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バツイチ男✗異世界で都合良くコキ使われる  作者: からす
2章 王国内戦

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13_異変

それから3ヶ月が経った。


月初にフォルテ商会への納品をこなし、月に最低3回はユーナと共に冒険に出る。


フォルテ商会にはウィスキーとチョコレートアソートだけでなく、6月1日からフォルテ商会当主、パーラ・フォルテとの約束通り、胡椒も卸すことになっていた。

パーラからは、サイレル領の商会経由での胡椒の取引を徐々に減らすことに成功し、適正価格に近い価格で顧客に胡椒を販売でき始めていると喜ばれたりした。

ポーラのことも是非宜しくお願いしますと、正式に婚姻を認められたりもした。


あれから3回の納品を終え、胡椒の稼ぎだけでとんでもない稼ぎになったので、ウィスキーとチョコの稼ぎは全てステータスに全振りしている。


結果、防御力・攻撃力共に111.0となった。


定性的評価は「めちゃくちゃ硬い」「めちゃくちゃ強い」なのだが、果たして今、あの時喰らった魔化狼の噛齧攻撃にどの程度耐えられるか甚だ疑問だ。何を基準に硬いのか強いのか分からないから、このホログラムの評価はあまり当てにはしない。

が、一度魔化狗に腕を噛まれたときなど、乱杭歯をフガフガさせるだけで、文字通り歯が立たない様子だった。

防御力を上げても自分の皮膚が硬化するわけでもないので、どういう仕組みなのか全く分からないが、考えても分からないことは気にしないことにする。


それはさておき、装備も一新した。


魔化狼との戦いでボロボロになった防刃チョッキの替わりに米軍が採用している防弾チョッキを装備している。

もちろん、胡椒で得た利益を日本円にして召還したものだ。


コンパウンドボウもより高価なものを5つ召喚し、道具箱に収納している。

ユーナと共に受注する依頼は高ランクの依頼ばかりなので、人が寄り付かない山岳や深い森の中が殆どだ。

だからコンパウンドボウを心置きなく召還して戦える。


パツキンブラックメッシュの受付嬢からは「あのユーナ様が心を開くとは、出世したねぇ。お気に入り(オキニ)が活躍するのはアタイにとっても嬉しいぜ。ところで今度一緒にメシでもどうだい??」と絡まれることが多くなり、『月の雫』のリシアからは冒険者ギルドで顔を合わせる度にユーナのことについて質問攻めに遭う。


ユーナには、弓での戦闘の立ち回り方、接近された時の近接戦闘などを実践を通して教えてもらっている。


ステータスを上昇させたせいか、戦闘そのものに対するセンスが飛躍的に上がっている気がする。


ユーナからも「あんた、軍に目をつけられたら、絶対に逃してもらえないわよ。」と呆れられた。


ただ、冒険者ランクは相変わらずブロンズである。


もちろん私生活でも変化があった。ポーラとミラ、二人の妻を娶ってしまったので、ポーラ・ミラ・休み、と言うふうにローテーションしている。何をローテーションしているのかは、言うだけ野暮というものだろう。


彼女たちは異性との交わりを全く知らなかった。女性だけしか存在しないのだからそれも当然なのだが、どういうことをするか知ったときはかなり衝撃的だったようだ。


そんなに抵抗があるならしなくても構わないと言ったのだが、そんな言葉に甘んじるポーラとミラではなかった。


そして勇気を出して交わったあとは…まぁ、結果的に今は絶賛ローテーション中である。


(果たしてどうしたもんか…)


そんな煩悩まみれの思考をめぐらしていたとき、ポーラが食堂に入ってきて目の前に座った。


「ツカサさん、ヴェルデ村の農業改善実験ですが、ヴェルデ村だけでなく、王都近隣のいくつかの村々の畑を借りれることになりましたわ。失敗時において、平均出来高相当の保証をフォルテ商会から補填することで合意を取り付けています。また、成功時においては優先的にフォルテ商会に納品する合意も取り付けていますわ。」


「さすがだな。相変わらず仕事が早い。これが成功すれば、フォルテ商会は作物の流通を支配することも夢ではない。とはいえ、結果が出るまで数年かかる。気長にやろう。」


「ノーフォーク輪作と種子選別。その程度は待つ価値のある実験ですわ。これが成功すれば王国の食糧事情は相当改善されます。餓えで苦しむ民草も減ることでしょう。わたくし、ツカサさんのそういうところにも惚れましたのよ。」


