七十話 (視点ナサン)
イゴールがノギスをじろじろと見ている。
「ふむ……。たしかに本尺が歪んでいる。」そのイゴールの言葉に、数人の見習い騎士が体をびくりとさせたのが見えた。
イゴールの目が、本尺のある部分で止まった。
「王家の紋か……。」
来た、イゴールならば絶対にそこに触れると思った。
「なら、それは王から下賜されたものってことか……。」とジョアンが言ったのが聞こえたのか、近くにいる見習い騎士たちの顔が青ざめる。
「そ、じいさんが使ってたやつを俺が使わせてもらってんだ。
今までちゃんと手入れだってしてたし、壊れるように扱った覚えだってねぇんだよ。」
俺はそう言って、自分の工具箱を手に取った。
俺の工具箱の中には、じいさんが使っていた工具がいっぱい入ってる。
「王から下賜されたものを故意に壊したのだとしたら、それは単なるいたずらなどではなく一種の攻撃と捉えられるわけだが……。」
イゴールの発言で作業場の空気が凍り付いたのがわかった。
「しかも、規格に合ってないボルトとナットが異様に多いこの状況と合わせると……単なる偶然とは思えないし……。」ジョアンの言葉に、見習い騎士たちの数人がひそひそと話し始めた。
「本当に故意なのか否か……単独なのか集団なのか……まぁ、その辺は調べたらすぐにわかるだろう。」
イゴールは俺にノギスを返した。
「その辺で何かひそひそと話していますねぇ……。心当たりでも?」といつの間にか近くに来ていたマルケスが、見習い騎士団三人ほどのグループに目を付けた。
マルケスは笑顔のはずなのに、目は笑っていない……。
「し、知らねぇよ!」そう怒鳴り返して、連中はその場を離れようとする。
するとマルケスは突然「コースタ準男爵家次男ロナルド、バルバローザ子爵家六男ブルーノ、バティスタ男爵家四男ジョゼ……止まりなさい。」と声を大きくした。
あぁ、やっぱりな……。
ほかにもひそひそ話しているグループがあったっていうのに、わざわざそいつらを名指ししたのには理由があったのか。
見習い騎士団の連中がどよめき出した。
「匿名で、あなたが日ごろから悪さを働いているということは分かっているんですよ、ジョゼ……。
今のうちに白状しておけば、これ以上罪は重くなりません。」
クィムがゆっくりと連中に近づいていく。
「規格外のボルトだけで約22箱、ナットは約18箱……。かなり大胆ですよね?」
一歩また一歩とジョゼの方に近づいていく。
「あなた一人で全部というのは、まずありえないはずだ。
いったい何人が関わっているんですか?
あなた以外に、手先の器用な見習い騎士は何人いるんでしょう?」
ジョゼは後ずさりながら「知らねぇ……。答えるわけねぇだろ……。」と額に汗を浮かべている。
クィムはというと物怖じせず「そうですか、仲間を守るわけですね。
しかしながら、どんな理由があったにせよ、見習い騎士団に入ったからには騎士としての精神が求められるものですが……。」そう言ってジョゼの前で立ち止まった。
「騎士になるために必要な資質、博愛も忠誠も高潔さはおろか――礼節すら持ち合わせていないあなたのような者がどうやって我が国の“騎士”を名乗るつもりだったんですか?」と言い放った途端、クィムの体が後ろに吹っ飛んだ。




