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元暴走族の50歳海将、異世界で非正規農夫に。最強スキル『酒保』の酒と煙草で、伝説の暗殺者やバケモノ達と一服する無双スローライフ  作者: 月神世一


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EP 10

出雲の海将、ここに在り。非正規農夫の最高のスローライフ

『サカガミPX』が開業して数日。

ポポロ村の住人たちにとって、真一の店はすでに生活に欠かせないオアシスとなっていた。

その日、真一はカウンターの奥で、静かにドリップコーヒーを淹れていた。

店内の隅にある立ち飲みスペースでは、いつものように龍魔呂が陣取り、缶コーヒーを片手にマルボロ赤をくゆらせている。

カラン、カラン。

けたたましくドアベルが鳴り、店の扉が乱暴に蹴り開けられた。

入ってきたのは、ルナミス帝国の豪奢な軍服を着たふんぞり返る役人と、その後ろに控える柄の悪い数人の傭兵たちだった。

「ほう。ここが噂の違法商店か。見たこともない珍品が並んでいるようだが……帝国の許可なく商売をするとは良い度胸だな」

役人が土足で店内に踏み込み、カウンターをバンッと叩いた。

横柄な態度と、品性の欠片もない振る舞い。

真一はドリップポットの湯を注ぐ手を止めず、静かな声で応じた。

「ここはポポロ村だ。村長と財務担当の許可は得ている。……客として来たのなら歓迎するが、冷やかしなら帰ってもらおう」

「ほざけ、ただのジジイが!」

役人が顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

「貴様らが帝国に納めるべき税をごまかしているというタレコミがあったのだ! ここにある物資はすべて、我々ルナミス帝国軍が『没収』する! 命が惜しければ、さっさと裏の倉庫の鍵を出せ!」

完全な言いがかり、かつ合法を装った強盗だった。

後ろに控える傭兵たちが、ニヤニヤと笑いながら腰の剣に手をかけ、威嚇するように一歩前に出る。

その瞬間。

店の隅の暗がりから、静かな金属音が響いた。

――カチッ。

龍魔呂が、真鍮製のオイルライターの蓋を開けた音だった。

死を呼ぶ四番(DEATH4)の処刑の合図。店内の空気が一瞬にして氷点下まで下がり、赤黒い闘気の残滓が渦を巻き始める。

だが。

「……待て、龍魔呂」

真一が、スッと右手を挙げてそれを制した。

振り返った真一の横顔を見て、龍魔呂はふっとライターの火を消し、静かに引き下がった。

「自分のシマのハエくらい、自分で追い払うさ」

真一は淹れたてのコーヒーを自分のマグカップに注ぐと、ゆっくりとカウンターの前に歩み出た。

純白の作業着。だが、その腰には名刀『正宗』が静かに差されている。

「あぁん? なんだジジイ、刃向かう気か? 傭兵ども、そのナメたジジイの腕を一本切り落として――」

役人が命令を下そうとした、次の瞬間。

「――おう、ガキ共」

地を這うような、重く、低く、ドスの効いた声が店内に響き渡った。

それは、標準語の丁寧な口調ではない。

広島の裏社会を力と義で束ねた暴走族の総長であり、数千の兵を率いて死線を潜り抜けてきた、出雲艦隊打撃軍・総司令官の『生の声』だった。

真一の背中に見えないはずの『阿吽の仁王像』が浮かび上がり、店内の空気が圧縮されたように重くなる。

息をすることすら困難な、絶対的な『覇気』。

役人と傭兵たちは、目の前の「ただのオッサン」が、突如として『イージス艦の主砲を自分たちの眉間に突きつけている巨大な怪物』にすり替わったような錯覚に陥った。

真一は正宗の鯉口に左手の親指をかけ、静かに言い放った。

「ワシの店でデカイ面すなや。死にたきゃ……ワシを斬ってから行けや」

ギチィッ……と、真一がほんの数ミリだけ刃を抜いた。

ただそれだけで、放たれた殺気が傭兵たちの首筋を撫で斬りにした。

「ひっ……!?」

「あ、あわわわわ……っ!!」

傭兵たちが、情けない悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。

豪奢な軍服を着ていた役人に至っては、股間を濡らしながら白目を剥き、口から泡を吹いて気絶寸前になっていた。

「帰れ。二度と敷居を跨ぐな」

真一が冷たく言い捨てると、傭兵たちは気絶した役人を引きずりながら、泣き叫んで店から逃げ出していった。

カラン、カランとドアベルの虚しい音が響き、店内には再び静寂が戻った。

「……ははっ」

店の隅で見ていた龍魔呂が、堪えきれないといった様子で低い笑い声を漏らした。

「あんた、とんでもないオッサンだな。あいつら、寿命が十年は縮んだぜ」

「やれやれ。コーヒーが冷めてしまったな」

真一は苦笑しながら、エプロンのポケットからお馴染みの『コーヒーキャンディ』を取り出し、口に放り込んだ。

そこへ、店の裏口からリバロンとニャングル、そしてキャルルが顔を覗かせた。

「あの……坂上さん、表を帝国軍の役人が泣きながら走っていきましたけど……」

「なんか、スッゴイ殺気がしたんやけど、司令、またなんかやったんか?」

心配そう(というより呆れ顔)な村の首脳陣たちを見て、真一はフッと肩の力を抜いた。

「いや、ただの害虫駆除だ。気にするな」

そう言って、真一はカウンターの奥へと戻り、新しいハイライトを一本咥えてマッチブックで火を点けた。

紫煙が、コーヒーの香りと混ざり合って高く昇っていく。

(騒がしいが、退屈はしない。……悪くない余生だな)

出雲の海将、坂上真一、50歳。

伝説の暗殺者や、歩く災害のようなバケモノ娘たちに囲まれながら、彼の異世界での最高にカオスで平和な「スローライフ」が、今、本格的に幕を開けたのだった。

【第一章:ポポロ村の非正規雇用編 完】

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