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バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
2章 王国内戦

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019_米

馬を厩(うまや)で借り、ユーナと共に王都を出る。


「そういえば、ミラはもちろん、ポーラも詳しいことは知らないらしいのだが、この城壁のキラキラしてるのは何なんだ? 城壁防御に使われてるということだけは、ポーラは知っていたんだが。」


「緑魔石のこと? そうよ、こういう城壁都市の城壁にはたいがい等間隔で埋め込まれているわ。いざというときに防御結界を発動させるために。」


「防御結界?」


「そ。もしどこかからか攻撃を受けた時、宮廷魔術師が中央の緑魔石に魔力を流し込むのよ。この王都だと、王城ね。緑魔石はその大きさが大きいほど影響範囲が広くなる。王城最上部にあると思うんだけど、特大の大きさだと思うわ。その緑魔石に魔力を流し込み、影響範囲内にある緑魔石に繋げる。王都には王城以外にも高い塔があるでしょ? あそこにも中継用の緑魔石があるはず。王城の緑魔石を起点として、影響範囲内にある緑魔石にどんどん魔力を流し込めるのよ。最終的には城壁に埋め込まれた小さな緑魔石にも魔力が伝搬し、城壁都市全体に防御結界を張るのよ。」


「つまり、王城の特大の大きさの緑魔石の影響範囲にある緑魔石に繋がり、そに緑魔石はその影響が届く範囲の緑魔石に繋がり、最終的には城壁の小さな緑魔石に繋がり、結果、城壁都市全体に防御結界を張れる、と?」


「その通りよ。」


(まるで磁場だな。)


「と、いうことは、一見なにもない城壁都市上空も防御できるということか?」


「えぇ、その通り。」


「なるほど。それで、それはどの程度の防御力なんだ?」


「さぁ、それは注がれている魔力量次第ね。少なかったら矢一本の落下も防げないわ。まぁ、そんなこと普通はないでしょうけど。」


「つまり、防御性能そのものは注がれている魔力量に比例するということだな。」


「その通りよ。」


「緑魔石自体に魔力を貯める力はないのか?」


「あるわよ。しかも再装填可能。だから重宝されるの。城壁都市の防御結界なんて、危ないと分かった瞬間から魔力を充填し始めるの。そしていざ魔物や敵軍が迫ってきたとき、充填した魔力を解放して防御結界を発動させるのよ。」


「そんなに便利なものなら、もっと別の物にも応用できるんじゃないか?」


「バカね、緑魔石は貴重すぎるのよ。緑魔石の採掘できるのはコニック法国だけで、あとはテキラ公国が少し採掘できるくらいだわ。あまりにも希少過ぎて、どこの国も城壁都市の防御結界にしか使えないのよ。」


「そんな希少な魔石だったら、コニック法国は自国だけで使えばいいのでは?」


「そんなことをしたら、コニック法国は世界から袋叩きよ。」


(んー、石油みたいなもんかな。)


「なるほどな。ということは、防御結界以外の使い道は分からないってことか。」


「灯(ともしび)に使えるのは分かっているけど、まぁそれだけね。そもそも私たちみたいな平民には、緑魔石を触る機会なんてないんだけど。」


「それにしては随分と詳しいじゃないか。」


「それは…わたしも昔は貴族だったから。」


(おや、まさかここでこの話題に自分から触れるとは。)


「自分から言い出すとはな。」


「知ってたのね。まぁ、知らないわけもない、か。巷では私の前でオーマチ姓を口にするだけで治癒院送りにされるって言われてるけど、そんなことはないのよ?」


「それはそうなんだろうが、敢えてその話題には触れないだろう。」


(旧オーマチ邸のことを話題に出す絶好のチャンス! だけどもし喧々諤々になっちまったら、これから始まる楽しい冒険に水を差しちまうからな…。うん、今は止めておこう。)


「とはいえ、オーマチ姓のことが取り敢えず禁忌(タブー)ではないと分かっただけで安心した。」


「誰でも彼でもってわけじゃないわ。タラーレやあんたくらいの関係があれば、別にいいってだけよ。」


―◇―◇―◇―


昼食と馬の休憩のために木陰で小休止を取る。


馬を適当な木に括り付け、背嚢を下ろして叢に座る。


(そういえば、今日は急だったから昼メシ用意してなかったな。まぁ、適当に何か召喚するか。)


