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バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
2章 王国内戦

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29_城壁湾港都市ハクシーラン その1(入城)

王城から撤収するための付き添いとしてリーラス王女がお供してくれた。というより、ララスが半ば押し出すようにリーラスを寄越したように見えたが、多分気のせいだ。


ドレス姿のリーラスと王城の廊下を歩く。


(広い廊下に高い廊下、それに一級品の調度品、やっぱ城ってすげぇな。)


「ツカサ殿、妾にはツカサ殿がなんだか王国の危機を救う騎士のように思えてきましたわ。」


リーラスのうっとりとした顔に、うっと息が詰まる。


「わ、私がですか…? まさか、買いかぶりですよ。それに、緑魔石も国王が期待されている量があるのか分かりませんし、弩砲や投石機だって実戦でどれだけ使えるのか未知数ですから。」


「だったとしても、母上がツカサ殿に突破口を見出したことは事実です。」


「それは、喜ぶべきかどうか…。私には荷が重いですね。」


「ですがいつもツカサ殿は母上の期待を軽く越えてきて下さる。緑魔石や兵器だけでなく、農業にもなにやら力を入れているともお聞き及んでおります。」


「ご存じなのですか?」


「勿論です。ここにはあらゆる情報が入ってきますから。ミラ殿、でしたか? ただの村人だった女が、今では農業についてツカサ殿の隣で奮闘している。なんと輝かしいことかと、報告を聞いて胸の高鳴りが収まりませんでしたのよ。」


(ミラが様子を見に行っている村々には兵士たちが巡回しているからな。彼らと話す機会でもあったのだろう。)


「そう言っていただけると、ミラも喜ぶでしょう。」


「是非、ミラ殿にお伝えくださいまし。」


ふいにリーラスの顔が翳る。


「妾など、母上の期待に応えられたことなど一度もございませんので、ツカサ殿にはいつも衝撃を禁じ得ないのですのよ。」


「お戯れを。まぁとはいえ、国王と王女なのである程度は仕方ないかと思うのですが、国王陛下は殿下たちにかなり厳しいように見えますよ。」


「それは、はい…。早くに産母が亡くなり、何の支えもなく一国の王として邁進して来られた方ですので、公務に関しては容赦はありませんね…。でも、常に妾たちのことを気にしておられるのは伝わってきます。」とリーラスがぎこちなく笑う。


「そうですか。優しいふりをして子供に向き合わない親よりも遥かに立派だと、私は思いますがね。」


(まったく、とんだブーメランだぜ。)


フフッとリーラスが微笑む。


「ツカサ殿は、本当に不思議な方ですね。」


「…」


「先ほどは不躾なお願いをしてしまいましたが、お願いついでにもう一つ、妾のわがままを聞いてはいただけないでしょうか。」


「何でしょうか?」


「本日披露されたクロスボウ。アレをひとつ妾にいただけませんでしょうか。」


「あんなモノを、王女殿下が?」


「はい。ダメでしょうか…?」


リーラスが上目遣いで見てくる。こう見ると、ただの可愛らし18の娘にしか見えないが…


(やっぱミリオタだったんだな…。)


「いえ、構いませんよ。工房に言って作ってもらいますので、フォルテ商会からリーラス殿下宛に届けさせます。」


「いえ、えーと、その…。ツカサ殿が自ら妾に手渡して欲しいのですが…」と言ったかと思うと、リーラスがはっと口を押さえる。


「け、決してそういう意味ではなく、潜入こそしないものの、ツカサ殿はこれから危険な任務に赴かれるのです。こういう小さな約束でもあれば、無事に帰ってこれるかと…。」


リーラスの顔が真っ赤だ。


(それって、元世界では死亡フラグって言うんだよな…。)


「承知しました。必ず無事に戻って、リーラス殿下にクロスボウを私自らお届けにあがりましょう。」


「本当ですか!? 楽しみに待っております!」


「はい。…それよりも、そんなことを頼んで陛下に叱責されませんか?」


「…母上は、こういう点はもう諦めてますので大丈夫です!」と自信満々にリーラスが鼻を鳴らした。


(それは胸を張っていいんだろうか…?)


