EP 6
血風乱舞。阿吽の仁王、推参
「殺せ! 殺せェッ! 相手はたかが四人だ、数の暴力で圧し潰せ!!」
悪徳代官ゾルバの金切り声が、粉塵の舞う大広間に響き渡る。
怒号と共に、完全武装した五十人の傭兵たちと、三メートルを超える鋼鉄の『魔導ゴーレム』三体が、地響きを立てて真一たちに殺到した。
「まずはデカブツから片付けるよッ!」
先陣を切ったのは、紅蓮のアーマーを纏ったダイヤだった。
巨大な魔導ハンマーを軽々と振り回し、迫り来る一体目のゴーレムの正面へと躍り出る。
『ガァァァァッ!』
ゴーレムが丸太のような鋼の腕を振り下ろす。常人なら肉塊に変わる一撃だが、ダイヤは回避すらしない。
「『ウェポンズマスター』……解析完了! 継ぎ目の魔力回路がスカスカじゃん!」
ダイヤの職人としての眼力が、一瞬にしてゴーレムの構造的弱点を可視化する。
彼女はハンマーの柄を短く持ち、ゴーレムの股関節に位置する極小の装甲の隙間へ、ピンポイントで渾身のフルスイングを叩き込んだ。
ガゴォォォォォォォォンッ!!!
爆音。
たった一撃。数千万ルナは下らない帝国製の軍事ゴーレムが、内部の魔力回路を完全に破壊され、ガラガラと音を立てて瓦礫の山へと変わった。
「うちの『タローマン』の鋼材に比べたら、こんなのただのブリキのおもちゃだよ!」
ダイヤが凶悪な笑みを浮かべ、二体目のゴーレムへと猛然と突撃していく。普段の「腹ペコポンコツ娘」の面影は微塵もない、完全なる『S級賞金稼ぎ』の姿がそこにはあった。
「ヒッ……な、なんだあの女!? バケモノか!」
「構うな! あのウサギのガキを人質に――」
傭兵の数人が、一見無害で可憐に見える月兎族のキャルルへとターゲットを変え、長槍を構えて包囲した。
「あらあら。私を人質にするんですかぁ?」
キャルルは小首を傾げ、ふわふわのウサギ耳を揺らしながら、極上のアイドルスマイルを浮かべた。
「でも……貴方たち、坂上さんの大切な村人をいじめたんですよね?」
瞬間、キャルルの瞳から一切の光が消えた。
ヤンデレ特有の漆黒の眼差し。彼女が履いている『タローマン製・特注安全靴(雷竜石内蔵)』から、バチバチと紫電が迸る。
「死んでお詫びしてくださいねぇ♡」
――ドゴォォォォォッ!!
キャルルが軽く踏み込んだだけで、大広間の大理石の床がクレーターのように陥没した。
そして、傭兵の一人が構えていた分厚い鋼の大盾ごと、その胴体に『流星脚』が直撃する。
「あばばばばばばばッ!?」
傭兵は悲鳴を上げる間もなく、大盾を粉砕され、そのままロケットのように天井を突き破り、夜空の星(文字通りの天の星)となって消え去った。
「ふふっ、次の方、どうぞぉ♡」
返り血一つ浴びず、可愛らしくステップを踏むキャルル。
その圧倒的かつ猟奇的な暴力の前に、傭兵たちは完全に戦意を喪失し、後ずさりを始めた。
「逃がさねえよ。背中がお留守だぜ」
パシュッ! パシュッ!
逃げようとした傭兵たちの首筋に、暗闇から飛来した龍魔呂の投げナイフが次々と突き刺さる。(※急所は外し、麻痺性の毒を塗ってある)
気配すら感じさせない伝説の暗殺者のサポートにより、敵の包囲網はわずか数分で完全に崩壊していた。
「ひ、ひぃぃぃ……ッ! ど、どうなっている! 帝国の精鋭部隊が、たった三人になぜ……!」
上座で震え上がるゾルバとガルダ。
その二人の目の前に、ゆっくりと、一切の足音を立てずに歩み寄る影があった。
ネイビーブルーの作業着を着た男――坂上真一だ。
「お、おい! お前ら、そのオッサンを殺せ! そいつがリーダーだ!」
ゾルバの絶叫に応え、残っていた最後の精鋭傭兵十人が、やけくそになって真一へと斬りかかった。
「……学習能力のないガキどもじゃ」
真一は深くため息をつき、左手で『正宗』の鯉口を切った。
次の瞬間、真一の姿がフッとブレた。
――琉球古武術・歩法『縮地』。
常人の動体視力では決して捉えられない神速の踏み込み。
北辰一刀無双流――『抜刀・八艘飛び』
キンッ、キンッ、キィィィンッ……!!
一瞬にして広間に響き渡る、八つの冴え渡る金属音。
真一が傭兵たちの背後へすり抜け、静かに正宗を鞘に納めた(残心)直後。
「「「え……?」」」
十人の傭兵たちが握っていた大剣、槍、そして彼らが身につけていた鋼鉄の防具が、まるで最初からそうであったかのように、綺麗に斜めに両断され、ガラガラと床に崩れ落ちた。
命までは取らない。だが、彼らの『武器と牙』だけを、神速の居合で完全に削ぎ落としたのだ。
傭兵たちは、自分たちが文字通り「丸裸(下着姿)」にされたことに気づき、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
「――――」
大広間を支配する、圧倒的な静寂。
五十人の傭兵と魔導ゴーレムは、すでに一人残らず無力化されていた。
真一は、瓦礫を踏み越え、ゆっくりとゾルバとガルダの前に歩み寄る。
その背後には、怒り狂った『阿吽の仁王像』の幻影が、部屋全体を呑み込むほどの巨大さでそびえ立っていた。
「さあ……」
真一は、床にへたり込み、股間を濡らして震える悪徳代官と悪徳商人を見下ろし、極寒の宣告を下した。
「ワシのシマを荒らした落とし前……キッチリ払ってもらおうか」




