーナが杖を少女の額に当てる。刹那、フィオナの時と同じく少女が薄い緑色に包まれ、ユーナが負わした傷が瞬く間に快復していく。だが、栄養失調気味で細い身体はそのままだ。


「意識が戻るまで待ちましょう。そのうち起きるはずよ。」


ユーナが杖を少女から離し、自分の肩に担ぐ。


「いい判断だった、と思う。俺は何も出来なかった。礼を言う。」


「別に、あんたに礼を言われる筋合いは無いわ。」


「まぁ、それはそうなんだろうが…あの女、本気でこの子を殺す気だったぞ。」


「でしょうね。デクマルシアはそういう奴よ。」


「そう、そのデクマルシアだ。知り合いか?」


ユーナが自分のベッドにドスンと腰を掛ける。


「向こうは私のことなんて覚えてもないでしょうけどね。まだオーマチ家が健在だったとき、たまにサイレル家と交流する機会もあったんだけど、そこにいたわ。」


「と、いうことは貴族なのか?」


ユーナがこちらを見やる。その瞳にチラと怒りの火が見えたような気がした。


「貴族も何も、ヤツはヤーライルの姉よ。デクマルシア・サイレル。それがあのクソデブの姓名(なまえ)。相変わらず傲慢で欲まみれ。あんたも見たでしょ? あの宝飾で着飾っただけの、センスのかけらもない下品な豚を。己の家がどれだけ優秀か、それを下級貴族相手に延々と聞かせるのが趣味のくだらない女よ。当時からデブだけど、更に肥えたわね。ミンチにして、それこそ豚の餌にしてやった方が世の中の為だわ。」


先ほどのデクマルシアの様子を思い出す。確かに、権力を盾に好き放題しそうなタイプだと思う。そうだとは思うんだけど…


「姉? だったら序列としてはデクマルシアの方がヤーライルより上だろう? なぜデクマルシアがサイレル家の当主じゃないんだ?」


「そりゃ当然、性格に難ありだからよ。デクマルシアよりはまだマシなヤーライルを当主に指名するくらいには、サイレルの先代はバカじゃなかったってことね。」


「でもそのデクマルシアがガーク商会の当主だという。物的証拠はさておき、状況証拠としては真っ黒だぞ。」


「そうね。サイレル公爵家とガーク商会がズブズブの関係なのは間違い無い。」


「でも、なんだって実の姉をガーク商会の当主にしたんだろうな。あまりにもあからさますぎる。」


そう言った俺にユーナが怪訝な目を向ける。


「あら、そういう意味で言うと王都のフォルテ商会の方が異質なのよ。普通は近親者を商会の頭に置くのが権力者の常套手段だわ。まぁ、デクマルシアを商会当主に沿えたのは、別の狙いもあったと思うけど。」


(ん? どゆこと??)


「ちょっと待ってくれ、色々と情報が多い。そもそも王家とフォルテ商会の関係が稀有だと?」


ユーナが足を組み、膝に肘をついて、掌に顎を乗せる。


「そうよ。普通、自身の親類縁者に商会を立ち上げさせるか、もともとの商会を継がせるか、商会と婚姻関係を結ぶか。便宜を図り肥大化させることで自分にとって便利な商会を作ると同時に、一族の繁栄を図る。でも王家のクララは実力主義だから、最も認めているパーラに便宜を図ったのよ。一国の指導者としてはクララは異例ね。多分、ビーアル帝国の繁栄を目の当たりにして、思うことがあったんだと思うわ。」


(そうか、だからクララとパーラ(お義母さん)はあれだけ距離が近いし、信頼しあっているのか。)


「王家とフォルテ商会の関係は分かった。でもビーアル帝国の影響とはなんだ?」


「あんた、何度も言うけど本当に当たり前のことを知らないのね。ビーアル帝国のエミリア皇帝は徹底した実力主義で経済も軍事もそれまでの帝国とは比べ物にならないくらい発展させた凄腕の人物よ。それまでの旧態依然を廃し、強力な統率力のもとで帝国を立て直した鉄の女。そんな帝国と隣り合わせの王国は、嫌が応でも考え方を改めざるを得なくなる。ここからはお母様の所感だけど、クララはエミリア皇帝を危険視しながらも、彼女から見習うべきと判断したんだと思うわ。…まぁこれはお母様の所感だから本当のところは分からない。お母様はクララのことは評価していらしたから…。」


