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バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
2章 王国内戦

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15_新兵器?

「…証拠が揃うのであれば、王城へ出頭させて、罪を問うことも、可能なの、では…?」

ポーラが慎重に言葉を選んで疑問を投げかける。


「できるだろうな。もしヤーライル公爵が王都からの呼び出しに素直に応じるようなお人好しなら、な。」


「それは…いったいどういう…」

縋るような目を向けてくるポーラは、少し震えている。


「王都から適当な用件をでっち上げて呼び出し、仮に公爵が来て断罪できたとしよう。だが、軍もサイレル家次期当主もサイレル領にそのままある。「私が帰ってこなかったら王家を攻めよ」と予め決めていたら断罪の意味もない。

 次に、サイレル公爵家の主要人物と軍上層部を呼び出したとする。そんな招集命令なんて「罪を問うから来い」と言っているようなものだ。この場合、まず絶対に招集には応じない。どころか、最悪の場合書簡を読んだ瞬間に挙兵の準備を始め、共和国に連合軍編成依頼の書簡を送るぞ。

 まぁそもそも、いくら王都からの呼び出しだからといって領地の主要人物全てを留守にさせるなんて無理な話だがな。」


クララの沈黙が、これらの説を肯定している。


「証拠を集めるのはインバイト家やキート家への示しのためだ。疑いだけで進軍すれば、この二家の王家への信用が揺らぎかねない。ただ本当に必要なのは証拠を集める時間だ。証拠が揃い次第、王家軍はサイレル公爵家を攻めることができる。」


一気にい言い終え、クララに向き直る。

「…今の私の推測に、ご指摘や誤り等ございますか? 陛下。」


クララが目を閉じ、トン、トン、と指先でテーブルを叩く。


「余の考えを、これほど正確に言い当てた者は他におらん。ツカサ、貴殿が敵でなくて良かった。」

自嘲気味の笑みを浮かべ、クララが再び目を閉じる。


(図星、か。この作戦が失敗すれば内戦激化は避けられないだろうな。)


「とはいえ、ウィネ共和国から援軍が来ることは考えにくい。テキラ公国から背後を突かれるでの。」


「そうですか。では最悪の状況は免れそうですね。」


ポーラを見る。拳を両膝の上で、白くなるほど硬く握っている。その顔色は良くない。

家で待っているミラも、このようなこと、恐れ慄くに違いない。


(こういうことには、できるだけ首を突っ込みたく無かったんだけどな…。血が流れなければいい。が、それは理想だ。なら、守るべき命の優先順位は決まっている。)


「陛下。いざ戦争にとき、何が最も脅威なのでしょうか。」


クララが意外そうな顔を向ける。まさかこんな質問が来るとは思わなかったのだろう。


「歩兵の密集隊形ですわ。」

これまで沈黙を守っていたリーラスが口を開いた。


「歩兵の密集隊形に、機動力と突破力の高い重装騎兵が、陸戦において最大の脅威です。また、場合によっては籠城戦になる可能性もあります。その場合、城壁それ自体が我軍の進軍を阻む障害となります。」


「密集隊形や城壁を崩す投石などは?」


「ありますが、そこまでの魔術を扱える魔導兵は限られます。なので結局は頭数と情報がモノを言うのです。」


(魔導兵? なぜ投石機のことを聞いてるのに魔導兵が出てくるんだ?)


しばし考える。


(そういえば、クロスボウを見せたとき、『月の雫』のメンツは誰もこんな武器見たこと無い、と言ってた気がする。だとすると、弩砲はもちろん、投石機も無いってことか?)