―◇―◇―◇―


――基盤歴639年10月29日(夕刻)――


「今日はここに泊まるわよ。」


「知ってる村か?」


「いいえ、新興の村かもね。8年前はこんな村、無かったわ。」


確かに建物が新しいし、村にしては人の往来も多い。


「村にしては賑わってるな。」


「明日には旧オーマチ領、湾港都市ハクシーランに着くのよ。ここは冒険者にとっても商人にとっても、ハクシーランへの足がかりみたいなところなのかもね。」


10日前、ユーナと共に王都ヴェレンタンを出立し、証拠確保のための旅に出た。勿論、行先は旧オーマチ領――現在は湾港都市ハクシーラン――だ。ハクシーランにある旧領主館、現ガーク商会本店とラガン湾近くの怪しげな交易現場が今回の目標となる。


馬で10日掛けて移動し、ハクシーランまであと半日のところにある村に立ち寄る。さすがに今回ばかりはミラにもポーラにも『国王陛下からの直々の依頼』ということだけ伝えて、詳しいことは何も話していない。最大で一月半留守にするということで二人ともかなり不安気だったが、ユーナと一緒だと伝えると少しは安堵したようだった。


「ほら何してんのよ、さっさと行くわよ。」


さっきからずっとこんな感じだ。ユーナのやつ、ツンケンしてやがるぜ。


「ユーナ、ハクシーランに近づくにつれて気が立ってないか? さっきも言ったが、余計な短気はおこすなよ。ただでさえ…」


「ただでさえ、何?」


ユーナがジロリと睨みつけてくる。


「ただでさえキレやす…いって!!」


脛にユーナの蹴りがクリーンヒットした。


「分かってるわよそんなこと!」


「もうおにぎりやらねぇ…おふっ!!」


聞こえないように呟いたつもりだったが、今度は肘を腹に入れられてしまった。


―◇―◇―◇―


「ほら、飲め。酒で気分を落ち着かすのは良くないが、そうでもしないと落ち着かんだろう。さっきから見ていられないぞ。」


先ほどこの宿屋にチェックインし、2階のこの部屋を充てがわれた。あいにく一部屋しか空いてなかったらしく、仕方なくユーナと共に入室し、荷物をおいて早めの夕食をとることにした。テーブルの向かいに座るユーナの猪口に日本酒を注ぐ。


「さっきは悪かったわ。あんたの言う通り、落ち着かないのよ。ありがとう、気が利くのね。」と言うやいなや猪口の日本酒を一気に飲み干す。


(ぽんしゅ一気飲みかよ…。)


猪口をテーブルに置き、ため息をつく。どこか遠い目をしながらユーナが続ける。


「でも本当にそう。8年前には無かった道、8年前には無かった村。ポーラによると、湾港都市ハクシーランは城壁都市になってるっていう話じゃない。そんな城壁も、ラガン港も当時は無かったもの。…なんだか、故郷なのに私の知ってる場所じゃない感じだわ。…分かる?」


上京して、何年か経って地元に帰省すると知らない店や知らない道ができていたり、開発されて全く知らない場所になっていたりするものだ。そんな感覚に近いのだろうが、ユーナの辿ってきた半生を知っている身としては簡単に頷くことは出来ない。だから「何となくな…。」と返しておいた。


「あんたここに来る途中に、『ヤーライルを見つけても短気を起こすな』って言ったわよね? あれ、国王(あの女)から私に言うように言われたんでしょ。」


「それはそうだが、俺もそれには同感だ。オーマチ子爵家の生き残りが自分たちが治める街にやってきた、なんていうだけで拘束されかねん。」


「確かに、ヤーライル(あのクソアマ)ならそれくらいするでしょうね。上等よ、片っ端からぶっ殺してやるわ。」


「ユーナ…!」


「冗談よ、冗談。」


ユーナはそうからから笑いながら、手酌で日本酒をついでいる。


(半分本気だろうが、まったく…。しかもめっちゃ口悪くなってやがるし。)


「だったらいいんだけどな。ヤーライルはハクシーランに本拠地を移したって話だ。あながち有り得ないことでもないから不安なんだよ。」


「うるっさいわね。いざというときは力尽くで止めてみなさいよ。それがあんたの役目でしょ。」


挑発してくるユーナに反論する気も失せ、ため息をついて窓の外に視線を移す。ここに至るまでに、そしてこの村に入ってからは更に際立ってきたのが、行き交う人々の服装や装飾、それから身体つきの差だった。


