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元暴走族の50歳海将、異世界で非正規農夫に。最強スキル『酒保』の酒と煙草で、伝説の暗殺者やバケモノ達と一服する無双スローライフ  作者: 月神世一


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EP 2

海将の兵站学。各国のレーション視察

ルナミス帝国の役人を精神的に完全破壊し、追い返した日の午後。

ポポロ村の地下に設けられた防衛司令室では、真一、リバロン、ニャングル、そして自警団リーダーのダイヤが集まり、村の防衛体制の再確認を行っていた。

「……情報戦、電子戦、そして陣地防御。どれをとってもこの村の防衛網は一級品だ。あの魔導地雷の配置といい、素人の集まりとは思えん」

真一は、魔導盤に投影された村の立体地図を見つめながら、マグカップのコーヒーを啜った。

「お褒めにあずかり光栄です、坂上様。ですが、何か懸念でも?」

執事のリバロンが、真一の言葉の裏にある微かな「引っかかり」を察知して尋ねる。

真一はマグカップを置き、厳しい視線を三人へと向けた。

「ああ。たった一つ、致命的な弱点がある。『兵站へいたん』だ」

「兵站、でっか?」

ニャングルが首を傾げる。

「いざ三国と全面戦争になり、この村が包囲されたと仮定する。長期の籠城戦、あるいはゲリラ戦に持ち込んだ場合……お前たち自警団は、前線で『何』を食うつもりだ?」

真一の問いに、ポンッと手を打ったのはダイヤだった。

「あ、それなら大丈夫です! 私、普段から近隣の軍隊の横流し品を買い叩いてストックしてますから! ほら!」

ダイヤは得意げに自身の魔法ポーチを探り、テーブルの上に二つの物体をドンッと置いた。

一つは、無骨なオリーブドラブ色のブリキ缶。

もう一つは、純白の特殊防魔紙で作られた、四角い箱だ。

「ルナミス帝国の『L缶』と、セレスティア天界軍の『EPA型』です! これさえあれば、数日は戦えますよ!」

真一は無言で、そのオリーブドラブ色の缶――L缶を手に取った。

プルタブを開けると、中にはドロドロのペースト状の何かと、不気味な紫色をした茄子が詰まっていた。

「……メニュー04。『マイ茄子の甘味噌和えと太陽芋ペースト』、か。どれ」

真一は備え付けのスプーンでそれをすくい、口に運んだ。

――瞬間、真一の周囲の気温がスッと数度下がった。

(なんだこれは。口に入れた瞬間に氷点下の冷気が胃を突き刺す。おまけに味が致命的にモッサリしている……)

「あ、それハズレ缶です! 砂漠用の冷却レーションなんですけど、よく極寒の戦線に誤配されるらしくて、『凍死缶』って呼ばれてるんですよぉ」

ダイヤがへらへらと笑いながら解説する。

「……これを、最前線の兵士に食わせているのか。では、こっちはどうだ」

真一は次に、純白の箱『EPA型』を開封した。

中には、黒くて重いレンガのようなパンと、一枚の分厚いビスケットが入っていた。表面には黄金の文字で成分表示がビッシリと書き込まれている。

真一は、その『聖盾ビスケット(シュテル・プラッテン)』を手に取ると、腰の『正宗』の柄尻で軽く叩いてみた。

――カキィィンッ!

硬質な、まるでセラミック装甲を叩いたかのような甲高い音が司令室に響き渡る。

「……ダイヤ。お前、これを食うのか?」

「はい! そのビスケット、防弾チョッキの裏ポケットに並べておくとストーンバレットも弾いてくれるんです! 食べる時は、お湯に一時間くらい浸せば、なんとか前歯が折れない程度の硬さになります!」

「……味は?」

「無味です! あと、薬草ペーストは目が覚めるくらい苦いです!」

極貧の賞金稼ぎであるダイヤは、さも当然のように明るく答えた。

しかし、真一の表情はこれ以上ないほどに険しくなっていた。

「……ふざけるな」

低く、ドスの効いた声。

族総長として、あるいは出雲艦隊の総司令官として、部下の命を預かってきた真一の瞳に、静かな怒りの炎が灯っていた。

「味覚を殺し、ただカロリーの数値だけを満たせば兵士が動くとでも思っているのか。……兵士は機械パーツではない。人間だ」

真一は、L缶とEPA型の箱をテーブルの端に押しやった。

「極限の恐怖と疲労が支配する戦場において、唯一の救いとなるのが『温かくて美味いメシ』だ。兵站を軽視し、兵の胃袋を蔑ろにする軍隊は、いかに強力な魔導兵器を持っていようと、必ず内側から崩壊する」

真一の説教に、司令室は水を打ったように静まり返った。

海上自衛隊においては、狭く過酷な潜水艦の中であっても、食事の質だけは最高級のものが提供される。士気モラルの維持こそが、戦力を維持する最大の防御壁であることを、真一は骨の髄まで理解していた。

真一は懐からハイライトを取り出し、マッチブックで火を点けた。

紫煙を深く吐き出し、ニャングルとリバロンを見据える。

「……リバロン。この村には、月見大根、ロックバイソンの肉、ピラダイ、そして極上の出汁になる特産品が腐るほどあるな?」

「ええ。三大国の王侯貴族が垂涎するレベルの食材が揃っております」

「ニャングル。俺の『酒保』から出せるレトルトの真空パック技術と、加熱用の化学薬品。それにダイヤの鍛冶技術があれば……どんな過酷な戦場でも、火も魔法も使わずに『30秒で熱々の極上メシ』が食える弁当箱が作れるな?」

その言葉に、財務担当のニャングルの猫耳が、ピクッと大きく反応した。

商人としての異常な嗅覚が、そのアイデアの奥にある『莫大な利益と軍事的優位性』を嗅ぎ取ったのだ。

「……オッサン、いや司令。もしかしてアンタ……」

「ああ。作ってやろうじゃないか。ルナミスも、セレスティアも、レオンハートの連中も……一口食っただけで自国のレーションをゴミ箱に叩き捨てたくなるような、究極の戦闘糧食をな」

真一は、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。

武力ではなく、圧倒的な『胃袋の格差』を見せつける。それこそが、兵站司令官・坂上真一が導き出した、最もえげつない戦争抑止の形だった。

「名付けて、ポポロ村特製戦闘糧食……『PROポポロ・レストラン・オペレーション型』だ。ダイヤ、お前さんのユニークスキルをフル稼働してもらうぞ」

「はいっ! 私、美味しいご飯のためなら徹夜で装甲板打ち直しますぅぅ!」

こうして、三大国の軍隊を後戻りできない『美食の沼』へと突き落とす、悪魔のレーション開発プロジェクトが幕を開けたのだった。

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