ユーナが唇を噛み、目を伏せる。


「そうか…。まぁ確かに、俺もクララ国王が悪い人間とは思えない。人遣いは粗いがな。」


「それはそれ、これはこれね。」


「それで? ヤーライルがデクマルシアを商会当主に沿えた別の狙いとは何だと思う?」


はぁ、とユーナが呆れ顔で溜息を吐く。


「分からない? 厄介払いよ。あんなクソアマにはヤーライルも辟易してるでしょうに。でも、自分が当主に選ばれてしまったことでデクマルシアのやっかみが自分に向くかもしれない。だからある程度の実権を持てるお抱え商会の当主に姉のデクマルシアを沿えたのよ。単なる推測だけど、少なくとも私はそう睨んでる。」


「なるほどな、話は分かった。まぁでも、この子を助ける為とはいえ、よくデクマルシアに頭を下げることが出来たな。ちょっと、お前のことを見直したよ。」


うぅ、んうぅ…。


呻く少女を見ると、寝起きのようにぼんやりと目を覚ます。


少女の首が動き俺を見る。次いでユーナを捉えた時、慌てて飛び起きてベッドの上を尻餅を付いて後ずさる。


恐怖で揺れた目でユーナを見ながら「や…! やめてください…ごめんなさい…!」と震えている。


「落ち着け! 何もしないし、ここは安全だ。もうどこも痛くはないだろう?」


「…え?」


少女が自分の顔を手でペタペタ触り、そして自分の身体のどこにも異常がないことを確認する。


(フィオナといい俺といい、意識のないうちに回復魔法を掛けられたら、まぁこうなるわな。)


「あれ…わたし、なんで…?」


混乱する少女に「あなた、石投げつけて何がしたいわけ? どうせやるなら弓矢で射殺(いころ)すくらいのことはしなさいよ。」とユーナが冷たくなじる。


「ユーナ、起きたばかりで混乱している。いきなり説教はやめろ。」


俺がそう言うとユーナがふんっと鼻を鳴らす。


(まったく、そういうとこだっての。)


「キミ、名前は?」


「…フェイリア。」


俺の問いかけに、少女は小さく呟く。


(フェイリア。フェイリャー。failure。確かに失敗だ。この子にお誂向きな名前過ぎるぜ。まぁ、この世界にフェイリャーなんて単語は無ぇけどな。)


「フェイリアか。いい名前だ。俺達はフェイリアの敵じゃない。この一見怖そうに見えるお姉さんも、フェイリア、キミを助けるために止むを得ずあんな真似をしたんだ。」


俺の言葉に「…助ける…ため?」と我知らず呟くフェイリアは、状況を理解しようと頑張っている。


「そうだ、助けるためだ。あのままだと、フェイリアは拘束され、殺さていただろう。だからあの場でキミをめった打ちにし、相手に『まぁいいか』と思わせる必要があったんだ。ここまで説明すれば、分かるかな?」


フェイリアの顔を優しく覗き込む。

少し考えるような素振りをした後、フェイリアがコクリと頷いた。


「そうか、良かった。なので、あの一見怖そうに見えるお姉さんを怖がる必要は無い。」


ユーナがぷいとそっぽを向く。


(ほんっと、素直じゃねぇな!)


