02_ステータスアップ?
「おぉ、城壁都市だ。初めて見たぜ!」
ヴェルデ村を出て約1時間、城壁の門に近づくにつれ、街道が目に入る。そこには荷車を引く商人や冒険者風の者たち、そして甲冑を身に纏った騎士たちが行き交っていた。
(なるほど。あの街道からこの城壁都市に入るのか。やはり、技術レベルは中世程度。騎士たちの兵装も槍や剣だな。)
そう観察しながら、門を通過する列に並ぶ。ミラの情報が正しければ、銀貨5枚で入場できるはずだ。
城壁を再度見上げる。
よく見ると、城壁がキラキラとラメのように煌めいている。
(なんでラメってるんだろう。まぁ異世界だし、考えるだけ無駄か。
それにしても、本当に女ばかりだな。騎士も含めて女、女、女ばかり。ミラの情報通りだ。
それにしてもみんな、なかなかどうして若くて美人ばかりで眼福…。)
頭を振る。
(あかーん!なに見惚れてるんだ俺。もう43だぞ。しかもバツイチだ。しっかりしろ。
それに若く見えて若くはない!30歳手前くらいの見た目なら同い年だからな、不思議。。)
そんな煩悩に苛まれるうち、検問の順番がやってきた。
「次の者!身分証を見せろ。」
「旅の行商なので身分証は無い。その代わり銀貨5枚を支払おう。」
「行商? 手ぶらでか?」
「買い付けだ。王都にしかない希少な品が無いか見に来た。仕入れ品の調査が目的だ。」
「なるほどな、了解だ。最後に顔を見せろ。」
フードを脱ぎ衛兵に顔を見せる。
衛兵は一瞬面食らい、何か言いたげな顔をしたが、「通れ。次の者!」と言って通らされた。
(よし、無事にパスだな。コスプレ用の金髪ロン毛カツラも役に立つってもんだぜ。)
―◇―◇―◇―
王都ヴェレンタン。
検問を通過した先には、ヴェレンタ王国の国旗がずらりと翻っている。鮮やかな赤を基調にした下地に、獅子、盾、王冠が金糸で刺繍されている。
(活気があるな。さすが王都。)
取り敢えず、市場調査に行こう。何がどの程度で売れるのかを把握する必要がある。
―◇―◇―◇―
まずは大衆向けの中央露店市場を偵察する。
フルーツ盛り合わせが銅貨3枚、あまり品質の良くなさそうなナイフが金貨1枚、
干し肉の塊が銅貨8枚、魚の干物1尾が銅貨4枚。
粗末な麻のシャツとズボンがセットで銀貨5枚、上着が銀貨5枚、仕立ての悪そうな革靴が銀貨5枚。
雑穀粉10㎏が銀貨1枚、ライ麦粉10㎏が銀貨2枚、小さな宝飾品が銀貨5枚~10枚。
共通して言えるのは、元世界の基準からすると品質が良くない。まぁ当然だが。
そして、食事よりも服や靴が高価である。靴が服より高いのは現代と同じだな。
商いの常識として、上質なものは高く売れる。元世界から召喚したものだと尚更、ということだ。
明日は、富裕層向けの店舗を見に行こう。
そういえば、この世界の一般的な宿はいくらなのだろうか。
干し肉を売っている露店の若い女主人(本当に若いかは分からないが)に声を掛ける。
「この干し肉の塊をくれ。
あと、この辺りで清潔で信用できる宿はあるか? 1泊いくらかも教えて欲しい」
「毎度あり!
なんだい、旅の方かい。この辺りだとそこの通りを入って暫く歩いたところにある『白鷺亭』がいいさ。1泊銀貨1枚だね。朝夕食事付きで銀貨1枚と銅貨5枚さ。
冒険者たちにも人気の宿だ。ほら、こいつは美味いし非常食にも最適! ちゃんとナイフで切ってから食いなよ。」
と、干し肉の塊を詰めた麻袋と銅貨2枚のおつりを渡される。
「ありがとう。その『白鷺亭』で美味しくいただくよ。」
(赤ワインでも召喚して、ツマミで食うか。)
―◇―◇―◇―
女主人の言う通り進み、白鷺亭の扉を開ける。1階は酒場も兼ねた食堂のようで、よく賑わっている。
冒険者風の者たちが昼間から一杯やっているようだ。
「いらっしゃい!白鷺亭にようこそ!
素泊まり1泊銀貨一枚、朝夕食事付きなら銀貨1枚と銅貨5枚だよ!」
「元気がいいな。取り敢えず素泊まりで5日分頼む。」
と言って銀貨5枚を支払う。
「連泊!?毎度あり!部屋は2階の一番奥の部屋ね! お名前は?」
「つかさ、だ。それにしてもノリがいいな、何歳だ?」
「私? 私はエリーゼ、18だよ! ここの女将さんと暮らしてるの。女将さんは49歳で私より美人!
