七十六話 (視点ナサン)
「……それで、今に至ります!」
クィムから事情は聞いたものの、俺もガブリエルもジョアンも納得はいかなかった。
現場の意見としては、分かりましたとジョゼを戻すのはあまりにも危なすぎる。
「だからって……それで連れて帰ってきたのか?」ジョアンはクィムの剝がれてしまったガーゼを張り替えながら聞いた。
ジョゼはというと、かなり居心地が悪そうに猫背で震えていた。
あれだけの騒ぎになっておいて戻ってきたらそりゃぁ居心地が悪いんだろうとは思ったが、今は触れずにおこう。
「とにかく!
いいのかよ?お前のこと吹っ飛ばしたやつだぞ?そんな簡単に許して?」
ガブリエルはぎろりとジョゼを睨みつけた。
「ガブリエル殿」クィムは首を振った。
クィムは少し困ったように笑って「たしかに、彼は罰を受けるべき行いをしたのかもしれません……。
でも、あの時は私だって、殴られたって仕方のない行いをしたのです。」
「はぁ!?だからって――」
「だからこそ、です」
クィムはガブリエルを止めた。
「誰かを罰するのは簡単です。
でも……その人がなぜそうしたのかを考えずに切り捨てるのは、……私が否定したかった“暴力”と同じになってしまうわけですから。」
俺が呆然としていると、ジョアンは深いため息をついてから。
「……ジョゼ・バティスタ、なぜあの時あんなことをした?」
ジョゼはからだをびくりと震わせた。
「……認めたく、なかったんです。」
掠れた声で答えた。
「……俺は、長男じゃない。」
ぽつりと落とされた言葉に、誰も口を挟まなかった。
「でも、剣も、座学も……全部、兄貴より上だった。」
ジョゼは自嘲気味に笑った。
「それでも、家を継ぐのは兄貴で……。
俺は、どれだけやっても“二番目”でしかなかった。」
握った拳が白くなる。
「……だから、せめて騎士団ではって思ったんです。
ここなら、実力で見てもらえるって。」
一瞬、視線がクィムに向く。
「……なのに、あんたは。
全部、正論で切り捨てた。」
張り詰めた空気の中、ジョゼは俯いたまま続けた。
「努力すれば報われるだとか、正しくあれば認められるだとか……そんなもん、俺には最初からなかったんだよ。」
ジョゼの声は、低くて、押し殺した声だった。
「どれだけやっても、上にはなれない。
どれだけ証明しても、選ばれない。
……それでも、“足りない”って言われ続ける。」
ジョゼは、ギリと歯を食いしばった。
「……だから、壊してやりたかったんだよ。
あんたらの“正しさ”ってやつが成り立つための前提を。」
クィムはまっすぐとジョゼの目を見た。
「認められないと分かっていても、なお、そこに価値を見出した。
それは……決して間違いではありません。」
ジョゼの眉がわずかに歪む。
「ですが、私はそれを踏みにじりました。」
クィムは、はっきりと言い切った。
「あなたの事情も、理由も聞かずに……“正しさ”だけを振りかざした。」
ほんの少しだけ、声が揺れる。
「だから……私は、あなたを罰する資格がないのです。」
ジョゼは目を見開き、掠れた声で「……なんだよ、それ。」と呟いただけだった。




