七十三話 (視点クィム)
「私、言いたいことを言ったとはいえ、攻撃的すぎたんでしょうか?」
夜になって、夕食を届けに来たナサンと義兄にずっと考えていたことを聞いてみた。
「まぁ、正論は言えばよいってわけではないし、言うときは伝え方を考えたほうがいいとは思うぞ?」義兄は目を見開いたかと思ったら、そのまま椅子に腰かけた。
ナサンも頷き「お前は正論でぶん殴ってる感じだからな。」なんて言って、テ・コン・レチェを啜っている。
「そうですか……。」と私は手元のフェジョアーダに目を落とした。
確かにジョゼは、今私たちのやろうとしていることを妨害した……。しかし、ジョゼの立場になってみれば、突然上層部の命令で初めて会う人……しかも壁の街出身の子供に付き従えと言われたのだ、そりゃぁ「はい、分かりました。」とは言い難かったんだろう。おまけに、ジョゼは見習い騎士団のまとめ役として動いていた人物なのだから。
「今思えば、あの状況であんな言い方をしたら、こうなることは予測できたはずでした。
でも、私は思ったことを正確に伝えようと……信じていた騎士の生き方、理念を裏切った彼を許せなかった……。
正しくないことをそのままにしておくことが、許せなくて……。
それでも、その結果……なんだか、わざと殴らせたようになって……申し訳なく思ってきました。
本当に、あれが最善だったのか……。」
すると、義兄上が私の頭にポンと手を置いた。
義兄上らしくない行動に驚いたのもつかの間、義兄上は「……正しくあることが、正しいことをしていれば報われる、なんて世界じゃない。……この世界は。」なんて呟いた。
「むしろ、その逆が多いような世界なのかもしれない。」
そこで言葉を切ると、少しだけ視線を落とした。
私は何も言葉が出てこずに、ずっと頭の中で何か話さなければと考えていた。
しかし、すぐに義兄上は「それでも、お前のように、世界をまっすぐに見れるような奴がいなくなってしまったら……。
それこそ、この世界は、今よりももっと汚くて酷いところになってしまうもんだ。」
ナサンはため息をついて腕を組んで「……まぁ、お前は損することが多い役回りではあるよ。」と続けた。
「でも、お前まであっち側になっちまったら、本当にただの嫌なやつになっちまう。
だったら、今のままでいろ。
ま、お前を見てる限りはぜってぇに無理だろうけどな、その辺器用じゃねぇだろうし。」
ナサンはそういうとにやにやと笑った。
「なっ……!」
私が言い返そうとしたところに、イゴールが入ってきた。
「失礼する。
クィム、具合はどうだ?」
「もう、痛みも引きましたし……。明日には動けるかと……。」私は緊張と、会話を聞かれていたかもしれないという恥ずかしさでうまく声が出なかった。
「そうか……。
突然だが、明日は勅命審理に召喚されている。
やはり、殴られた被害者から話を聞かねばならないからな。
それだけ伝えに来た。」
イゴールは、どこか申し訳なさそうな顔をしていた。
そして、イゴールは踵を返すと「……相手が傷つくとわかっていながら使う正しさは、ただの暴力と変わらん。
騎士としての理念を重んじているのなら、それを見誤るな。」とだけ呟いた。