「なーに黙りこくってんのよ。」


「今度は絡み酒か? いい加減にしてくれ。」


「別にいいじゃない。こんな可愛らしい女の子から絡まれるなんて。」


「なにが可愛らしい女の子だ。場末の酔っぱらいの間違いだ…って!!」


今度はテーブルの下で膝をげしっと蹴られる。


「で? さっきから何見てるの?」


「あー、いや、着てるものや身体つきの差が激しいなって思ってな。王都も確かに貧富の差はあるが、ここはその比ではない。」


ユーナが顔を顰める。


「ラガン港での貿易で豊かになったとは言われてるけど、そんなのは数字の上だけの話よ。貿易でもたらされる利益の殆どは、貴族や大商人が独占してるのよ。それどころか、普通の領民はこの大きな都市を回すために今までよりも搾取されてるんだわ。」


「ポーラも、サイレル領の一部は以前よりも活気を失っていると言っていたが…。なるほど、そういうことか。」


(元世界でもこの世界でも、上の人間がやってることは同じ、か。名目レベルの人権もない分、この世界のほうが遥かに悲惨だな。)


「『ヤーライル公爵の思うままになったらサイレル領の民は不幸になる』。まったく、お母様の言う通りになったわね。」


「母上殿は、非常に優秀な統治者だったのだな。」と言った俺に、ユーナが自嘲気味に笑う。


「そうね、領民には親しまれてた。私たちも母が誇りだったわ。だけど、死んだら終わりなのよ…。あのとき、形だけでもヤーライルに従って工事を進めておけば、まだマシな未来があったかもしれない。領民にとっても、私にとっても…。」


「…」


「今日は悪かったわね。気が立ってたのは事実よ。正直、今もそう。でもダメね、もっとしっかりしなきゃ。お母様に笑われてしまうわ。」


そううっすら涙を浮かべて猪口をぐいっと煽る。


「これを食ってみろ。」


猪口を置き、涙を拭ったユーナが怪訝な顔をする。


「何これ」


「刺身だ。俺の故郷の食い物だ。生の魚だよ。」


「これが生の魚…? さ、しみ? っていうの?」


ユーナに赤身、中トロ、真鯛、マゴチ、サーモンの刺身を差し出す。


「そうだ。こうやって食う。」


皿に召喚した刺身醤油とワサビを準備し、マゴチを一切れ頬張る。


(うん、普通に美味い。元世界からの物品召喚スキルに感謝だな。)


「さぁ、ユーナも食ってみろ。」


「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね…?」


「ああ、大丈夫だ。現に今、俺が食っただろう。」


「それはそうだけど…。それじゃあひとつ…」


ユーナが恐る恐る真鯛の刺身をつまみ、ワサビ醤油をつけ、思い切ったように口に放り込んだ。


ひとかみ、ふたかみ、と、ユーナが声を漏らす。


「美味しい…!! こんなのが生の魚だなんて!」


「気に入ったか?」


俺の問いに首を激しく縦に振っている。


「その酒にも良く合う。今日はこれで前祝いだよ。無事に帰って、また美味いものでも食おう。」


真鯛の刺身を嚥下し、日本酒を一口飲んだユーナがふっと柔らかく微笑む。


「あんたのそういうとこ、ムカつく。」


―◇―◇―◇―


翌朝、宿を出て、村を出て、そして城壁湾港都市ハクシーランに向かう。馬に乗り、街道をユーナと共に行く。そして昼に差し掛かろうとした頃、丘を越えた先に大きく広がる海と、その海と城壁に囲われた街――ハクシーランが見えた。


「あれが城壁湾港都市ハクシーランか。」


「ええ、間違い無い。ここからの見える景色は覚えてる。オーマチ領のときは大きな港町って感じだったけど、もう見る影は無いわね。」


「海に潜んで夜中に泳いで侵入するというのは、やはり無理そうだな。正面から通過する備えをしておいて良かった。」


城壁が都市をぐるりと囲い、更に海側にある程度伸びている。まるで背の高い堤防だ。


「ええ、だから正面突破が正解。」


「そのカラコン…いや、瞳の被せ物は寝る時以外は取るなよ。万が一にもユーナ・オーマチだとバレるわけはいかないんだからな。」


「分かってるわ。今、ここは私の故郷じゃなくて戦場なのよ。今朝あんたのお陰で髪の色も変えれたから、バレる心配無いわ。」


今朝、特徴的な紫の瞳と髪を誤魔化すために、ブルーのカラコンをつけて髪も金髪に染めている。


「であればいい。俺達は飽くまで番(つがい)の行商として、この湾港都市の珍品を探しに来たという設定だ。」


「ええ、問題ない。取り敢えず城壁の門を突破できるかが最初の関門ね。考えても仕方ないから、さっさと行くわよ。」


ユーナの横顔を見る。その表情には覚悟が垣間見える。


そのまま何食わぬ顔で進み、城壁の検問の列に並んだ。


(転移初日、王都の検問に並んだのが懐かしいぜ。あれからもうまる7ヶ月か。相当昔のように思えるけど、まだ7ヶ月なんだな…。)