二圃式農業が普通のこの世界の農業に、ノーフォーク輪作と種子選別を投下する。

作物の出来高は増え、家畜の維持も容易になるとともに個体数も増やすことができ、畜産や各種家畜を材料とした加工品も増える。

これらを予めフォルテ商会に優先的に卸す契約を、今から各地で結んでおく。

 そうすることでフォルテ商会は流通を押さえることができ、結果的に莫大な利益がもたらされ、それを元手に貸金業をやり、果ては銀行になる。金本位制では制御しきれなくなった経済を成り立たせるため、フォルテ商会は国家に非兌換紙幣と国家の信用による紙幣発行を認めさせ、ついにフォルテ商会は通貨発行権をもつ中央銀行になるのだった。そして爆発的に発展する王国と肩を並べるため、その他の国家でも中央銀行を設立し、その全てをフォルテ商会が取り仕切る。するとどうでしょう。フォルテ商会は世界各国の金融、経済、政治全てを統べる商会に、いや、世界を裏から操る秘密結社になるのだった。


…なんてことを考えているわけではない。


とにかく暇なのだ。

月3〜4回の冒険の他は、月1回の納品だけ。冒険回数を増やすのはミラとポーラが心配するので控えている。結果、暇すぎて死ねる。


だからこの国の民草が少しでも満たされるようなことに取り組んでいる。


…というのは理由の半分で、もう半分はポーラの夫になったのであれば、少しはフォルテ商会に利益をもたらさないと格好がつかないという臆病心からだ。


ポーラや、母親のパーラからは「酒と菓子と胡椒だけで十分過ぎる」と言われているのだが、そういうわけにもいかないだろう。


あと、やはりミラのような人を放っておけないというのもある。


力になれる範囲で、力になる。


それが今の俺の行動指針となっていた。


とはいえ、元世界にはない病気や害虫などがいる可能性を考えて、まずは、小さな規模でPoCを始めようとしている。


ノーフォーク輪作と種子選別が有効であるか実験し、それらを農家に教えるとともに、フォルテ商会にも利があるように整える。


まだ上手くいくか分からないが、やってみなければ始まらない。


ノーフォーク輪作と種子選別の設計書を書き起こし、各地の農家を回って歩く。それが今の俺の日常だった。


主だった村々に対しての交渉と調整が一段落し、心地よい疲労感に包まれていたとき、それは起こった。


「ツカサさん、ポーラ。フォルテ商会当主、パーラ様がお見えです。大至急お伝えしたいことがあるとのことですので、お通ししても問題ないでしょうか。」


もはや使用人ではないが、家の雑事はミラに任せている。

ポーラの教育もあって、ミラは今では各種作法をマスターしていた。

そんなミラがそう告げた。


「お母様が? いいわ、上がってもらってちょうだい。」


「何の用件か分かるか?」


「いえ…。だけど、相当に重要な用件のはずよ。」


―◇―◇―◇―


客間のローテーブルの向かいのソファにパーラが腰をかける。

ミラが紅茶をパーラの前に置き、一礼してこちら側のソファに座った。


「この家、懐かしいわね。だけど、今は思い出に耽ってる場合ではないわ。」


パーラからは、隠しきれない緊張が漂っている。


「お義母様、緊急のご用件とは、なんなのでしょうか?」


「これを。」

パーラが一通の書簡を差し出す。


「拝見しても?」


「勿論、そのために来たのよ、ツカサ殿。」


(なんだろうか。なんか嫌な予感がするが…。)


パーラから受け取った羊皮紙に目を通す。


『フォルテ商会当主 パーラ・フォルテ殿


 貴殿の商会が取り扱っている香辛料について確認したいことがある。

 ついては、基盤歴639年8月13日の午前中に王城に出頭すること。


 ヴェレンタ王国 国王クララ・ウィンダー』


「これは…。」


「ツカサ殿、ご覧の通り、国王直々の出頭命令ですわ。」


「お母様、直々に…ですか?」


「ポーラ。そのサイン、間違いなく国王陛下のものよ。指定された日時に出頭しなければ反逆罪に問われる可能性があることくらい、あんたなら分かってるはずよ。」


パーラが鋭い目突きで娘のポーラを射る。

こういうときのこの人たちは、いつもこんな感じだ。


「お義母様、ここに書いてある香辛料とは、私から卸している胡椒のことでしょう。胡椒で呼びつけられることに、なにか心当たりはございませんか?」


「ツカサ殿から供給されている胡椒は、とても品質が良く、いずれ王家の耳に入ることも予想はしておりました。しかし胡椒は胡椒。武器や毒物ではございませんわ。それにいくら良質とはいえ、国王から直々に呼び出される用件というのは…心当たりがございませんわ。」