ホログラムでぱぱっと探してみる。昆布のおにぎりと赤飯おにぎり、それから缶の緑茶を召喚する。締めて442円だ。


(こういうときはやっぱりおにぎりとお茶だよな。)


包装を外し一口頬張る。醤油と砂糖の甘辛い風味が昆布の歯ごたえと共に米を包み込む。そしてプルタップを開け、冷えた緑茶をゴクリと流し込んだ。


(美味い! これぞ野外の携行食って感じだな!)


「ツカサあんた、それ、なに…?」


ユーナが干し肉と堅パンを手に持って固まっている。その目は、左手に持ったおにぎりと右手に持った緑茶を行き来している。


口の中のものを嚥下し、おにぎりと緑茶を道具箱に収納する。


「ユーナ、気にするな。食ったら行こう。」


「えぇ、そうね。食べたら行きましょう。…とでも言うと思ったわけ!?」


(ですよねー。なんでこういう時に油断しちまうのか…。慣れって怖い…。)


「何それ! 見せなさいよ! 人がこんな干し肉と堅パンでさもしい食事をしようって時に、そんな美味しそうな顔して!!」


ユーナが喚くので、食べかけの昆布おにぎり、未開封の赤飯おにぎり、そして緑茶を召喚して見せる。


「…これだが、麦やパンとは違うぞ。口に合うかどうか…。」


「…これ、もしかしておコメ…?」


(コメを知ってる…? この世界に来てから、食されているところはもちろん、市場などで売られているのも見たことはないけど…)


「そうだが、コメを知ってるのか?」


「これ、一口くれる…?」


(ユーナのやつ、どうかしたか? まぁなんにしろ、食べかけをやるのも野暮だな。)


新しい昆布おにぎりを召喚し、包装を外してユーナに差し出す。


ユーナは、何か大切な物でも受け取るように両手で扱い、それから一口食んだ。


咀嚼してるとき、目尻から一筋の涙が零れ、ユーナの頬を伝う。


それに構わず、ユーナはおにぎりを食べ進める。

とめどなく溢れる涙を気にする素振りもなく、あっという間に平らげてしまった。


「それも…」と、赤飯おにぎりを涙目で見つめてくるので、こちらも包装を解いて差し出す。


その赤飯おにぎりも、あっという間に食べ終わってしまった。


「飲むか?」

差し出した缶の緑茶をユーナが一口飲み、ふぅっと、ひと心地つく。


――沈黙。


(めっちゃ気まずいんですけど!)


どうしたもんかと思案していると、ユーナが鼻をひとつ啜って、それからおもむろに口を開く。

「ごめん、恥ずかしいところ見せてしまったわね。」


「いや、それはいいんだが、どうした?」


ユーナが目を落とす。


「オーマチ領ではね、麦よりもコメのほうが主流だったの。世界広しといえど、恐らく稲作はあの辺りでしかやってないんじゃないかしら。領地には、いたるところに水田があったわ。家が取り潰されて妹と一緒に北へ北へと流れてきたけど、ついぞコメを見かけることは無かったわ。もう、二度と食べることは叶わないと思ってた…。」


(なるほど、そういうことか。)


「…そうか、それは良かった。それにしても、妹さんがいるんだな。」


「死んだわよ、もう7年も前にね。当時は満足に食べ物もなくて、身体が弱ってたんでしょうね。流行病に罹ってそのまま…。まぁ野垂れ死んだってやつね。没落貴族の末路なんてたいがいそんなもんよ。」


「…済まない、悪いことを聞いた。」


「いいのよ。おコメを食べたおかげで久しぶりに旧オーマチ領のことを思い出したわ。それにあの具、海藻と小豆でしょ?」


「分かるのか?」


「もちろんよ。オーマチ領は海に面した領。海の幸にも事欠かなったんだから。あと、小豆も日常的に食べてたわ。こっちでは、大豆が主流よね。」


「もしかして、魚を生で食べる習慣があったり、とか?」


ユーナが目を丸くする。

「魚を生で? まさか、生で食べれるわけないじゃない。」


「そ、そうだよな…。」

(くそ、刺身はないのか…。まぁ、だったとしても…。)


