EP 4
仁王の怒り。裏の軍議
深夜の『サカガミPX』。シャッターが下ろされた店内に、ポポロ村の「武」と「知」を司る面々が集結していた。
カウンターの奥には、ドカッと椅子に座り、腕組みをする真一。その背後には、普段の穏やかさが嘘のような、凄まじい威圧感が立ち上っている。
「……集まったな」
真一の呼びかけに応じたのは、執事のリバロン、財務のニャングルに加え、三人の「武」の要だ。
村長のキャルル、賞金稼ぎのダイヤ、そして暗殺者の龍魔呂。
「坂上さん。……お話は、リバロンから聞きました」
キャルルの声は、氷のように冷たかった。いつもの「坂上さーん♡」という甘えは一切ない。彼女の瞳には、村人を傷つけられた怒りと、愛する男の聖域を汚された激情が混ざり合い、真っ赤な殺意が宿っていた。
「私の村の衆を攫って、拷問まで……。あのアホんだら、どんな目に遭わせてやろうかなぁ。顎だけじゃなくて、全身の骨を粉々にしてあげよっか?」
「……アタシも我慢ならねぇ」
ダイヤが愛用のハンマーの柄をギチギチと鳴らす。
「粗悪な偽物を作って、泥水を食わせて、ポポロ村の看板を汚した……。職人の端くれとして、そして坂上さんのメシを愛する一人として、絶対に許さないんだから!」
龍魔呂は壁に背を預け、手元のライターを弄んでいる。
「……作戦は? オッサン。ただブチ殺すだけなら、俺一人で十分だが」
真一は、机の上に広げられた隣町の地図を指で叩いた。
「ただ殺すだけじゃ、シマのケジメはつかん。……悪の根源を物理的に叩き潰し、二度と這い上がれんように社会的にも抹殺する。それが『成敗』だ」
真一はリバロンに向き直った。
「代官邸の警備状況は?」
「護衛の傭兵が約五十、それに魔導ゴーレムが数体配備されています。地下牢の場所も特定済みです」
「よし。ニャングル、お前は裏で手を回して、代官と商人の隠し帳簿の裏を取れ。ドンガン地下帝国のガンドンにも連絡して、悪党どもの『次の行き先』を確保しておけ」
「あいよ、司令。地獄の鉱山送りのチケット、特等席で用意しときますわ」
真一は立ち上がり、壁に掛けていた紺色の作業着のブルゾンを羽織った。襟を立て、ジッパーを上げる。その所作の一つ一つが、数万の将兵を動かしてきた提督の風格を放つ。
「作戦は単純だ。キャルル、ダイヤ、龍魔呂。お前たちは俺と共に代官邸へカチ込む。……正面突破だ」
「「「!!!」」」
「隠密に動く必要はない。ポポロ村に手を出せばどうなるか……その恐怖を、敵の骨の髄まで刻み込んでやる」
真一が腰の『正宗』の柄に手をかけた。その瞬間、店内の空気が物理的に震えた。
「龍魔呂は影から潜入し、農民たちを救出。合図と共に、キャルルとダイヤが正面から派手に暴れろ。ワシは……一番奥に居る『ゴミ』を掃除しに行く」
真一の口から漏れる広島弁。それは、彼がかつて裏社会の頂点に立っていた頃の、最も凶暴な『龍』の姿だった。
「坂上さん……。やっぱり、怒った顔も最高にカッコいいですぅ……。一緒に、悪い子たちをお掃除しに行きましょうね」
キャルルがうっとりとしながらも、凶悪な魔力をその拳に溜め始める。
「よっしゃ! 腕が鳴るぜ! 魔導戦車の装甲板を打ち抜くアタシの火力が、あの代官邸に耐えられるかな!?」
ダイヤも、闘気を爆発させる。
「……いいぜ。派手な夜会になりそうだ」
龍魔呂が不敵に笑い、ライターで火を灯した。
真一は出口に向かって歩き出し、振り返らずに言った。
「……行くぞ。ポポロ村のケジメ、つけさせてもらう」
深夜の静寂を切り裂き、四つの影が夜の荒野を駆ける。
後に伝説の『ポポロ村・代官邸討ち入り』と呼ばれる、一方的な蹂躙の幕が上がろうとしていた。




