六十六話 (視点クィム)
「なんか、すっきりした顔してるな。」ナサンと話した直後にガブリエル殿が資材運搬でやってきた。
「何があったのかは聞かねぇよ。ところで」とガブリエル殿は運んできた木箱の上に座った。
どうかしたのかと思って、話を聞くことにすると「マルケス、見習い騎士団の連中を調べ上げるような目で見てて、なんか企んでそうな顔してたけど?」なんて言い出した。
「あー……そのことについては、問題ないと思います。たぶん……。」と、返事がしどろもどろになってしまった。
勘のいいガブリエル殿のことだ、この反応で何かがばれてしまったら……そんな私の心配をよそにガブリエル殿は「ふーん……。」と呟いてから立ち上がった。
「まぁ、いいけどさ。」と戻ろうとしたガブリエル殿がふと立ち止まった。
振り向いて「……おい、これ。」と地面を指さした。
急いで駆け寄ってみると、ガブリエル殿が指さした先に工具が落ちていた。
「これ、ナサンのだろ?」とガブリエル殿は眉間にしわを寄せる。
私は拾い上げて、本尺の部分に刻まれた紋を確認した。
「王家の紋……ということは、ナサンがバプタイズ殿から受け継いだもので間違いないでしょうね……。」そう言って、スライダー部分を動かそうとした。
「……動かない?」
おかしい、たしかに古いものだが、ナサンは道具の手入れは丁寧にしていたはず……。
軽く力をかけても、引っかかるような抵抗がある。
私の様子にガブリエル殿は「おい、まずいんじゃないか?だってこれ……ナサンの育ての親のってことだろ……?」と辺りを見回した。
「でも、ナサンならこんなところに放っておくことは、まずしないはずです!
それに……機械技師としての勉強もしていないような素人に貸し出すことも……。」
そう言った時、私の脳裏にある可能性がよぎった。
「もしかして……。」私が呟くとガブリエル殿は「なんだよ……?なんか心当たりあんのか!?」と私の肩をつかんだ。
するとそこにマルケスが近寄ってくる。
「どうかしたんですか?」と首をかしげるマルケスに事情を説明して、ノギスを手渡した。
「これは……本尺が歪んでしまって動かなくなっているんですね……。」マルケスはそう言って深くため息をついた。
ガブリエル殿は険しい顔をして「要するに、直せないってことか?」と拳を固く握っている。
マルケスはゆっくりと頷いた。しかし、直後にやりと笑って「ですが、これは決定的な証拠になります。……攻撃と受け取っていいでしょうな。」と答える。
「……攻撃?」とガブリエル殿は顔をしかめる。
「王家の紋が入った支給品ですよ?そんなものを故意に壊したのだとしたら……どうなるでしょうかねぇ?」と笑うマルケスが少し怖かった。