ところでお客さん冒険者? 魔導師??」
(ローブを着てると魔法使いに見えるのは、世界が変わっても共通らしい。)
「いや、商人だ。ところで、この王都で信用できる商会を教えて欲しい。」
「あ、商人さんなんだ!王都で商会といえばフォルテ商会ね。
このヴェレンタ王国最大の商会よ。聞いたことくらいあるでしょ?」
「ん?あぁ、フォルテ商会な。有名だな。それで、そのフォルテ商会はどこにあるんだ?」
(知らねーよフォルテ商会なんて!)
「ここから歩いて20分くらいね。
王城方面に向かって歩いて、各種商会が立ち並ぶ区域にあるわ!ひと際大きいお屋敷、というか豪邸だからすぐに分かると思うよ。」
「分かった、ありがとう。
話は変わるが、昼間っからだいぶ賑わっているな。済まないが、冒険者たちが飲んでる酒を1杯、くれないか?」
「まいどあり! 麦酒1杯銅貨1枚ね!」
「あぁ、頼む。」
銅貨1枚を支払う。
ちょっと待っててねー!という掛け声とともにエリーゼがカウンターの奥に引っ込むと、すぐに木製ジョッキを持って戻ってきた。
「はい、麦酒だよ!」
「ありがとう。」
(麦酒。エールみたいなものか?
あまり冷えて無さそう、というか常温のようだが、味はいかがなものか。)
(…ダメだな。全っ然美味くねぇ。。これは冷やしてもあまり美味くはならないだろうな。
決めた。フォルテ商会には酒を卸そう。元世界の酒なら、この世界だと相当な値段になるぞ。)
「この宿は冒険者に人気なんだよね!他の宿に比べて清潔だし、食事も美味しいから。」
(このエリーゼもそうだが、冒険者たちも鍛えてるからか、出てるところは出て、
凹むところは凹んでて目の遣り場に困るな。。あ、ダメだ、復活した性欲の弊害が。。)
「…そうか。安心して寝泊まりできるな。」
「それにしてもツカサさんって変わった名前だよね。この辺りの人じゃないでしょ。それになんだか背も高いし、声も低い?感じ??」
心なしか、エリーゼの目線が平たい胸に向けられている気がする。
「あ、あぁ、昔から背が高くて声も低くて、よくからかわれたよ。じゃぁ、もう部屋に行くよ。」
「あそう? 麦酒のジョッキは後で持ってきてもらえばいいから、部屋でゆっくり飲んでね!」
―◇―◇―◇―
2階のベッドに移動し、部屋のベッドに寝っ転がる。
(危ない危ない、結構怪しまれちまうな。。
それにしても、異世界初日、か。元世界だと俺が無断欠勤してることになるのかぁ。
まぁ、どうでもいい。元世界に戻ったところで、帰る場所なんてねぇからな。)
ふと、1年前に離婚した元妻・礼奈と、彼女に引き取られた12歳の娘・結衣のことが頭を過ぎる。
(ま、人生の再出発ってことでちょうどいいじゃねーか。家庭なんざもう作る気はねぇがな。)
(さて、と。)
ホログラムを開く。
この世界の通貨を日本円に変換できると言うが、果たしてこの銅貨1枚は何円だろうか。
銅貨1枚をホログラムの日本円の欄に近づける。するとあら不思議、銅貨が手から跡形もなく消え、代わりに日本円に100円加算される。
次に銀貨をホログラムの日本円の欄に近づける。銅貨と同様に銀貨が手から跡形もなく消え、代わりに日本円に1,000円加算される。
(銅貨1枚100円、銀貨1枚は1,000円か。だとしたら金貨が10,000円ってところだな。)
次に、銅貨1枚をステータスの欄に近づける。
(…何も起きないな。)
代わりに、銀貨1枚をステータスの欄に近づける。
(…やっぱり何も起きない。ステータス向上には何か特別な条件が必要なんだろうか。)
考えても仕方がないと思い、パンを召喚して寝ながら頬張る。
(それにしても異世界か。元世界でそういう妄想をすることもあったが、いざ実際に起きてしまうとわりとあっさり受け入れられるもんだ。)
パンを食べ終わり、大の字に仰臥する。
あれこれと考えているうち、慣れない世界で疲れが出たのか、いつの間にか寝入ってしまった。
―◇―◇―◇―
「これで、鏑木さんに記入していただく書類は以上ですが、最後に何かご質問などございますか?」
「…いえ、何も。」
代理人弁護士は人間味のある表情で話す。
「本人同士で離婚の意思は確認し合っているものの、
