六十三話 (視点ナサン)
あれから、作業中ずっと頭の中はそのことばかりだ。
証拠を押さえる――それしか考えていない。
手は動いている。だが、気を抜けばすぐに箱の方へ目が行く。
クィムも平気な顔をしているが、時々そわそわしてやがる。
いつも日が暮れるころに撤収しては、歩きながらクィムが作ったリストの話をする。
「見習い騎士たちが運んできている箱に細工をかけられていることが多いんです……。
決まって異常がないのは、マルセラ殿やガブリエル殿があとから運んでくる箱で……。
それでも“絶対に問題のない箱”はまだ崩されていません……。」
俺はやきもきして「あー……順調なのかそうじゃねぇのかわかんねぇな……。」と眉間にしわを寄せているのに対して、マルケスは何でもないという顔をして「罠にかかるのをまつこと、それが大事なんですよ。」とすたすたと前を歩いている。
「結果を急ぎ過ぎてはいけません、まずはしっかりと土台を作ること……それにこんな状況で焦ってしまったら、馬鹿を見るのはこちらですから。」とマルケスに言われてクィムも俺も立ち止まった。
「ですが……これで何も起こらないまま、錬成器が完成してしまったら……。」クィムの呟きに、俺も胸の奥がざわついた。
マルケスは振り向いて笑顔を見せた。
「人間というのは不思議なものなんですよ。」と歩き出したマルケスを追って、俺たちも早歩きで歩き出した。
「咎められなければ、勝手に“許されている”なんて思い込むんです。
そうなると、どういう行動に出ると思いますか?」その言葉に、クィムは何かに気付いたような顔をして「どこまでやれば怒られるのか……咎められるのか試したくなる……ということでしょうか?」と答えた。
クィムの答えにマルケスは頷いた。
「そうして、気付いた時にはもう……取り返しのつかないところに進んでいる。
人間というのは、叱られない限り辞めることはありません。」
そこまで言うと、マルケスは立ち止まった。
マルケスは、不気味なくらいに目を細めて「だからこそ、今はただ待つのです。
そうすれば、主犯は勝手に尻尾を出し、自ら責任のとれないところまで進んでいる……。
十分に積み上がったところで、まとめて崩す。そうすれば――言い逃れはできませんからね。
いま、ボルトに細工をしている主犯たちがしていることは、悪ガキのおふざけと似たようなものです……ただ今回のことは、子供の遊びとは違って責任が伴いますけどもね。
その責任を、犯人たちはどう取るおつもりなのか……気になりますね。」
そこまで言うと、何もなかったかのように歩きだした。
「さすが、元スパイってところかぁ……?」と茶化すように言ってみると、マルケスはまた少し笑って「昔、機械にしか興味のなかった同僚がいましてね……そのせいでか、仕事場ではいじめのようなものが起こっていたんですよ。」と話し始めた。
「それが、今回の話と関係があるんですか?」とクィムは気になったのかマルケスの顔を窺った。
「わたくしは、そんな作業場では仕事がやりにくいと感じましたし……。
なによりその同僚は、ただ自分の技術をもっといいものにしたいというだけのただのいいやつでしたから、私はいじめの主犯たちを泳がせながら証拠を集めて、奴らをまとめて切り捨ててやりましたよ。
――君の育ての親、バプタイズの話なんですけどね?」
そう言って、マルケスは俺を見た。
「……は?」
一瞬、言葉に詰まった。
「……それで?じいさんはどうしたんだよ?」と言葉を絞り出して聞くと、マルケスはまた笑いながら「面白いことに、彼は自分がいじめられているって気づいてなかったんですよ。……おかしいでしょう?」と言うから俺もつられてしまった。
「ハハッ……じいさんらしいや……ほんとに……。」




