七十一話 (視点クィム)
「……おい!……おい!クィム!」とナサンの声で意識が戻った。
口のなかに、鉄の味が広がっている。
……それよりも。
「ジョゼ……ジョゼはどうなりました?」とグラグラする頭で、体をやっとのこと起こすと、兄ジョアンに止められる。
「見習いとはいえ、騎士に殴られたんだ。医師が到着するまで動くな……呼んであるから。」と濡れたタオルを渡してきた。
「ジョゼなら今取り調べを受けている。
一族の一人が王族を殴ったわけだし、ジョゼの実家……バティスタ男爵家は親族もろとも国外追放は確定したわけだが……。
見習い騎士団を取り仕切る団員を新しく決めねばならない……。」イゴールが整列している見習い騎士団員らに目を向けた。
そちらに目をやると、青ざめた顔でぶるぶるとしている団員たちが目に飛び込んでくる。
イゴールはため息をついて「クィム、お前が任命しろ。」と背を向けて歩き出した。
「ぇ……?ちょ、王弟陛下が任命したほうが……。」と呼び止めたが、イゴールは少しだけ振り返って「私はすぐに取り調べに参加せねばならないのでね。」とだけ言い残して去って行ってしまった。
「おいおい、王弟殿下がそれでいいのか?」とナサンは頭を掻いている。
兄に至っては「叔父上のことだ、何か考えがあるんだろ?」と腕を組んで、団員たちを睨みつけている。
私はまたうまく働かない頭で必死に考えて「では……。トーマス・エンヒーキス……あなたにお願いします。」と、あのトーマスを任命した。
目立たないところに立っていたトーマスは、一瞬戸惑ったように視線を泳がせたが、やがてまっすぐ前を見て歩み出た。
ナサンは「あの時の軟弱野郎じゃねぇかよ……本当に大丈夫かぁ?」と眉間にしわを寄せた。
兄も「ほかにも見習い騎士でありながら実績を上げている団員だっているんだぞ?」と怪訝そうな顔をしていたが、私は首を振って「……騎士が騎士であるための基準で考えるならば、彼が適任でしょう。」と答えた。
医師が到着して、診察が始まろうとしたので私は「トーマス、使えない資材をどうするのかはナサンに聞いて、仕事の割り振りは指示を受けてから伝達するように。」とだけ伝えて作業場を後にした。
テントでの安静を言い渡された私は、騎士団長エルメネジルドに謝罪された。
「エルメネジルドのせいじゃないでしょう。見習い騎士団の問題は、おそらくずっと前からあったわけですし。」
そう言っても彼は引かなかった。
私はため息をついて「それなら……。」と一つ思いついたことを提案した。
「トーマス・エンヒーキス、彼を見習い騎士団のまとめ役として任命しました。
あなたに憧れて志願した見習い騎士です。……まだ、日の目を浴びていない青年なんですが。」
その言葉にエルメネジルドは眉を上げた。
「彼が騎士団に配属されるまで、引退しないように。
……本物の騎士というものを教える仕事が、あなたにはまだ残ってますから。」
と命令すると、エルメネジルドは困ったように笑いながら「こりゃぁ、隠居生活が遠のきましたな……。」と呟いた。