その後の手続きや相談を弁護士に依頼するのは良かったと思います。
養育費や子供との面会頻度などで揉め始め、お互いの信頼関係が崩れた後からでは、泥沼化することもありますので。
弁護士の立場から言わせてもらうと、離婚の条件も悪くないですし、人生の再出発と捉えていただければ。
あまりお気を落とされませんように。それでは。」
それだけ言って代理人弁護士はアパートの部屋から出ていった。
―◇―◇―◇―
朝日の眩しさで目が覚める。木が剥き出しの見慣れない天井。
(そうか、そういえば異世界に迷い込んだんだっけか。。)
寝覚めの悪い夢を見たものの、この異世界転移は夢ではないらしい。
(よくある話だ。仕事が多忙で家にろくにいない夫に愛想を尽かす妻。
12歳の娘は妻の味方で、妻に連れられて娘もいなくなる。
別に珍しくもない、よくある家庭のいざこざだ。)
用意された木桶の水で顔を濯ぎ、備え付けの粗末な麻布で拭く。
(こんな異世界まで来てこんなしみったれたことを思い出すのは止めよう。
異世界転移なんて、これ以上ない「人生の再出発」じゃねーか。
今度の人生は、思い切り楽しまなくちゃな。
まずは富裕層向け店舗の調査だ。嗜好品の相場を見ておこう。)
―◇―◇―◇―
富裕層向け店舗が立ち並ぶ一等地に足を向ける。
洋服は露店よりもかなり仕立てが良くなり、原材料も麻、綿の他に絹もある。
絹の寝巻など、金貨3枚もする店もあった。
純粋な小麦粉も売られており、精製度合はかなり粗いものの、10㎏金貨1枚。
そりゃ、ミラが高精製の強力粉31㎏を銀貨10枚(=金貨1枚)と言われて戸惑うのも無理はない。
少し歩くと武具屋が目に留まる。
(そうか、冒険者がいるんだから武具屋もあるか。)
昨日、露店市で売られていた質の悪そうなナイフは銀貨5枚だったが、
果たしてちゃんとした武具はどの程度の値段か。
キィィっと扉を開ける。
中には冒険者と思しき者が数名、商品を物色している。
つかさに気付いた店員が話しかけてくる。
「いらっしゃい。何かお探し? その出で立ち、もしかして魔術師かい?」
「いや、商人だ。王都の武具装具の相場を見に来ただけだ。」
「そうかい。まぁ好きに見ておくれよ。
商人が商品買っちゃいけないって決まりはないんだから、気に入ったのがあったら買っていっておいでよ。」
「あぁ分かった。ありがとう。」
お言葉に甘えて商品を物色する。
剣、盾、弓、チェーンメイル、鎧…。男心をくすぐるラインナップに心が少年に戻る。
が、それらに掛けられた値札を見て現実に引き戻された。
革の防具が金貨4枚、チェーンメイルが金貨7枚、冒険者用の厚めの短剣金貨8枚、何の変哲もない片手剣が金貨15枚、一番安い弓が金貨10枚、低級魔導師用の杖が金貨12枚、フルプレートの甲冑、なんと金貨30枚、炎属性付与の魔剣、なんと金貨40枚…。
ベテラン冒険者風の女に声を掛ける。
「悪い、一つ聞きたいのだが、武具の相場はだいたいこんなものか?」
声を掛けられた茶髪の女は胡乱げにつかさを見る。
「そりゃ、ちゃんとした装備だからな、どこの店でもこのくらいはするさ。
あんた、駆け出しか? だったら先にカネ貯めて来るこったな。」
「いや、商人だ。このような都会の質の良い武具がどの程度で取引されているのかの調査だ。」
「あぁ、あんた商人かい。だったらこの店は勉強になるぜ。王都で最も品揃えがいいからな。」
「そうか。それで、あの属性が付与されている魔剣、あんな高くて買う者がいるのか?」
「当然だろ。魔剣を扱える冒険者はそう多くねぇ。つまり、それだけ凄腕ってことだ。
そんな凄腕の冒険者なら、金貨40枚程度は持ってるさ。」
「魔術師でも無いのに魔法が扱えるというのが稀有である、と?」
「それもある。だが、魔剣なんて希少な武器、金を出せば買えるもんじゃねぇ。
店側も『こいつになら』って冒険者にしか売らねぇからな。」
(アメリカの高級車ディーラーみたいなもんか。ある程度の地位が無いと、金を出しても買えない慣習、か。)
「なるほどな、参考になった。ありがとう。」
(この世界の相場はだいたいわかった。
さて、と、そろそろフォルテ商会に向かうとするか。)




