七十五話 (視点クィム)
「……では、証言人クィム・フェルナンド・アウグスト・デ・アレンカール。……前へ。」
議長の言葉で私は証言台に立った。
ジョゼは呆然と床を眺めたまま、力なく両手を拘束されたまま椅子に座っていた。
埃が床に落ちる音すら聞こえてきそうな空気のなか、私はゆっくりと口を開いた。
「……彼が私を殴った、それは事実です。
ですが……。」と言葉を続けようとすると、書記官や監察官をはじめ、議長の顔つきも変わった。
「彼が私を殴ったこと、そのきっかけを作ってしまったのは私です。
なので、本件においては、処罰は不要と私は感じております。」
議会中がどよめきに包まれた。ジョゼも、信じられないという顔でこちらを見ている。
「……どういうことですかな?」と議長は場を静めて、眉間にしわを寄せる。
「たしかに、ジョゼ・バティスタ……彼は第二王子である私を殴りました。
そのまえに、私は、現在極秘で行われている……王命の任務を妨害した疑惑があるということで彼を問い詰めました。
その任務というのは、ここでも明かすことはできませんが……。」
そこまで話すと、議長は深いため息をついて。
「……証言を続けるように。」と眉間を抑えた。
再び場内が、ひそひそとした話し声に包まれた。
私は、背筋をぐっと伸ばした。
「……任務に関与している方の、その道具は王家から下賜されたものなのですが。彼がそれに細工をしたのです。
見習い騎士団のなかでも、以前から問題行動があったと匿名の報告を受けてはいたのですが……それを理由に私は彼を強く糾弾しました。」
その言葉に、議長が目を見開いた。
「なぜそれが、処分は不要と判断する材料になるのでしょう?」
私は一度深呼吸をしてから「……相手が感情的になるとわかっていながら、私は言葉を選ばなかった。
それならば、その責任は私にあります。」と答えた。
「……それは責任の所在をすり替えているに過ぎません。
証言人、あなたは“王子”だ。感情の応酬に責任を分散させる立場ではない。」
議長の言葉に私は首を振った。
「王子だからこそです。」
口のなかが異様に乾く……それでも、これは今言わなければ後悔してしまうような気がした。
「私は、自分の言葉一つで、相手を傷つけることも動かすことだって意のままの立場です。
私は、本件が起こるまでそれをしっかりと理解していなかった。
正しくあろうとした結果、私は彼を追い詰めました。」
議長もほかの官僚たちも、私の言葉に驚きを隠さずに話し合っている。
彼らに構わず、私は続けた。
「……ですが、理由も聞かずに罰するというのは、それは暴力と変わりありません。
だから、本件に……ジョゼ・バティスタに処罰は必要ありません。」
そこまで言い終えると、議長はやれやれと首を振って「……お考えは分かりました。
ジョゼ・バティスタ、あなたは見習い騎士団で今まで挙げた実績は無効として、訓練を最初からやり直すように。
本件は以上。」
私は、緊張が解けて深くため息を吐いた。
議場にいた全員が、話し合いながら去っていく中、呆然と拘束を解かれながら、ジョゼは私を見ていた。




