六十七話 (視点ナサン)
クィムとガブリエル、それからマルケスがなにか重苦しい感じで立ち話をしているのが気になった。
近寄ってみると、マルケスが俺のノギスを手に持って「王家の紋が入った支給品ですよ?そんなものを故意に壊したのだとしたら……どうなるでしょうかねぇ?」と言っているのが聞こえた。
俺は強引にマルケスからノギスを奪い取って「……何やってんだ!」と怒鳴っていた。
奪い取ったとき、ノギスの感触がいつもと違った。
おかしい……。
側面に工具で押しつぶしたみてぇな……ちいせぇ痕があるし……。
何より、本尺が歪んでる……、こんなんじゃ、作業に間違いなく支障が出る……。
俺はマルケスを睨みつけて「……なにした?俺の道具に何しやがった!?」と詰め寄った。
驚いているクィムとマルケスと違って、ガブリエルは冷静で「落ち着けナサン、気持ちは分かるけど最後まで聞け。」と事情の説明が始まった。
「……はぁ、ごめん……ハヤトチリ?した……。」と俺は細工されたノギスをぼうっと見ていた。
じいさんが俺に残してくれた工具で、クィムと会うまでは気にしてなかったけど、ちゃんと王家の紋が入っている所謂支給品ってやつらしい。
確かに何度か壊れそうになったことはあったけど、そのたびにじいさんに教わった直し方で直しながら使ってきたんだ。それを、こうも簡単に壊されるなんて……、完全に隙を見せた俺のせいだ。
「……ナサン、これからちょうど話そうとしていたことなので、あなたも聞いてください。ちょうどいい、この機会にガブリエル……あなたもこの作戦に加わってもらいますよ?」とマルケスは俺たちを連れて、作業場から少し離れた空き地に来た。
「ここなら聞かれることはないでしょう……。」とマルケスは一息ついてから話し出した。
「作戦ってなんだよ?……お前たち何やってんだ?」とガブリエルはあからさまに警戒していた。
「まず、わたくしたちは……見習い騎士団から不当ないじめを受けている、といってもいい状況なんです。」
マルケスの言葉にガブリエルは目を丸くする。
「実際にこの計画の作業に突入してから、ずっと……見習い騎士団のなかにいる何者かが、ボルトやナットに細工をしていました。
ちょうど、その証拠がしっかり集まったところなんですよ。」
そう話すマルケスに続いて、クィムは「リストをもとにもう一度集計したら、ボルトだけで約22、ナットは約18箱程といったところでしょうね……見習い騎士団の給金では、到底どうにかなる金額ではないんです。」とリストを見ながら話した。
ガブリエルは眉間にしわを寄せた。
「そんなことがあったのかよ……。
俺、今すぐとっちめて――」
そうして見習い騎士団のところに戻ろうとするガブリエルを引き留めて、マルケスは話を続ける。
「ここまで証拠が集まったうえに、今回のようなことがありましたし、逆に利用してやるんですよ……この状況をね……。」
にやりと笑うマルケスに、ガブリエルはさらに顔を険しくして「使うって……こんな状況でユーチョーにしてる場合かよ?」と今にも怒り出しそうな勢いで言った。
マルケスは、そんなガブリエルを前にしていても落ち着いていて「先ほど見た通り、あのノギスには王家の紋が入っています。
つまり、ナサンが使っているノギスはアレンカール王家からの支給品であり、同時に任務遂行のための公的装備と言えるわけです。」と俺の持っているノギスを指さした。
全員の視線が俺のノギスに集中する中、マルケスは淡々と続ける。
「つまり、そんなたいそうなものを意図的に壊した、これは単なる嫌がらせの範疇を超えている。
規律違反、任務妨害——場合によっては王家への不敬と見なされる。」
その言葉に、ガブリエルの顔が強張った。
「おいおい……そんなん、シャレになんねぇだろ……。」
マルケスは平然と頷いた。
「最悪の場合、見習い騎士団からの追放どころじゃ済みませんよ。
わたくし、たしかに立場を失うことが怖くてスパイはしました……ですが、だからこそ、自分が今いる職場の空気を悪くするその行いが……どうにも嫌なので……。
徹底的に、彼らを叩きなおしたいんですよ……見習いとはいえ、彼らも一人の騎士です、今の彼らの行いが、騎士道精神に背く行いだということをね……。」
マルケスがそこまで言うと、クィムが小さく手を上げた。
「ですが、どうやって仕留めるんです?そこが私もナサンも分からなくて……。」とずっと疑問だったことを聞いた。