「よし! じゃあ今回の冒険の食事は毎回コメにしよう。俺の故郷の主食もコメなんだが、王都では流通してないので家では食いにくくてな。ポーラに知られると、面倒臭いし…。」


それを聞いて、ユーナが噴き出して笑う。

「ポーラに知られたら質問攻めよ?」


ひとしきり笑い、ユーナが続ける。

「あんたの故郷もおコメなんだ。そんな物をいつでも召喚して食べれるなんて、あんた底が知れないわね。」


「このことは秘密にしておいてくれ。誰がどこで見てるか分からんからな。面倒事はごめんだ。」


「もちろんよ。だけど帰ったら私にもおコメ譲ってくれる? もちろん対価は払うわよ。」


「あぁ、問題ない。」


―◇―◇―◇―


午後もひたすらに移動する。が、前を乗馬で進むユーナは心なしか午前よりも楽しそうだ。


陽が西の稜線に沈み始める頃合いで、今日の野営地を決める。


もうこのあたりになると、街はおろか、村も見当たらない。


「ここはもうインバイト領ね。」


「インバイト領? 衛兵はもちろん、領境を示す何物も無かった気がするが…。」


「誰がこんな僻地に兵士を駐屯させとくのよ。それに、他領とはいっても同じ王国よ。特に王家とインバイト家の仲は良好って話だから、お互い警戒なんてしてないわ。」


「そうなのか?」


「ええ、母からはそう教わったわ。この無警戒状態が、それが正しいことを証明してるわね。とはいえ、今回の威力調査で森の脅威度が上がった場合、インバイト軍やキート軍がこの森の哨戒のため兵士を派遣するはずよ。」


「必要に応じて軍を派遣する、と。今更だが、どうしてこんな調査を受けたんだ?」


「あぁ、知らないのね。王家領、インバイト領、キート領の各ギルドのダイヤモンドランク以上の冒険者には、年に1回の威力調査が義務付けられているのよ。ダイヤモンドランクの更新条件みたいなものね。」


「サイレル領は?」


「サイレル領は暗澹の森まで遠すぎるからこの森への威力調査義務は無いわ。その代わり、年に1ヶ月間の従軍義務がある。」


「なるほどな、ダイヤモンドランクも楽じゃないってことか。」


「そういうこと。ほら、無駄話してないでさっさと天幕を張るわよ。陽が暮れちゃう前にね。というか、あんた天幕持ってきてるんでしょうね。」


「ああ…大丈夫だ。」


「またどうせ見たこともないようなものを出すんでしょ。もう慣れたわ。」

ユーナが天幕を広げながら呆れ気味に言う。


(あまり機能的なテントは止めておこう。この世界に元世界の技術や製品を広める気は無ぇからな。)


TC素材の2人用パップテントを召喚して広げる。2人用とはいっても、この手の商品はカタログ人数マイナス1が実用人数だ。つまり1人用である。


ちなみに色はタンカラーを選ぶ。この世界で一般的な麻や綿の素材色に近いから人目を引くこともないだろう。本当はOD(オリーブドラブ)が好みなのだが、この世界ではあまり見たことが無いのでやめておく。


「あら、随分と普通ね。」とユーナが逆に驚いている。


「まぁな、普通が一番だ。」


「何よそれ。」


ユーナがクスリと笑うのを横目に考える。とはいえ、自在ロープやポール、ペグなどは付属のものを使わないでおこう。自在ロープは麻紐、ポールはその辺に落ちている木材を使うことにし、ペグは適当な小枝で代用する。


(憧れのブッシュクラフトだな。まさか異世界でやることになるとは思わなかったけどな。)