「自己紹介がまだだったな。俺はシューヤ、あの一見怖そうに見えるお姉さんはノリコだ。」


「あんたね、何回そのマクラ付ける気? それにノリコって…。」


ユーナが逡巡する。


「そうね、私はノリコ。こっちのデカブツはシューヤよ。さっきは悪かったわね。でも理由はさっきシューヤが言った通りよ。だから悪いけど謝りはしないわ。」


さすが、ユーナは俺の即興を察してくれたようだ。


「そんなんだから『一見怖そうに見えるお姉さん』って言いたくなるんだ。」

「あんたもこの子と同じ目に遭わせてあげようかしら?」


ニッコリ笑顔で殺気を放つユーナに「ノリコさん…。ありがとうございました。」とフェイリアがペコリと頭を垂れた。


―◇―◇―◇―


「それでフェイリア、少し話を聞かせてくれ。あの青いドレスの女を狙って石を投げたということで間違いはないか? どうしてあんな真似をしたんだ?」


水を与え、落ち着きを取り戻したフェイリアに話しかける。


「…間違いありません。あの人のせいでお母さんが倒れちゃったから、その仕返しをしようと…。」


ユーナに目配せすると、ユーナがフェイリアを顎でしゃくる。私に構わずそのまま聞けという意味だ。


「母親が倒れた、とは?」


「お母さん、ガーク商会がやってる工事の作業員なんですけど、仕事がキツくて、身体壊しちゃったから…。」


「工事?」


「お母さんも詳しくは教えてくれないんですけど、なんか、トンネル掘ってるって言ってました。」


「…トンネル。」


(この世界のトンネル掘削はほぼ手掘りだろうから、その過酷さたるや想像を絶するな…。)


「フェイリア、だっけ。あなたの母親は一時的に作業員として雇われてたってことかしら?」


「え? あ、はい。お母さんはもともと漁師だったんですけど、舟を取り上げられてしまって漁に出れなくなって…。そこから生活が苦しくなって、仕方なく工事作業員に応募したって、お母さんが言ってました。」


「やっぱりね。」と、ユーナが哀れむ目をフェイリアに向ける。


「どういうことだ?」


「トンネル掘削の普請なんて最も過酷な労働のひとつだわ。しかもガーク商会みたいな悪徳商会が取り仕切ってる普請なら尚更ね。そんな仕事をわざわざ選ぶなんて、よほど切羽詰まった状況があったとしか思えない。漁師を続けられなくなったのがその原因ね。それで? なんで舟を取り上げられたの?」


「お母さんが言うには、まとめ役のガーク商会に意見したら取り上げられたって…。」


(漁師たちのまとめ役。漁業組合的な組織もガーク商会が仕切ってるってことか。この街では、裏も表もガーク商会が絡んでると思ったほうがいいな。)


「ユー…ノリコ、思った以上にガーク商会の影響力はデカいようだぞ。」


「そうみたいね。まぁ、話は分かったわ。それで? フェイリアあなた、あのデブ女が誰だか分かってるの?」


「え、あ、はい。前見かけた時、お母さんがガーク商会の偉い人だって言ってました。」


「それだけ?」


「え、あ、はい、それだけです…。」


はぁ、とユーナからため息が漏れる。

「あなたね、それは分かってるとは言わないわよ。」


フェイリアの顔に『?』と書いてある。


「この際だから教えておいてあげるわ。あのデブはガーク商会当主、要は頭領よ。ガーク商会では一番偉い人間なの。それだけじゃないわ。あのデブの姓名(なまえ)はデクマルシア・サイレル。この街の領主、ヤーライル・サイレルの実の姉よ。つまり、あなたは領主の姉妹を直接害そうとしたわけ。この意味、分かる?」


ユーナの問いに最初はきょとん顔のフェイリアだったが、次第に自分がしでかしたことの意味を理解したのか、みるみる顔が青ざめていく。


「あ、わ、わたし…!」


「フェイリア、あなたの短気のせいで、あなたの親類縁者が皆殺しの憂き目に遭うところだったのよ。」


自分の過ちの大きさに気付き、ベッドの上で膝を抱えて縮こまるフェイリアにユーナが近づく。


「どうせ殺(や)られるんなら、その前に相手を確実に殺しなさい。石なんか投げたところで何の意味もないのよ。それができないのなら、もう二度と下らない真似はしないことね。」


ユーナがフェイリアを見下ろし、容赦なくお灸を据えた。


(なんかちょっと論点がズレてる気がするけど、まぁいいや…。)


「ま、まぁノリコ、最悪の事態は避けられたんだから、この件はこれでいいだろう。早くこの子を送り届けよう。」


「なんで私たちが送ってかないといけないのよ。」と胡乱気な目を向けるユーナを「そんなに邪険にしてやるな。時間があまり無いとはいえ、この街に着いたその日から何を出来るわけでもない。だったら、親切のひとつくらいしても罰(バチ)は当たらんだろう。」と宥める。


俺の言葉にユーナが逡巡し「まぁ、たしかにそれもそうね。」と納得してくれた。


「そうと決まれば善は急げだ。フェイリア、お前を母親のところに送り届けてやる。案内してくれるかな?」


フェイリアは、今度は強く頷いた。


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