「どうなされました、ツカサ殿…?」

リーラスが沈黙する俺に声をかける。


「一つお聞きしてもいいですか? 弓矢の矢よりも遥かに太くて長い矢を射出する兵器や、岩をとても遠くまで飛ばすことのできる兵器について、心当たりはございますか…?」


俺の言葉に、クララを含む5人が顔を見合わせる。


「ツカサ、お主の言うそれらの兵器は、魔導兵が繰り出す魔法ではなく、飽くまで兵器のことを申しておるのか?」


「…左様でございます…。」


「そうか。であれば答は『否』だ。そんな太い矢を飛ばす兵器も、岩を飛ばす兵器も、余は知らぬ。」


(あちゃあ、これは…地雷踏んじまったな。ある意味最大の藪蛇だぜ…。そうか、しまった。魔法が当たり前にあるから、科学技術を発達させる動機がそもそも薄いんじゃねぇのか…? あちゃー、今気づいても、遅いけどな。)


「…」


「それらの兵器、もちろん余に説明してくれるのであろう?」

楽しげな、しかし猛禽のような目が俺を射る。


(ほーら、言わんこっちゃない。)


「…説明する資料を起こします。10日ください。」


「1週間じゃ。1週間後、またここに来るが良い。」


「…承知いたしました…。」


「うむ。」とクララが満足そうに呟き「では本日はこれにて解散じゃ。」と続ける。


席を立ち会議室を後にする3人に敬礼しつつ、俺は自分を呪った。


(あーあ、自由で気ままなセカンドライフが…。)


―◇―◇―◇―


「どうなさるおつもりなのです!? 国王陛下相手にあんな約束して!!」


帰りの馬車で、ポーラが吠える。


「うん、それな。」


「『うん、それな』じゃないですわ! わたくし、この数時間で何回心臓が止まりそうになったことか…!」


「少しは落ち着きなさいポーラ。いちいちキャンキャン喚くのはアンタの悪いクセよ。」


「キャンキャンって…お母様…っ!」


「事実じゃないの。そんなにキャンキャン吠えてたら、ツカサ殿だってちゃんと説明する気にもなれないでしょうに。」とポーラをじとりと睨みつけ、「それでツカサ殿、その兵器とやら、1週間で資料を作成させることができるのかしら?」と俺に向き直る。


「えぇ、仕組みと簡単な設計書くらいは書けます。試作機だってフォルテ商会のお力を貸していただければ割とすぐに完成させることができるでしょう。問題は、量産体制を確立するのにどれだけの時間が掛かるか、ですね。」


「確かに。でもそればかりは兵器それ自体に必要な材料や工程を確認せねばなりません。そのあたりの情報を含めて記載いただけると助かりますわ。」


「お義母様、勿論です。ただそれは試作機の作成後でしか書けませんので、それ以後に提供いたします。」


「宜しくお願いいたしますわ、ツカサ殿。それにしても、あのクララ国王があそこまで他人をお褒めになるなんて、かなり珍しいことですのよ。」


「それは、喜ぶべきなのかどうか…。」


会話を横目で眺めていたポーラが「まぁ、そうですわね。というより、なぜツカサさんはあそこまで踏み込んだことを聞けたのです?」と割って入ってきた。


「俺はただ状況から推測できることを言ったまでに過ぎない。正直、『なにくだらないことを言っておるのだ』と国王に失笑してほしかっただけなんだが、まさか全部当たっていたとはな。どのみちあの国王はサイレル公爵相手に戦争を起こす気だ。であれば、何もせず逃げ回るより、戦って守った方がいい。そう思っただけだ。」


「でも、なにもツカサさんがそんな役割を担わなくとも…」


「ポーラ、俺はあの国王がサイレル公爵の不正を指を咥えて見ていたとは到底思えん。出来る手は全て打ち、それでもなお止めることが出来なかったんだと思う。

 …あの国王は態度には出さないが、かなりまずい状況にあるはずだ。冗談抜きでこの王都が戦火に包まれるかもしれない。俺は俺のために、出来ることは何でもするつもりだ。俺はお前やミラが戦火に怯える姿など見たくはないのでな。」


「…! ず、ずるいです! そういうことを言われると何も言えなくなるじゃありませんか…」


「まぁ、国王に正体を明かし、王家との繋がりを持つという当初の目的は十分達成したんだ。まずはそれでよしとしようじゃないか。」


「それはっ…! そうですけど…」


「ところでお義母様、クララ国王が王女たちに対してとても厳しい態度でしたが、いつもあんな感じなのでしょうか?」


「ララス殿下もリーラス殿下も、いつもはもっと落ち着いておられますが、今日は驚愕してしまうことが多かったようですわね。普通、男性の存在を目の当たりにしたり、国家の軍事戦略を言い当てられたりされたら、もっと態度に出るのもだと思いますが、あの程度の反応で済まわれたのは、やはり王女殿下たちが優秀だからでしょう。」


