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元暴走族の50歳海将、異世界で非正規農夫に。最強スキル『酒保』の酒と煙草で、伝説の暗殺者やバケモノ達と一服する無双スローライフ  作者: 月神世一


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EP 7

悪徳代官の足掻きと、両断される館

「ひっ……ひぃぃぃっ! くるな! バケモノども、ワシに近づくなぁっ!!」

自分を守るはずだった五十人の精鋭が、文字通り「一瞬」で無力化された光景を前に、悪徳代官ゾルバは腰を抜かし、無様に後ずさった。

隣にいる悪徳商人ガルダに至っては、恐怖のあまり完全に歯の根が合わず、ガチガチと音を立てて震えている。

「ヒィッ……お、お代官様! もうお終いでさぁ! こいつら、人間の皮を被った悪魔だ!」

「ええい、黙れ! ワシは偉大なるルナミス帝国の代官だぞ! こんな辺境の農夫どもに負けてたまるか!」

血走った目で絶叫したゾルバは、懐から赤黒く禍々しい光を放つ『魔石』を取り出した。

「ガルダ! あれを使うぞ! 屋敷の地下で、ポポロ村の『偽造弁当』の残飯を食わせて育てた、最高傑作をな!!」

「し、しかしお代官様! あれを解き放てば、この屋敷ごと我々まで……!」

「構わん! こいつらを一匹残らず喰い殺せばワシらの勝ちだ!!」

ゾルバが魔石を床に叩きつけると、大広間の大理石が幾何学的な魔法陣と共に爆け飛んだ。

『ゴァァァァァァァァァッッ!!!』

地下空間から這い出してきたのは、見るに堪えないおぞましい怪物だった。

ロックバイソンの巨躯に、トライバードの鉤爪、そして無数の猛獣の顔を縫い合わせたような、禁忌の生体兵器『合成獣キメラ』。

偽装弁当の腐った肉と毒草入りシガーの煙を過剰投与され、完全に理性を失い、全身から赤黒い毒の瘴気を撒き散らしている。

「ハハハハハッ! 見たか! 帝国の闇の技術を集めた最強のキメラだ! 貴様らの剣など、この分厚い魔導外殻には傷一つ――」

「ダイヤ、キャルル。……下がっていろ」

ゾルバの哄笑を遮るように、真一が静かに前へ出た。

作業着のポケットから手を出したまま、一切の構えも取らずにキメラを見上げる。

「さ、坂上さん! あいつ、普通の魔獣じゃありません! 嫌な匂いがしますぅ!」

「アタシがハンマーでぶっ叩きましょうか!?」

「いや、いい。あんな薄汚い血を浴びたら、お前らの綺麗な服が汚れる」

真一は、キメラの放つ暴力的な殺気など、そよ風程度にしか感じていないかのように、ただ冷たく見据えた。

そして、後ろに隠れて震えるゾルバたちに向け、極寒の宣告を下す。

「ええ歳こいた大人が、出来損ないのペットの後ろに隠れてイキっとるんじゃねえぞ。……三流の悪党が」

『ガァァァァッ!!』

キメラが、真一を真っ二つに引き裂こうと、巨木の様な腕を振り下ろした。

風がぜ、大気が悲鳴を上げる。

その、死の巨腕が真一の頭頂部に届く、ほんの数ミリ手前のことだった。

真一の左手親指が、正宗の鯉口を弾いた。

カチリ、という静かな音が、なぜかキメラの咆哮よりもはっきりと、その場にいる全員の鼓膜を揺らした。

――息を吸い、吐く。

それすらも置き去りにする、究極の神速。

北辰一刀無双流・奥義――『抜刀・斬月ざんげつ

眩いばかりの、純白の閃光。

刃の軌跡が空気を切り裂き、大広間に一筋の「銀の三日月」が浮かび上がったように見えた。

「…………え?」

静寂。

振り下ろされようとしていたキメラの巨腕がピタリと止まり、真一はすでに正宗を鞘に納め、一息吐いていた。

「カッ、カッカッカ! どうした! 剣が通用しなくて絶望したか――」

ゾルバが勝ち誇ったように笑いかけた、次の瞬間だった。

ズズゥン……。

全長五メートルを超えるキメラの巨体が、鼻先から尻尾の先まで、見事なまでに左右対称の「真っ二つ」に分かれ、左右にドサリと崩れ落ちた。

血が一滴も流れないほどの、あまりにも鋭く、速すぎる一刀両断。

だが、真一の斬撃は、キメラを斬っただけで終わっていなかった。

「お……? おお……ッ!?」

ゾルバとガルダが、信じられないものを見るように上を見上げた。

キメラの背後にあった大広間の巨大な壁。

そして、頑強な石造りである代官邸の「二階部分と屋根」の全てに、斜めにツーッと、一本の光の線が走ったのだ。

ズズズズズズズ…………ッ!!!

地響きと共に、代官邸の上半分(屋根と二階)が、まるで斜めに切られたケーキのように、綺麗に横へと滑り落ちていく。

轟音と共に庭へと崩れ落ちた屋敷の残骸。

天井が完全に消え去り、むき出しになった夜空から、美しい満月がゾルバたちの顔を照らし出した。

「あ……あ……あぁぁぁ…………」

自分たちの最後の切り札であった最強のキメラ。

そして、富と権力の象徴であった豪邸。

それらが、目の前のオッサンが『ただ一振り剣を抜いた』だけで、物理的に半分に消し飛んだのだ。

もはや、抵抗する気力すら湧くはずがなかった。

ゾルバとガルダは、膝から崩れ落ち、二度目の失禁をしながら、そのまま白目を剥いてその場に昏倒した。

「……峰打ちのつもりが、少し力が入ったな。タローマンの作業着が動きやすすぎるせいか」

真一は、夜空の月を見上げながら、肩の力を抜いて苦笑した。

「さあ、お掃除完了ですぅ!」

「坂上さん、すっげええええええっ!!」

「……相変わらず、デタラメな剣術だぜ、オッサン」

キャルル、ダイヤ、そして影から現れた龍魔呂が、真一の背後に並び立つ。

圧倒的な格の違い。完全なる蹂躙劇は、ここに幕を下ろした。

「龍魔呂、このゴミどもを叩き起こして、庭(お白州)に引きずり出せ」

真一は、床に転がっている『裏帳簿』を拾い上げ、ポンポンと埃を払った。

「これより、ポポロ村の流儀で……『判決』を言い渡す」

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