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元暴走族の50歳海将、異世界で非正規農夫に。最強スキル『酒保』の酒と煙草で、伝説の暗殺者やバケモノ達と一服する無双スローライフ  作者: 月神世一


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EP 9

『サカガミPX』の開業。非正規農夫から兵站司令官へ

帝国軍を指先一つの陣形変更で退けた翌日。

真一は、いつも通り畑でサンライスの刈り取りを行っていた。海将としての防衛指揮はあくまで「手伝い」であり、自分の本分は非正規の農夫であると割り切っているからだ。

「……坂上のおっさん。いや、坂上『司令』と呼ばせてもらおか」

休憩がてら麦茶を飲んでいる真一の元へ、金貨の鳴るような足音を立ててやってきたのは、ポポロ村の財務担当・ニャングルだった。

愛用の煙管キセルを咥え、片手には年季の入った算盤そろばんを弾いている。

「司令とは大仰だな。ただの農夫だぞ」

「謙遜しなはんな。昨日の見事な采配、それにあの夜のバカ美味いカレー……。アンタの持つ『酒保』っちゅうスキル、ただの飯出しに使うには勿体なさすぎるわ」

ニャングルはニヤリと商人の顔になり、算盤をパチリと弾いた。

「仕入れ値ゼロ、輸送コストゼロ。それでいて三大国の王侯貴族でも手に入らんような極上の嗜好品と保存食が無限に湧き出てくる。……これ、ポポロ村の正式な『商売』にせんか?」

「商売、か」

「せや。非正規農夫なんかやってる場合やない。アンタを今日付けで、ポポロ村専属の『兵站へいたん司令官兼、特別売店店長』に任命したいんや」

真一は少しだけ考え込み、ハイライトを取り出して火を点けた。

紫煙を吐き出しながら、ニャングルの提案を咀嚼する。

(悪くない話だ。自衛隊においても、PX(基地内売店)の充実は隊員の士気に直結する。村の連中が喜ぶなら、俺のスキルを使う意義もあるというものだ)

「……いいだろう。ただし、売上の一部は村の防衛費と、子供たちの教育費に回す。それが条件だ」

「交渉成立や! さすがオッサン、話が早くて助かるわ!」

ニャングルは満面の笑みで真一の手を固く握った。

こうして、異世界の非正規農夫は、わずか数日で村の要職へと成り上がることとなった。

 ◆ ◆ ◆

数日後。

タローソンやルナキンが並ぶポポロ村のメインストリートの片隅に、真新しいレンガ造りの店舗がオープンした。

入り口には、真一が自ら筆を取って書いた木製の看板が掲げられている。

『酒保(PX)サカガミ』。

カラン、とドアベルが鳴り、記念すべき最初の客が飛び込んできた。

「さ、坂上さん! ほんとに開いたんだね!?」

一番乗りを果たしたのは、特注の安全靴を履いた村長・キャルルと、その後ろから顔を覗かせるリーザ、ルナの「三厄災」トリオ、そして紅蓮のアーマーを着たダイヤだった。

「いらっしゃい。……といっても、まだ品出しの途中だがな」

エプロン姿の真一がカウンターの奥から声をかける。

店内を見た少女たちは、一様に息を呑んだ。

整然と並べられた棚には、異世界では見たこともない色とりどりのパッケージが並んでいる。

海自名物の『大和煮缶詰』や『特製乾パン』をはじめ、板チョコレート、コーヒー豆、ポテトチップス、カップ麺。奥のガラス棚には、国産の高級ウイスキーや芋焼酎、そして銘酒がズラリと陳列されていた。

「これ……全部、食べ物なの!? 見たことない魔法の箱がいっぱい……!」

リーザがヨダレを垂らしながらカップ麺の棚に張り付いている。

「まあ、市場を破壊しない程度に、少しずつな。ダイヤ、お前さんにはこれをやろう」

真一は、カウンターの下からミリタリーカラーの無骨なパックを取り出し、ダイヤへと手渡した。

「これは……?」

「自衛隊の戦闘糧食レーションだ。お前さんがいつも食ってる帝国の『L缶ハズレ』よりは、遥かに美味くて腹持ちがいいはずだ。ウインナーカレーと、五目飯のセットだ」

「ほ、ほんとに……っ!? これを私が買ってもいいの!?」

「ああ。村の防衛を担ってくれているからな。支払いはツケ(ポポロゴールド建て)で構わんぞ」

「わあああっ! 坂上さん、一生ついていきますぅぅ!」

極貧のS級賞金稼ぎは、レーションを抱きしめながらその場に崩れ落ちて号泣した。

その後も、村の自警団の若者たちが物珍しそうにタバコや缶コーヒーを買い求め、夜には仕事を終えたリバロンやニャングルが『特製コンビーフ』をアテに立ち飲みの角打ちを楽しんでいった。

さらには、龍魔呂までがふらりと現れ、「……角砂糖と、マルボロ赤はあるか」とカウンター越しに注文し、真一と静かに紫煙をくゆらせる一幕もあった。

(ふむ。……やはり、平和な商売というのは良いものだな)

閉店後の静かな店内で、真一はカウンターを布巾で拭きながら、一人静かにコーヒーを啜った。

出雲艦隊打撃軍・総司令官。

数千人の命を預かる重圧から解放され、今は異世界の片隅で小さな売店のオヤジをやっている。

この平和でささやかなスローライフがずっと続けばいい。真一は心からそう思っていた。

――だが、ここは三大国が睨み合う絶対的緩衝地帯、ポポロ村。

『サカガミPX』が提供する「未知の極上物資」の噂が、他国のスパイや欲深い役人たちの耳に入らないわけがなかったのだ。

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