「…なるほど。」


「まぁそれすらも許さないのがクララ国王なのですけれど…。特にララス第一王女は幼少の頃から次期国王として大変厳しく教育されていると聞き及んでおりますわ。」


「確かに、今日大謁見室にて謁見するよう進言したのはララス第一王女のようですし、国王も期待されてるのでしょうね。」


「そうだと思いますわ。噂では、リーラス第二王女は政治家というよりも軍略の方に明るいとされてますし、このままいけばララス殿下が王位を継承されるはずです。」


(確かに、戦闘時の脅威について尋ねた時に回答をくれたのは、リーラスだったな。)


「でも、クララ国王が殿下たちを叱責されたときは、わたくし肝が冷えましたわ。」とポーラが横から口を挟むと「あら、あなたもフォルテ商会次期当主としてもっと厳しく教育したほうが良かったかしらね?」とパーラが横目でポーラを見やる。


「や、やめてくださいまし…! お母様には十分厳しくされてきてますわ!!」


(やはり、この二人はいい親子だ。うんうん。)


―◇―◇―◇―


家に帰り、早速弩砲と投石機について調べるべく、古代兵器のいろはが掲載されている書籍を手当たり次第に召喚して読み漁る。


基本的に材料はオーク材などの硬い木材と補強素材としての金属だけのようなので、揃えることが出来ると思う。弩砲にはねじりバネとして頑丈なロープか動物の腱が必要だが、これも特に問題はないだろう。


投石機はもちろんトレビュシェット式で考える。投石機の中では最も飛距離や攻撃力が高く、しかもねじりバネが無いため保守が容易。


もちろんこれらはそのまま使うわけではない。強化魔法で強化してから使う。投石機にバフを掛けて運用するかは判断が難しいところだが、弩砲には必須だ。


弩砲の場合、弦を引いてボルトを装填してからバフを掛ける。こうすることで人間にバフを掛ける必要が無くなるため、魔導兵の魔力消費を抑えることが出来る。

一度発射すればバフを解く。この繰り返しである程度初速をアップさせたボルトを打ち出すことが出来るはずだ。


歩兵の密集隊形が脅威。そうリーラスが言っていたが、基本的にファランクスに対して弩砲は決定打とはならない。少なくとも、元世界ではそうだったらしい。


しかしこの世界ではバフによってある程度高速のボルトが打ち出せる。そう仮定すれば、ファランクスに対して元世界よりかは効果的にダメージを与えられる…と信じている。


投石機はファランクスにも騎兵にも城にも効果的であることは元世界の歴史が証明している。狙ったところに正確に飛ばすことが出来るということだが、それには訓練が必要だ。まぁ、それは弩砲も同じだが。


次に投石機にバフを掛ける意味について考えを巡らす。

それは「強化魔法で強化された物体がどのような特性を持つのか」という根源的な問いに行き当たる。


この問いについて、コンパウンドボウやクロスボウがバフにより強力な矢を放てたことを例にとって考えてみる。


弓がしなり、弦が引っ張られる。この状態からもとに戻る力、即ち弾性の力でもって矢が発射されるのだが、「弾性の力を増大させるのがバフの効果である」とも考えられなくもない。しかしそれだと、魔化狼相手に放ったカーボン矢が音速を超える速度でも破損しなかった理由の説明がつかない。


では次にカーボン矢が破損しなかったことに着目し「物体の強度を増大させるのがバフの効果である」というのも誤りだろう。なぜなら強度だけ上げても弓が放つ矢の速度は上がらないからだ。


そう考えると結局のところ「その物体が持つあらゆる特性を増大させる」というふんわりとした結論にしか辿り着かない。


もちろんこの世界と元世界では理が違うので、俺が持つ元世界の薄っぺらい物理の知識で説明できるとも思えないが、それでも魔法はご都合主義的に使えるものではないことくらいは分かる。


もしバフを掛けた弓矢が「より弓矢としての使命を果たす能力」について強化されたとするならば、狙いを外しても矢が獲物に向かって軌道を変える程度のことは実現できるだろう。なぜなら弓矢の使命は狙った獲物を仕留めることだからだ。が、そうでないのはフィオナが魔化狗を外したことからも分かるし、そもそも矢のホーミングなんて話は全く聞かない。