そう感傷に浸りながら城壁を眺めていると、ふとした違和感を感じる。

なんだ、なんだろう、何かが違う。これは…。


「なぁユーナ、この城壁、緑魔石が埋め込まれてないぞ。」


俺がユーナに耳打ちすると、ユーナも城壁をまじまじと見て得心したように頷く。


「確かに無いわね。多分、そんなものを埋め込む時間が無かったのか、そもそも調達出来なかったか、そのどちらかね。言ったでしょう? ラガン港含めて突貫で作った街なのよ。人も物も使い潰してね。」


「理屈は分かるが、これだけ投資しておいて、緑魔石を調達できないなんてことがあるのか?」


「緑魔石はね、お金を積むだけで買えるもんじゃないのよ。色んな政治的な要因が絡むわ。こと王国においては、法国から輸入される緑魔石は必ず王都を経由する。つまり王家が配分を決めてるのよ。国王なら、こういうことを予見してわざとヤーライルに提供しなかったってことも考えられるわ。まぁ、単に時間が無かっただけってことかもしれないけど。」


「…なるほどな。つくづく、とんでもないものを発見してしまったんだな、俺たち。」と言った俺にユーナが「いまさら?」と呆れたかと思いきや「あぁ、そういうこと。」と小馬鹿にした表情に変わる。


「謁見の間で緑魔石の鉱脈を見つけたと報告したときクララ(あの女)が淡々としてたから、重要な資源だとは理解しつつもそこまでじゃないだろう、とか思ってた??」


「ま、まぁ…。」


「あんた、王家の人間や高官たちと接することが多いようだから教えておいてあげるわ。表情でコトの大小が判断できるほど、あの人たちは優しくないのよ。」


(なるほど、ポーカーフェイスは基本のキか。)


「バカにするついでにもう一つ言っといてあげる。あの謁見の間でいちいちざわついていたのは、玉座から見て左側、つまりなんの役職にも就いていない貴族どもよ。宰相、陸軍卿、海軍卿、それに侍従局局長たちが並んでた右側の人間は表情一つ崩して無かったわ。」


(思い出してみれば、確かに…。)


「なるほどな。あー、でも、その後にリンダ局長はお前の挑発に怒り心頭な様子だったが…。」


「あれはあれ、それはそれよ。」


(全っ然分かんねぇ…。)


「まったく、あのとき必死になってた俺の気も知らないで…。あの局長、事と次第によれば本気で衛兵に剣を抜かせる気だったぞ。」


「面白そうじゃない。」


煽るように嘯くユーナに言い返す気も起きない。なんつー好戦的なやつだ、まったく…。


「次の者っ!」


検問の衛兵の怒号が響く。どうやら順番が来たようだ。


「有数の貿易都市だと聞いてやってきた旅の行商だ。なにか珍しいものがないか調査に来た。」


サイレル軍の衛兵がフードを被った俺とユーナを胡乱気に見る。


「滞在期間は?」


「長くて半月だ。」


「ハクシーランで商いをする予定は?」


「無い。さっきも言った通りただの調査だ。」


衛兵がふんっと馬鹿にしたように笑う。

「まぁ、なんの商品もねぇようだし、商いなんてできるわけねぇか。」

周りの衛兵もクックと笑い出す。非常に感じが悪い。


「じゃあいいや、ほら。」と衛兵がそう言って掌をグイと押し出してくる。


「ほら、これでいいだろう。」


銀貨10枚を手渡す。俺とユーナ、二人分だ。


「足りねぇな。」と下卑たニヤけ顔で再度掌を押し出してくる。


(たしかひとりあたり銀貨5枚だったはずだが…)


「間違ったわ。これでどう?」と、横からユーナが金貨1枚を衛兵の掌に載せる。


「話が分かるねぇ、ちっこいの。デカいのもちったぁ見習いな。ほら、さっさと行けよ。」


衛兵がしっしと手を振る。どうやら入って良いようだ。


「済まない、助かった。」


「あんた、こういう常識も無いのね。」


呆れているユーナに「サイレル領では袖の下は普通なのか?」と聞くと「さぁね、まぁ少なくとも、この街が腐ってるってのは事実でしょうね。」と涼しい顔で返された。


(この街、めっちゃきな臭ぇ…。)


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