そんなことを思いながらウキウキで立てていると、「ぱっと見普通だけど、よく見るとやっぱり変ね。」という背後からの声にビクッとしてしまう。


「ユーナ! 驚かすなよ…。」


「あらごめんなさいね。でもこのハトメ、精巧な金属加工ね。しかも、どのハトメもまったく同じに見える。こんな加工技術はビーアル帝国だって持ってないわよ。あとこの縫い目。こんな均等にしっかり裁縫されてるのも驚きだけど、この複雑な縫い目は何? どれだけ凄腕の仕立屋が作ったの? あとこれは何? この金属片を上げたり下げたりするだけで天幕が開いたり閉まったりする、こんな金属の刺繍、見たことないわ…」


(ファスナーは刺繍に見えるのか。)


「…よく見てるな…。まぁ、企業秘密だよ。売る気は無いがな…。」


「ふーん、企業秘密、ね。」

何か悪巧みをするような目を向けてくるユーナが「ま、いいわ。聞かないでおいてあげる、今はね。」と嘯く。


(今だけかよ!?)


「ほら、早く立てて夕飯にしましょ。おコメ、早く食べたいのよ。焚き火の準備、やっておくわね。」


(まったく心臓に悪いぜ。ポーラの目に留まるとすぐに卸してくれって言われるからかなり気を遣って見せないようにしてるけど、ユーナ相手に、しかもこんな状況だとどうしようもないしな…。困ったもんだ。)


―◇―◇―◇―


兵式飯盒にコメと水を入れ、暫く待った後に焚き火にかける。


テントのハトメやファスナーに興味津々だったユーナだが、この兵式飯盒には「変わった形ね」というだけで特に興味は示さなかった。この世界にアルミ製の飯盒はないだろうが、鉄やブリキの携帯用食器セットは普通にあるからだろう。


「この形は、腰に巻いて移動するときに身体に沿うようにするためだ。」


「確かに、四角や丸より、よっぽど携帯しやすそうね。」


「そういうことだ。」


「それにしても、おコメを炊くなんて何年ぶりかしら。子爵家の長子として軍の野外演習に参加したときは、こうやって皆でおコメを炊いたものよ。」


「外で炊いたコメは、炊き加減が杜撰でもなぜか美味いからな。」


「そうそう、本格的な遠征演習のときは、食事も本番を模して乾燥米をお湯で戻して食べてたんだけど、やっぱり炊いて食べるのが美味しいわ。」


「焼き米ってやつか。とはいえ確かに、コメは炊き立てが一番だ。ユーナが持ってきた干し肉と一緒に食べても美味いだろう。」


「そうね。いつもこういう依頼のときは味気ない食事だったけど、今回はあんたを連れてきて正解だったわ。ありがとう。」


屈託なく笑うユーナにドキリとしてしまう。


(いかんいかん、いかんぞ、俺。平常心平常心…。)


「あ、ああ。俺も米文化が分かる人間に会えて嬉しいよ。」


しばらく後、炊きたてのコメをユーナと共に食う。


「ユーナ、コメを原料とした酒の醸造などはやってなかったのか?」


「おコメでお酒? そんなこと、考えたことも無いわね。」


(つまり日本酒は無いってことか。)


「そうか。ちなみに話は変わるんだが、ユーナは酒はどのくらい飲むと酔うんだ? いや、うちのミラとポーラが半端なく強くてな…。」


「お酒? そうね、私は葡萄酒が好きでよく飲んでるけど、酔うにはボトル3本ってところかしら。まぁ普通よ。」


「そ、そうか。まぁそんなところだな。ミラが規格外なだけだろう。」


(酔うまでにワインボトル3本。それが普通。この世界の人たち、強すぎる…。)


白米と干し肉を食う。


そんなこんなで、初日の夜は更けていった。


―◇―◇―◇―


外見はありふれたこのパップテントだが、中身は拘る。


まずはLEDライトで内部を明るくする。


そこにインフレータブルマットに枕と毛布、それから寝袋を召喚して寝る準備を整える。ついでにパジャマに着替える。


睡眠は大切だからな。


睡眠不足で明日の偵察をこなせるとは思えない。


欲を言えばシャワーを浴びたいが、どう考えても無理なのでウェットティッシュで身体を拭いて寝袋に入る。


(異世界で初のキャンプか、悪くない。)


さすがに疲れていたのか、すぐに睡魔に飲み込まれていった。


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