まとめると、投石機にバフをかけた場合、どういう理屈か説明不可能だが、単純に投擲物が着弾したときの威力が上がるか、投擲距離が伸びるか、そのどちらかのような気がする。


ふぅっと息を吐く。


(結局は試作品を作って実験してみるしかないか。)


「さっきからずっと難しい顔をされていますが、あまり無理はしないで下さいね。」


そう声を掛けながら、書籍に埋もれている俺にミラが紅茶とクッキーを差し出してくれた。


「あぁ、ありがとう。」


「ツカサさん…その、本当にサイレル公爵家と戦争に…」


不安そうに、ミラがお盆を胸に抱く。


「ポーラから聞いたのか? まぁ、恐らくそうなるだろうが心配はない。ただ、絶対に外では言うなよ。」


「も、もちろんです! こんなこと…言えるわけないです…。」


「ミラ、もう遅いから休め。不安な気持ちは分かるが、不安がっていても仕方がないだろう。それに、今の生活は絶対に守る。約束しよう。」


「ツカサさんが、そう仰るなら…。」


上目遣いで不安そうな目をするミラをそっと抱き寄せる。

少し、震えているのが分かる。


震えが治まるまで、しばらく抱擁する。


「さ、これでもう安心だ。さっさと休め。」


離したミラは潤んだ目でコクリと頷き、名残惜しそうに自室へ戻っていった。


―◇―◇―◇―


そこから1週間、寝る間も惜しんで設計書を書き、小型模型の作成に勤しんだ。


(やっと終わった…)


作り終えた設計書の束と模型の前に、どっと突っ伏す。


(なんで異世界に来てまでこんなに働かなきゃなんねぇんだ…)


「お疲れ様ですわ、ツカサさん。」


8/19の早朝、ポーラがコーヒーを淹れて差し出してくれる。


「ポーラか、済まないありがとう。」


この世界に紅茶があるから紅茶を飲んでいたが、俺はコーヒーの方が好きだ。

だからこの個人デスマーチを乗り越えるべく、コーヒーを召喚してしまった。


ポーラはコーヒーについて何か聞きたそうだったが、俺のデスマーチ具合を見て飲み込んでくれたようだ。

…今のところは。


コーヒーを一口飲み、はぁ、と溜息を付く。

あれから1週間、平均睡眠時間は2〜3時間。こんな働き方は社会人6年目に炎上プロジェクトに応援に行ったとき以来だ。たしかあの頃くらいから世間が長時間労働に煩くなり、徐々に極端な働き方が無くなっていったように記憶している。


(いずれにしろ、遠い時代の記憶だな…。この世界に、労働基準法とか無いしな…。)


再び、はぁ、と溜息を付く。


「そういえばポーラ、こんな時間に起きてるのか?」


「ツカサさんがずっと働いておられるんですもの。おいそれと寝ていられませんわ…。」


「気にするな。それに睡眠不足はお肌の大敵だぞ。だが、ありがとうな。お陰で明日の説明には間に合うことができた。」


「終わったのですか!?」


「あぁ、終わったよ。」


そう言い、弩砲と投石機の模型を動かして見せる。


弩砲模型に装填した矢と、投石機模型に装填した小石が、それぞれ食堂のテーブルに転がる。


「これは…!」


「弓を横向きしたようなやつが弩砲、小石を投擲したのが投石機、だ。聞いたことや見たことは?」


「…全くありませんわ。」


「だろうな。これでファランクス…密集隊形と城壁に打撃を与えられる。騎馬兵にも大変有効だ。ポーラ、これは模型だが、明日これらを国王に見せ、承認が下りたら、実物大の試作品を作る段階に入る。フォルテ商会として、作成可能な鍛冶屋などを手配してほしい。」


「勿論ですわ。必ずツカサさんが満足するものを作らせて見せます…!」


「ありがとう。まぁ取り敢えず明日の謁見だ。俺は少し寝るよ。」


何度目かの溜息をつく。


設計書と模型を道具箱に収納し、主寝室で休むことにした。


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