EP 8
判決のお白州。ドンガン鉱山行き特急便
屋根と二階が綺麗に吹き飛び、開放感に溢れすぎた代官邸。
その瓦礫が散乱する中庭には、どこから持ってきたのか、一枚の粗末な筵が敷かれていた。
「ん……うぅ……はっ!?」
気絶から目を覚ましたゾルバとガルダは、自分たちがその筵の上に正座させられ、極太のロープで簀巻きにされていることに気づいた。
「な、なんだこれは! 貴様ら、帝国代官であるワシをこんな目に遭わせて、タダで済むと――」
「静かにしろ。今からお前らの『お白州』を始める」
ゾルバの正面。崩れた柱を椅子代わりにドカッと腰を下ろしているのは、ネイビーブルーの作業着をまとった真一だ。
その左右には、腕を組んで冷たく見下ろすキャルル、ダイヤ、龍魔呂が控え、さらに後方からは、いつの間に合流したのか、ニャングルとリバロンが歩み寄ってきた。
「司令。裏帳簿の精査、終わりましたで」
ニャングルが、分厚い帳簿の束を真一に手渡す。
「ご苦労。……さて、ゾルバ代官、そして悪徳商人ガルダ」
真一は帳簿をパラパラと捲りながら、低い声で罪状を読み上げ始めた。
「ポポロ村の特産品を騙った粗悪品の密造・販売による詐欺及び商標法違反。並びに、無実の農民への不当な拉致・監禁、及び暴行。さらには帝国への脱税と、公金横領の数々……。言い逃れはできんぞ。すべてこの帳簿に書き残してある」
「ひっ……!」
ガルダが青ざめ、ガタガタと震え出した。
「ふ、ふん! だからどうしたというのだ!」
しかし、ゾルバはまだ己の立場を理解できず、血走った目で喚き散らした。
「ワシはルナミス帝国の貴族だぞ! 貴様らのような辺境のゴロツキが裁ける身分ではない! このことが上に知れれば、帝国軍の正規兵一個師団がポポロ村を火の海にするぞ! 今すぐ縄を解いて、ワシらに土下座して命乞い――」
「…………」
真一は、呆れたようにため息をついた。
そして、ゆっくりと立ち上がると、タローマン製の作業着のブルゾンのジッパーを下げ、上半身の服をガバッとはだけさせた。
「な、なにを――」
ゾルバの言葉が、喉の奥で凍りついた。
鍛え上げられた真一の分厚い背中。そこから、文字通り『目に見えるほどの極大の闘気』が立ち昇り、夜空に向かって二体の巨大な姿を形作ったのだ。
怒髪天を突き、金剛杵を構える阿形と、口を結び、底知れぬ怒りを溜め込む吽形。
ポポロ村の裏社会を束ねる、絶対的な武の象徴――『阿吽の仁王像』の幻影が、ゾルバたちを睨み下ろしていた。
「あ、あ、あああぁぁぁ……ッ!!」
その恐るべき覇気と威圧感に、ゾルバとガルダの呼吸が止まる。
心臓を直接鷲掴みにされたような、根源的な恐怖。
真一は、広島の裏社会を震え上がらせてきた「族総長」としての凄みを全開にし、静かに、だが絶対的な死の宣告を叩きつけた。
「……ぐだぐだ抜かしやがって」
真一の眼光が、ゾルバたちを射抜く。
「この仁王の眼に、悪党の戯言は通らん。ルナミス帝国が束になってかかってこようが、ワシのシマ(ポポロ村)は指一本触れさせんわ」
「ひ、ひぃぃぃ……っ! お、お助け……!」
「判決を言い渡す」
真一は、夜空に響き渡る声で高らかに宣言した。
「市中引き回しの上……ドンガン地下帝国の『鉱山送り』だ! ひったてい!」
「ゲヘヘヘ! 待ってましたぜ、ダンナ!」
真一の声を合図に、中庭の地面がボコッと盛り上がり、地中から屈強なドワーフの集団が姿を現した。ドンガン地下帝国のマフィアのボス、ガンドンとその手下たちである。
「ルナミス帝国の代官と商人たぁ、こりゃまたとびきりの労働力だ! ウチの地下の最下層にある『マグマ採掘場』で、死ぬまでツルハシを振るってもらおうじゃねえか!」
ガンドンは凶悪な笑みを浮かべ、ゾルバとガルダの襟首を掴んだ。
「い、いやだぁぁぁっ! たすけて! 帝国軍! 誰か助け――」
「ヒィィィ! 真面目に働きます! ごめんなさいごめんなさい――」
「うるせえ! さっさと歩け、新入り!」
ドワーフたちに蹴り飛ばされながら、絶望の悲鳴を上げるゾルバとガルダは、真っ暗な地下の穴へとズルズルと引きずり込まれていく。
やがて、穴が完全に塞がると、庭には再び静寂が戻った。
「……お掃除、完了ですね♡」
キャルルが満足げに微笑み、真一の横に並ぶ。
「ああ。これで少しは、村の衆も安心して眠れるだろう」
真一ははだけていた作業着を直すと、夜空に浮かぶ満月を見上げた。
圧倒的な武力と、完璧な証拠による社会的な抹殺。
ポポロ村に手を出した悪党たちへの『成敗』は、これ以上ないほど鮮やかで、容赦のない結末を迎えた。
「さて……」
真一は、仲間たちを振り返り、ニヤリと笑った。
「帰って、月見酒と洒落込むか。極上の『芋酒』を開けてやる」
「「「おおおおおっ!!!」」」
キャルル、ダイヤ、龍魔呂、ニャングル、リバロン。
ポポロ村が誇る最強にして最凶の裏稼業部隊の歓声が、夜風に乗ってどこまでも響き渡っていった。




