第ニ章『最強兵站・PRO型開発と胃袋の侵略編』
無害な村人たちと、悪夢の外交戦術
「おい、村長を出せ! 偉大なるルナミス帝国の名代として、貴様らから正当な『税』を徴収しに来てやったぞ!」
ポポロ村の入り口で、踏り返るように声を張り上げる男がいた。
豪奢な文官の服に身を包んだ、いかにも権力に寄生しているといった風体の小太りな役人だ。数人の護衛を従え、武装中立地帯であるこの村を小馬鹿にしたような態度をとっていた。
彼らを出迎えたのは、特注の安全靴を履いた月兎族の村長・キャルルだった。
彼女は困ったように首を傾げ、明後日の方向を向きながら白々しく口笛を吹いた。
「税、ですかぁ? 私達は日々の農作業で慎ましく暮らしている、ただの無害な村人達ですよ~?」
「こ、これがどこが無害な村人なのか……ッ!?」
役人が引き攣った声を上げる。
キャルルの背後――のどかな農地が広がるはずの場所では、紅蓮のアーマーを着たダイヤや農民たちが、最新鋭の魔導戦車や魔導バズーカを布でピカピカに磨き上げている真っ最中だった。
『チャキッ』『ガチャリ』と、日常の農作業とは思えない重低音の金属音が、BGMのように村に響き渡っている。
「ひっ……! む、村長室へ案内しろ! 話は中でつけてやる!」
◆ ◆ ◆
通された村長宅の客間。
役人はソファにふんぞり返りながら、出された『ぬるい陽薬茶』を不満げに啜った。
「我が帝国は、貴様らのような辺境の村も寛大な心で見守ってやっているのだ。相応のショバ代……いや、税を納めてしかるべきだろう!」
声を荒らげる役人に対し、人狼族の執事・リバロンは、完璧な所作で一礼してから淡々と告げた。
「お言葉ですが、当村は帝国に対し、定められた関税を1ルナの狂いもなくきっちりと納めております。……そもそも、わざわざ騎士団を派遣してこの村を潰す『コスト』など、帝国にはないはずですが?」
「な、なんだと! 貴様らごとき、我が軍が本気を出せば半日で――」
「仮にポポロ村へ武力行使をなされた場合、私共は真っ先にレオンハート王国とアバロン魔皇国に『救援要請(餌)』を出します。……お分かりですか? 貴方のその軽率な判断が、三国間の『全面戦争』を引き起こすのですよ?」
ロジカル・ハラスメント。
一切の感情を交えず、理詰めで退路を完全に塞ぐリバロンの言葉に、役人の額からダラダラと冷や汗が流れ落ちる。
「ぐ、ぐぬぬ……ッ! 帝国を脅す気か!」
「グダグダ言うと……顎、砕いちゃおっかなぁ~?」
キャルルがにっこりと、最高に愛らしい笑顔で呟いた。
その瞬間、窓の外に並んでいたダイヤや自警団の農民たちが、一斉に魔導ライフルの安全装置を外した。
――チャキッ!
数百の銃口が、壁越しに自分をロックオンしている重圧。
「ひぃぃっ!?」
「あぁ、せやせや」
悲鳴を上げる役人の肩を、後ろからポンと叩く者がいた。
紫煙をくゆらせ、算盤を弾く猫耳族の財務担当・ニャングルだ。
「ウチの村の通貨は『PG』やさかい、武力やのうて経済戦争でも通貨戦争でもしまっか? 手始めに、あんたらの国の札束の価値、明日の朝には只の『ケツフキ』に暴落させてもええんやで?」
「け、経済封鎖……ッ!?」
「いや~怖い顔しなさんな、冗談や、冗談♡ ほら、震える口でポポロシガー(有料)でも吸いなはれ」
武力と経済のサンドイッチ。役人の精神はすでに限界を迎えてぷるぷると震え出していたが、ポポロ村の『真の外交戦術』はここからだった。
「あ~、役人さんのイキリ顔、配信で晒しちゃおっかな~♡」
部屋の隅で魔導通信石を構えていた天使族のT-チューバー、キュララが無邪気な声で言った。
「あ~、リスナーさんからのタレコミキタコレ! この人、裏金作って浮気して、隠し子もできてるんだって~! 帝都の奥さんに拡散希望っと!」
「や、やめろぉぉぉ! 私のキャリアが! 家庭が!」
「あらあら、まあまあ」
続いて、フワフワのドレスを着た次期エルフ女王候補のルナが、小首を傾げながら爆弾を投下した。
「植物さんからのタレコミですけど……え? 最近あの方、酔っ払っておねしょをしたの? 大きい方も? それを山の中に埋めて隠してるの? まあまあ……」
ルナの背後から、ヨダレをダラダラと垂らした催眠幻覚植物『ハッピー・ドリーム』がズルリと姿を現す。
「ハッピドリームでキメて、排泄の教育からやり直しましょうか?」
ウネウネと這い寄る触手が、役人の頬をねっとりとナデナデし始めた。
「ひ、ひぎぃぃぃ……ッ!」
「お、じゃあさっきの情報、地下のメインサーバーに入力しときますわ」
ニャングルが楽しそうに算盤を弾く。
「ブラックメール入りやな。あ、あんたらの恥ずかしい情報は、ウチら幾らでも握ってまんのや♡ パンドラの箱、空けてみるか?」
「大丈夫? おもらししない歌でも歌おうか?」
トドメとばかりに、パンの耳をかじっていた人魚姫リーザが、純真無垢な瞳で役人を覗き込んだ。
「だっぷんだぁおじさん、する?」
武力、経済、デジタルタトゥー、羞恥心。
人間の尊厳を完全に破壊するオールレンジ攻撃を受け、役人の顔は土気色を通り越して真っ白になっていた。
その時だ。
部屋の最も暗い隅の影から、静かで、冷徹な金属音が響いた。
――カチッ。
鬼神・龍魔呂が、真鍮製のオイルライターの蓋を開け、火を点けた音。
それは、裏社会において「死を呼ぶ四番(DEATH4)」が放つ、絶対的な処刑の合図だった。
部屋の温度が急激に下がり、赤黒い闘気の渦が役人の首に巻き付く。
「ひ……ひいいいいいいいっっっ!? 貴様らは悪魔だああああっ!!!」
ぷつん、と役人の理性(と括約筋)が弾け飛んだ。
役人は持ってきた書類も護衛も投げ捨て、股間を濡らしながら、裸足で村長宅から飛び出していった。
◆ ◆ ◆
「……ふむ」
部屋の隅で、一部始終を静かに見守っていた坂上真一は、胸ポケットのスキットルから芋焼酎を一口煽った。
(孫子の『兵は詭道なり』を、見事なまでに体現している。暴力を使わずして敵の心証と戦意を根こそぎ破壊する……完璧な『外交』だな)
統合幕僚監部・J5に所属していた真一から見ても、ポポロ村の防衛力と情報統制は恐るべきレベルにあった。
「さて、害虫駆除も終わったことだし、農作業に戻るか」
真一は『酒保』から取り出したハイライトを咥え、呆然としている護衛たちを威圧するように横目で見下ろしながら、ゆっくりと畑へと向かうのだった。
ポポロ村の絶対的な武装中立。
それは、血も涙もない「悪夢の外交(蹂躙)」によって、今日も完璧に守られている。