パーラが肩を落とす。


「ふーむ、確かに…。まぁどのような用件にしろ、その胡椒の供給元は私です。私も一緒に行ったほうがよいのではありませんか?」


「左様です。その打診のために急遽参ったのですわ。」


「承知しました。ご一緒させていただきます。それにしても8/13は三日後です。国王も急いでおられるのでしょうね。」


「仰る通りかと思いますわ。国王陛下の前で、何をどれだけ開示するか、それも決めねばと…。」


「私が胡椒の供給源であること、私がどこから来た商人であるかということ。そして、私が男であるということ。」


「その通りです。国王からの質問に虚偽の回答は…命取りになります故…。」


「国王が何を知りたがっているか次第ですが、場合によっては全てを開示してもいいと思っています。」


「ツカサさん、それは…!」


「考えてもみろポーラ。男であることを明かして、逆に王家から庇護をもらえるかも知れん。そうなれば、格段に動きやすくなる。」


「それは…! そうですが…。」


「お義母様。基本的にはそう考えてますが、俺の家族やその親類縁者を害そうとするなら国王とて容赦はしません。というのは半分冗談ですが、国王にだけは正体を明かすのはアリだと考えています。寧ろ後々になって『こんなことをなぜ今まで黙っていた?』と詰められる方が怖いかと。」


「ツカサ殿、私も同じ意見です。」


「お母様…!」


「黙りなさいポーラ。国王陛下に呼び出された以上、隠匿は悪手。胡椒の件で呼び出されたからには供給元であるツカサ殿への尋問は必須なのよ。言ってる意味、分からないアンタじゃないわよね?」


(相変わらずこういうときはおっかねーな、このかーちゃん…。)


ポーラが母親に反論できずに固まっている。ついでに隣のミラも固まっている。


「心配するなポーラ。お前たちを蔑ろにするような選択はしない。そのくらいの意気はある。が、そもそも国王の真意を確かめる必要がある。そしてそれは、謁見までは分からない。だから、出たとこ勝負しかないってことだよ。」


「そちらについても同意見ですわ、ツカサ殿。」


「お義母様、向こうの出席者は予想出来ますか?」


「なんとも…。ただ、国王本人と、ララス・ウィンダー第一王女、それと、リーラス・ウィンダー第二王女のご出席は確実かと思います。」


「これまた、そうそうたる顔ぶれで…。」


「国王陛下直々の呼び出しとは、そういうものですわ。ところで、向こうがこちらの意に反する態度だった場合、王国の王家相手になにか策はあるのでしょうか?」


「出たとこ勝負ですが、要は王国にとって私が有益であることを示せばよいのです。今取り組んでいる農業改革、食糧が豊かになることによる家畜の増産、家畜が多くなることによる各種肉や加工品、などなど。国力を増大させる方策はいくらでもあります。問題は、国王がどういう人物かによります。為政者として合理的判断をする性格なのか、そうでないのか。そのあたり、どうなのでしょうか?」


「なるほどなるほど。そういう意味では心配は不要ですわ。クララ国王は私情を排して合理的な判断をされる方です。ツカサ殿が王国に有利だと判じれば、必ず合理的な判断をなさるはずです。」


「それを聞いて安心しました。ひとまず、今騒いでも仕方がありません。出頭命令は気が重いですが、それまで変わらず過ごしましょう。」


「見上げた胆力ですわね、ツカサ殿。」


パーラがポーラに視線を移し「ポーラ、妻としてちゃんとお側でお支えするのよ。」と言いつけると、「お母様に言われないまでも分かっておりますわ…!」とポーラが反発した。


(ピンボールみたいだな…。)


「であれば結構。ツカサ殿、ではまた三日後の朝迎えに上がりますわ。」


「承知いたしました。ご足労お掛けしますが宜しくお願いいたします。」


パーラは立ち上がり、一礼して出ていった。


(とうとうこういう展開になっちまったか。国王クララ・ウィンダー。果たして吉か凶か。まぁ、どちらにせよ俺がやることは変わらない。)


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